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第二章〜記憶の石板〜

38話✡︎母の気持ち✡︎

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 エレナとユリナは国王シンシルに軽く挨拶をして、エレナはすぐに弓兵隊と近衞隊の被害をまとめた巻物を受け取り、馬車を用意させユリナにその巻物を渡し屋敷に帰ってからの事を伝えて先に帰らせる。


 大臣達と国王が王宮とエルド宮に戻ろうとし始めた頃に、エレナはシンシルに話しかけ、何かを頼んでいる。
 大臣達もその話を聞いて頷く者や、首をかしげる者やそれぞれである。
 エレナが王権に復帰する事を望む大臣達は、エレナの心の広さにまた惹かれていく。

 しばらくして、エレナは深く大臣達に礼をして国王シンシルに軽くお辞儀して立ち去る。
 王立図書館を出ようとした時にまた、勇者達の亡骸の列が目に入り。
悲しみが込み上げて来るが、それを抑えまた深く礼をして立ち去った。


 ユリナは屋敷に着くと、エレナの指示通りすぐに使いを走らせ芝生を注文させる。
 これにはユリナも半分冗談かと思っていたが、こんな時に本当にやらせるのか?と疑問に思いながらウィンダムに芝生を綺麗にさせる、見かねてルクスが手伝う。

 
 そして召使い達にピリアとフィリアの部屋を用意させる、二人は仲が良く相部屋を希望した。
 そして他の召使いは広間と玄関周り、応接用の部屋を徹底的に綺麗にする様に指示をだしエレナの屋敷はすぐに大忙しになった。


 ユリナはカナと自分の部屋で被害をまとめた巻物を開き、命を落とした隊長の後任など師団長としての仕事に取り掛かるが……


 それはユリナにとって思いがけない程辛い仕事であった……
 ユリナが想像していたよりも遥かに被害が大きく、座ったまま右肘を机につき顔を手で覆い涙を流した、王立図書館で並べられていた亡骸は一部でしかなかった……

 名簿の中には良くしてくれた部下や、良く話す身近な者も含まれていて、ユリナやカナ……エレナの三人に尽くしてくれていた者達が多く名を連ねていた……

 彼らは解っていたのだ、ユリナが最初に動いたことを、何かあればユリナの失態になりかねない……
 彼らは命をかけて被害を小さくしようと最初にブラッドロードに立ち向かって行ったのだ……


 そして余りにも酷い死に方をした者達は、既に移動され別の場所で火葬が進められたらしい。
 約三百名、三個小隊がエレナが移動している間で命を落としていた。たったそれだけの時間で……
 あの時エレナが号令をかけた、それはユリナが師団長としてかけるべきだった号令だったとユリナは気付いた。


 ユリナは信頼出来る部下を失い過ぎた。


 そして自分の行動が軽率だったことに気づく。
 一個中隊千名を動員したこと、エレナにもガーラにも相談しなかったこと、風の祝福とウィンダムに頼っていたこと……
 シンシルが水の賢者と言われる程、偉大な魔導師が解決出来なかったことに自分だけで判断したこと……
 その全てが招いた結果がこれだけの被害をもたらしたことに、涙が止まらなかった。


 そして王立図書館で国王シンシルをはじめ全ての大臣が集まった重大さに気づかなかった自分を恥じた。
 エレナは国を守れた事を喜ぶより、その被害の大きさを見つめその悲しみを受け止め号令をかけた。
 更に被害が出る事を見通して遺族達がユリナを恨まない様に、それを隠す為にエレナが隊の総指揮を買って出た事にも気付いた。


 それだけして……エレナは記憶の棚でユリナを叱らなかった。
 ユリナを傷つけない様にそして、何も言わずに指示を出せば、全てユリナなら気づくと信じてくれてる。


 ユリナは左手を握りしめて強く強く、机を叩いた一度二度と、強く強く……何度も叩き声に出して泣いた。


 自分の小ささと弱さ、愚かさを深く深く知った……


「ユリナ、泣いてる場合じゅないよ!
お母さんなんで私達を先に帰らせたと思う?

きっと王宮で遺族の保証とか、孤児になる子供が居ないかとか、色んなことしてるんだよ……
私達に頼んだ事も何か考えてるんだよ。
出来る事はしようユリナ……」

 カナがそうユリナに声をかける、解っていたユリナが今どれだけ辛いか、逃げ出したい気持ちなのもカナは解っていた。

 それを慰める言葉が見つからない、でも今は泣いてる場合じゃない事を伝えるしか出来なかった。

 そしてエレナはカナが言った通り王宮で、被害の処理を進めていた。
 大臣達にやらせれば良いことだが、エレナは悔いを残してもいた。
 エレナもエルフ族の女性の気持ちは解る、長い長寿に本当に愛せるのは一生に一度一人だけ……アルベルトの時散々苦しんだ……だから出来る限りの事をしてあげたかった。

 幸いエレナに協力的な大臣は多く、方針はすぐに決まり、手厚い保証を約束出来そうなところまで話をまとめ、何かあれば屋敷に報告する様に伝えて王宮を後にする。


 ユリナはまだ泣いている、全ての責任が本当なら自分にあることを、またエレナに母に守ってもらっている事に……

(ユリナごめんね)

カナがそう心で呟いて優しくユリナを誘う。

「ユリナこっち来て」

そう言いながらユリナの手を取り立たせて、窓に誘う。


 そしてユリナと窓に来た時、カナは泣き止まないユリナの頰を思いっきり叩いた……
 ユリナはよろめき膝をつく、なぜと思ったがカナが冷たくいう。


「ユリナ?そんなに悲しい?
そんなに苦しい?
今のあなたじゃ、あの時代は任せられない‼︎」
 カナも辛い過去を生き延びて来た、沢山の死を見てきたその死を無駄にしない為に。
多くを学び、慰めるためにもまた多くを磨いて来た。


「ユリナ?彼らは幸せじゃない?
国を守る為に戦って死ねて……

私の村なんて巻き込まれただけで!
みんなみんな……

私だけ生き残った……

平穏な日々なんて無い!
一生懸命一日一日を生きてただけなのに!
今のあなたじゃ三百人の犠牲が無駄になる‼︎‼︎

ガーラさんが言ってた。
平和な時代が長すぎたかも知れないって。
違うでしょ⁈⁈

あの時代に戻らないと解らない?
違うでしょ……」
 冷たく怒る様に言ったカナも思い出して悲しくなり言葉が詰まる。


「はい、カナそこまでにしなさい」


 エレナが帰って来てカナがユリナに怒っている声を聞いて、二人の居る部屋に急いで来た様だ。

「頼んでおいたこと
ちゃんとしてくれたの?
その様子だと出来てないかな~?」
エレナは怒ってはいない……


「ユリナ?
カナの気持ちも解ってあげてね……

二人とも私の宝物なの……
だから泣かないで……

お母さんが守ってあげる……
でもお父さんが言ってたように、繰り返さないで……

誰でも失敗はあるの……
人はね、失敗して大人になるの……
だから、今回のことは忘れないでね……」
 エレナもなんて言えば良いのか、なんて伝えればいいのか解らなかったが、思っていたことをそのまま言葉にしていた。

 エレナがふと窓の外に目をやると、カナが何故ここにユリナを誘ったか理解した。
「ユリナ?ちょっとあれを見なさい」
そう言いながら、ユリナの手を取り窓の外を見るように促す。

「ほら、ちゃんと見なさいお姉ちゃんが見せたいって思ったことなんだから」
優しく庭を指差してまた促す。
 エレナが本当に子供に言うように言ってくる、ユリナは恥ずかしくなりながらも窓の外をやっと見ると


 真っ青な気持ちのいい青空の下でウィンダムとルクスだけじゃなく、ピリアとフィリアが手伝っている、二人にとっては初めての芝生の手入れの様で慣れてないのが、すぐに見て解る。

 カイナとアヤは芝生が届き始めた様で、荷下ろしを手伝っている。ガーラが新しい芝生の香りを楽しみながら運んでいる。

 そこにリヴァイアサンが手伝いに行くが、ウィンダムと揉め始める。
 カイナが小さいスコップを二匹の間に投げ、見事に地面に刺さってカイナから。
仕事を増やすな!と言うオーラが放たれてる。

 カナがやっと少し笑った、ユリナも少し表情が穏やかになる。
ピリアもフィリアもクスクス笑っている。
「こーなるとは思って無かったんだけどね、こう言うのもいいよね」
エレナが笑顔で言う。


 そこには、二人がいた部屋とは違う全く逆の空気が流れている。
 平穏なほのぼのとして穏やかな世界。

「カナと出会ったときは、こんな事考えられなかったね……」
エレナは懐かしそうな目をしている。

「あの時はここに芝生も無くて殺伐としてましたね。
何かあったら直ぐに弓兵隊を集めてましたし、芝生なんて直ぐにダメになっちゃいますから」
カナも思い出している様だ……


「ユリナ、今回のことはあんまり気にしなくていいよ。
カナだって初めて小隊長で戦いに出た時散々だったよね?」
カナもエレナも生きた時代のせいか、しっかりと受け止め、慣れてる様にも見える。

「そうでしたね……」

そう言いカナは空を眺めていた。
 ユリナは、気にしなくていい訳ない……そう心から思っていた。


それをエレナは直ぐに気付いた。

「もう一度見て、みんなが楽しく芝を綺麗にしてる、この平穏はユリナが動いたから守られたんだよ。

エルドから避難した人達もまた何も変わらない日常を過ごせる百年先も……何百年先も……

あのまま国王シンシルが百年先に他界されたら、血の王は私達の知らない所で冥界の者達を召喚したと思うの……
そうなったら解るよね?」
ユリナは静かに頷く……


「なら、今度はもっといい方法を考えること、お母さんにも、ガーラさんにも相談すること、アヤさんもカイナさんもきっと聞いてくれるから……
もう解ってるよね?」
そう言いながらユリナの頭を優しく撫でる。
ユリナはまた静かに頷くとカナが言う。

「ユリナさっきはごめんね、私もどうしていいのか解らなくて……」
「さぁ二人とも、これは私がやっておくから、外でみんなを手伝って来なさい」
エレナが気分を変えてくる様に二人を外に送り出す。


 その時、何か使いが来た様だ……その使いはエレナに会うことを求めている。
 召使いがエレナにそれを伝えて来た。
エレナは使いを玄関で待たせて、エレナがそこに行き話を聞いている、少ししてエレナが使いの者に礼を言い丁寧に帰す。


 エレナは召使いに何か外で食べれる物を人数分早めに用意する様に言い、自室に戻りユリナの仕事に目を通し、別の巻物を取り出して目を通し、弓兵師団の仕事を始める。

 エレナはユリナが仕事し易いように、エレナの忠実な部下だった者から優秀な人材を選別していく……
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