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〜第四章 変わりゆく時代〜

80話✡︎一時の別れ✡︎

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 翌日、クリタスとアグドの会談は無事に全て終え、今回張った会談用の陣は撤収せずに暫くの間、ゴブリンとオークの共同で兵を置き、ここを休息地としてベルリス平原の農地開拓の拠点とした。

 トールとオプスはクリタス平原に行く支度をしていた。

「トール様、オプス様!お伝えしなくてはならない事があります。」
 トルミアがやって来て二人に声を掛けて来た。
「トール様に是非来て頂きたい場所があります……」
「それはどこだ?」
トールが少し顔をしかめて聞き返すと……

「私の一族、トータリア様の血を引く者に伝えられて来た言い伝えですが。
トータリア様は無くなる前にこう言われたそうです。

クリタス王国が私達ゴブリンが、また日の目を見ようと言う時、その時が訪れようとした時に私の棺を開けなさい

そう言われたそうです。
私は、その時が訪れた気がします……
その棺を開けるのは、トータリア様の兄上であるトール様が相応しいと思います。
いらして頂けないでしょうか?」

 トールはそれを聞き、クリタス王国最後の王子として、レジェンドとしてではなく……

トータリアの兄として答えた。

「行こう……案内を頼む……」

 それを聞きトルミアは笑顔で礼を取る。
 トータリアの生写しの様にそっくりなトルミアのその姿は、あの祝宴の日のトータリアそのもの様に見え、トータリアの魂はそこに無いと知りつつも足を運ぶ事にした。


(お兄様……)
光竜ルクスが神の涙の中で囁いていた。


 そしてトールはエレナにその事を伝えユリナを深く頼み、トルミア達と共に地下都市トールに向かって行った。
 エレナ達はそれを見送りセレスに帰る支度をし始める。



「お母様……」
 カナが寂しそうに、エレナに声を掛けて来た。
 エレナは解っていたカナが何を言いたいのかカナが言いだす前にエレナが言った。


「カナはここに残りなさい、いい?結婚式はまだ先だからね!
私の時みたいに先に子供作るとかはしないでね、これから忙しいんだから」
と少し強く言う。

「エレナ?自分がした事を強く言うのはひどく無いか?」
アルベルトが割って入る。
「あなた?セレティア湖に帰りに寄らない?」
エレナの笑顔に殺気を感じたアルベルトは言う……

「フェルミンの店に行こう用があるしな」


 二人の間でセレティア湖で何があったのだろう……
 それを知っているカナはクスクス笑った。
 そしてカナはアルベルトの羊皮紙をエレナに渡そうとしたが、それをアルベルトが受け取って言う。

「エレナ羊皮紙をくれ」
エレナは?と思いながら、羊皮紙を荷物から取り出してアルベルトに渡した。

 アルベルトは人差し指を少し噛み、その羊皮紙とアルベルトの羊皮紙に血を滲ませ、渡された羊皮紙に血文字で全く同じ事を書き写した……

「カナはそのまま持って居なさい、エレナにはこれを」
 そう言いエレナには血文字で書いた羊皮紙を渡した。
「これで、カナの巻物に私は宿ったままエレナの所にも行けるから大丈夫」

 カナは嬉しくなりアルベルトに抱きつく、その姿を見てエレナも微笑みながら、シェラドの所に行った、丁度そこにはベルガルとほかの指揮官も居て丁度良かった。


「エレナ殿どうされた?」
ベルガルが聞く。
「丁度良かった、国王様も宜しければ聞いて下さい。

シェラドさん、うちのカナを宜しくお願いしますね。
私も娘の晴れ姿は見たいので、式などはまた落ち着いてからにして頂ける様にお願いしますね。」

「エレナ殿……何があっても幸せにして見せます。」
 武骨なシェラドには似合わない言葉で返事をしているが、エレナにはそれで十分だった。

 この前の一件で二人が愛し合ってる事は明白である。
 これは通常政略結婚にしか見えない……カナは養女だが、立派なエルフの王族である。
 だが違うのは国同士が決めたのでは無く、二人が愛し合った結果産み出された素晴らしいものであった。

 この申し出にベルガルと指揮官は喜ぶ、アグドとセレスがより深い繋がりを持つ事を意味するからだ。

 二日後に出発の準備が整い、エレナ達は帰ることにする。
 アヤはカナと共にアグドに残る様だ、エレナの屋敷でもアヤとカナと特に仲が良かった。

「カナ?身体には気を付けてね、用が済んだらまた来るからね。」
「お母様、カナは子供じゃありませんよ」
カナはいつも通りの可愛い笑顔で答える。
「お姉ちゃん、また直ぐに来るからアグドのいい場所教えてね」
 ユリナは少し寂しそうではあったが、カナが幸せそうにしているのを見て安心した。
 今までカナは多すぎる程の苦労と苦しみを味わって来て、ようやく幸せの花が咲きそうな場所を見つけたのだ。


 そしてエレナとユリナ、ピリアとカイナは護衛に来ている百名のエルフ達とベルガル配下のエレナ達と親しくなった二個中隊が、セレスとの国境まで送る事になった。
 途中でベルダ砦に寄りサイスからの支援物資の状況も確認したい所だ。

 何日か過ぎて、オークの兵達がベルリス平原を農地開拓している姿が度々目に入る。
 灌漑設備の着工し始めている、だが開発に不慣れな様子も見て取れた。

 やはり長い間、戦う事ばかり考えていた兵達だけあって苦労している、再来年の収穫は上昇するだろうが思ったより収穫は期待出来ないかもしれない。
 セレスから農耕に詳しい人材を送る必要性を感じさせる……

だがその中でも国王ベルガルの宣言により、国民も開発に加わろうとしているのが見受けられ微笑ましい光景であった。


「これからアグドは変わるね」
ユリナが言う。
「えぇ、また早く来てあげないとね、国民が農地開発に加わろうとしているから、新しい制度も必要になるし」
「エレナ様はどちらかと言えば国政の方が向いてませんか?
そんな気がするのですけど……」
ピリアが言う。
「そうかな?でも剣もまだまだ磨かないとね、ベルガル国王に魔法が使えないだけで負けちゃったんだもん……私の剣技で負けたのは六百年ぶりか……」

「え?お母さん今までに負けた事あるの?」
「えぇ、アルベルトに一度だけね」
「お父さんに?」
「えぇ、あの誠実な剣に負けちゃった、かっこ良かったな本当に……
ヒューマンなのに私より速い剣で、私の突きを全部受け止めてくれて。」
「凄いですね、エレナ様より速い剣って……」
ピリアが驚いている……

「でもね次の日に湖で溺れてたからね、アルベルトは泳げないかも知れないから、何かあったら気をつけてあげないとね」
 エレナが笑顔で言うと、アルベルトの羊皮紙が一瞬汗をかいた気がした。
 リヴァイアサンは竜魔石の中から空を見上げていた。

「その次の日に私の気持ちを全部聞いてくれて、救われた気がして私から好きになっちゃったのよ。
オプス様の夜空も綺麗だったけど、アルベルトと見た夜空が今でも忘れられないな……」

 ピリアはその夜空を見たくてエレナの魂とこっそり繋いで見る……
 美しい夜空の景色が鮮明に脳裏に写し出され、綺麗と心から想いその記憶から遡り……アルベルトがエレナによって湖に沈められる姿を見て大量の汗をかいた。

「ピリアちゃん暑いの?」
ユリナが聞く。
「ユ、ユリナさんも、あ、暑くないですか?」
慌てながら何かを隠すようにピリアは答える。

 そんな二人をよそにエレナは爽やかに涼しい顔して青空を見ていた。
 カナが愛し合う相手に出会い幸せを掴もうとしている、そんな二人を見て昔を思い出したのだろう……
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