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〜第七章 ファーブラ・神々の参戦〜

134話✡︎✡︎不器用な英雄✡︎✡︎

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 恐怖の女神メトゥスの軍団は、かつて巨人族を圧倒した力を見せつける様に戦況を大きく変えた。
 デスナイトの槍がフェルムナイトを貫き、動かなくなるまで破壊して行く。
 ブラットナイトはシャッフェンから受ける傷を、何も無かったかの様に再生し斬り裂きそして踏み潰して行く。

「ハァァ……心地よい……恐怖が私に流れて来る……ハァァ……」
 冥界では久しぶり味わう恐怖をメトゥスが喜んでいた。

「何をしているのじゃ……」
ムエルテがメトゥスに聞くが、メトゥスは恐怖を楽しみ聞こうとしない。

「そちがエレナに手を貸すとは思ってもいなかったが……
よう、その気になってくれたのぉ……
して……その恐怖は何処から来ておるのじゃ?」
ムエルテが再び聞く。

「あら?ムエルテ、ようは終わったのかしらぁ?」
やっとメトゥスが気付く。

「あぁ……で?
何処から来ているのじゃ?」
ムエルテが再び聞く。

「焦らなくてもいいですわ、あの場からしか生まれていませんからぁ……
ってそんな‼︎
あの獣が恐怖を感じている⁉︎⁈」
 メトゥスが驚いた、あのシャッフェンがそこまで強く恐怖を感じるとは思って居なかったのだ。

「やはりな……
先程から悍しい死が妾にも流れて来ておる……
かつて地上を絶望に陥れた時と同じ様な死がな……あの獣にも感情があるのか、ならば話は早いのぉ……」
ムエルテは冷たい笑みを浮かべる。


「えぇ……フォルミド……
お行きなさい……」
メトゥスが恐怖の竜フォルミドを呼んだ。
 冥界の奥から重く凄まじい轟音とも言える足音が聞こえて来た。
 恐怖の竜フォルミドがゆっくりと、地上に向かって行く……が立ち止まった、何かを感じたのだ。



「冥界め……我らを阻みおって……
全て消してくれる……」
 遥か遠く、辺境地域でザラハトスがそう呟いていた、ザラハトスが送った増援がもうすぐ到着するのだ。



そしてユリナは戦場の奇妙さに気づき始めた……

(おかしい……何故巨人族がいないの……)


 幾ら戦い敵を斬り裂いても、それらしい痕跡は感じられないのだ、獣は群れと言ってもいい程に単純な動きしかしていない。
 ユリナは動きのいいシャッフェンを見つけ、それに斬りかかる、見た目は全く変わらないが明らかに違い、ユリナの斬撃を躱した。

 だがユリナは風の力を使い、偽りの劔でそのシャッフェンを両断した時、不意に何かを感じて空を見上げた……白い雲の隙間に黒い点を見つけた。

(あれは……)
ユリナが心で呟いた、

 その声をトールが感じて空を見上げた……
 ウィンダムとしてユリナの心に長く居た為に、近くに居れば感じることが出来るほど二人は近い存在でもあった。


「オプス……すまねぇ……」


 トールはそれを見て小さく呟いた。
 それは巨人族の石船であった、トールは察した……そしてエレナの元に走りながら敵を倒し近づいて行く!

そして叫んだ!

「全軍退かせろ!
奴らはクリアスを使う気だぁぁ‼︎」

「なっ!」
その声を聞きエレナが戸惑った。

 この戦場でそんな物を使われたら誰一人助からない!そして冥界の門が再びゆっくりと開いた……

「全軍冥界の門へ突っ込め!」
逃げ道はそこしか無い、戦闘状態の連合軍はエレナの指示の元に、冥界の門に向かい突撃を開始する。

 だが間に合わない……既に石船から何かが光った。

 トールは察した、まだクリタスの民すら逃げきれない。
 トルミアも、民達も全て巻き込まれてしまう……トールは高く飛んだ、そのクリアス目掛けて‼︎‼︎
 そしてウィンダムとなり成竜と化しそれに向かって行った……


 素晴らしく美しいエメラルドグリーンの風の翼を力強く羽ばたかせ、疾風の様に突っ込んで行く!
 そしてその放たれたクリアスを、ウィンダムの竜の手で掴み取り巨人族の石船に向かって突っ込んで行った!


「これしかねぇぇぇぇぇぇぇっ‼︎‼︎‼︎」
 トールは叫んだ……

 全てを守る為に、再び彼は自己犠牲の道を選んだ……

 だが十万年前とは違い彼は深く信じていた。
 ユリナ達と共に過ごし彼は信頼出来る仲間を得ていた。


未来をユリナ達に託したのだ!


「トール!やめなさい‼︎」


 オプスが暗黒を通して感じ取り、暗黒世界から飛び出そうとした時、何かがオプスの前に立った。
「オプス様!お待ち下さい‼︎‼︎

オプス様はここをお守りください!
暗黒世界がニヒルの手に渡ればどうなるか!
トールは解っているのです‼︎」
それはシャイナであった。

「本当に愛しているなら!
彼が守ろうとしている物を!
知ってあげて下さい‼︎」
シャイナはトールを深く愛していた。

 闇の女神オプスも愛していたが、シャイナの愛は実ら無い愛と化していた、本当はオプスよりもシャイナの方が飛び出したい気持ちは強く溢れていたはず。

でもシャイナはひたすらに耐えていた。

 トールは長い時間を感じていた、ほんの一瞬である時を永遠にも感じていた。


(馬鹿だな……)


 そう心に呟いた時……ウィンダムの姿のまま石船に突っ込んだ!
 激しい音と共に床を突き破り、操舵室に現れたトールは床に転がったクリアスに足を乗せていた。

「馬鹿な!そんな‼︎」
その姿を見た巨人族達の顔が一瞬で凍りつき、恐怖を痛感した顔に変わる。


「落とし物……届けてやったぜ」


 トールはそう言い不敵な笑みを浮かべた時、クリアスが光り輝き爆発した。


 一瞬でトールは蒸発しその場に居たもの全てが消えた。
 そして石船には数発のクリアスが搭載されており全てに誘爆した。
 その破壊力は凄まじく、離れていた他の石船も破壊する程であった。


「いけないっ‼︎」
 その瞬間ユリナは何かを見た、その衝撃波が齎す破壊力は、全ての連合軍を消滅させる事は無いが、凄まじい被害をもたらす未来をユリナは見た。

 ユリナは直ぐに手を天にかざし、風の魔力を全て解放した、ユリナの髪がエメラルドグリーンに変化して行く。
 全ての風が集まり、そしてユリナは星屑の劔に其れを乗せて天に向かい斬り裂いた!


 その瞬間凄まじい衝撃波が星屑の劔から放たれクリアスの衝撃波にぶつかって行く!

 その衝撃波の刃はクリアスの衝撃波を斬り裂き、クリアスから放たれた熱風すらも巻き上げ天界まで押し上げて行った!


「これは……祝福の力じゃない……
神の力……」
 天界では水の女神エヴァが呟き、手を地に向けた。
 その瞬間、天界にぶつかろうとしている凄まじい熱風に氷の様に冷たい水がそれを受け止めた!
 一瞬で、その水は蒸発し大量の雲を生み出して行くが、無限を思わせる水がそれから天界を守ろうとする。

「なんて力なの‼︎抑えきれない‼︎‼︎」
エヴァが叫んだ時、スッともう一人の女神が手を差し伸べる。
「北風よ……水を助けよ……」
 風の女神ウィンディアが囁くと、上空に凄まじい冷気が包み、クリアスの熱風を冷やしてウィンディアが空を手で切ると、とてつもない暴風が衝撃波を散らして行く。
 そのおかげで、エヴァの水が層を作り天界は守られる。

(今のはクリアスの力は殆ど、消されていた……風の祝福の力に似ているけど……
エヴァだけじゃ抑えられ無かった……

ユリナさん……まだ手加減出来ないのですね……)
ウィンディアはそう思い微笑んでいた。


 そして地上ではユリナの力を目にした者達が歓声を上げ、その地鳴りの様な声に冥界の者達でさえ戸惑う程であった。
 シャッフェンはその声に恐れを知り半数以上が逃げ出して行く……だがブラットナイトが必要以上に追い次々と、首を切り落とし両断し狩り続ける。


その最中で、ユリナは劔を失った……


 ユリナの力に星屑の劔が耐えられ無かったのだ、その星屑の劔が砕けた時……
 ユリナは何が起きたのかを、全てその瞳で見た……神の瞳の力が目覚め始めていた。



「ばか……」
 ユリナの心にぽっかりと穴が空いた感じがした……
 ウィンダムはユリナと出会ってからとても長い間ユリナの心に住んでいた。


 寂しさと虚しさ……
いつも居た大切な人を失っていた……

 それは取り返すことの出来ない帰って来ないものだが帰って来て欲しいと心から願った。

 カイナの時には感じなかった、カイナの時には全く思わなかった感情が溢れ出してやっと気付いた。


 ユリナはトールを愛していた……



 ユリナは思い出す走馬灯の様に。
 心の中で起きてる時も寝る前もいつもお喋りしていた。
 オプスが解放され、トールの愛が実を結びそしてユリナから離れても、ユリナはとても近い存在に思えていた。
 そのトールの最後の姿が、星屑の劔が砕けた瞬間にユリナの瞳に飛び込んできたのだ。


 ユリナは何も考えられずにいた……


 そして天から何がが凄まじい勢いで降って来た……
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