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第三章〜戦士の国アグド〜

44話✡︎気持ちには気持ちで✡︎

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 約束した五日後、フェルミンは荷馬車に、預かった武器やヴァイオリンを乗せてエレナの屋敷に来たが、だいぶ疲れてる様だ……

 フェルミンが玄関を叩くと、召使いに成り切ってるカナが鼻歌を歌いながら、玄関に行き丁寧に開け。

「どちら様ですか?」

 普通に言うと、フェルミンは疲れをどっと感じて膝をついた。
「お……お客様?」
 カナが恐る恐る聞くとフェルミンがフードを取り顔を上げてやっとカナは気づいた。

「お客様は!こっちのセリフだよ‼︎」




 屋敷の庭にみんなが集まった。最初にフェルミンが荷馬車から取り出したのは、カナの双刀の小太刀だ。

 小太刀の柄にクリスタルが追加され10センチほどの白い毛が付いている。
 刀身には特に代わりはなさそうだが……綺麗に磨き上げられ、美しく輝いているが……何かが違う。

「これ、刀身に何かしました?」
カナが不思議そうに聞くと。

「柔らかいイメージで魔力を込めて見て」
フェルミンがそう言いながら。
少し太い鉄の棒を芝生に突き刺す!

 ウィンダムが現れ、あーって顔するが……
フェルミンは御構い無しに、もう一本木の棒をその脇にまた刺す!
今度はリヴァイアサンが現れて、あーって顔をするが……やはり御構い無しだ。

「そのまま鉄の棒から切ろうとして見て」
カナは不思議そうに、柔らかいイメージで魔力を込めながら鉄の棒に斬りかかると……

 刀身が鉄の棒に触れた瞬間。
刀身がクニャっと曲がり、木の棒を勢い良く切り落とした……
 剣を引くと元の形に戻っていて、刃こぼれ一つ無い美しく輝きは変わらない……

「普通に木の棒を切って見て」
 フェルミンがニコニコしながら言う。
 今度は普通に切ると、そのまま曲がる事なく普通に切れた、フェルミン以外の全員が目を丸くして驚いた。


 フェルミンの祖父、エレナの小太刀を作った、フェルトンは鉄の魔術師と言われる程の凄腕鍛冶屋だった……フェルミンはそれを思わせる腕を披露した。

 次に荷馬車から取り出したのは、アヤのヴァイオリンだ。
 フェルミンはアヤにヴァイオリンを手渡して言う。
「ゴメンね、本体部分はまだ作り途中なんだ、木を上手く削るの苦手で……
でも精一杯調整したから、魔力を込めて弾いて見て。」

 アヤはワクワクしながら(光の翼)を演奏し始める。

 すると今までより軽い感覚を覚え……魔力をそんなに使わなくて良くなってる事に気づく、それと同時にカナの双刀の小太刀が共鳴している。
「フェルミン?」
カナが聞く。

「よかった~本物だったんだ」
フェルミンがほっとしながら言い、話を続ける。

「だいぶ前に仕入れたんだけど、カナさんの小太刀の毛と、そのヴァイオリンの弓毛は同じ馬の尻尾なんだけど……

天馬ペガサスの尻尾の毛なんだ。

 ペガサスの尻尾の毛でも、本当に魔力の強いペガサスじゃ無いとそこまで真っ白な毛にはならないの……
凄い真っ白な毛だから本物?って心配だったんだよね。
カナさんちょっと魔力を込めながら舞ってみて」

 そう言われてカナはいつもの様に舞うと。アヤと同じように魔力の消費が抑えられていた。
カナは驚いたが同時に……
「これなら破神の舞を踊れるかも……」
そう呟いた。
アヤもそう感じる。

 エレナは破神の舞を二人がこなせれば、冥界の神も防げるかも知れない。

エレナは以前ユリナに教えていた、神の力と祝福の力の違い……それだけが引っかかりクリタスの滅亡の時の様に、冥界の神が現れたら。
 仮にユニオンが出来ていても……と心配していたが望みが出て来た。


でもそれ以外に、フェルミンは良くそんな珍しい素材を持ってるなと、エレナとガーラは感心する。

「フェルミン、確かに代金は大目に払ったけど予算オーバーしてない?」
 確かに……既に四百五十万ペルタの価値を超えてる気がする……


「気持ちで支払ってもらったら……
気持ちで返せ!

お爺ちゃんそう言ってたもん‼︎

だから……
絶対にみんなアグドから帰って来て‼︎‼︎
それが私の気持ちだよ!」
 フェルミンは本当に心配していた。



 二千年前……セレスはアグドに攻め込まれた。
 一見すれば、セレスの敗北は確実であった、それをエレナは持てる全ての知恵を振り絞り、ヒューマンの国サランを動かし、援軍では無くアグドに攻め込ませた。

 その為にオークの軍はヒューマンの軍と粘り強いエルフの軍に挟まれる事を恐れ、引き始める、それと同時にエレナは奪われた領土を全て素早く取り返した。


 援軍として要請すれば、戦況が不利すぎる為に守り切っても、同盟も結んで無いサランに領土を要求され兼ねないからである……エレナが先々まで考え抜いた策であった。
 その後すぐに、シンシルとエレナは追撃に出てオークの指揮官も数多く討ち取った。
 エルフの軍がまだまだ戦える事をサランに示す必要も同時にあったのだ。

 最初から被害を少なくする為に、無理せずに戦力は温存していた為に最終的には軍の被害は、五倍の敵を相手にしては少なく済んだが、国としての被害はかなり大きく苦しい勝利であった……

 だが誇り高い戦士の一族オークは……
 この敗戦でまさに煮え湯の様な苦渋を飲まされたのである!
 誇りも何もかもがエレナの策に踏み潰された様なものだ。

その怒りと憎しみ……

怨みは計り知れない……


 二千前の話だがシンシルもエレナも生きている、そのエレナがそこに行こうと言うのだ、心配になるのは当然である。


「大丈夫、必ず帰ってくるよ」

エレナはフェルミンの頭を優しく撫でる。

 フェルミンは目に涙を溜めながら、荷馬車から残りの武器とアクセサリを降ろして、みんなに渡して説明し最後に。
 薄いエメラルドグリーンのシャツをエレナに渡して。
「これはエレナさんが着てね。
絶対だからね‼︎」

 そう言うと、フェルミンは涙を見られたく無いのか、礼も聞かずに荷馬車に乗って帰って行った。
「これは……帰って来たらフェルミンのお店にすぐ行かないとですね。」
カナがそう言う。
「もちろん!なんかフェルミンのお店がゴールになっちゃったね」
エレナが微笑みながらそう言った。
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