上 下
22 / 234
第一章〜ユニオンレグヌス〜

15話✡︎ムーシカ✡︎

しおりを挟む




 既に村人は騒ぎを聞きつけて、エレナのいる神殿に集まっている。

「巫女様、お救い下さい巫女様!」

 村人はエレナに救いを求めているがエレナは動けなかった。ガーラに与えたある水の魔法の影響が、予想よりも大きかった。
今はユリナがウィンダムから魔力を借りて、エレナの結界を支えている。

エレナは膝をつき息を切らして、汗を流し相当疲弊している。

(浅はかだった……
まさかこんなことに……
このままじゃ祭壇を捨てても村人を守れない……ガーラさんもまだ生命の魔法と命をつなげきれていない。

結界を解けばユリナは動けるけど、この闇の魔力……
ユリナじゃまだ防げない)
エレナは必死になって方法を探る。


「伝令!ユリナ様‼︎
カナ様が隊を率いてカイナ殿の死者の騎士約三百と連携し、現在ゴブリンの小隊と交戦中!」
その報せを皆が聞いていた。

(私ってこんなに何も出来なかったんだ……私も魔力が戻りきって無い、カナさんが戦っている……
私の代わりに守ろうとしてくれてる。
私って……私って……)
ユリナは気づいたら涙を流していた。
 母エレナが居てのユリナ、姉カナが居てのユリナだったと言うことに気づいたからである。

 ガーラはそんな二人を見て、立ち上がり黙って祭壇の間を出ようとする。
「ガーラさん!まだ魔法の反動が……
無茶です」
エレナが止めるがガーラは落ち着いて言う。
「案ずることはない……
私はまだ死ぬ訳にはいかない、アヤ居るんだろう?一曲頼む……」

 そう言うと足早に出て行き、カナ達のもとに向かった。
 そしてしばらくすると、一人の白いワンピースを着た女性が仕方なく前に出てきた。

「ガーラに頼まれるなんてね、今まで何回かカイナちゃんと追ってたのに。
まぁいっか、みんな困ってるし……」

そう言うとその女性はヴァイオリンを取り出す。


「私はムーシカのアヤ、宜しくね。
ここにはセレティア湖を見に来てたんだけど、気に入って長居してたのこれも導かれたのかな?」
そう言いながら、ヴァイオリンに魔力を貯め始める。
「エレナさんに必要なのは(光の中で)だね」

「アヤさんってムーシカ……光の中で……まさか!」
 エレナが辛さを忘れた様な顔で驚いたのを見てアヤはニコッと笑い、ヴァイオリンを弾き始める。


 ムーシカはホーリーネクロマンサー並みに特殊な力の持ち主、戦闘は護身程度しか出来ないが、楽器を演奏して曲に魔力を乗せ、選曲によって仲間全体に様々な効果の支援魔法をかける。中でも天界を表した曲は祝福を受けた者しか弾ききれないとされている。


 アヤの弾く音色は心地よく神殿の神聖さを増していく……
 その音色は聞いてるだけなのに、現実世界を天界にいる様に感じさせた。
 その音色はあらゆる物体をすり抜け、音が小さくなる事なく、空に巨大な魔法陣を描き出していく。
そしてアヤの髪が白銀に変わり始めた。


「ミューズの祝福……」
エレナがそう言った時エレナは身体中の疲労感が、羽毛の様に軽くなり消えて行くのを感じ、ネックレスの竜魔石が輝き出す。それはエレナの魔力が急速に回復している証であった。

 その効果は無論ユリナにもあり、ユリナの魔力も回復していく。
 その穏やかな音色は、その場にいた全ての人々の不安と恐怖を取り除いた。
全ての人々が神聖な光に包まれてるように感じ、慈悲、慈愛、豊穣、多くの神々の恩恵を感じさせる曲だった。


 神聖な美しさ、奏でる優しい音色、そして曲が終盤に差し掛かり、カナが舞う時と同じ様に地面から小さな光の玉が、生まれ昇り消えていき、アヤの神秘的であり幻想的な美しさがピークに達して曲は終わりを迎えた。


 エレナはアヤの姿を見て一見ヒューマンに見えるが、ヒューマンではない事に気づく、
その違いはアヤがショートカットだったから気づいた。アヤは母親が人間だったのだろう、人間よりのハーフエルフだった。

 アヤはヴァイオリンの弓をエレナに向け、円を描いて、魔力がどの位戻ったかを把握する。
「本当に巫女様大丈夫?私の曲で半分くらい戻ったのコレ?」
そうアヤが言う。

 エレナはアヤの手を握りアヤの瞳を見つめ魔力の強さを確かめる、それを知らないアヤはビックリしてドキッとした。

(いや私そう言う趣味無い……けど巫女様って結構可愛い……)
 内心そう思った所で、エレナはアヤが祝福の力を使いこなしているのを判断した瞬間、アヤの手を引いて走り出す。

「ちょっと巫女様~私は女の子ですよーー‼︎」
アヤは戸惑いながら叫んでいる。
その姿を見てユリナは思った。

(お母さん……また……何かする前にちゃんと言おうよ)
 それは自分の非力さを忘れるほど、二人の姿がおかしなものだった。

(あれは昔からだね……)
ウィンダムも困っていた。その訳は単純に……
「巫女様はそう言う方だったんだのぉ……神に使える方はわからん」
村人達に誤解をあっさり招いたからで、ユリナはそれ解くのに苦労する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

悪妻と噂の彼女は、前世を思い出したら吹っ切れた

下菊みこと
恋愛
自分のために生きると決めたら早かった。 小説家になろう様でも投稿しています。

スキル【疲れ知らず】を会得した俺は、人々を救う。

あおいろ
ファンタジー
主人公ーヒルフェは、唯一の家族である祖母を失くした。 彼女の葬式の真っ只中で、蒸発した両親の借金を取り立てに来た男に連れ去られてしまい、齢五歳で奴隷と成り果てる。 それから彼は、十年も劣悪な環境で働かされた。 だが、ある日に突然、そんな地獄から解放され、一度も会った事もなかった祖父のもとに引き取られていく。 その身には、奇妙なスキル【疲れ知らず】を宿して。

処理中です...