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第三章〜戦士の国アグド〜
63話✡︎戦士と戦士✡︎
しおりを挟む「エヴァス、喜んでお受け致します‼︎」
カナが礼を取り答える。
グリフが信頼を置ける中隊長を三名指名し、カナは騎馬三千を率いて戦場に出て行く。
カナは何故バータリス西側なのか疑問に思ったが、馬を走らせ西側の城壁が見えて来た時に理解した。
バータリス西側には小さな門が一つ存在した。
その門を水堀が囲み外には五百程度ではあるが、長老院の旗を持つ兵が守っている。そして僅かだが林が点在している、草原も北と東と南と違い、あまり人が通らない様で草もかなり高く伸びている。
カナは閃く、この門はあえて制圧しない方がいい、もし長老達が脱出を考えた時ここを使う可能性がある。
エレナは予想していた、エルフの要塞都市カルデアの場合、都市内部にある城の地下の抜け道を使い、カルデアの城壁の下を通ってかなり離れた地点まで地下通路が通っている。
だがアグドは首都まで攻められた事があるのかと言われれば皆無である。
理由は他国が進行して来たとしても、ベルリス平原で必ずしも食い止めて来たからである。
まず炎の術者達が魔法を広範囲にわたり封じて来る。
そして鍛え抜かれた屈強なオークの戦士との肉弾戦に持ち込まれ掃討される。
単純でシンプルな作戦だが、各国はこれに勝てなかった。
その経験からして、カルデアの様に手の込んだ脱出経路の確保はされていないと、エレナは予想していた。
負けた事がない、それが弱さである
エレナが昔シンシルから教わったことを、その時は理解出来なかったが、エレナは五千歳になり、その意味を理解しカナにも教えていた。
(カナ…解ってるよね?)
エレナは信頼しつつも心配しながら、シェラドの役に立ちたいと強く思うカナに、最も大切な役割を与えた。
カナは即座に隊に合図を送り、その門を相手にせず。離れて全力疾走して、まるで小物はどうでもいい様に振る舞いその場を駆け抜ける。
門を守る長老院の兵は警戒しつつも、安堵する、そしてその中にエルフが混じっているとは思わなかった、それはアグドの馬を使っていたからである。
カナは十分距離を取り、林の中に隊をいれ二個中隊を馬から降ろし歩兵にし、出発前にエレナが持って行く様に指示を出した天幕何枚かを急いで切らせて武器に巻かせる。
月明かりで武器が反射して光らない様にしたのだ。
草の高い草原に五百程の兵を点々と散らばらせ身を潜ませる、一個中隊はそのまま騎馬にし、林の中に静かに待機させる。
残りの兵千五百はかなり離れた場所から身を潜ませながら、今来た方に戻させ身を隠して布陣する。
カナの布陣が完成した。
その様子を五長老の一人が炎の魔法で見ていた、彼はそれを他の長老に伝えずに指示を出した。
「お前達、俺がシェラドを討つ……
だが俺も年だ……念の為に脱出しておけ……」
そう言い武器を持ち兵を引き連れて長老院から出撃した。
シェラドは完全にバータリス内側から西門へ行く道を全て閉鎖し長老院に迫る。
最初から内部にいたバータリス守備隊のシェラド指揮下の三個中隊は壊滅していて、その敗残兵がシェラド本体に合流して、一個中隊程増え攻勢を勢い付かせる。
そこに屈強なオークの戦士が現れ、シェラドの部隊に兵を引き連れて斬り込んで来た。
「シェラド!裏切り者よ出て来い!
ダンガードが相手になってやるぞ‼︎」
五長老の一人ダンガード、五長老の中で戦士気質な心を持つ、五長老の中で唯一の戦える長老である。
老齢ではあるが、ウィースガルムと一時は力を争った事があるつわものでもあった。
「ダンガードか!最後は戦士らしく戦って死ぬ事を選ぶか‼︎
良かろう!全力で相手になってやる‼︎
兵よ手を出すな‼︎」
シェラドが馬から降り斬馬刀を抜く。
シェラドの兵達はこれが罠では無いかと警戒を強める。
先に仕掛けたのはダンガードだ、背負った分厚い鉄の盾を前にして突っ込んでくる!
シェラドはそれを叩き斬ろうと斬馬刀を横から振り抜く‼︎
鈍く重い音を立てて防がれてしまう。
そしてダンガードは片腕で斬馬刀を使い貫く様に突きを入れてくる。
それをシェラドはダンガードの盾に合わせて動き躱した……
戦士としての力は今のでダンガードの方が一枚上手の様だが、シェラドは勝たなくてはならない。
シェラドは炎の使徒として見れば、アグド国内でシェラドに敵う者は居ない、だが本物のウィースガルムには、戦士として一度も勝った事が無いのだ。
そのシェラドの前にウィースガルムと同等に争ったオークの戦士が現れたのだ。
彼は老齢で戦士として離れていたが、先程の力強さは現役を離れたとは思えなかった……
シェラドはダンガードを甘く見ていた。
「ヴァラドよ!我が心が見えるか?
ならばシェラドに伝えるな‼︎
我が敗れるまで伝えるな‼︎」
ダンガードはシェラドで無く、ヴァラドに叫んだ。
ヴァラドはダンガードを見た時から解っていた、以前から長老院から僅かだが欲深く無い炎の優しい温もりを感じていた、それが彼の心の炎だった事に気付いた。
シェラドはその言葉を聞き、ダンガードは腐って無いと理解した。
だが敵として現れた事を踏まえてシェラドは叫んだ。
「ウオォォォォォォォォォォ‼︎‼︎」
雄叫びを上げた、野獣の様に自らの心を全て、業火の様にみなぎらせて雄叫びを上げた。
そして全力で斬りかかる、それに対してダンガードは自慢の盾を捨て、斬馬刀で受け激しく斬り合う。
十五回程刃を交え、ダンガードが横降りに渾身の力を込め振り抜いた時にシェラドは、斬馬刀の刃で受けれず横で受け止めた。
その時、凄まじい音を立ててシェラドの斬馬刀が曲がった!
鉄の耳障り過ぎる強烈な音を放ち斬馬刀が曲がりついに折れてしまう。
だがダンガードはシェラドの首を取ら無かった、タックルを入れてシェラドを飛ばして自らの斬馬刀捨てた。
「戦鎚を持て‼︎」
ダンガードはそう叫んだ!
シェラドの兵は動揺した。
なぜ⁈今ので決着がついたはずだった。
そしてシェラドが力強く叫ぶ!
「戦鎚を持てぇぇぇぇ‼︎」
そして両者共に今度は戦鎚で激しく打ち合う!この打ち合いは長く続いた……
だがシェラドの方が明らかに押されている。
「あのジェネラルが……押されている……」
エレナ達が来ていた、エレナが驚きながら呟いた。
ダンガードは長老院を出ると直ぐに部下に言った。
「最後の戦いが始まる、見聞役として神に仕える巫女は来られたし」
そうエレナ達に使いを送っていたのだ。
ダンガードはシェラドが王に相応しいか、掟に従いシェラドを試していたのだ……
「なんて事だ……ダンガードはウィースガルムの親友か……」
リヴァイアサンが呟いた。
エレナ達は驚く、エレナ達だけでない……その場に居た全ての兵や隊長達が驚いた。
「彼は死ぬつもりだ、シェラドが自分を戦士として超えてくれる事を望んでいる……」
リヴァイアサンが続けて話した。
そしてダンガードの戦鎚をシェラドが見切って、シェラドはダンガードの戦鎚を見事に打ち砕いた。
そしてシェラドは先程のダンガードと同じ様に戦鎚を捨てる……
「どうした?
俺を殺せばこの戦いは終わる……
何故やらぬ?」
ダンガードがシェラドに問いかける。
「一度生かされた……」
シェラドが返した、先程ダンガードがシェラドにとどめを刺さず戦鎚に変えた事を、シェラドはそのまま返したのである。
「ふっ……あの愚者供を西の門に逃がした甲斐があったな……」
シェラドが驚き兵に指示を出そうとしたが、ダンガードが言う。
「案ずるな……奴らは既に水の舞姫に囚われたか、殺されただろう……」
ダンガードはそれを知って、生き残っている五長老の残りの二人を西門に送ったのである。
シェラドは既に戦が終わった事を理解し、エレナは彼を生かす方法を考える。
「斬馬刀を持て!」
ダンガードは立ち上がり斬馬刀を手にした。
「シェラド、解っているな私を斬らねば本当の意味で戦は終わらん事を……
我が生きていれば長老院側の兵が各地で立ち上がる。
その意味が解るな?」
ダンガードの部下は涙を流していた。忠実に彼に尽くして来た様だ、その部下の涙をベルガルは深く理解していた、王に仕え続けたベルガルは深く理解していた。
エレナが止めに説得しようとした時、アルベルトの羊皮紙が光り、アルベルトが現れ叫ぶ。
「ダンガードよ!我、光の使徒アルベルトが見聞役を引き受けよう!
戦士としての最後!
見事に飾るがよい‼︎」
その言葉にエレナはアルベルトを止めようとしたが。
「エレナ、悪いが見届けてやってくれ……
これは戦士の戦いだ。
そして彼らが歩んで来た伝統の儀式だ……
彼らの事を深く理解出来なければ
彼らと深い絆など作れはしない
それを変えられるのは王だけだ……」
アルベルトがそう言う。
周りの隊長達もエレナに礼を取り、見守って欲しいと願いでる。
そこにカナが戻って来た、見事にエレナの期待に応えて、二人の五長老を生け捕りにして来たのだ。
エレナがシンシルから昔学んだ通りだった。
負けた事がない、それが弱さである
正にその通りで、防衛戦で負けた事がないオーク族の首都バータリスの抜け道は、単純過ぎる物であった。
その様子を見てダンガードは戦士らしい微笑みを浮かべていた。
「さて始めるか……シェラド何を使う?
好きに選べ合わせてやるぞ」
ダンガードは力強く自信を持ちシェラドに言う。
シェラドはあえてダンガードに合わせた。
「斬馬刀を持て‼︎‼︎」
シェラドはそう叫んだ。
グリフが自らの斬馬刀を渡しに行こうとした。
「ユリナ……」
カナがユリナを呼んだ、ユリナはカナの気持ちを理解してシェラドが星屑の劔と呼んだ斬馬刀をカナに渡した。
カナはそれを持ちシェラドに歩み寄り。
「私がユリナよりお借りして来ました。
どうぞお使いください……」
そう言いシェラドに差し出した。
シェラドは静かに星屑の劔を手にした。
「必ず応えよう」
そう一言言った。
その二人の姿はとてもしっくり来て似合っていた……誰もが一瞬だが時が止まったかの錯覚をする程であった。
それを聞いたカナは笑顔を見せエレナ達の元に戻る。
その様子を見たダンガードは嬉しそうに言った。
「ウィースガルムよ……お前の夢見た国に変わるかも知れんなぁ……」
そう嬉しそうに言い、羊皮紙の巻物を懐からだしてそれをカナに投げ渡す。
カナはその巻物をエレナに渡して、エレナがダンガードを見ると、静かに彼は頷いた。
エレナは巻物を開くとそこにはウィースガルムが描いた国の構図が書かれていた。
最後に悩んでる所があるが、それを見たエレナはすぐにその悩みの答えを出した。
そして想像する……
その構図通りになったアグドを、エレナもそうなって欲しいと願う国であった。
「さて、最後の約束をお前は果たさせてくれるのか?」
ダンガードがそう言った時。
「必ず……」
シェラドがそう言った瞬間、ダンガードから仕掛けた!
その表情は気迫に満ち全身からは鋭い殺気が放たれる。
これは一撃で決まると誰もが思った。
ウィースガルムの様に全てを圧倒する殺気とはまた違うが、彼と同等に争った事が頷ける程凄まじく鋭く鋭利な殺気で、先程の穏やかさは微塵も感じられ無い。
ダンガードは下から上に切り上げる!
それをシェラドは上から下に振り下ろし刃で受ける!
凄まじい音が鳴り響き、互いの斬撃の衝撃がひしひしと伝わって来るのを見守る者が全てが感じた!
そしてダンガードの方が明らかに不利にもかかわらず、彼は斬馬刀をそのまま押し上げ、シェラドの星屑の劔を弾き返す。
そして素早く上から下に渾身の力を込めて振り下ろした!
シェラドはそれを躱すと、彼の斬馬刀は石畳みを叩き割る!
その衝撃は凄まじく握り拳程の破片が、エレナ達の足元まで飛ぶ程であった。
そしてシェラドと激しく打ち合う、二人が一太刀一太刀を振る度に風が巻き起こり、誰も近づけない程だった。
その時エレナは空を見上げた、月が一つしか無かった、いや……ノウムの月が輝きを失いつつあるが、まだ僅かにノウムの月が見える……
エレナは目を見開き何故?と考える、五長老は確かに捕らえている。
今命がけで戦ってるのは二人しか居ない、戦場は静かになり戦って居るのは二人……
(まさか!シェラドが王になるべきでは無い?)
確かに考えて見ればそうだ、反乱が成功してシェラドが王になれば、それが正しいのかと言う事に疑問が生じる……
そしてこの伝統が続けば、いつか邪な心を持つ者が一族の最強の戦士になれば、また国が荒れてしまう!
そうエレナは気付いた……
「水の巫女は頭が良いのぉ……」
冥界では神の瞳で、ムエルテがエレナの考えを見抜いていた。
「だが……半分違うのぉ……」
死の女神ムエルテは、頬杖をつきながらニヤニヤとエレナを見ている……
「半分気付いただけでも素晴らしいことでは?」
破滅の女神が言う。
「そうだのぉ……」
死の女神ムエルテは楽しみながら見ていた……困惑するエレナを、多くの死を、そしてそれを更に広げようとする者を……
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