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〜第七章 ファーブラ・神々の参戦〜
138話✡︎✡︎世界を救えなくても✡︎✡︎
しおりを挟むユリナは風の様に速く走り、クリタス平原を北に向かって行く。
連合軍からだいぶ北に行くと、恐怖の軍団が待機していた、巨人族と戦う為にメトゥスの指示を待っているのだ。
その悍しい軍団を駆け抜けようとした時、ブラッドナイト達が立ちはだかり、ユリナを止めようとした。
「通せ!私はフローディアの血を引く者!
お前達の敵では無い!」
ユリナが叫ぶ。
「ユリナさん、帰りなさい」
メトゥスが先に来ていた。
「ユリナさんが一人で立ち向かってどうにかなる物ではありません、それはお解りのはず……」
メトゥスが優しく言うが、ユリナは暗黒を抜いた。
それは押し通る事を意味したのをメトゥスは理解して前に出て剣を抜いた……。
それは暗黒に劣らない真紅の大剣であった……。
「どおしても通るなら……
私も剣でお応えします、神の剣を知りなさい……」
メトゥスがそう言い、剣を構えた瞬間!
ユリナは既にメトゥスと距離を詰めていた、そして斬りかかりメトゥスがそれを躱して斬り返す。
その剣をユリナは解っていた様にいなして、暗黒をメトゥスの首につけ寸止めした。
その動きはまるでメトゥスの動きを全て解っていたかの様に正確で勝負は一瞬でついた。
「その……速さ……」
メトゥスは驚き汗を流して言う。
「解らない……でも先が見えるの……
でも……このままじゃいけない!
このままじゃみんな死ぬ!
世界が……終わってしまう……
それだけが見えるの……」
ユリナは必死に言う。
メトゥスは一瞬だけ時が止まった気がした、確実にユリナが覚醒し始めていた。
目に涙を溜めているユリナの姿を見て、メトゥスには何がきっかけでユリナをそうさせたのか理解出来た。
死だ……ユリナは多くの死を見てきた、仲間だった者さえ斬った。そればかりか愛していた者も失った。
そしてそれを見ていながら何もしない天界の神々に深い憤りが心から溢れ出ていた。
ユリナはもう誰の死も見たくない、そう思い飛び出した。
ユリナは多くの者が死ぬ未来を見てその中でエレナの死も見たのだ。
「メトゥス……
貴方は私が女神になるって……
言ってくれたよね……それはほんと?」
ユリナが静かに聞いた。
「え、えぇ……」
「なら……私がこの世界を守って見せる……
私一人ぼっちになっちゃう気がする……
でも解るんだ……
そうすれば救える気がする……
世界を救えなくても、未来を救える気がする……」
ユリナが寂しげに言う。
「世界を救えずに未来を?」
メトゥスはユリナが何を言ってるか解らなかった。
それは矛盾しているからだ、世界があってこそ未来がある、其れを無視している言葉だ、それが唯一可能な神はニヒルしか居ない……そうメトゥスは考えた。
「まさか……ユリナさん……貴女……」
メトゥスが気づき聞こうとした。
「さようなら」
ユリナはそう言い姿を消した、だが消したのではない、時を止めて走り去ったのだ、メトゥスはそれに気付いていた。
「まさか本当にニヒルに対等する気?」
メトゥスが呟いた。
(それしか無いよ……どう考えても……
それしか無いよ!)
ユリナはそう心で叫んでいた、多くの思い出が……身体中を駆け巡っていた。
体は軽く息は切れない、今まで走った事が無い程の速さで走っているのに、疲れは感じない。
やがてクリタス平原を抜けて、辺境地域の森に入る、シャッフェンが所々にいるがそれをシャッフェンが気付く前に斬り裂いて行く。
ユリナの瞳には獣達の先の動きが見えていた、それはもう既にエルフの戦い方では無かった。
メトゥスは直ぐにエレナ達の元に戻った。
「ムエルテ!
直ぐにユリナさんを追って!
もう私じゃ止められない‼︎
ユリナさんはニヒルに挑みに……
ユリナさんの力が覚醒し始めている!
急いで‼︎」
恐怖の女神メトゥスが慌てて叫ぶ‼︎
「な、その力は……?」
ムエルテが聞く。
「恐らくテンプス……時……
無は全てが生まれる前から時の支配下にあった……
いや時と共に過ごしていた……
つまり、唯一ニヒルと対等出来る力‼︎
でもまだユリナさんは半神半人の身!
速く‼︎」
「…………」
ムエルテが沈黙してから叫ぶ!
「メトゥス!急いで冥界の神々全てを呼べ!
ユリナを守れ!如何なる犠牲を払っても構わない‼︎‼︎
テンプスを失うな‼︎」
そう言ってムエルテが姿を消そうとした時、エレナがムエルテの腕を掴んだ。
「私も……」
「エレナ、そちの気持ちは解る、だがこれは既に神と神の戦い!
エレナは地上世界を守れば良い‼︎」
ムエルテはそう言いニヤッと笑った。
エレナも同じ様に小さな笑みを見せた‼︎
そしてドラゴンナイトに姿を変え叫ぶ!
「全軍に伝えよ!
我らは撃って出る!
地上世界を守る為に‼︎
巨人族に奪われた辺境地域を取り戻しに行くぞ!
まだ生き残っているミノタウロスも居るはずだ!彼らを救い‼︎
奴らを我らの大地から追い出せ‼︎‼︎」
その声は今まで抱いていた不安は微塵も無く、全ての兵に伝わった。
祝福の力に乗せた声は全ての兵に勇気を与えた。
そしてユリナを追って連合軍は出陣した。
僅かでは無い、ユリナの力の覚醒が全てに多大な希望を与えていた……
だがその時、ムエルテも知らなかった……
多くの冥界界の神は自分勝手に動く性質がある、ムエルテが冥界を離れたこの時に、ほんの僅かな間に、多くの冥界の神は勝手に冥界を出て既にニヒルに敗れていた……
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