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〜第六章 ファーブラ・巨人族〜

112話✡︎✡︎凶報✡︎✡︎

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 三日後、ユリナ達はセレスへの帰路につく……
 少数で馬を走らせ、かなり速く進んでいく。
 正直言えば、クリタスまで行き闇の街道を使えば直ぐなのだが、あの街道はあまり知られたくない為に陸路から帰る事にした。



 そしてその頃……
 パルセスでは不穏な空気が流れていた。


「女王様、やはり何者かがパルセスの高官を狙っています。
昨夜も大臣が一人、命を落とされました……」
警備兵を連れた大臣がフェルミンに報告しにきた。
「亡くなったのは誰ですか?」
フェルミンが聞く。
「ペンテニウム卿になります。」
「ペンテニウム……」


 パルセスではセレスとの同盟を最初に喜び、推進している大臣が襲われていたのだ……
 今となってはセレスとの同盟は国益は計り知れない程になり、誰も同盟破棄など考える者は居ない、なのに何故か狙われているのだ。

 フェルミンは大臣達の護衛を厚くし、旅をしている手練れの剣士を雇うなどして、大臣達の安全確保に目を傾け始めた……


 念のためにセレスのエレナ女王に、水の鳥を飛ばしてこの事を伝えた。
 何度もエレナの所に遊びに行き、フェルミンはこの魔法を教わったのだ。

 フェルミン女王は心配していた、命を落とした大臣達は僅かに死の痕跡を残すだけで遺体が発見されないのだ。

 ただの暗殺では無いと予感していた。



そして話は数日前に戻り……



 エレナが夜遅くに寝室近くの中庭で、剣を振っていた。
 死の女神ムエルテの話が本当なら、憎悪の神オディウムを倒し食らった者を相手にしなければならない……
 更にその者が神であり、創造神アインと破壊神クロノスを生み出した者であれば、それと戦う事が何を意味するのか、神に仕える巫女でもあるエレナは痛過ぎる程理解していた。


 それを考えるとエレナは何かをしていなければ、心を押し潰されてしまう様な重圧を感じていた。
 かつて巨人族が冥界に対抗する為に、クリアスを求めた……
 究極の破壊兵器を創造して作り上げた、その気持ちが痛い程解った。


それがあれば、手にしてしまいたい……


 神に仕える巫女でありながら、そう思う自分を斬り殺す様に剣を振り続けていた。


 そしてあまりに集中していたのか、大地の異変に気づかなかった。
 静かに大地が盛り上がりアンサラが現れた……

「エレナ……エレナ……エレナ!」

「?アンサラ!どうしたの⁈」
エレナはやっと気付いた、いつも呑気なアンサラでは無い酷く落ち込んでいる。

アンサラは目に涙を溜めていた……

 いつもユリナが掘り起こす様に、エレナが掘り起こしてアンサラを引っ張り出してあげる。

「ガーラが……ガーラが負けた……
ガーラが殺された!」


アンサラはそう叫ぶと同時に涙が溢れ出した、余りの事にエレナは衝撃を受けた……

「そ、そんな……うそ……」

 夫アルベルトの親友であり、大地の使徒としてエレナと同等の力を持ち賢者に等しい程、賢いガーラが敗れたのだ。


「うそじゃない、ガーラにエレナに伝える様に言われて、僕は離れた……
ガーラがその後アースクェイクで地震を起こしたから、おかしい!って思って急いで戻ったんだ……」
 アンサラはガーラの最後を必死に語りだす。
 涙を流しながら一生懸命に伝えている、その姿がまた悲しみを大きく強くして行く。


「ガーラは地割れに飛び込んで、自らの命を断とうとした、奴が……黒い影が追って来た、ガーラは最後にこう叫んだ……

良かろう!貴様も俺と共に大地に抱かれるが良い!

ガーラは最後まで大地の使徒として……
大地に抱かれていったんだ……

でも……ガイア様は助けてくれなかった!
救ってくれなかった!
何もしてくれなかった!

仇も取ってくれなかった……」

アンサラが必死に悲しみに耐えて話している。

「仇も……って敵はまだ生きてるの?」
 エレナが聞く、エレナの頭にはその刺客がユリナ達を狙わないかと言う不安が過った。

「僕が我を忘れて飛び出そうとした時に……
赤黒い冥界の光が殺気を放って死の女神ムエルテが来て……

そいつを斬り裂きマグマに突き落としてくれて、僕に心で言ったんだ……


はやく行けって、死者の想いを無駄にするなって……


僕は解らないよ!
神様ってなんなんだよ!
天界はなにしてるんだよ‼︎」

 エレナはアンサラの気持ちを悟った……
 長く長く一緒にいたガーラが追い込まれ命を絶った……
 ガーラはガイアに長く仕えた……だがその主神であるガイアは救いもしなかった、アンサラはガイアに生み出された。

 アンサラが心から悲しみ声を出して泣いていた……その姿が余りにも痛々しくエレナの心に突き刺さる。

 そして天界の神でなく冥界の神、しかも冥界の支配者死の女神ムエルテが仇を取ったのだ、大地の女神の使いであるアンサラにとっては衝撃的過ぎた。
 エレナは冥界とニヒルの戦いが既に始まっている事を察した。


 そしてエレナは我が子を抱く様に、打ち拉がれるアンサラを抱きしめて、優しく撫でていた。


「これからどうするの?」
エレナがアンサラに聞く。

「解らない……でも……
今は天界に帰りたくない……」
アンサラが答える。

「そうね……少し落ち着くまで地上にいなさい……天界に呼ばれてないんでしょ?」
エレナが優しく言う。

 アンサラは少ししてうなずく。

「エレナありがとう……
少しこの辺りにいるね……」
アンサラはそう言い、大地に潜って行った。

「えぇ……ゆっくりしていきなさい」
エレナはアンサラを静かに見送った。


 気付いたらアルベルトが悲しい瞳で月を見ていた。
 エレナは親友を失ったアルベルトに何も言えなかった……


 アルベルトは思い出していた、エレナの即位式の日に、深夜まで二人で飲み続けアルベルトは、一人で旅をしながらクリアスを調べ続けていたガーラの募る話を聞いていた。

 その酒がとても美味く感じ、二人は柄にも無くだいぶ飲んでいた。

 まさかそれが別れの酒になるとは夢にも思っていなかった。
 ガーラの人生はアルベルトとの約束を守る為の人生になってしまった。
 アルベルトは美しい妻を持ち、娘にも恵まれた……アルベルトは心でガーラに詫びることしか出来なかった……


 エレナは涙を流さず、静かに背中で泣いているアルベルトを見つめ、そっとその背中に寄りかかる……

「後悔してる?」
エレナが聞く。

「あぁ……」
アルベルトが答える。

「なら……簡単に死を選ばないでね……

みんなの人生が……

おかしくなっちゃうから……」
エレナが優しく言う。


「あぁ……」
そこには、表情を変えずに一筋の涙を流した騎士がいた……
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