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〜第六章 ファーブラ・巨人族〜

126話✡︎✡︎ネクロマンサー・カイナ✡︎✡︎

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 この戦闘の最中に骸は蘇る事は無かった、ユリナが巨人の神殿に近づいている証であった。
 林を駆け抜けるユリナに目の前から何かが飛んで来た、其れを鮮やかに躱した。
 だが意志を持つ様にユリナを追って戻ってくる。

(白い……)
 ユリナが二回目を躱した時、其れを目ではっきり見た。
 白く長い牙だった、ユリナは其れを星屑の劔で叩き斬り走り出す。
 斬馬刀の様な大剣でこの様な物は斬りにくいが正確に斬り落とした。
 それはトールが言っていた様に、体の一部として扱えていた証であった。

 だが今度は幾つもの牙が飛んでくる!
ユリナは小枝の様に剣を振り突き進んで行くと、開けた場所に出た。

 そこは巨人の神殿の正面……黒いフードを被り片腕の女性が立っていた。
左腕が無い……ユリナは思い出した、トールがクリタス平原で戦ったイミニーのネクロマンサー、左腕を斬り落とされたネクロマンサーを……
 それがカイナだったことそれだけがユリナの心を強く引き留める。


「ユリナさん来ちゃったんですね……」
「えぇ……」


聞き覚えのある声だった、時には楽しい話をして、共に暮らした事がある……

「驚かないで下さい……
私はイミニーだったのですから……
知っていたでしょ?」

そう言い彼女はフードを取った
カイナが冷たい笑みを浮かべて言った。


「さぁ……殺し合いましょう!」


「まって!何でカイナがこんな事を‼︎」
「私騙されていたんです。」
「何に?」


カイナはうつむいて囁く。
「……」

 その声が余りにも小さかった為に聞き取れなかった、そしてカイナが右腕に杖を出して、振りかざした。

 実体の無い死霊がユリナに襲い掛かって来た。


(ほう……
二人は知り合いであったか……
ならば悪いが少し見させて貰おうかの)
 ムエルテが全ての気配と姿を消して空から見ていた。


ユリナは素早く躱しながら、カイナとの距離を保ち叫ぶ!
(さっきのはサイサス……何故……)
 ユリナは疑問を抱くあの時の楽しかった日々が脳裏に過ぎる。
(あれは嘘だったの?守護龍の目を騙したと言うの?何故……)

「カイナ!話し合いましょう!
私は貴女と戦いたく無い‼︎」

「ユリナさん優しすぎるよ……
思い出に負ける様じゃ……

世界は変わらないよ‼︎」

 悲しみを宿しながらカイナは叫ぶ。
 ユリナは距離を縮めて斬り込む、隙だらけで簡単に間合いに入り、その劔を振り下ろそうとしたが、ユリナには斬れなかった。

 その瞬間カイナの杖が伸びてユリナの肩を狙ったが、其れを躱した。


「やっぱり斬れなかったね……
退いてください……
私の気持ちなんて誰にも解らない……」


 そう言いカイナは杖を槍に変え、左肩に何かを突き刺した、それは形を変えて骨の腕になり、勢い良くユリナにその槍で襲い掛かって来た……


(冥府魔術……よくやるのぉあやつ……)
ムエルテが観察している。


 ユリナは剣で受け止め押し返し、なぎ払おうとした時カイナは槍を使い高い跳躍を見せ、ユリナの頭上を取っていた。
(そんな……人間が……いや!
カイナは戦士だ!)
 ユリナはアルベルトから教わった事を思い出し、その槍を劔で受け止めてカイナの胴を蹴り飛ばした!
 感触が軽い、カイナは体勢を立て直して素早い突きを繰り出して来る。

(強い、トールが簡単に勝ったのはトールが強いから……違う気がする……)


 ユリナが斬りかかり、カイナがそれをいなし槍のしなりを活かして、ユリナの腹部に直撃する。
 ユリナが膝をついた時カイナに顔を蹴られる。
 そしてカイナは振り向き、神殿に入ろうとする……

「何故、とどめを刺さない!」
ユリナが叫ぶ。

「うーん?
ごちゃごちゃ考えて集中してないからさ……

私に失礼じゃ無い?

私はユリナさんだから、正面から戦おうって思ったの……
それに読んでくれて無いみたいだし


ガーラが死んだ事を解ってさ、思い切って戦を仕掛けた……
サランの正統な王が居なくなったし」

「なっ」
ユリナが驚いた。

「知らなかったんだ……

ガーラは人間の王……

そして貴女はサランのお姫様でもある……
アルベルトは……」

そう言いかけて何かを思い止まった。
「まぁいいかな、ユリナさん私はこのサランを滅ぼす……
巨人族が戦える様に地上の力を削ぎ落とします。」
カイナが背中を見せたまま言う。

「そんな事をしたら!」
ユリナが叫ぶ。

「どうだと言うんですか?
この世界は無くなってしまった方がいいんです。

神が地上を救わない……
自分達の罪を誤魔化そうとしている。

そんな世界は無くなってしまえば良いんです。」

 ユリナが立ち上がった……
腹部に手を当ててまだ苦しそうだが、何とか立ち上がった。


「私を止められますか?」


 そう言いながら、また振り向きユリナに槍を向けたが……
 ユリナは既にカイナの後ろに周り斬りかかった!
 カイナが躱して、槍でなぎ払おうとするがそれを、ユリナは星屑の劔で受け止める。

 ユリナはカイナの言葉に不本意だがしなければならない……

 そんな気持ちを感じた、ユリナは積極的に斬りかかった、カイナはユリナの動きに合わせつつ防戦している。

「今なら守ってあげられる!
みんなの所に帰ろう‼︎」
ユリナが叫ぶようにカイナに問いかける。

「それは出来ません……」
カイナがそう言い、凄まじい連続の突きを放ちながら言う。
「解りませんか?
あの時から、私の道は決まっていたの……」

 ユリナは躱しきれず、僅かに頬に傷を負う

「あの時……?」
ユリナはカイナが指すその時が解らなかった。

「ユリナさんが知るはずありません……」
 カイナはそう言いながら槍を使い、高い跳躍を見せて空から、骨の牙を無数に降らせてユリナを襲う、ユリナはそれを必死に躱す。

「どっちにしても、私は帰れない……
みんなの所になんかもう……帰れない……」
カイナが寂しそうに言った、だか僅かに迷っていた、帰るか帰らないかカイナは迷っていたのだ。

「そんな事ない!
お母さんなら許してくれるよ‼︎」
ユリナが叫ぶ。

 カイナはそれを聞き、目を見開き凄まじい速さでユリナを襲った。


「お母さんって言わないで下さい……
いつまでユリナさんは、エレナ様に甘えてるのですか?」
カイナが冷たく言った。


「なっ……」
 ユリナはカイナにそう言われるとは、思わなかったが、事実だ……ユリナはカイナに気付かされた。


「イミニーを甘く見ないで下さい……

神に敵対するその意味を……

解って下さい。

全てを敵にする意味を解って下さい

誰にも甘えられ無い……
やっぱり、私の気持ちなんて解りませんよね?」

カイナが呟く様に言う。

 そしてカイナが槍を見事に使いしなりを活かした強烈な打撃を繰り出して来る。
 全てを敵にする……その苦しさが解る様な槍捌きをカイナは見せている。

 呪術を得意とするネクロマンサーでありながら、これだけの武術も身につけないと生き抜けない、それだけ過酷なのだ。



(カイナ……本気なんだ……)
 ユリナが心で呟き、風の力を解放し始める、辺りに寂しさを思わせる静かな風が吹き始める……


(解ってくれたかな……)
カイナが心で呟いた。


 二人が剣と槍を打ち合いその反動を利用して示し合わせた様に距離を取った。

「わかったよ……カイナ……
でもカイナは間違ってるよ……」
ユリナがそう言う。

カイナが全力で距離を詰め突き殺そうとする。



「決まった道なんて無いんだよ……」
ユリナが言い続ける。



 ユリナが躱しカイナの槍が僅かにユリナの胸をかすめた……
「……」
カイナは手元が狂ったのか、解らないが貫く事は出来なかった。

「いつでもやり直せる……
それが生きてるって事じゃ無いかな?」
ユリナはそう言い、もう一度距離を取る。


「ありがとう……でも……」
カイナはそう言い、再び距離を詰めてきた。


「私の罪は消えない‼︎‼︎‼︎」
カイナはそう叫び、今までの全てを込めた槍でユリナをなぎ払おうとした。

「わかったよ……」
ユリナが呟く。

 ユリナは瞬時に躱して、上から劔を振り下ろそうとした、カイナがそれを受け止めようとしたが……

 ユリナの剣が揺らめいた瞬間!
 下からカイナの肩に向け凄まじい斬撃が振り上げられた……

 オークのオーバーロード・ダンガードが使った『偽りの劔』をユリナが使ったのだ……
 それはカイナをユリナが戦士として認めて、ユリナが思う最強の戦士の剣をカイナに送ったのだ……

 ユリナが覚悟を決め、ユリナに出来る最高のたむけであった。

 だがカイナの俊敏性が凄まじく僅かに浅く入り即死を免れていた。
 倒れ込むカイナにユリナは劔を投げ捨てて抱き上げて話しかける。

「カイナ……何故……」
「ユリナさん、優しすぎるよ……」
カイナは血を吐きながら答える。

「みんなの所に帰ろう、断っても連れて帰るからね……」

 カイナは自らの魔力を命に変えている様だ、ユリナの腕の中で、カイナの魔力が輝きを放っているのを感じる……まさにカイナ最後の光だ。


「神様だけでも信じれる世界だったら……」
 力無くカイナが言う、ユリナは精一杯カイナを抱きしめた。

「カイナさん……」
 ピリアが兵を連れて来た、戦いの場所を写す事を考えて林に入って来たのだ。

 フェルトは黙って兵に指示を出している。
 ピリアが駆け寄りカイナの魂に触れる……

「オプス様……に……もっと……早く出会えていたら変わったのかな」
カイナが必死に言う。

「うん、オプス様は優しい神様だよ」
ユリナはなんて言っていいのか解らないが精一杯応える。

 カイナはそれを聞いて力なく微笑みながら、空に手を伸ばした……
 死を迎えるカイナの瞳だけにムエルテが見えていた。

 ムエルテは姿も現さずに、近づいてその手を優しく握りカイナの魂を連れて行った。

 その様子をユリナ達は見えていない……だが迎えが来たのだけは感じていた。
 ただ一人フェルトだけがその様子を見ていた、カイナは冥界では無く天界にムエルテの手によって導かれて行った。






「みんな……さようなら……
いい世界にしてね……」
カイナの魂がそう言うが、ムエルテにしか聴こえていていない。


「そちの行いに罪はある……だが妾に裁く気は無い……
そうだのぉウィンディアに預けようかと思ったが……
お主が信じようとしたオプスに預けてやろう、その方が良かろう」
ムエルテが言う。
「貴女は?」
カイナが聞く。

「妾は死の女神ムエルテじゃ、冥界におる神じゃ……」
「私を……冥界に!ムエルテ様の側において下さい!」
カイナはムエルテに頼んだ……

 イミニーとして死んだ自分を、いくら優しい闇の女神オプスとは言え六大神の一人、とてもじゃないが合わす顔が無いと思ったのだ。

「悪いがもう遅いぞ」
ムエルテが笑みを浮かべて言う。
「え?」
 既に天界に着いていた、美しい夜空が広がっているその世界で、紫の髪に星が瞬いている白い肌の少女がいた、瞳は瞑っている。
闇の女神オプスがそこにいた。


「ムエルテ無茶をしますね……
ここまで来るなんて他の六大神に見つかったら騒ぎになりますよ」
オプスがそう言うが微笑んでいた。

「なんでムエルテ様が天界に来れるのですか?」
カイナが不思議そうに聞いた。

「妾が司るのは死じゃ……
闇の本質とよう似ていてのぉ……

それで天界のオプスの庭、闇の庭には来れるのじゃ、ある事が起きてからオプスとは良く話すのじゃ……
話して見てのよう気が合うのでな、二日に一回は来ておるのぉ」

 無論ムエルテは遊びに来ている訳では無い、ニヒルとの事、魔族と冥界の者が共に戦うにあたっての事を話し合ってるのだ……

 だが今日は違う用件で来たので、オプスも明るく振る舞っている。

「カイナさん、お礼を言います。
ムエルテが優しい顔をしています、貴女の死がムエルテを少し変えてくれたかも知れませんね」
オプスが言う。

「なっ……」
カイナは困惑をした。

「のお?言った通りじゃろ、オプスよこの者を見てやってくれ、妾からの頼みじゃ」
ムエルテがオプスに頼む。

「はい喜んで、でもその変わりに……」
「なんじゃ?」
「今度硬い話は抜きでお茶しませんか?
カイナさんもご一緒に」
「そんな暇は……
だが今しかないかも知れんな……
地上で何かあったらやめじゃぞ」
ムエルテが考えながら言う。


「ではこれを……」
オプスはネックレスを取り出して、それをカイナに自らの手で着けた。
「カイナさん、これで貴女は私の使いです。

他の六大神も貴女を責める様なことは出来ません、私の側に居なさい。」
オプスがそう言った。


 オプスは見ていたのだ……ピリアが魂に触れた時、天界からユリナを見守っていた為にピリアが見たカイナの過去をそのまま見たのだ……何故イミニーになったのか……
 それを見てオプスはカイナに慈悲を持って慈愛を注ごうと決めていた。


「頼んだぞ、妾は行かねばならぬ……」
ムエルテはそう言い地上に降りて行った……
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