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第二章〜記憶の石板〜
31話✡︎ユニオン✡︎
しおりを挟むクリタス王国の滅亡。
十万年程前の記録が映し出される……
「やはり、クリタスに現れるか冥界の者共め……
忌々しい事にオプス様が居ない事に乗じて、闇の軍勢まで引き連れおって……
神々は何をなされている!」
巨人族の王ザラハドールが怒りをあらわにする。
「仕方ないでしょう。
冥界を封じ続けたのは闇の女神オプス様その眷属の国を狙うのは当然でしょう。
我々も既に戦の支度は整っております。」
ゴブリンの王子トールが凛々しく現れる。
この当時のゴブリンはヒューマンと見た目が似ていて、特徴としては赤茶色の肌に真紅の瞳、エルフよりも大きく耳が尖っている。
「トールよ誠に申し訳ない、そなたの国がかつてない戦場になる。
我が一族も僅かで申し訳ないが援軍に行く、誠に僅かで申し訳ない……」
ユニオンレグヌスの当主でもあるザラハドールがゴブリンの王子に深く頭を下げている。
「ザラハ殿顔を上げて下さい巨人族はオプス様救出の為に。
竜の墓場に死竜討伐に軍を出されています。それでも援軍を送って頂き有難い限り」
ザラハドールは顔を上げるが苦しそうな顔をしている、ただ苦しいのではない本当に心を引き裂かれる様な、涙を必死に抑えている。
そんなザラハドールを察しトールは言う。
「世界を冥界から守る……
それに何の躊躇が入りますか?」
そう言い振り向き去っていく、トールの部下が聞く。
「王子まさか……」
「そのまさかだ……どう考えてもそれしか手がない、我が国で使われるとはな……」
トールが厳しい顔つきで言う、ザラハドールが二度も僅かと言う言葉を使ったことで、察したのだ。
「直ぐに国王にご報告と国民の強制避難を軍に手配致します。」
トールの部下がそう言うが……
トールは立ち止まり部下に強く言う。
「ならん!
何があろうと国王にも国民にも知られてはならん‼︎」
「そ……それではクリタスは滅んでしまいます!民あっての国!」
部下はトールに強く言うが、トールは部下の胸ぐらを掴み片腕で持ち上げる。
「それをすれば世界が滅ぶぞ……
我が国だけが滅べば、世界は救われる解らないのか?」
トールは睨みながら重い声で言う。
「解りません!何故我が国が!」
トールは部下を床に叩きつけ激しく言う!
「我らの神は誰だ⁈
闇の女神オプス様だ!
じゃあ国王は誰に祈る!国民は誰に祈る‼︎」
部下は恐れながら言う。
「オプス様です!」
「じゃあそのオプス様は何処にいる?
死竜に囚われているのを知らないはず無いよな?
知ってるよな⁉︎今の我らの祈りは……
死の女神に丸聞こえなんだよ‼︎
戦う前から手の内を全部!
冥界に教えちまうんだよ‼︎‼︎」
部下は完全に怯えている。
「貴様生きたいか?
オプス様に祈ってでも生き残りたいか?」
「死、死にたくありません!
どうかお……」
そこまで部下が言った時、トールは部下を斬った。
「お……ゆるしを……」
「悪いな……
それはこっちのセリフだ。
許してくれ……友よ……
我が一族我が国を犠牲にしてでも……
闇の眷属として守らねばならぬ……
オプス様が愛したこの世界を……」
そこには、トールに忠誠を誓い長く共に歩んで来た友人を斬り、優しく悲しむ英雄の姿があった……
その翌日冥界の力がクリタス平原に溢れ出した、トールは直ぐにゴブリンのほぼ全軍を率いて出陣した。
その軍は黒の下地に金色の六芒星が描かれた旗を掲げていた、ユニオンレグヌスゴブリンの旗印だ。
広大なクリタス平原におびただしい数の冥界と闇の軍勢が溢れ出していた。その先に空間が赤黒く歪んでいる、そこから湧き出すかの様に現れた様だ。
ゴブリン達はトールの指揮の下、防御陣を敷き、その後方に蜂矢の陣を敷く。
陣形を整える手際は素早く、英雄と言われるエレナも内心戦いたくない相手だと思う程見事だった。
するとトールの陣の左手側から、赤い下地に金の六芒星、ユニオンレグヌスオークの旗印、炎の戦士の一族が援軍に駆けつけた。
そして屈強な獅子に乗ったオークがトールのもとに駆けつける。
「トールよ、我々にも声をかけてくれ水臭い」
オークの指揮官がトールに親しげに話しかけて来た。
「グーダよ……
何故呼ばなかったか解らないのか?
これは絶望的な戦いクリタスは滅ぶ……
我々が滅んだ後そなた達オークが戦力を残さなければ、誰があれに立ち向かえる?」
「ほぉ……お前こそ解ってないなあれを見ろ!」
グーダが右手側を指差す。
陣の右手側にまだ遠いが、紺の下地に金色の六芒星。褐色のエルフ、ユニオンレグヌスダークエルフの旗印が見える。
「ほら敵の向こうも見て見ろ!」
その敵の向こうには、緑の下地に金色の六芒星、大地の種族ユニオンレグヌスドワーフの旗印が敵の背後を抑えている。
「解ったか?
何の為のユニオンだ、災いの日をお前達だけが今まで抑えていた。
だが今お前達の神が居ないんだろ?
なら助けを呼べ!
まだ来るぞ後陣として、エルフ、ヒューマンが‼︎
バディが補給を確保してくれる。獣人族ケンタウロス、ミノタウルスにも援軍を要請している。
奴らも戦士の一族だきっと来てくれる」
トールは僅かに希望を見出したが、巨人族が最後何を考えているかを、グーダに伝えると。
「それしか無いと思って来ている……
ユニオンとして……
ただあれを使うには時間がかかる。お前達でそれだけ戦えるのか?」
グーダは続ける。
「もう一度言う、何の為のユニオンレグヌスだ?
我らは助け合い、支え合う事を誓った。
悲しみも苦しみも分かち合うと誓っただろ!
ゴブリンのお前達が国と種族を犠牲にして世界を守ろうとしてるんだ。
それを分かち合う為に、全ての種族の王が死を覚悟して自らの軍を率いて来たんだ‼︎
英雄トールの最後の戦、共に死ぬ為に!」
ユリナは冥界の力がこれだけの種族が集まっても勝てないのかと僅かに疑い……
そしてこの時代の種族同士が、本当の友の様な繋がりがあるのに涙を流し、ユニオンレグヌスが本当に必要なのを実感していた。
そんな中エレナは布陣を見て、数では不利かも知れないが陣的には有利と冷静に判断していたが、一つの事に気付いた……祝福を持つ者が居ない事に。
そして静かに言う。
「この戦い、時間を稼げるけど……
勝てない確実に負ける……」
エレナはそう言い大粒の涙を流しながら太古の英雄達を見つめる
「さぁ、始めようぜ敵の増援が来る前に‼︎」
グーダがそう言うとトールは剣を抜き叫んだ!全身全霊を込めて凄まじい声で力強く叫ぶ‼︎
「聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
闇の子らよ‼︎
我らの主オプス様は!
あの冥界に囚われた‼︎
我らが勝てるか⁈⁈
否ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎
だが抗う事は出来る!
そして喜べっ‼︎‼︎
我々の為に!
全ての王が集り共に死んでくれるぞ‼︎‼︎
それでも我々は滅びるだろう!
ならば……
最後まで足掻いてやれ!
最後まで戦い抜けぇぇ‼︎
最後まで剣を捨てるな‼︎‼︎
我らが背負うは世界そのものだ!
我らが背負うは‼︎
全ての命‼︎
全ての未来‼︎
我らの栄光はない‼︎‼︎
だが‼︎‼︎
この場にいる全て者が!英雄だ‼︎‼︎
剣を抜けえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎」
死力を尽くした叫びに、全てのゴブリンが絶叫する‼︎
その叫びはまるで地鳴りの様に、クリタス平原に響いた……
そしてその叫びはエレナ達に何かを訴えている様にも聞こえた。
ユリナとカナはトールの凄まじい号令に、死を覚悟した英雄の姿を見て圧倒されていた……
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