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〜第七章 ファーブラ・神々の参戦〜

132話✡︎✡︎冥界✡︎✡︎

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「はっ相変わらずトロいなコイツら、フェルムナイトは俺に任せろ!
お前達はケダモノを一掃しろ!」
 ザラハトスの言う通り、トールにとってフェルムナイトは敵ではなかった。
 鋼の体を暗黒が斬り裂き、無に返し破壊して行く……

 その姿を見てミノタウロス達も指揮を上げ、勢いを取り戻して行く。



「こ、こんな事に」


 天界ではカイナが悲しんでいた。

 カイナはイミニーとして巨人族を崇拝していた、それが今となって大きな過ちだと言う事を目の前に突きつけられた。
 ただでさえオプスの存在を知り深い傷を心に負った。
そして僅かな間だが、オプスと共に天界で過ごしてオプスが地上を何よりも愛してる事を知った。
 カイナは生前よりも深すぎる後悔に苛まれていた……



 トール達の戦闘は瞬く間に、クリタス平原に集結していた連合軍に知れ渡る。
 だが溢れ出して来るシャッフェンとフェルムナイトに徐々に押され始めて行く。

 その時に、トールに襲い掛かろうとした巨大なフェルムナイトが爆発し、轟音と共に破壊され膝をつき倒れた。

「第二射急げ!彼らを支援し救い出しなさい‼︎」
 フェルミンだ、緑の下地に金の六芒星ユニオンレグヌスドワーフの旗印を掲げて、一族を率いて大砲を放ちながら駆けつけた!
 だが、まだ足並みが揃わない連合軍の様子をトールは察して、僅かに後退の指示を出してパルセス軍の前に移動する。

自ら盾になる事を選択したのだ……



 その戦闘は直ぐにトルミアから放たれた水の鳥でエレナに知らされる。
「全軍強行軍にて侵攻せよ‼︎‼︎
戦は既に始まっている!
これ以上遅れるな‼︎」
 エレナが号令をかけセレス軍が地鳴りの様な声を上げて全軍が強行軍で移動し始めた‼︎‼︎


(トール……持ち堪えてっ!)
ユリナは心で叫んでいた……


 その晩エレナが率いる軍は強行軍で進軍を続ける、戦場についても兵を休ませる時間がない事を予想して、エレナは焦っていた。
そんな時にそれは現れた……


「ふふふっ……
そんなに急いでも間に合いませんよ」


 怪しく色めいた声が響き渡り、とてつも無く強い冥界の気配がエレナの前方から発せられていた……

「メトゥス!」

 エレナはその声をアグドで聞いた事があった……二年前にアグドに災いを齎らしたあの戦いで聞いたのだ、エレナは思わず馬を止めた。

 そして月明かりに照らされたクリタス王国への道の先から、一人の赤いドレスを着た女性が歩いて来る……凄まじい冥界の気配と全てを凍らせる様な恐怖を漂わせながら……

 エレナが率いて来た兵達が、怯んでいるのが解るが、一部の兵はそうで無かった。
エレナが一人一人選んだ、女王直属の精鋭部隊三千程である。

「ふふふっ初めてお会いしますねぇ」
メトゥスが怪しげに言う。


「何をしに来たのです!
冥界は我ら地上を攻めない取り決めのはず!
我らを妨げるのですか⁈」
エレナは一歩も退かずに、メトゥスに問いただす。

「あらぁ?怒ってるのかしら、折角の綺麗なお顔が台無しぃ……
私はムエルテに戦うのを禁じられてるので、手伝いに来たのですよぉ
冥界に居ても暇なので……

貴方達のお手伝いに来たのです。
そう怒らなくてもいいじゃないですか……」
メトゥスが楽しげに言う。

「手伝い?禁じられている?」
エレナは警戒しながら聞く。

「えぇ、私は恐怖の力を昔ニヒルに奪われてしまったので、そこでエレナさんにお願いがあるのですが、聞いてくれませんかぁ?」
「私に願い?」

「私の願いを聞いて下さるのでしたら、冥界の門を開き巨人族が放つシャッフェン達の背後に貴女達を送りましょう。

私の願いは、あのケダモノ達を全て血祭りに上げ巨人族に恐怖を与える事です。

そうすれば私の力を少しは取り戻し、私も戦えるので、暇しなくて済みますわ……

聞いてくれるかしら?」


 エレナは迷った……冥界の門を通る、それが何を意味するのか疑った、天界に背く事にならないのだろうか……そうとも悩んだが……

「何も悩むことはありませんわ……
冥界の門を通っても恐怖に打ち勝てば、取り込まれる事はありませんし……
そもそもそれくらいの恐怖に負けてしまう様では、この先の戦いでは役に立ちませんから……」

 このまま強行軍で進軍しても、後三日はかかる、それでは形勢は決してしまう。
 その現実がエレナの背中を押した。
「我が精鋭よ!
命を我に捧げるとの誓いを思い出せ!
我らは冥界の門を通り!
敵を殲滅する‼︎」

「オウ‼︎」
エレナの精鋭が応える。

「他の軍は三日行軍し一日休息をとり繰り返し進軍せよ‼︎」


「決まりましたね……
天界はまた動かないみたいですし、選択の余地はありませんわ」
 メトゥスがそう言うとメトゥスの背後に空間の歪みが生じて、強烈な冥界の気配が溢れ出す。
 エレナは馬から降り、歩み寄る……赤黒い世界がその歪みの先に広がっていた。
そしてその先から女性が歩み寄って来た。

「あらぁ?フローディア来たのですか?」
メトゥスが楽しげに言っている。

「えぇ……私の可愛い子孫に会いたくて来てしまいました。」
 破滅の女神フローディア、黒い薔薇を全身にまとい、妖艶な美しさを放ち現れた。

「エレナ……ユリナ……私の花の女神の血を引く者よ、良く聞きなさい」
 エレナもユリナもフローディアを近い存在に感じ、恐る事なくひざまづくと。
全ての兵もひざまづいた。

 そしてフローディアは過去の地上への憎しみを、全て水に流したかの様に輝きだし全ての薔薇が色とりどりの美しい花に変わって行った……
「私達、貴女達を神々は見捨てはしません。
それでもこの戦いには敗北が付き纏います……ですが忘れないで下さい。

神々が地上に手を出さないのは……
天界の神々が貴方達を信じていると言う事を……

どの様な苦難もどの様な悲しみも、クロノス様とアイン様が地上に与えた……
その手に取った、愛と希望が溢れるこの世界を貴方達に託したと言う事を……

忘れないで下さい」

 そうユリナとエレナに伝え微笑み、最後にユリナを見て冥界に去っていった。

「フローディア様……」
ユリナが呟く。

「フローディアは魔物を率いて、辺境地域でザラハトスを探しているのに、貴女達の為にわざわざ来てくれたのね、なんて優しい子なんでしょう」
メトゥスが嘲笑う様に言う。


「皆行くぞ!」
 エレナが叫び冥界の門に足を踏み入れた。
そしてユリナ、ピリアも続き兵達も続いた……。

「ザラハトスは十万年前の巨人族……
まだ生きているはずが無い……
メトゥスいやメトゥス様は、何か知っているのですか?」
 エレナはかつての敵であるが、冥界に足を踏み入れたので、念の為に気を遣い話しかけた……

「貴方からそう呼ばれるなんてねぇ、まぁ奴は死を無に返してもらったのさぁ、ザラハトスは死ぬことは無い……

でもねぇ……

奴は神では無い、ムエルテは奴に死を与える事も出来れば、オプスは奴を無に返せる……
神でも無い者が死なないからと言って、我ら神々に戦いを挑むのは無能ですの」
 メトゥスは平然とザラハトスを馬鹿にする様に言っている。


「じゃあ……まさか……」
ユリナが気付いて話に入ろうとしたが、メトゥスが先に言う。
「ザラハトスは我らに見つからない様に、戦っている。
辺境地域の何処かに隠れているのよ」

 そう話しながら冥界を進むと、遠くに赤黒い炎が見え、その先に無数の巨大なデスナイトが整列していた。

「お前達、変わりはないかい?」

 メトゥスがデスナイトに聞くと、デスナイト達は沈黙を守る……何も無かった様だ。

「水の巫女、別に心配しなくてもいいのですよ、彼らは冥界の石を守っているのですよ」

「冥界の石?」
エレナが聞く。
「えぇ、冥界の石は門を開く鍵、以前オプスを捕らえた時に我らがその力を少し頂いて、地上への扉と鍵を作ったのよ。

地上を攻める為に作ったのだけど、まさか守る為に使うなんてねぇ…… 
オプスいつ迄経っても食えない子ね」
 僅かにメトゥスはニヤッとして、その言葉に何処か認めている様な、そんな空気をユリナは感じ取っていた……
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