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第一章〜ユニオンレグヌス〜

4話✡︎風の祝福✡︎

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 ユリナはむしょうに母に聞きたいと思った、エレナとユリナは本当に仲良い親子で、友達のようでもあった。
 その中で愛情込めて育てられた、そんなユリナはエレナの事をよく知っている様で、知らない事が多い気がした。
「カナさんお母さんの護衛、私が行きたいのですが、行っても問題にならないと思いますか?」

ユリナが聞くとカナは少し考えてから言う。
「今の時期は国事も有りませんし、ユリナ様がエルド宮に呼ばれる事は無いと思います。

エレナ様から護衛依頼を受けたと言うことにして、エルド宮に使いを送れば問題にはならないと思います。
きっとエレナ様も話を合わせてくれますから。」
そう言いニコッと怪しいと思わせる笑顔をした、それを見ていたサイは嫌な予感を感じた。


 その頃、サイスに居るエレナは闇除けの結界を村全体にはり、セレティアの祭壇を確認し結界をより強力にはり直し宿に戻って来た時。
(クシュン)
エレナは可愛くくしゃみをして近すぎる未来、疲れそうな予感を感じ少し悩んでから悩むのをやめる。

(昨日からの疲れかな?)
そう決めつけて休むことにした。


 氷の闘技場を元に戻しているサイにユリナが言う。
「サイやっぱり私が行くからエルド宮に使いとして、巫女から要請を受けたと伝えて来てねっ」
ユリナはサイに駆け寄りそう言うと弓兵隊の方にそのまま向かう。

 カナは屋敷に戻り事の次第を他の召使いに伝えて戻ってくる。
 召使い達も先程の一戦を窓から見ていて、カナの事を良い意味で話し合っていた。
「エルド宮に!あそこ俺が苦手なのわかっ」
とサイが叫びながらユリナを追って来たが、ユリナはスッと振り返った時。
 金色の髪をなびかせ凛としたユリナは、美しく一瞬時が止まった様に感じ、サイは言いたい事を最後まで言えなかった。

そんなサイにユリナはニヤつきながら言う。
「へ~さっきはお姫様って言ってたのに、お姫様のお願い聞けないの?」
ユリナの目は完全に楽しんでいる。

(マジでっ!エレナさんの方が優しい……)
サイは心でそう呟く。

「はいはい行ってきますよ、お姫様」
そう言い仕方なくエルド宮に向かう。

「サイ様もユリナ様には敵いませんね。」
カナが言いながら馬を二頭引いてきて、ユリナに乗る様に促す。
 ユリナは優しい笑みをこぼしながらそれには答えず、身軽に白馬に乗りながらカナに聞く。
「カナさんも来てくれるの?」

カナは笑顔で言う。
「もちろんです。
エレナ様からユリナ様をお守りする様に言われてますから。
あと先程荷馬車の方に、ユリナ様のお荷物も積んでおきました。」
そう答えながらカナは身軽に馬に乗る。

 カナはデュエルの支度が終わった時に、他の召使い達にユリナの支度もする様に伝えてからデュエルに臨み、その支度が終わる頃にデュエルを程よく切り上げていた、カナはユリナが護衛に行きたがる事をしっかりと予想していたのである。

「本当に気がききますね。
私のこともお母さんの事もなんでもお見通しみたい」
ユリナはそうカナに言うと、馬を軽く走らせ隊列の後方に回りこむ。
 その間にカナは列の先頭に回る、ユリナが列の後方から前に馬を軽く走らせ隊列はユリナが過ぎるのと同時に鐙に足を乗せる。
 ユリナがカナを抜く時にカナに目で合図を送りそのままユリナは門に向かって少し加速させて行く。
 それを見てカナが右手を上げて前に振り。
「進んで下さい!」と弓兵隊に指示を出して、カナもユリナに続き弓兵隊もそれに続いた。


 エレナの屋敷からサイスまでは三日半程かかる。馬なら一日半と言うところだろうか、
それをエルド宮に向かう丘の上に大きな木が一本立っている。
 その木の太い幹からサイが小さい鏡でユリナに合図を送り、木からリンゴをぶら下げて見送っている。
「気づくかな?」


 ユリナは屋敷を出てすぐにサイの鏡の合図に気づいた、サイはユリナの弓が上達した頃からランダムにこうして的を用意して、少しずつ距離を広げて来た。
 今回のユリナとリンゴとの距離は通常の飛距離の倍はある。
(前よりは近いでも丘上か……風が運んでくれるかな……)
ユリナはそう考えながら馬を走らせる。

 屋敷から隊を引き連れて出てきたカナはすぐにユリナの視線を追いすぐに、その先のキラキラ光る何かを確認した。
(あれは、サイ様?ユリナ様に今回は中々難しいですね、さてどうしますユリナ様。
走らせたまま行きますか?)
カナはユリナの成長を見守る様に微笑みながら後を追う。

 ユリナは金髪の長い髪をなびかせ、走る馬から風を感じ風を聞いている、距離が徐々に開いていく、ゆっくりと目を閉じて意識を高めていると。


(力が入りすぎ力を抜いて風になりなさい、ユリナちゃんなら出来るから)


そう、エレナの声が確かに頭の中で聞こえた。

「私のことまだ子供扱いしてるんだから」

 ユリナはそう呟くが、エルフの世界ではまだ六百歳のユリナは成人前くらいの子供である。
 ユリナは目を開き矢筒から一本の矢を引き抜き、馬を走らせたまま僅かな魔力を弓と矢に込め構え、狙いを定める。
 弓を構えたことでユリナにかかる風の抵抗が変わり上手く定まらない。
 まだ近ければユリナにとって簡単なことだが、距離がありそしてその距離は開いていく。

(風になりなさい)
またエレナの声が聞こえる。


(風になる…)
 ユリナはそう心で呟くと全身の力を抜き姿勢を保ち、耳をすませて弓を構え直して、全ての意識を自分が切る風やユリナに関わってない風、カナが切る風、ありとあらゆる風に意識を向け集中し始める。
 次第にユリナは不思議な感覚を感じ始める。

 その感覚をユリナが感じ始めた頃、後方を走るカナは確かに感じていた。

 カナの息遣い指の動き、心臓の鼓動までもがユリナに読み取られている。
 馬を走らせ風に包まれている、いやユリナに包まれている様な感覚がした。

 そして前方を走るユリナが確かに見えているのに、そこに居ない様な不思議な感覚。
 カナはエレナが祝福を受けた時に、水の中で似た様な感覚を感じた事があった。

(まさかウインディア様……
風の女神?)
カナはそう思った時、ユリナの髪がエメラルドグリーンへ既に変化していた。
 ユリナは髪が変色した事に気付いていない、ただ風が髪をなびかせているが、全ての風がユリナを通り抜けるような、風の強さも感じない、ただ感じたのは見渡せる限り自由に何処でも行ける様な……


 風の自由な感覚をユリナは全身で心で感じていた。

 そしてそのまま弓を限界まで引き、真っ直ぐにリンゴを狙った普通ではあり得ない、いくら鋼の弓、鉄弓とはいえ、既に距離は倍では無い更にだいぶ離れている。

 いや、最初から普通は届かない、それを真っ直ぐに狙うなんていくらエルフ族とは言え、無理がある。

その距離をユリナは……静かに……


そのまま魔力を込めて矢を放った。


 その矢は凄まじい勢いで真っ直ぐにリンゴ目掛けて飛んでいく。
 風の抵抗を全く受けずに、まるで全ての風が追い風の様に矢を加速させ続ける。
 それと同時にサイの護身用の氷結魔法アイスガーディアンが反応した。
「え?」
頰に汗を垂らしながらサイが思った。
(まさか……諦めて無かった?)


 その瞬間キラッと、ユリナの方から凄まじいスピードで一本の矢が飛んで来るのを見た瞬間、サイのアイスウォールが発動するが間に合わないっ!

 間に合っても防ぎきれる代物では無い事は確かだ!
 アイスガーディアンがアイススピアで、ユリナの矢を撃ち落そうと発動するが、風の加護を受けた矢を撃ち落とせる訳がない、見事に矢はアイススピアを寄せ付けずに僅か十数秒でその距離の先にあるリンゴを射抜いた。


 いや……粉々に砕いたと言う方が正確である。

 そしてその矢はカンッではなく、バンッ‼︎と言う凄まじい音と衝撃で、巨木に大きな円形の窪みを作りその中央に深く深く突き刺さった。

(し、死ぬっ!マジで死ぬと思った……)

 そうサイは心から呟き前から倒れ込み草の香りを実感した。

「生きてる…」
そう囁きそのまま気絶した。

 その音のほかにリンゴの砕ける僅かな音も風に乗せられユリナは聞き逃さなかった。
「ヨシッ」
と小声で呟いて右手をグーにしていた。

 そのアイスガーディアンとユリナの矢を全て見ていたカナは丘の上を見たまま。
(サイ様、今日は、さ、災難ですね……)
心で思い額に汗をかいていた。

 カナはユリナの方に視線を移したときハッとした。
「いけない!」
カナは思わず大きな声をだした。


 ユリナの鮮やかに染まったエメラルドグリーンの髪色が薄くなり始めていた。ユリナはとてつもない疲労感に襲われ、身体に力が入らず、意識も朦朧として来たのを感じた。

(なんで、こんなに魔力が……)

 そう思った時ついに落馬して、気が遠くなって行くのを感じていた。
 カナは馬から飛び降りユリナに駆け寄り抱きかかえる。

「ユリナ様!ユリナ様‼︎」

と大きな声で呼びかけるがユリナの髪は既に金髪に戻っていたが、少しずつ色が薄くなっていた。


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