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第三章〜戦士の国アグド〜

43話✡︎心の扉✡︎

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 次の日の昼過ぎに、エレナ達は約束通り来た。
「エレナさんアグドって本当に行くんですか?絶対に狙われますよ?
オークの戦士にとってエレナさんを倒せば、それだけで英雄になれちゃうくらい、アグドはエレナさんを敵視してます……
本当に……行くの?」
フェルミンはとてもエレナを心配してるが、

「うーん。
外交で行くつもりだし、まぁ何かあった時の為にちゃんと手入れ宜しくね。」
エレナはオークの風習を知っていた。
 その為にフェルミンに武器と防具の手入れを頼みに来たのだ。

エレナはクリスタルの小太刀、カナは双刀の小太刀、ユリナは鉄の弓を預ける。
「アヤさんも行くの?ヴァイオリンも見ようか?」

フェルミンはアヤのヴァイオリンに興味を持つ。

「ヴァイオリンも見れるのですか?」
アヤは不思議そうにケースからヴァイオリンを取り出すと、フェルミンはマジマジと見て……言う。
「これ……うん……大丈夫。
もっと良いものに出来るよ!」


「ピリアさんとフィリアさんは何かある?」
そうフェルミンは二人に聞くと。
二人はニコッと笑い光り輝きエレナの姿になる……
「私達の武器はこれですから、大丈夫ですよ」
そうエレナの声でピリアが言う。

「ドッペル、初めて会った……
本当にエレナさんそっくりだね。」
フェルミンはマジマジと二人を見た。

「あ!おじいちゃんが言ってた。
姿を変えるのを好むお客さんには、
魔宝石のアクセサリが一番!って」


「フェルミン、魔宝石もあるの?」
エレナが驚いて聞く、魔宝石は自ら目に見えない紺色の様な紫の様な輝きを淡く放つが、漆黒の闇の中ではその輝きが目に見えると言う、黒い宝石である。
 だが珍しすぎる割には闇の眷属が好む宝石で、闇が恐れられるこの時代には値打ちがあまり無い。

「もちろん!……無いです!」

みんなコケる。

「少し時間があれば手に入るんだけど……
欲しがるお客さん居ないから、仕入れて無かったんだよね、エレナさんいつ出発するの?」
 フェルミンはエレナ達の事がよほど心配なのだろうか、そう聞きながら羊皮紙に何かを書いている。

「五日後か六日後かな、まだ王宮にやることあるから、間に合うかな?」
エレナが答えながら聞く。

「じゃ五日後までに全部終わらせるね!」
フェルミンも時間が少し欲しい様だ。
「じゃお願いね。
これ斬馬刀の代金と、手入れの代金。
足りなかったら言ってね」
 そう言うとお金の入った袋を竜魔石からリヴァイアサンに取り出してもらい、フェルミンに手渡した。
 フェルミンもエレナを信頼してる為、中は確認しないで受け取る。


 エレナ達を送りフェルミンは袋を開けると……金貨で五十万ペルタ入っていた。
あれ?と思い数え直し、フェルミンはやっと気づいた。

 全てロイヤルコインであった。

 通常の金貨の十倍、つまりエレナは五百万ペルタを支払っていった。

 フェルミンは、喜ぶより、困った。

 斬馬刀の料金五十万ペルタ、手入れの料金四百五十万ペルタ……
 そこに気持ちと言う言葉を含まずシンプルに計算した。

「四百五十万ペルタ分の武器手入れって……
新品買ってよー‼︎」
 それからフェルミンに過剰に支払われた代金に見合うだけの!
 預かった武器と楽器を新品に近づける、又は性能を向上させる、新しいアクセサリを作る四日間のアツイ戦いが始まった!


 エレナ達はその後五日間は、王宮に行ったりアグド国にどこから入るか、出発の荷造りをしたり。セレスに残る仲間とアグドに行く仲間など、色々と計画を考える。

 だが一つ関係ない事も考えていた。

(私は神を憎んでいます……ですが……

死の女神ムエルテ様は……

地上が滅ぶことを望んではいません。)

 あの王立図書館のネクロマンサーの事を考えていた。
(なぜあのネクロマンサーは、字で言ったの?普通に話せばいいのに……
あの子は私に敵意は無かった、あればブラットロードに力を貸していたはず……

話せない?いや……
違う……神を憎んでいるなら……
そうか……)

 エレナはその文字のまま、死の女神ムエルテの考えが彼女を引き止めているのでは?と考えるが、世界に災いを振りまくだけでも神への反逆へと繋がる。
 セレスにネクロマンサーが居る限り、安心は出来ないとエレナは考えて言う。


「ガーラさん、王立図書館にネクロマンサーがいたのは知ってますよね?」
「あぁ……奇妙な者だったな……
我らに手を貸すイミニーを初めて見たが……」
ガーラは考えながら言う。

「はい、ですが相手はイミニー、いつ気が変わるか解りません……
私ももっと話してみたいのですが、見つかりません……
ですから念の為にガーラさんは私の留守の間セレスを見てほしいのですが……」
エレナが控えめにガーラに頼んだ時、カイナが小さな笑み浮かべたのに、エレナが気付いた。
 その笑みを浮かべたカイナの放つ雰囲気はあのネクロマンサーのものだった……。

「あぁ、引き受けよう……」
ガーラが引き受けてくれ、その日の話はだいたい終わる。


(ふっ、声で言えなかったのね……
隠さなくていいのに……)
エレナはそれに気付かないふりをして、そう思った。



 その夜、エレナは屋敷からでて行くカイナのあとをつけて行った。
 暫く歩き、カイナはエルフの墓地に行く。

「うーんっとこの人かな?」
カイナがいい、何かを唱える。


「汝、光の為に、神聖な行いをせし者よ、我に支え我が剣として、闇を斬り裂き天を望むか?」
カイナがホーリーネクロマンサーとして、ブラットロードに立ち向かった者達と話しているが……

 断られた様でガッカリしている。

「ユリナ様の為に、エレナ様の為にって、本当に好かれているんだなぁ、エレナ様って」
断られた理由をぼやきながら、カイナは墓地からでて行く。

 その様子をエレナは見ていて、僅かに安心する、墓を荒らすネクロマンサーでは無いと思った。
 だが、あの雰囲気は間違いない、ちょうどここには誰もいない、エレナは思い切って聞く事にしたが。

「エレナさん、隠れてなくていいよ……
解ってるから。
私に話があるの?」
カイナが空を見ながら言う。

「解ってたんだ」
エレナはそう言い姿を表す。

「うん、とりあえずありがとうね、死者との交渉を見守ってくれて……

とりあえず先に聞くけど、こっちに話があるの?」
そう言いながら、カイナはドクロの仮面をエレナに見せた……

「えぇ……」
エレナは静かに答える。

「何を聞きたいのかな?」
カイナが言う。

「カイナあなたは何故私に近付いたの?
イミニーのあなたから見れば私は敵よ……」
エレナは自然に一番の疑問を投げかける。

「エレナ様と戦う気は無いよ……
エレナ様が見てるこの国は、いい国だから……

みんな幸せそうにしてる
私が産まれた村がある同じ世界ってのが信じられないくらい……」
カイナはそう言いながら、目を伏せる。

「どこの村なの?」
エレナは優しい目で聞いた。

「もう無いよ……私が滅ぼしたから……」
カイナはそう応えた。

「なっ……」
エレナは一瞬耳を疑ったが、カイナはやはりイミニーなのかと感じた、それでもエレナはカイナに聞いた。

「何があったの?
訳があるんでしょ?」
エレナはそれ相応の訳があるのだと信じた……

「これ以上は言えません……

それに、イミニーとして声がかかればエレナ様に刃を向けるかもしれません……

そんな私でも

そんな私でも
そばに居て……いいですか?」
カイナが諦めた様に静かに言う。
 王立図書館でカイナは姿を消し、ブラットロードが敗れたあと、ブラットロードから飛び散った怨念をカイナは直ぐに感じて、あの場所に戻ったのだ、エレナに見つかるかも知れない、そう覚悟もしていた。


「えぇいいわよ、好きにしなさい。
言いたくなった時に言ってくれれば……
それでいいわ……」
 エレナは何も考えなかった、カイナがした事は許されない事かもしれない……だが、カイナの心の中で寂しそうな何かが光っている気がした。

 それに、そうなった時はエレナがカイナの心を開けなかった……
そう考える事にした。


 それを聞いたカイナは涙を流してエレナに向かって言った。
「ありがとう……
エレナ様が神様なら良かった……」
カイナがそう言いエレナに歩み寄って来てくれた。
 エレナはカイナが何故神を憎むのか、解りそうで解らないもどかしさを覚えたが、気になった事をカイナに言う。

「もし自分が本当に正しいっ!って
思うなら」
 エレナはそう言いながら、醜いドクロの仮面をカイナから取り、その仮面を魔法で割った。
「こんな仮面に頼らないで、素顔で居なさい……
その綺麗な瞳でみんなに、神様にも訴えなさい……その方がいいよ絶対……

誰か解らない……
顔も見せない人のことなんて、神様は相手にしてくれないから」


 カイナは真っ直ぐなエレナの言葉に、心の扉をノックされた気がしたが、まだ開ける気にはならなかった。
 それでも……カイナは嬉しかった、喜びを感じていた。
 誰も尋ねてくれない扉をノックしてくれた……ただ嬉しく涙を流していた。
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