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第三章〜戦士の国アグド〜

67話✡︎血の宝石✡︎

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 その姿を見たオーク達は胸を打たれる。
天使を思わせる様な、そんな優しさが溢れていた……
 そしてその偉大さと寛容さは現国王のシンシルを遥かに凌いでいる……


 そうエレナは全てアグドからの視線で物事を見ていた、そしてセレスが出来る最良の支援をしようとしている。

「エレナ殿この借りは必ず、国を挙げて礼をする。助けて貰ってばかりでは情けないからな」
 ベルガルがそう言うと、全ての隊長達も頷いた、そこにダンガードが言う。
「ついでと思ってくれれば嬉しいのだが、政務や政治に詳しい者も数名でいい、送ってくれんか?」


「ダンガード様、如何されました?」
長老院側の隊長達が聞く。
「馬鹿者が!
お前達が剣ばかり振るからであろう!
政治も学ばんか‼︎」
 そうダンガードが部下を叱り、その場の空気が和やかになる。

 ダンガードも考えていた、若者に良き国造りを教えなければならないと。
 エレナの様に多くの民を救える若者を育てなくてはならないと、長老院をまた腐らせてはならないと強く思っていた。


 その話し合いはそこで終わり、その夜王宮で新国王ベルガルから、国策の宣言がされた。
 その宣言はエレナの提案通りセレスと友好関係を構築して行く事を明言し、今後セレス側とも細かく話し合って行く事まで伝えた。

 一部の大臣や民衆が動揺する、当然である、かつての仇敵セレスとの関係改善……

 だがそれをベルガルは力強く説く。


「皆よ!そなた達の気持ちが解らぬ訳では無い!だが……
我々は気付かなかった‼︎

このアグドには数多くの富が眠っている!
勝つことばかり考え、無益な戦を繰り返し国は疲弊し!
我が産まれる遠い昔から失いし炎の間はあった‼︎

そしてセレスの英雄がこの二千年に及ぶ長い平和をもたらしたにも関わらず!
我々は気付かなかった……


それは何故か‼︎
我々が!我々が‼︎
憎しみ続け!
その憎しみが国を疲弊させ!
新しき命が!その憎しみの犠牲になっている事にすらっ!
気付かなかったからだ‼︎」


 新しい国王が力一杯叫び訴える。その言葉に国民は耳を傾け、真剣に聞く……
 そして魂から叫んだ!

「その様な愚かな我が国をセレスは!
寛大にも救いの手差し伸べてくれる‼︎


我々は間違っていたと思わないか⁈
我々は戦士の一族である!
誇り高き炎神イグニスの子である!
忘れてはならない!
憎しみに囚われ我らの誇りを‼︎


今こそ!その時である!
我らは自らの炎の鉄槌を!
我らの心に巣食う憎しみに下す時である‼︎
炎の刃で!
悲しみを断ち切る時である‼︎


全ての我が一族よ!
全てのイグニスの子らよ!
戦士の一族としての誇りを忘れるな!
イグニスの子である誇り忘れるな‼︎

今こそ自らと戦い!憎しみを砕け‼︎
悲しみを断ち切れ‼︎

そして誠の友ともに!
新しいアグドを作ろうではないか‼︎」


 その宣言は宣言と言うより戦場に飛ばす檄である、だがベルガル、新しい国王の国を変えると言う強い意識を伝えるには十分であった。
 そして、意外な事に最初に拍手をしだしたのは動揺した長老院側の大臣達であった。
 納得したかは定かではない、ただ彼らはベルガルを新しい国王として認めたのだ、そしてその拍手は広まりその場に居た全ての者達に広がっていった。


「へーベルガルやるじゃん、流石お母さんを殴り飛ばしただけはあるね」
 ユリナが言う、その言い方はどうかと思うがエレナも共感していた。
 エレナがベルガルと戦い、最後の小太刀を振り抜こうとした時、ベルガルから炎の力を感じ、その力はとてつもない強い意志から生み出されていたのをあの一緒で感じそれに阻まれた……
 エレナはベルガルが素晴らしい名君になる事を予感した。


 その時、エレナ達の元にピリアが居ない事にユリナが気づく……
「ピリアは?」
えっ?と言う顔をしてカナが探す。

「あそこだよ……」
カイナがベルガルを指差す。


 その時ピリアは何を思ったのか、ベルガルの前にひれ伏し現れた。

 そしてベルガルに紫色の宝石がついたペンダントを差し出す。
 一同が何かと思い衛兵がベルガルを守ろうとするが、ベルガルがそれを手だけで止める。

「ピリア殿……それは?」
ベルガルが聞くと、ピリアは魔力を乗せはっきりと大きな声で言う。

「新しき国王様、我が一族の度重なる非礼……お詫び申し上げます。
これは私の血を闇の魔力を使い宝石にした物です。」

「ちょっとっ!血の宝石ってピリア……」

 エレナが思わず声を出した、血の宝石を作るにはかなり量の血を必要とする。
 それは一人で想いを込めて作るには致死量にかなり近い量が必要である。
 ピリアはベルガル達に、多くのオーク達に許されたが、一族としてドッペルとして罪を少しでも償おうとしていた……


 よく見るとピリアは顔色が悪く、ひれ伏しながらでも、倒れそうになりながら伝える。

「これを身に付けて居る者に我が一族は、手を出すことは出来ません。

偉大なる王よ、あなたはアグドに必要な方です。

決してウィースガルム様の二の舞いになってはなりません……

どうかどうか……我が血の宝石を受け取って下さい……」

ベルガルもあまりの事にためらう。

「何をしている!受け取ってやれ!
ピリアが命をかけて一族の罪を償おうとしているのが解らぬのか⁈⁈」
オーバーロード・ダンガードがピリアを察してベルガルに叫んだ。


ベルガルはそれを聞きはっとしながら。
「ピリア有り難く受け取らせてもらう……
この宝石は王の証とともに、王が受け継ぐ国の宝石としよう……」
王らしく丁寧に受け取った。

 拍手が巻き起こり歓声が上がる、それを聞きピリアは笑顔を見せて倒れてしまった。

 ピリアは彼女がその時に送れる最大の贈り物を国王と、アグド国に送ったのだった。


 ベルガルがピリアを抱き抱えるが、その体は冷たかった。相当な量の血を抜いたのであろう……そのままエレナの元に急いで抱き抱えながら運ぶ。
「ピリア!ピリア殿‼︎」
 ベルガルがピリアの名を叫び、エレナも急いで駆け寄って来た。


「まだ息がある!助けてやってくれ!
頼む‼︎」


エレナはすぐさま祝福を解放した。

「リヴァイアサン時間が無い‼︎」

 そう叫び竜魔石を握りリヴァイアサンの魔力を解き放つ!
 リヴァイアサンは神の許しなく命の水をピリアに与える為に、成竜に姿を変え空を舞う。


 リヴァイアサンは水の体をしていて、透き通り天の星が体を通しても見える。
 海蛇の様に長く足は四本……そのとてつもない巨体を六枚の巨大な翼を使って飛んでいる。
 顔つきは子竜の時と変わらず普通のドラゴンの顔をしているが、幼竜の面影は何処にもない……

 リヴァイアサンが怪獣の様な凄まじい雄叫びを上げる!
 それと同時に上空だけに雨が降り、その雨は一筋の線にまとまりピリアの口を濡らし、少しづつ口内に入りピリアの体に染み渡る……
 ピリアの口に届くまでに、その筋は霧になりリヴァイアサンの体から放たれる、水色の光を反射し不思議な虹の様な光を映し出す。


「こっこれが神の竜……」
 ベルガルが驚き思わず声に出した。
 その場に居た全てのオークはひれ伏す、シェラドとダンガードは恐れず優しい眼差しで奇跡の力を見守って居た。

 ピリアの口から漏れた命の水が、地面に落ち青々とした新しい草が芽を出し広がる。

そして、うっすらとピリアが目を開けた。
「ベルガルさん……私…」
そう、か細くピリアが言う。
ベルガルはピリアをそのまま抱きしめた!
「良かった、本当に良かった!
助かったんだな……
本当にっ本当に!ピリアは可愛い勇者だ‼︎」
ベルガルは気付かず泣いていた。


「ピリアよ、影の女王よ解っているだろうが……

皆に感謝せよ……新しき王は誠にお前を思ってくれた。
水の巫女も、風の巫女も……多くの者がそなたが救われる事を願った。
その願いから繋がれたそなたの命……
 大切にせよ」
そうリヴァイアサンが成竜の姿のまま、威厳を持った声でピリアに言った。

 そしてピリアは自らの足で立つ、まだふらつくピリアをユリナが支える。
 ピリアはリヴァイアサンに向かってその場の全ての人に向かって言った。

「はい……大切にします!
皆さんこんな私を思ってくれて
ありがとうございます‼︎

私はまだ地上に出て、綺麗な名前を貰って間もなくて……
地上世界のことをあまり知りません……
子供の様なものです。
まだまだ迷惑をお掛けするかもですが、宜しくお願いします‼︎」
そう素直に笑顔で言った。


「ピリア?ピリアはうちの子よそう思ってくれていいから。
本当に、ユリナに考えてた名前をあげただけあってユリナみたいに、いいと思った事は先を考えないでしちゃう所はユリナにそっくりなんだから……
あんまり心配させないでよね」
 エレナがそう笑顔で言いながら、ピリアの頭を撫でると、ピリアは嬉しそうな笑顔を見せる。

「お母さん、それどう言う意味?」
ユリナが聞くと…
「いっぱいあるよねーユリナ?」
ユリナは言い返せない自分に気付いて右手をグーにした……

 カナはそれを見てクスクス笑っていた。

 その成竜と化しバータリス上空を悠々と飛ぶリヴァイアサンの姿を、遠くからゴブリンの一軍が見つめ、祈りを捧げていた……


 ノウムの月が輝き五日目の夜である、誰もが気付かなかった……凄まじい災いが起きることに、誰もが気付かなかった……



 リヴァイアサンは何かを感じ再び、凄まじい雄叫びを上げる!
その時、一筋に纏められていた霧雨の様な命の雨がまた雨に戻りバータリスに降り注ぐ……そしてその命の雨は、二日前に起きたジェネラルと長老院の戦いで生死の境を彷徨う多くの負傷兵を癒し全ての者が一命を取り留める。


 治療院や治療用の天幕からその喜びの報告が、ベルガルの元に集まる。
 ベルガルも多くの隊長達も喜びの声を上げていた。


「新しき寛大な王に我が神からの祝いだ!
受け取るがいい‼︎」
 リヴァイアサンがベルガルにそう叫ぶと、ベルガルは静かにひざまづき、全てのオークがそれに続いた、ダンガードもシェラドもひざまづいた時に、ベルガルがその姿勢のまま礼を取り。


「有り難く!お受け致します!
この礼は神々に恥じぬ国を作り上げ!
それをご笑覧頂くことを誓い‼︎
お約束致します!」
 ベルガルが慣れない神に送る言葉を叫び礼を言うとリヴァイアサンは、一度天を仰ぎ見て、元の姿に戻りエレナの元に戻って行った。



 そのバータリスの光景……喜ばず憎む者が居た……


 十万年前に起き沈黙を守っていた、悍ましい存在がバータリス近くのベルリス平原の空間を歪ませた。

「ふっ、タナトス仕方ない奴じゃのぉ……」
死の女神ムエルテが微笑み呟く。


それと同時にウィンダムが囁いていた。



「会いたかったぜ……タナトス」

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