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〜第四章 変わりゆく時代〜
93話✡︎二人の女王✡︎
しおりを挟む(ふぅ~む、実に良い話だ……
我らの性格をよく知り尽くした考えよ……
良く先も見通されておる……)
ファルドクスはそう考えながら言う。
「考える時間を少しくれないか?」
「えぇ、休憩に致しますか?」
「三十分程休もう」
ファルドクスがそう言い大臣達と離れた……ファルドクスは考えていた。
(飛びつきたくなる話だが……
あの土地は我らドワーフは開発することも出来ない……
警備だけで費用を食うばかりだ、これを機会に手放し五十年、三百年先を見るが賢明である、きっとエレナの事だ……
まだ何かを隠している、他にも良い事があるに違いない。
だが……まだ若い……
ようやく若さが見えて来たわいエレナは肝心な事に気付いて居ないの……)
エレナはその間にエルフの兵達に木箱を持って来させていた。
暫くしてファルドクスが戻って来た。
「済まないの、始めようか……
一つ聞きたいのだが、英雄のエレナ殿は多くの戦で勝利して来た様だが……
英雄としての視点で今の会談を有利と見るかの?」
ファルドクスは不思議な事を聞いて来た。
当然そうである、エレナはパルセスの多くを調べ、パルセスの先を見事に予測している。そしてクリタス平原はパルセスにとって何も生み出してはいない……
エレナは不思議な質問に戸惑うがそれを感じさせない様に素直に答えた。
「戦として見ればこの上無く有利かと……
ですが何が起きるか解らないのが戦……
正直……攻め切れるか解りません」
そう英雄として答えた。
「実に良い答えだのぉ……」
ファルドクスはそう言い国王として言う。
「この話、パルセスとして乗れぬ」
エレナはパルセスとしての言葉で瞬時に理解したが……エレナが話そうとするのを、ファルドクスは手を前に出して、それを止め次に穏やかに親友の様に言った。
「エレナよわしは、其方を疑いはせぬ……
だがセレスをそこまで信用出来ぬ。
何故か解るか?」
その理由をフェルミンは知っている……
フェルミンはエレナを見つめていた。
(エレナさん……)
エレナも解っていた……ファルドクスが国王としての視点で見た時、重要な事が欠けている事に……
エレナは必死にそれを回避して進める道を探すが見当たらない、オプスは言っていた先延ばしに出来る道もある様な事を……
だが今のエレナには見当たらなかった。
エレナは静かに瞳を瞑り、脇に置いた木箱に手を置き瞳を見開いた。
その瞳は何か違った、美しい空色の瞳、人や何かを見る目では無く未来を見ていた……
「お約束致しましょう……
私がセレスに帰った後にシンシル様から王冠と杖を頂くことを……」
「それが出来るのか?」
「えぇ……」
エレナはそう答え手を置いた木箱をあける……
ピリアが手を差し伸べた時、中から尊い者達の石版が宙に浮き、エレナの前に静かに置かれた。
「ご存知かと思います……
これはセレス国王の証、尊い者達……
シンシル様は私に既に玉座を渡して下さっていました……」
「良いのか?其方はまだ若い、今までの様に好きに出来ぬ身になるぞ」
ファルドクスがそう言うとエレナはユリナを静かに見て答える。
「きっと私が出来なかった事は、ユリナがしてくれます。
私はいつかは女王になる身……
それが早くなっただけのことです。」
エレナはそう言うとそっと微笑んだ……
ユリナの目にはその笑顔が忘れられない程優しく美しく……それでいて何かを捨てた寂しさを覚え強い印象を受けた。
ファルドクスはエレナを信じているが王ではない事を言っていた。
シンシルは信用に足りる人物だが、国はどうだ?他の大臣達はどうだ?と言う信頼が置けなかった。
そう見た時に、国の未来をかける話で踏み込む事が出来なかったのだ。
ファルドクスはそれを聞き静かに言った。
「そうか……そなたの覚悟……
無駄には出来まい……
わしからエレナ殿に言う事はもう無い……
フェルミン!」
その言葉にユリナ達は驚く、まだファルドクスから回答をまだ聞いて無いからだ。
だがエレナは動じなかった。
「はい、お父様……」
フェルミンが珍しく、かしこまって返事をした。
「フェルミン聞いたな?
エレナが覚悟を決めた……
そちの願い聞いてつかわす」
ファルドクスは立ち上がり、フェルミンを呼ぶ、フェルミンは静かにファルドクスに歩み寄りひざまづく……
「受け取るがい……」
ファルドクスは自ら持つ小さな杖をフェルミンの前に差し出し、フェルミンは丁寧にそれを受け取った……
パルセスの王の証……
暁月の大地と言う大地の女神ガイアに祈りを捧げる時に使うワンドだ。
「えぇ……」
ユリナが思わず声を出した。
昨日……フェルミンはファルドクスに願い出ていた、エレナの手伝いがしたいと……
今日エレナが話すことも一切告げずに、それに対してファルドクスはエレナの話次第であると、そうフェルミンに言っていたのである……
「フェルミン、後は其方が決めよ……
エレナよわしの愛娘を宜しく頼む」
ファルドクスがそう言うとエレナは静かに立ち……
「新しきパルセスの女王に祝福を」
そう優しく言い手で印を結び、水の女神エヴァに祈りを捧げた。
「新しきセレスの女王に祝福を」
フェルミンは暁月の大地を使い、大地の女神ガイアに祈りを捧げた。
エレナは何時も祝福を贈る立場だが、フェルミンに祝福を贈られ新鮮で爽やかな気分になり、明るい笑顔を見せた。
フェルミンもなんだか幸せな気分になり明るい笑顔になる。
二人は本当の友達になれた気がした。
そしてフェルミンは女王として答える。
「エレナ殿が、セレスの女王になられた時に我らパルセスはクリタス平原の返還をお約束致します。
よって我らパルセスの!
我が一族の誇りにかけてベルリス温泉の地に、この世に二つと無い素晴らしい都を作ることを目指します。
皆よその時の為に!資材を集めよ‼︎
金に糸目はつけず!
最高の資材を集めよ‼︎」
その言葉の元に大臣達は礼をとり、早速開発準備をする為にエレナにも礼をとり、退室して行った。
「エレナさん、これから大変だけど二人で頑張ろうね」
フェルミンはそう言いエレナに歩み寄る。
「えぇ、私もすぐに帰らないと……
ここでお別れだね……」
エレナが少し寂しそうに言う。
「エレナさん、私がここに残りますよ」
フィリアがそう言い話を続ける。
「私がここに残れば、記憶の棚を使って一時間ちょっとでミレスに行けます。
それに……」
そう言うとフィリアはフェルミンの姿になる。
「フェルミンさんも女王になられたので、何かあってもいけません。
私ならフェルミンさんを守れますから」
そう言いフィリアの姿に戻る。
「ピリア?いいよね?」
フィリアはピリアに聞く。
「うん、大丈夫……
何時でも会えるから大丈夫だよ」
ピリアはフィリアの気持ちを理解した。
「フィリアさん、お願いします。」
フェルミンもフィリアの申し出を快く受け入れフィリアに丁寧にお辞儀をした。
なんとも言えない……
寂しいような嬉しいような、それでいて希望に満ち溢れている、そんな空気をその場にいる全ての者が、心から感じていた……
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