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第一章〜ユニオンレグヌス〜

8話✡︎カナの悲しみ✡︎

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 野営から少し歩いた平原に二本の小太刀を逆手に持ち月明かりを背に、剣舞を舞うカナが居た。
 舞ってるうちにカナの金色の髪が白銀へ変わっていく。カナの目には沢山の涙がたまり、溢れ出してくるがカナは拭おうともせず舞い続ける。


 ただただ美しく悲しみが伝わる様な舞いを、月明りが小太刀の刀身を照らしキラキラと闇の中で輝かせる。
 しだいにカナの身の回りの草から白い光が生まれ、空に向かいポツポツと淡く生まれ昇り消えていく。

 カナは本当は泣きたかった、六百年前の戦いでカナは自分が弱かった為に、大きな犠牲を払ってしまった。

 その犠牲はエレナとユリナには特に大きな犠牲であり、それを思い出す度に自分がユリナの側に居ていいのか、わからなくなってしまう、そんな自分が悲しくて悲しくてたまらなかった。

 何故あの時ミューズがカナの祝福を解いたのか、カナは全ての魔力を使い果たし命を削ってでも、祝福を維持するだけの気持ちがあった、無理も承知していた。

 ミューズの力を全て出し切る為には舞踏、そして音楽、二人のミューズの祝福を受けた者が必要と言うことも知っていた。
 それをカナは一人で剣舞のみで二人分の力を出そうとした。
 あの時それしか方法が無いとカナは思い、『破神の舞』を舞おうとしたがカナの想像を遥かに超える程の魔力を使い、舞い切れず倒れてしまった。


 野営地で休んでいるユリナはカナの舞の効果を受け魔力が戻って来る心地よさと、何か伝わってくる悲しみを感じ不思議に思いながら浅い眠りについた。


 カナは舞いながら泣きながら思い出していた、あの脱力感、意識が遠のいていく感覚、心の中で悲鳴の様に叫んでも、声すら出せなかった自分、唯一出来た事は死ぬ程の気力を振り絞り意識を保つことだけ。


 そんなカナに運命は微笑むこと無く残酷にも、目の前でエレナとユリナの大切な人が犠牲になって行くのを、地面に倒れたまま見ているしか無かった。

まさに地獄である……

カナはその後の全ても見届けている。

 あまりの怒りと憎しみで、リヴァイアサンと同化するエレナ、そのお腹にはユリナが居た。エレナのドラゴンナイトは一歩間違えれば、闇に堕ちる寸前であった。


 その姿は神聖な水色の光を放つが、怒りや憎しみが強かったせいか妖艶な美しさを放っていた。ユリナの魂の温もりが心を怒りと憎しみの支配から救い、正気を保たせ神聖な水のドラゴンナイトとしてエレナを昇華させた。

 エレナは溢れる悲しみを必死で受け止め、死の女神の竜、死竜タナトスに向け一撃を放つ。
 仕留めるには至らなかったが死竜を追い払うと、すぐに沢山の涙を流しながらそのままの姿で大切な人の元に走り寄る。


 エレナの大切な愛する人、ユリナの父、人間の王族アルベルト卿、エレナは泣きながら何かを話し、力なく倒れているアルベルト卿を精一杯抱きしめている、その姿は余りにも悲しすぎるものであった。

 カナはその二人を見て自分を責め続けた。そしてその先を思い、悲しみと辛さだけが強く強くなっていく。


 エルフ族の寿命は長すぎる、長く生きるエルフは三万年は美しいまま簡単に生きる。
 人で言えば永遠とも感じられる程の時を、その中で一生に一人しか本当に愛せないのである。


 エレナはアルベルト卿と共に過ごせる時は、自分が生きている間のほんのひと時に過ぎない事を知っていた、いや……二人ともそれを承知でいた。とは言え残りの永遠とも言える一生をエレナは愛する人を失い、他の誰も愛する事は出来ない。
 ユリナも父に会えずに、そのアルベルト卿との最後がこんな形で、そうなってしまった全ての原因が……。


 カナは舞い続けている、悲しみに満ち溢れながら。
 ウィンダムだけはカナの悲しみを理解して静かに星を見ている。
 カナは美しく舞い続ける、涙を流しながら、そしてまたあの時の感情が強く蘇り、思い出していく。


(私も死んだ方がいい…)
 何故か死と言うものが、甘く甘く甘美に思えて来た。

 そうカナが思い始めた時、別れを終えたのだろう、エレナが涙を拭いながらカナに歩み寄ってくる。
 その姿は悲しみを堪えてるのが、苦しみと悲しみを押し殺しているのを痛い程感じられる。カナはエレナに何を言われるのか恐ろしかった、そんなカナをエレナは優しく抱き寄せてくれた。


「良かった、あなただけでも生きててくれて。」


そう涙をためた優しい瞳で言ってくれたのを鮮明に覚えている。


「私のせいで、私が……」
カナはやっと声が出たが悲しさと苦しさで最後まで言え無かった、むしろ自分を責めることしかもう考えられない。


そんなカナにエレナは優しく頭を撫でながら言う。
「カナ覚えてる?、私とカナが初めて会った時、あの戦場になってしまった村で、泣いてる小さいカナを私が助けたの……

戦場から馬で逃げてる時、あなたのことを私が育てるって決めたのよ、だから大丈夫もう自分を責めないで、あなたも私の娘と思ってるから、大丈夫だから。」

 エレナはなんて言っていいのか自分も解らなかったが、カナを本当にそう思って接して来たんだろう。
 そうでなければ今この状況で言えるはずもない、それだけ優しい言葉をカナに言ってくれた。
 そう聞いてカナは救われた気がして涙を流しながら、気を失う様に眠りについた。


 カナは舞いを終えた。かなり長く舞い続けたせいか僅かにそらが明るくなってきている。
 あの日以来カナは毎日魔力修練を欠かさない、二度と繰り返さない様に彼女なりに努力し続けている。

 静かに涙を拭うとそれと同時に、白銀に変わった髪が金色に戻っていく。
 全ての髪が元に戻ったのを確認し、ゆっくりと野営地に戻っていく。


 悲しみを感じさせない、いつものカナがそこに居た。
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