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〜第五章 ファーブラ・神話の始まり〜

97話✡︎✡︎魔王の夢✡︎✡︎

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 その夜……ユリナは夢を見た……


 見たこともない場所に居た……見たこともない木々が育ち不思議と、とてつも無く静かな森の中にいた……

 鳥のさえずりも無く、虫が飛ぶ音も聞こえない、あまりの静けさに気味悪く思える。風が吹き木々か騒めくしか音がないのだ……


 ユリナはふいに耳を済ませた、遠くで何かが歩いている、静かに静かにユリナは足音の主を知る為に歩き出した……
 カサカサと葉を踏む音が出てしまう、そして……

パキッ!

 ユリナは小枝を踏んでしまい、高い音が出てしまう、その音は周りが静かすぎる為に小さい音がやけに高く大きく聞こえた。

 ユリナはすぐに足音の主の方に意識を集中した時、聞こえた……まだ遠いがその主は此方に向かって凄まじい速さで走って来る音が聞こえて来た。


 ユリナは危険を感じて走り逃げ出したが、その主は風の様に速くそして、近づいて来る足音からして巨大な存在なのが解った……

 ユリナは逃げ切れないと判断し、魔法輪から弓を出し突風の魔力を込めて矢を放つ!
 高速で向かって来る相手に超高速の矢を放つ、当たれば相当な威力になるはず!


 その矢はその主を貫いたがっ!勢い止まらずに迫って来る……


(そんな馬鹿な、冥界の者⁉)
焦りながら次の矢に竜巻を込めて放つ!

 その矢はあっさり避けられてしまう。


「風かぁ!ウィンディアか‼︎」


 凄まじい叫び声が聞こえる、それは地獄の底から這い上がった悪魔の様な叫び声だった。
 ユリナは星屑の劔を抜き対峙することにした。

 さっきの叫び声が頭から離れない……

(勇気を!私は恐れない‼︎)
そう心に自分に言い聞かせた。

 それは周りの木々を薙ぎ倒し現れた……
 獣人族の様な出立ち……いや……悪魔そのものだ……
 足には蹄があり、長い尾を持つ、背中には幾十もの鋭い長いトゲがあり背丈はユリナの三倍はある……
 顔は見たことも無い獰猛な獣と人を混ぜた様な顔をしている。


その者は話す。

「エルフか?だが神の匂いがするな……
名はなんと言う?」

 ユリナは見た、命中した矢傷が右肩にあるが凄まじい速さで再生して行く……


「冥界の者に名乗る名はない‼︎」
ユリナは負けそうだった……

恐怖に……

 恐怖の竜フォルミドを見た時よりも、メトゥスを見た時よりも凄まじい恐ろしさを感じていたが……怯めば死ぬと感じていた。


生きたい!生き残りたい‼︎


 その信念から大地に根を下ろした大木の様に、抜けてしまいそうな腰を感じさせない様に死力を尽くし必死で立ち必死で叫んでいた……


「冥界か、冥界の者は不味い……
神ですら不味かった……そんな者と一緒にされるか……

余には解るぞ其方の恐怖が、十万年ぶり恐怖を味わえ嬉しく思うぞ……

エルフよそなたは旨そうだがな、その劔で我を滅ぼせるかな?」

そう言いその者は残酷な笑みを浮かべた。


「この魔王ディアボルスを滅ぼせるのか!」
そう叫びユリナに襲いかかって来た‼︎


「ユリナさん!ユリナさん‼︎」
 ピリアの声でユリナは目を覚ました。
 ユリナはうなされ、高熱を出したかの様に汗ぐっしょりになっていた。

「大丈夫か、何の夢を見たんだ……」
トールが心配そうに聞いて来たが、あまりの恐怖に話すことさえ出来なかった……


 ピリアが水筒の水をくれて、ゆっくりと飲む……冷たい水が喉を心地よく通り、生きている事を実感する……

 少し落ち着いてから、食事をとりやっと頭が整理出来た。ユリナは見た夢の事をそのまま出来る限り細かく二人に話した。


「ディアボルス?聞いた事はあるが……」
「ユリナさん、魔王の夢を見たのですね……」
「魔王の夢?」

ピリアは複雑な気分で話す。
「魔族の英雄、魔王ディアボルス……
彼の夢は必ず同じ夢を見るそうです。
ユリナさんが言った我を滅ぼせるのか?
そう聞かれる夢らしいです……」

そして、深呼吸し話を続ける……
「魔王の夢には二つの意味があるそうです。

ディアボルスは未来に、世界を変える者に死を味合わせ最大の恐怖を与えるそうです……

その恐怖で命を落としてしまう者もいる様です……
それはその者が、如何なる恐怖に直面しても立ち向かえる様に、試練を与えてると言われています……

そしてもう一つは、彼は死を望んでいると言われています……
無に帰り、地上の生命に生まれ変わる事を望んでいる様ですが……

憎悪の神オディウムを喰らいその肉体が不死になってしまった為に……
自ら死ぬことも出来ず、滅ぼしてくれる者を探している様です」


「それが出来るのって……」
ユリナが聞いてピリアが静かに教えてくれる。

「闇の女神オプス様しか居ません」

「俺じゃ無理なのか?
暗黒はオプスの力そのものなんだろ?」
トールが不思議そうに聞く。

「出来るかも知れませんが、ディアボルスは神を倒す程の力を持ってるんですよ、トールさんは力を失っているメトゥスにも敗れたじゃないですか……」

「そうかも知れないが、そんな奴の前にオプスを出す訳にはいかねぇ……
俺が滅ぼしてやる」
トールは真剣な瞳で言う、ユリナはトールらしさを感じホッとする。


 トールの妹トータリア、風の女神ウィンディア……冥界に落ちてしまった影の女王シャイナが惹かれた訳が何となく理解出来た……
 トールは愛する者を守る為、救う為には自らの命も惜しまない……
 その姿に絆されるのかも知れない、そう感じた。

 女は必死になって守ってくれる人を、探すのが大変である、男は必死になって守るのが大変である……

 トールは全身全霊を持ってこれからもオプスを守って行くだろう、そしてオプスが愛した地上さえも再び守ろうとするだろう。


 そんなトールの魅力に気付いたユリナであった……
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