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〜第五章 ファーブラ・神話の始まり〜
106話✡︎✡︎疑問✡︎✡︎
しおりを挟むユリナ達は一切寝てはいなかったが、疲れや眠気は全く感じなかった。
ユリナは最後にムエルテが言った言葉で学んだ……神にも出来ない事があると。
焚き火の火を消し、地下都市トールに向かい出発した。ユリナ達は時間が無いと感じていた。
数年以内と言う事はどうなのか、仮に今現在はユリナの母、セレスのエレナ女王が号令を挙げれば、セレス、アグド、サラン王国、クリタス王国と連合軍を集める事は出来るが……足並みは揃うのだろうか……
その上にダークエルフのオプシェン、バディ族のアネモス……この二カ国とセレスの交流は無いに等しい、バディ族は観光好きで結構色んな国に個人で行き来している。
セレスでも良く見かける、だが国としての付き合いは無い、それはセレスだけでは無い、サラン王国もアグドもクリタス王国もそうだ……唯一交流がある国は、ドワーフのパルセスのみである。
パルセスはアネモスと友好関係にある。
理由は単純だ、輸送を得意とするバディ族と商売好きなドワーフ……この関係がパルセスとアネモスを強く結びつけているのだ。
ユリナはそうバディ族との事を考えていた。
ユリナはムエルテの言葉を信じた。
それは天から聞こえたアインの言葉もあったが、ムエルテの目が悲しそうに見えたからだ。
その為にダークエルフのオプシェン国も気にはしたが、ムエルテがシャイナに言った言葉で何かあると察して、バディ族の事も考え始めていた……そして地下都市トールまでの道を急いだ。
数日後にユリナは地下都市トールに着いて、食料などを補給し直ぐにバータリスに向かう。
二年前にアグドと結んだ友好関係は既に同盟関係に発展し、姉のカナがシェラドとの結婚をエレナが許してくれる事を待ち望んでいる。
ユリナは死の女神ムエルテが話した事が本当に起きた場合を考え、ユリナからもカナの結婚の許しを母エレナに強く催促しようと考えていた……
もしニヒルの率いる無の軍団と戦争になった場合、その戦いがどの様な結末になるかなど想像がつかない、僅かな時でも姉のカナに幸せな時を過ごさせてあげたい……そう考えていた。
悲しい結末が見えている、ユリナはそんな気がしてならなかった。
ユリナが地下都市トールを出発したその日の晩……セレスの王宮ではエレナが一人で美しい月を眺めながら紅茶を飲み、考え事をしていた。
エレナの寝室の直ぐ外に、ゆっくりと出来る中庭がある、相変わらず月明かりに照らされたエレナは美しく、絵になる程洗練された光景であった……
(エレナ気を付けろ、敵意は無いが危ない者が来ている)
リヴァイアサンが囁く……
(えぇ、解っています)
「妾にも紅茶をくれぬか?」
「貴女は?」
「妾は死の女神ムエルテじゃ、争う気はない同席して良いかの?」
エレナは動じなかった……エレナの背後から優しくエレナの肩にアルベルトが手をおいたからだ。
「ムエルテ何のようだ?
ここはお前が来る場所ではない」
アルベルトがムエルテを牽制する。
「ふっ、今はヘブンスと呼んだ方が其方には都合が良いかの?
まぁ話に来ただけじゃ、水の巫女と光の使徒を二人相手にするのは面倒じゃ……」
ムエルテが言う。
「タナトスも居るんだろ?」
アルベルトは見切っている、ムエルテの力を……だが、ムエルテは動じずに話し出す。
「聞く聞かぬもの其方らの自由じゃ、だがユリナは聞いてくれたぞ……
ウィンディアとアインと共にな、さぁどうする?」
「あなた、聞きましょう」
エレナはムエルテが偽りを言ってない事を悟った。
ムエルテはユリナに話した事と全く同じ事を話した……そして近いうちにダークエルフの長がここに来るかも知れないと……
その話を聞いてアルベルトが顔をしかめる。
光神ルーメンのアルベルトが恐怖を覚えた……アルベルトはディアボルスの戦いぶりを見た事があるからだ。
「ヘブンスよ、辛いのぉ……其方は常に希望を指し示さねばならぬからの」
ムエルテがニヤニヤしながら言う。
「それは私も同じです。
エヴァスとして、我が一族に希望を示さねばなりません」
「そうであったのぉ、だが其方が生まれ女王になったのも運命かもしれぬのぉ」
「運命?」
エレナが聞く。
「不思議に思わぬか?巨人族が居なくなり十万年も経つのだぞ、十万年……
今まで地上は纏まらなかった。
だがようやく其方の手で纏まろうとしておる……
まるでこれから起きるその戦いに備えるようにな……これも妾すら解らぬ何かがあるのかも知れぬな……」
エレナもユリナと同じ疑問を抱いた……
死の女神ムエルテ、何故この様な神が冥界にいるのか……
そして過去にも対話出来たのではないだろうか?ムエルテの表情と悲しげな瞳を見て、そう思わずには居られなかった……
「そう、ダークエルフの長が近いうちに変わる……その新しい長は……解らぬ……この世界の者では無い気がする。
何せエルフへのくだらない憎しみを持ってはおらぬ、そればかりか愛してるようにも感じる……不思議な奴じゃ」
ムエルテが教えてくれた。
「まぁ……その方の名は教えて頂けますか?」
エレナは微笑みながら聞く。
「フェルトじゃ奴はそう名乗っておるのぉ……
偽ってはおらぬが、心が見えぬ……」
ムエルテはそう答え、空の星と雲を見て空を睨み始め……
「妾が行かねばならぬな……
また会おうぞ、セレスの女王よ」
そう言い、静かに去って行った。
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