142 / 234
〜第七章 ファーブラ・神々の参戦〜
131話✡︎✡︎辺境地域から✡︎✡︎
しおりを挟むユリナはすぐにエレナの元に向かった。
綺麗なエレナの執務室の扉を開けたが、エレナは居なかった。
ユリナは近くに居た衛兵に聞き直ぐにそこに向かった……そこは「失いし炎の間」アグドの悲しみを伝える部屋である、エレナは蝋燭を数本灯し祈りを捧げていた。
「お母さん、なんでここに……」
「ユリナ来たのね、サランの戦い頑張ったね……
カイナのことは、ごめんね……」
エレナはユリナの気持ちを察していた、本当は気持ちを整理したいはずだと感じていた
、でもユリナはそれを見せなかった。
二年前ユリナ達がアグドを訪れた時、アグドの内乱で多くの者が命を落として行くさまを目の前で見ていた。
そして驚く事に、其れから間もなくアグドの者達は笑顔を取り戻し、国を立て直す事に全てを注いでいた。
アグドのオーク達からユリナは死を無駄にしてはならないと深く学んでいた。
まだ、カイナを斬った感触がユリナのその手に残る……だが瞳は強い意志をエレナに強く伝えていた、ユリナはその感触を忘れたく無かった、カイナを救えなかったそれを忘れない為に。
そんなユリナを見てエレナは優しく伝える……
「ここに来たのは、私達が背負ってるものを見たくて来たの……」
「未来……?」
「えぇ、この子達は未来を奪われた……
悲しみと憎しみ、そして欲深い者達に、この大陸には沢山の子供達も居れば、明るい未来を見ている人々がいる……
でもその殆どの人達が、これから起きる事を知らない……でも知らない方が良いのかも知れない……
形は違う……でも……私達の戦いが負けてしまったら、この子達とは比べられない位の子ども達の未来が奪われてしまう。
私は負けられない……
ムエルテ様の話からしても勝ち目がない……
それでも負けられない‼︎」
弱気を見せながらもエレナの瞳は力強く、そして声にも覇気を込めていた。
「でも……ユリナ……貴女は何があっても生き残りなさい……
いい?絶対に生き残りなさい」
エレナの母としてのたった一つの心配をユリナに打ち明けた。
「お母さん、何か忘れてない?」
「え?」
「お母さんが勝てない相手から、逃げ切れるとは思えないな、水の巫女でこの前ドラゴンナイトになったお母さん……
凄い綺麗だった……それと神様の力を見せつけてくれた。
あんな戦い私には出来ないよ……」
エレナはあの戦いで怒りに任せて戦った。
それは普通なら誰でもひいてしまう様な戦い方をしたにもかかわらず。
ユリナは恐れていなかった……魔王の夢を見たユリナからしたら、そうでもない事だったのだ。
「だからお母さん、絶対に勝ってね」
ユリナは笑顔でそう言い膝をつき祈りを捧げた。
その祈りは失いし炎の間に眠る子ども達と全ての未来へ祈りを捧げていた。
エレナは微笑み執務室に向かい、そして支度を始めた……既に多くの国々がクリタス平原に向かって兵を送り始めていた。
エレナが軍を率いてバータリスを出陣しユリナもそれに続いた。
その頃クリタス平原では異変が起きていた……。
クリタス平原の北方にミノタウロスの一軍が現れ、クリタス王国首都クリタスに向かい進軍し始めていた……
「伝令!伝令!トール様!
ミノタウロスが此方に向かって進軍中‼︎
ですが……」
物見が伝えてくる。
「どうした?」
トールが聞く。
「敗走してる様子で、戦意は見られないとのことです」
「クリタス全軍に伝えよ、警戒態勢を取りいつでも出陣出来る様にせよ!第五軍は俺に続け‼︎」
(まさか辺境地域最大の勢力がここまで退いて来たのか?)
トールは焦った、ミノタウロスは戦士の一族で逃げるよりも戦って死を望むオーク達の様な種族、それが退いて来たのだ。
「トール行くのですか?」
トルミアが声をかけて来た。
太古の昔トータリアがトールを見ていた眼差しそっくりな瞳で……
「トルミアすまない、民を率いてすぐにベルリス温泉に逃げてくれ。
この戦い……嫌な予感がする……」
トールはクリタス王国がかつて滅亡した時を思い出していた。
そして今は、闇の女神オプスは囚われていない……トールは何も悩まず、民を逃す事を決断した。
トルミアは静かに頷き、大臣達に指示を出しクリタス王国首都クリタスは慌ただしくなる、トールは軍を率いて出撃……ミノタウロスの軍に向かった。
少しして、ミノタウロスの軍が何かと戦い始めるシャッフェンだ、敗走したミノタウロス達を追撃して来たのだ。
ミノタウロス達は諦めたか、最後の力を振り絞り戦っている!
無数のシャッフェンが一軍を形成し襲い掛かる。
「あれは……全軍突撃態勢!
ミノタウロスは友軍だ!救い出せ‼︎」
トールが叫んだ!
ゴブリンの英雄が巨人族が生み出した獣共に戦いを挑んで行く。
トールの軍はトールを先頭にシャッフェンに突っ込んで行く!
ユニオンレグヌスゴブリンの旗印を掲げて……
その戦いぶりは激しく、そして迷いの無い戦いぶりであった、トールはミノタウロスを救うために、クリタス王国の民を救う為に剣を振っている。
シャッフェンの群れは英雄トールの軍に押され始めるが……やがて地響きが聞こえて来た。
フェルムナイトだ、しかも大型でデスナイト程の大きさがある。
巨人族はミノタウロスの追撃と同時に、クリタス王国を滅ぼすつもりであった。
その様子はザラハトスに直ぐに知らせが入る……
「馬鹿な!トールは十万年前にメトゥスに命を奪われたはず!
何故奴が……直ぐに増援を送り奴を殺せ!
恐怖の竜フォルミドを追い込む力を持っている侮るな!」
巨人族の王ザラハトスが僅かな焦りを見せた……
それはザラハトスだけは薄々感じていたのだ、無の神ニヒルは冷酷であり、無用と感じれば部下である巨人族ですら滅ぼすかもしれないと……
(負ける訳にはいかぬ……我が種族の為に……)
ザラハトスも今や王子で無く、王であった……
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
貧乏男爵家の四男に転生したが、奴隷として売られてしまった
竹桜
ファンタジー
林業に従事していた主人公は倒木に押し潰されて死んでしまった。
死んだ筈の主人公は異世界に転生したのだ。
貧乏男爵四男に。
転生したのは良いが、奴隷商に売れてしまう。
そんな主人公は何気ない斧を持ち、異世界を生き抜く。
異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚
咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。
帝国歴515年。サナリア歴3年。
新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。
アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。
だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。
当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。
命令の中身。
それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。
出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。
それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。
フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。
彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。
そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。
しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。
西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。
アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。
偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。
他サイトにも書いています。
こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。
小説だけを読める形にしています。
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
元現代人はそれでも安定を切望する
眼鏡から鱗
ファンタジー
思いつきで、ふわゆる設定です。
心を、めちゃ広げて読んで頂きたいです。
不定期投稿です。
※旧題 現代人は安定を切望するんです
★画像は、AI生成にて作成したものとなります★
欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう!
そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね!
なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!?
欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!?
え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。
※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません
なろう日間週間月間1位
カクヨムブクマ14000
カクヨム週間3位
他サイトにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる