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〜第六章 ファーブラ・巨人族〜

122話✡︎✡︎瞳の力✡︎✡︎

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「ユリナ?父さんの事を人間だからと思ってたら勝てないぞ」
アルベルトは笑顔でそう言った。

「人間は強い、努力すれば何でも出来る……そしてエルフと違って百年しか生きられない……
だから一生懸命になれるんだ……
一秒一秒が大切なんだ」

ユリナはその言葉に別の意味も感じた……
だが解らなかった。

「ユリナ、なぜサランがあると思う?」
 アルベルトがユリナに質問を投げかけて来た……不思議な質問だった。
 人間の国、サラン王国……なぜあるかなんて解る訳がない。


「不思議だと思わないかい?
オークには力、エルフは速さ、ドワーフには物作りそう言った、素晴らしい特技がある……
だが人間にはそう言った特技はない……
それなのに種族国家として国を保ち続けている」

 確かに言われると気付くが、他の種族と見比べれば人間だけ異質である。
 かつての時代は人間は軽視されがちであった、だが種族国家として広い領土も保有して維持し続けている。

 何故だろう……ユリナは疑問に思ったが直ぐにアルベルトが答えた。

「他種族が人間を見下しているからだ……」

 その言葉にユリナはドキッとした、さっきユリナは人間に出来るはずが無い!と思って戦っていた。

「傲慢と言えるな、それは……
その想い上がりを私達人間は打ち砕いて来た。
ユリナ、覚えておきなさいこの世界の全ての種族は対等で無ければならない。

セレスとサランが同盟を結べたのも、エレナが人間を対等な存在として、接し続けてくれたからだ……

お母さんの姿をよく見ておきなさい」


 アルベルトは父として話していた。
 だがそれは神として大切なことでもあった……アルベルトもユリナの成長をさり気なくではあるが、暖かく見守っていた。


「もう少し剣を交えてみないか?」


 またアルベルトから誘った、ユリナは人を種族としてみる事自体が差別だと言う事に気付かされた……

そして最高の騎士に挑んだ。


 アルベルトは剣を受けて、僅かな違いを感じる……その剣は普通は見えない輝きを僅かに放っていた。
 それは曇り無く純粋に力を求める剣になっていた。アルベルトの光神ルーメンとしての神の瞳がそれを捉えた。

(そうだ……剣に心を乗せるには……
人を見下す様な心では剣が心を乗せてくれない……)
 アルベルトはそう微笑みながら、ユリナの剣を受け止めて相手している。



「お母様、ユリナとお父様が」
「えぇ、あの人が珍しく剣を教えてますね、カナ久しぶりに私達もどう?」
「はいお母様、私も上達しましたが……
フェルト卿と交えてみませんか?」
 カナがエレナにフェルトとの剣を勧めた、その時、フェルトはアルベルトの剣と身のこなしを見て、唖然としていた。

 フェルトもこれ程強い人間を見た事が無かったのだ、ユリナも決して弱くは無い、いやカナより全体的に見れば優れている。

 フェルトはユリナが大剣を使わず、カナと同じ片手剣の使い手ならどれだけ速い斬撃を放つのか想像したが出来なかった。

(うーん、ユリナの剣で驚いてる様じゃお母様の相手になりませんね)
カナは根に持っている様だ。


「フェルト卿?いいかしら?」
エレナから聞く。

「あぁ……お願いします」
フェルトが答える。


 セレス国女王、エレナと剣を交えるのがこんなに簡単だとは思って居なかった、褐色のエルフ、白きエルフとは因縁深い、その為にエレナから声をかけられるとは思って居なかったのだ。

 二人が中庭に出ると、それに気付いたアルベルトとユリナが中庭から出る、先ほどよりいい勝負をしていたが、二人は少し休む事にしたのだ。

「いつも見ているかも知れないが、お母さんの足をよく見ていてごらん」
アルベルトがユリナに言う。
「足?」
ユリナが聞く。

「あぁ、いい手本になるはずだ」



 エレナとフェルトが中庭に出て、剣を構える、今日もエレナのクリスタルの小太刀が、日を浴びて美しく輝いている。


 そして二人の息が一瞬あった時、エレナから仕掛けた。

 素早く走り込み、薙ぎ払う様に横から斬りつける、フェルトはその太刀を剣で止めてそのまま前にでた。
 エレナは予想外の動きに、次の手が一瞬遅れ連続で斬りかかれなかった。
 見事にフェルトはエレナの先を読んだが、それでも凄まじい速さでエレナは突きを入れてきた。

 フェルトはそれを躱し素早い剣で、エレナの髪をかすめる。


(少しはやるのね……)
エレナがそう思った時、アルベルトがユリナに囁く。

「ユリナ、今の足を見てたかい?」

「うん……フェルトが躱したのと同時にもう足を引いていたよね……」
ユリナはエレナの足の動きを良く見ていた。

「そう……あれがエレナの上手い所なんだ、カナも聞きなさい。

エレナは相手が躱した時には反撃が来ると読んでいる……だから躱されたのと同時に躱す体勢に入ってるんだ……

普通の剣士はそれを速さだけで補っている。

だがエレナは前もってその体勢に入ってから躱した上で凄まじい速さで反撃してくる。

私も油断すれば、これが無い程完璧な動きなんだ」

 アルベルトはそう言いながら、自分の首にスッと手で線を引く。
 ユリナとカナはアルベルトの説明を聞きながらエレナの動きを真剣に見ていた。

 だがエレナはそれを無意識に行っていたので、アルベルトの見ている事には気付いて居なかった。


(これが女王の剣……
隙がない……)
フェルトはその完璧な動きを崩せずにいた。

(と言うか……
エレナ強くなったか?)
 アルベルトはエレナのただでさえ完璧な動きの鋭さに磨きがかかり、正確性が増している事に気付いた。


 そうアルベルトが気付いた時、フェルトは集中力を高めていた、そしてその瞳の力を使う。
 褐色のエルフの力、ダークセンス。

 その瞬間、フェルトはエレナの血の流れや力の入り方をエレナの魂から読み取る。
 そしてエレナが凄まじい一撃を放つことを読み、フェルトはそれを躱す為に力を抜いた瞬間、刹那とも言える速さの斬撃が放たれた。

 フェルトはそれを躱した。

(……読まれた?……違う……
これは……

ふ~ん……)
エレナは気付いた、そして報復する。

 エレナは瞳を強く見開く……。

(なっ!)
フェルトは焦った、フェルトの力が封じられたのだ……。

「私に気でもあるの?
全身を見るなんて気が早いわよっ!」
エレナが挑発をする。


 ユリナとカナが何を言っているのか解った、祝福の力の様な瞳の力をフェルトが持っていたのだ。
 そしてフェルトを白い目で見る……。


「なっ!俺は魂を見ただけだ‼︎
そっそんな体なんて……
俺には興味ない‼︎」

 フェルトは否定しながら剣を振っているが、焦りが剣に生じたのをエレナは見抜きフェルトの剣を美しく弾いた。
 そして勢いよくクリスタルの小太刀の刃を首に当て、息がかかる程まで顔を近づける。

「もっと大人になってからね……」
そう優しく囁き、フェルトを子供扱いして遊んだ。

「…………」
 だが美しいエレナのその姿にフェルトの時が止まっていた。


「ちょっと、あんたにはメモリアさんが居るんでしょ⁈
何ボーッとしてるのよ?」
ユリナがどつく様に言う。


「エレナ?少しいたずらが過ぎないか?」
アルベルトが歩み寄って来るエレナに微笑みながら言う。

「いいのよ、ズルしたんだから。
少しくらいは……」
 そう言いながらエレナがフェルトを見た時、カナがフェルトの首に剣を当て、ユリナが問い正していた。


 ある意味尋問である……


「ほら、うちの子はエレナに似て綺麗だが、真っ直ぐに動くからさ……
フェルトも族長なんだし……
あれは族長に対する扱いでは無いと思うが……」
アルベルトが言う。

 ユリナはフェルトが何か言い訳をしようとすると、引っ叩いている……。

「うるさい!
お母さんの何を見ようとしたのか!
はっきり言いなさい‼︎」
ユリナが言う。


 エレナは汗をかきながら見ている……

既に尋問である……

「まぁ……
仲がいいと言うことにしましょう」
エレナはそう言う。


「ユリナ!あまりやり過ぎるなよ‼︎」
アルベルトが尋問を楽しむユリナに言う。


「はーい!」
 ユリナは元気に返事をした。
 気づけば、フェルトもそうは怒ってはいない、歳も近い若者のやり取りに変わって来ていた。
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