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〜第四章 変わりゆく時代〜
82話✡︎凱旋✡︎
しおりを挟む何日かしてエレナ達は、ベルダ砦に到着した。
ベルダ砦にはユリナの弓兵師団の二個中隊が待機していた。
食料輸送はまだまだ続く、ここに来る途中で食料をバータリスへ運ぶオークの輸送部隊とも二度ほどすれ違った。
カナから知らせの水の鳥が来て、ベルリス温泉に食料貯蔵の為の施設だけを建設し、流通拠点としてだけ利用する事になった事を伝えてきた。
エレナはそれに対して宿舎だけ立てる様に水の鳥を送り返して伝えた。
あまり開発してもパルセスとの話し合いがまとまれば取り壊す事になる為、最低限の設備にしておいた方が利口である。
「もうすぐセレスだね、フェルミンどんな顔してるんだろ?」
ユリナが言う。
「フェルミンにはいっぱいお礼しないとね……本当に助けられたからね」
エレナもフェルミンへの気持ちを込めて言う。
そこにユリナの部下の中隊長が報告に来た……
「エレナ様、ユリナ様、国王シンシル様がカルデアまで迎えに来て下さるようです。
シンシル様は友好の証に、エレナ様達を護衛された部隊もそのままお迎えしたいとの事ですが、いかがなさいますか?」
シンシルなら考えそうな事だ、カナがアグドに残った事は寂しがるだろうと僅かに考えたが、返答はオークの隊長達に聞いてからにした。
そしてエレナは一つの覚悟をしていた。
今回の事で多くをアグドで決めてきた……
女王にならなくてはならない日が近づいて来ていると。
ふとオプスの言葉を思い出し、そう言う意味だったのかと理解した。
「先に伸ばせば伸ばす程か……」
エレナはそう呟いた……
「?お母さんどうしたの?」
ユリナが聞いてきた。
「ううん何でもない、気にしないで」
(それまでに今しか出来ない事を全てしないと……)
エレナはそう心に決め、オークの隊長達の所に向かった。
彼らは快くカルデアまで来てくれる事になったエレナ達もいる、その安心感からであろう一切疑いはしなかった。
ユリナは食料の輸送が順調に進んでいるかを確認し細かく指示を出していた。
その指示は今までと違い、僅かに先を考えている様子が伺える。
エレナはそれを見て我が子の成長を嬉しく思い優しく微笑み、明日出発出来るように指示を出して支度を始めた。
翌日エレナ達はカルデアに向けて出発した。
通常通り三日程でカルデアが見えてきた、こちらに馬車が一台向かって来る。
エレナ達はゆっくりと進んで居る、馬車も比較的ゆっくり向かってくる。
馬車から見てエレナ達の居る方向はアグド国境であり、軍関係の者以外が向かう事はそうは無い、エレナとユリナはその馬車が出迎えに来た事をすぐに察した。
しばらくして聞こえて来た。
「エレナさーん‼︎お帰りーー‼︎‼︎」
フェルミンの声だ、エレナ達がアグドと友好を結び帰ってくる事はシンシルによって国中に広まっていた。
それを聞いてフェルミンはカルデアまで迎えに来たが、見えた瞬間に待ち切れずに飛び出して来たのだ。
暫くしてフェルミンの馬車と合流して、フェルミンは馬車から飛び降りて走り向かって来る、馬車にはガーラとフィリアも迎えに来ていた。
エレナとユリナは馬から降り、フェルミンはエレナに抱きついた。
ユリナがそれを見て笑顔になり、ピリアはフィリアに抱きつき再開を喜びあう。
オークの兵達もその光景が微笑ましく思え、アグドにとっても、セレスにとっても大切な人を無事に送り届けたことを実感していた。
「カナさんは?居ないけど……」
フェルミンが聞いてきた。ユリナがフェルミンの耳元で囁き伝えるとフェルミンは驚いて、
「カナさんがあの人と!えーほんとっ⁈」
大きな声で叫んだ‼︎
「そう、私達がちょっと忙しいから落ち着いてから式をあげると思うんだけど、フェルミンちょっと手伝ってくれない?
早く幸せにしてあげたいから」
エレナがそう笑顔でフェルミンに伝える。
「うん!何でもするよ‼︎
カナさんの晴れ姿私も見たいから‼︎」
そうフェルミンは目を輝かせ何も考えずに答えた。
ユリナはそれを聞き
(よし!)
と右手をグーにした。
こう見ると……エレナとユリナは似てるだけで無くやはり親子である。
エレナはフェルミンに沢山のお礼をしたい気持ちが溢れていたが、少し焦っていた。
もし女王になれば、今回の様に旅に出て各国を回り友好を深める事は出来なくなる。
国政を見て国民の幸せを常に考えて、ユニオンレグヌスを自らの手で構築する事に活動する事が困難になる。
その前にどれだけの事が出来るのかを考えていた……だがエレナはそれが成せば為すほど近くなる事も理解していた。
だからこそ……最短でユニオンを構築する一手をエレナは考えだしそれに着手する。
(ですが先に伸ばせば伸ばす程、エレナさんの選べる道は無くなって行きます。
決して命に関わる話ではありません、ですが覚えておいて下さいね。)
あの時の闇の女神オプスの言葉が脳裏を過ぎる。
「お母さん、どうしたの?」
「ううん、何でも無いよ行こうか」
「エレナ?カナがアグドに居ると言う事はアルベルトも向こうか?」
ガーラが話しかけてきたのを見て、オーク達は不思議そうな顔をした、無理もないガーラはヒューマンであり、エレナを呼びつけにしたからである。
それに気づいたエレナが言う。
「彼は大地の使徒ガーラ、あの巨大な地竜アンサラの主人よ……
神は違うけど私と同じ神に使える者なのよ。
ガーラ?大丈夫あの人は何時でも来れるから心配しないで」
そうオークの隊長達に紹介しながら答える。
皆はあのアンサラの事は衝撃的に覚えていた為、馬から降りて礼を取った、そしてエレナ達はカルデアに向かった。
カルデアでは都市を挙げてエレナ達を出迎えた、オークの兵達も歓迎された。
長年宿敵の様に思っていたのはアグドだけだった……
オークの兵達は驚くばかりだ、歓迎されたのも驚いていたが、それ以上に街の活気、生き生きとした人々、街の美しさ……その全てがアグドの首都バータリスを凌いでいる。
エルフ達は二千年以上前から生きている者が殆どである。
だが自然を愛し争いを好まない彼らは、悲しみを乗り越え二度と同じ事が起きないことを願い続けていた、カナもその一人だ……
だがそれが全てでは無い、一部の者たちは未だにオーク達を嫌う者も居る……
憎む程では無いが、まだ全てのエルフ達がオーク達と手を取り合うのにはまだまだ時が掛かりそうである……
そしてエレナの功績は輝きを増し、それをシンシルは心から喜んだ、もはやセレス国内でエレナが女王になる事を拒む者は居ない。
人々の歓声が響き英雄に賛辞の言葉が贈られ続ける。
エレナは過去を思い出す、アルベルトとの出会い……その前に祝福を授かりこうしてエレナはエルドの街に迎えられた……
その時と同じ様な光景であった。
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