上 下
83 / 234
〜第四章 変わりゆく時代〜

72話✡︎上り詰めた者✡︎

しおりを挟む




 その二日前、トールとオプスは天界のアインの屋敷に居た。
 あの戦いの後ゴブリンの陣に行き、エレナ達の元には戻らず。
 翌日には天界に行き、クロノスとアイン、そして全ての六大神に戻って来た事を伝えに、そして心配をかけた事を詫びに行ったのである。

 トールは相変わらずの態度で神々に頭を下げようとしない。
「トール……お母様とお父様にはお辞儀くらいしてよ……」
 そうオプスが言うと、流石のトールも仕方なくお辞儀する。
 それを見てウィンディアは微笑みながら言う。
「ありがとうトール、あなたは私との約束を果たし、お姉様を救って下さいましたね。
これでまた天界にも地上にも六つの星が輝きます」


「そなたの神はオプスだけか、それでも良いだが約束してくれ……
何かあれば、オプスを必ず守ってやってくれ」
そうクロノスがトールに伝える。

「言われなくとも、守って見せる」
そうトールはクロノスに言い放つ。

それを聞きクロノスは微笑みながら言う。
「トールよ、ここに来る前にオプスと美しい愛の花を咲かせて来たのだろう?
我々もお前達二人は認めている。
祝って欲しければ、言葉を選べ」


 クロノスの声には既に家族の様な温もりと穏やかさ、そして全てを見通している……
 闇の女神オプスの両親の威厳をトールに感じさせた。
 オプスもそこまで言われて流石に恥ずかしくなる。
(バカ……)
心で呟きトールもその声を暗黒を通して聞き慌ててトールは礼儀を正した。
「以後、正していきますのでお許しを……」

 そう言うとアインも含め、他の神々も声に出して笑った。

「オプス、トールは十万年前も、父親にしか頭を下げませんでした。
風の女神ウィンディアにすら礼を取らなかったのです。

あなたの声には耳を傾けてくれますから、よく教えてあげなさい」
アインも暖かくそう言う。
「はい、お母様申し訳ありません」
オプスが頭を下げる。


 だがトールのその態度は、逆に神々に気に入られていた。
 普通の者なら、最高神と言える創世二大神を前に頭を下げ続け、機嫌を伺う様な話し方をする、最上位の存在であるクロノスとアインはそれに時折寂しさを感じる。

 だがトールは一切その様な態度は取らず、対等に話をしようとする。クロノスもアインもその寂しさを全く感じなかった。
 そしてオプスの言葉に対しては慌てる様子も伺える……
 トールがいかにオプスを想っているのかも容易に解り可愛らしく思えた。

 オプスはトールと共に天界で募る話と、救い出された喜びを神々と分かち合い四日間過ごしていた。
 ウィンディアはトールとオプスの仲を見つめていた。
(やっぱり私はお姉様に敵わないですね、お似合い過ぎですよ、二人とも……)
そう心の中で呟いていた。



 そして地上では、エレナ達がベルリス温泉で準備を始めて三日目ほぼ支度は整っていた。
 エルミダスの部隊が参加してくれたおかげで十分な支度は出来た。
 後は細かな所を修正してより完璧に整える。

 エルミダスも、次々にエレナが出す指示に驚く、カナは手際よくこなしユリナも手伝い作業は進んで行く。
 エレナの屋敷にシンシルが来た時も屋敷は完璧に整えられていた。
 エレナはそう言ったことは完璧主義なのかも知れない……

 そして翌日に、ゴブリンの一行が来る日にユリナが何かに気付いた。
 一頭の馬が、こちらに向かってくる、トールとオプスが帰って来たのだ。


「トールとオプス様が帰って来たよ!」
ユリナが叫ぶ、実に五日……トール達が天界に居たのは四日だが、ユリナから離れて五日間、まだ遠くに居る二人をユリナは目を凝らして見ると、仲が良いのがよく解る……

 しばらくして二人はユリナの元に来た。
「悪いなユリナ、天界まで行って来た。」
「天界?二人で式でも挙げる挨拶?」
ユリナが白い目で聞く。


オプスがクスクス笑いながら。
「似たようなものです。
最初は私が助かった事を知らせに行ったのですが、そんな流れになりましたね。
何故ここに皆さん居るのですか?」
と逆に聞いて来た。

 そこにエレナが事の次第を説明しはじめてしばらくすると、ふっとピリアが現れひざまづいて丁寧に話しに割り込んで来た。


「オプス様、ドッペルのピリアです。
ご無事でなにより……」
 ピリアは挨拶をするが、嬉しすぎて言葉が想い浮かばない、そのピリアにオプスは誰?と言う顔をして、ピリアに向けて手を優しくかざすと……
 ピリアの額に漆黒の霧が現れ、その霧がオプスのかざした手に触れまたピリアに戻って行った。

「ミーシュ!」
そう言いながらオプスはピリアに抱きついた!
「元気でしたか?ミーシェはどこに?
ミーシェも名前を貰えたのですか?」
「はいオプス様、エレナ様に名前を頂きました……
私はピリアにミーシェはフィリアと名付けて頂きました。」
「ピリアにフィリア、愛ですか良い名ですね、大切にしなさいね」

「ミーシュ?ミーシェ?どういう事ピリア?」
 エレナが聞く、トールがウィンダムの時に言っていた、ドッペルは名前を送ってくれた人に心を尽くすと最初は名前も何も無いと……

「エレナさん、水の巫女エヴァの祝福を持つ方ですね。

そしてユリナちゃんのお母さんですよね?
エヴァスであり、セレスの英雄……
ピリア、素晴らしい方にお名前を頂きましたね。」
 オプスがそう言いながら、エレナの方を見るとエレナは一瞬、魂を覗かれた気がした。


「うん、美しい方ですね。
エヴァも良い方を見つけましたね」
そう言いながら自らの髪をさわり語る。

「ピリアもフィリアも親はドッペルでは無いのです。
私のこの髪に輝く星から産まれたのです。

私の魂をよく知り、私とともに良く遊びました、ドッペルの中で、遠く離れていても私の姿になれるのは二人だけなのです。

ピリアは暗黒の瞳、フィリアは漆黒の霧を私から受け継いだ、私の娘の様な大切な子達なのですよ。」
 そう語りながらオプスはピリアの頭を撫でた、するとピリアは嬉しさが増し思わずオプスの姿に変わる。

「影の女王になれたのですね……
おめでとうピリア」

 ピリアは泣いてしまった。嬉しくて嬉しくてたまらなくなり子供の様に泣いてしまった。
「トール、気が変わりました。
私が天界に帰るのは、ここでの大切な話し合いを見守ってからにします。
それまでは私のこと頼みますね。」
「天界に帰られるのですか?
暗黒世界では無く……天界に帰られるのですか?」
ピリアが驚いて聞く。


「私の体にタナトスのコアが埋め込まれてしまってから、タナトスの意思が私の意思に入り込もうとしていたのです。

私は持てる闇の力でそれを封じていたのです……
それで力をだいぶ使い続けてしまったので、休むために天界に暫く帰ります。

今日はトールを送りに来ただけででしたが、ピリアを見たらもう少し地上に居たくなりました。」
「今は!今はもう大丈夫なんですか⁈」
ピリアが必死に聞く。

「ピリア?瞳を開いてごらんなさい」
そうオプスに言われ静かに瞳を開く。
 ピリアの瞳は綺麗な紫色で、冥界に侵された気配は一切無かった。
オプスも瞳を開き美しい瞳の輝きを見せ、二人は見つめ合った。

「大丈夫、トールが暗黒でコアを全て無に帰してくれましたね」
 オプスがそう言い、ピリアは瞳を閉じ元の姿に戻る。


 ピリアが何故ベルダ砦でオプスの姿になれたのかが明らかになった。
 オプスの一部から生まれたピリアとフィリアなら確かに離れていても、その姿になれても、オプスの教えを理解していても不思議では無かった。


 その日の夕食は大いに賑わう。
 オプスが天界でのトール態度を話のネタにしユリナがそれに食いつく。
 オプスも女神としてでは無く、一人の女性として過ごしている。

 皆がオプスのその振る舞いに魅力を感じているが、エレナだけは何となくオプスの気持ちを察していた。


 上り詰めた存在とは意外と寂しいのである。
 エレナもセレスの英雄で、エヴァの祝福を持ち現在時期国王の最有力者である、いや既に発言力は国王シンシルを上回っている。
名声と権威をセレス国内で上り詰めていると言っても過言では無い……



人は寂しい存在である
本当に力のある人の前で
人々はどうであろうか?
大臣はどうであろうか?

恭しく話すだろう……
顔色を伺いながら
話題を探すだろう……
何か贈り物をして良い話を
引き出したがるだろう……

それが続くのだ……
永遠と……

共に食事をしても
腹の探り合いの様な
寂しい食事になる
酒を酌み交わしても
本心を言い合えない……

人と言うのは欲があり
それを捨てると言うのは……
できてる様で出来てない
それが人と言う存在

本当に上り詰めた人は
その寂しさを知る……
そして人が恐る力を失った時
本当の友人とは何人居るのだろう?
そう考える者である……



 エレナはその寂しさを痛い程知っている。
 エレナが英雄になった時、平和をもたらした時、僅かにそれを感じ、エヴァの祝福を授かった時……
 エレナ自身が王族であることと重なり、果てしなく広く深い人々の欲望がエレナを取り巻き精神的に病みそうになった事がある。
 その時カナだけが、エレナの支えになり……アルベルトと出会いエレナは救われたのだ……

 オプスは女神である……

 地上を最も愛した女神である、その彼女へ寄せられる、欲望や願いはエレナにまとわりつくそれの比では無い……
 死を基本迎えない神と言う存在は、それが本当に永遠と続くのだ……
 エレナはリヴァイアサンを通して周りの兵達の様子を伺い見つめていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

貧乏男爵家の四男に転生したが、奴隷として売られてしまった

竹桜
ファンタジー
 林業に従事していた主人公は倒木に押し潰されて死んでしまった。  死んだ筈の主人公は異世界に転生したのだ。  貧乏男爵四男に。  転生したのは良いが、奴隷商に売れてしまう。  そんな主人公は何気ない斧を持ち、異世界を生き抜く。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~

みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。 生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。 夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。 なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。 きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。 お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。 やっと、私は『私』をやり直せる。 死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。

【完結】半魔神の聖女は今日も反省する

鏑木 うりこ
ファンタジー
 半魔神に使える聖女、アリアは聖女と呼ぶにはあまりにも残念な女の子。  世界を救った英雄が神となり、信仰を集める世界。勇者は男子神に、聖女は女神に、賢者は賢神に。その英雄パーティで荷物持ちだった半魔の少年は、一応神。 半魔神様の祝祭には王都へ行きたい!  静止を振り切って、出た事のない村を飛び出したアリアは驚く。あれ?私の常識、なんか違わない??  実は半魔神様はすっごい人だった!?  2020年の8月から【ファンタジー大賞】に応募するために書き始め、エタりかけつつも、読んでくださった方に支えられ、完結まで書きあがりました。これから順次更新していきます。ファンタジー作品という事で、恋愛方面には移行するようなことはなく、ふんわりと終わりを迎えます。  全部で8万字程度になりましたので短編から長編表記に変更いたしました。  宜しければ腹ペコ人間がたくさん出てくるお話をお読みいただけると嬉しく思います! ⇒書きあがり 2021.12.23 ⇒公開 2022.01.01【完結】にさせていただきました!    

神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。 賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!? フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。 タイトル変えました。 旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~ ※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。 あまりシリアスにするつもりもありません。 またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。 感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。 よろしくお願いします。 想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。 ※カクヨムさんでも連載はじめました。

処理中です...