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序章〜闇のレジェンド〜

序章7話✡︎闇のレジェンド誕生✡︎

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「暗黒よ!闇の霧を‼︎」

 オプスが叫ぶと暗黒から、黒い霧が生じて闇の女神オプスを包む。


「トール……ありがとう。
私は待ちます貴方が私を救ってくれる日を……
この霧の中に居れば私は傷つくことはありません。

何千年でも、何万年でも貴方が救ってくれる日を私は待っています」

トールの想いが通じたのか闇の女神オプスは生きる事を待つ事を選んだ。


 タナトスは空間を歪ませ去ろうとしている、夜明けが来たのだ。
 トールがタナトスを逃そうとせず、必死になるがブラッドナイト達がそれを阻む。
 更にデスナイトまでもが数体現れてトールを阻もうとする。


 オプスは闇の霧の中で泣いていた、泣きながら泣きながら囁く。
「こんな私を愛してくれて……
ありがとう……
私もあなたを愛しています。」
その声はトールに暗黒を通して伝わる。

 トールは全力で暗黒を振るい立ちはだかる者を全て斬り倒していくが間に合わない、無情にもタナトスは去ってしまった。

「ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎」

 トールは叫んだ心から魂から、喉が切れる程に叫んだ。
 そして怒り狂い殺意と怒りを瞳に宿らせて冥界の者達を斬り裂いていく。


 その戦いぶりはどちらが冥界の者か解らなくなるほどであった。


(救えなかった!救えなかった!
救えなかった救えなかった救えなかった救えなかった救えなかった‼︎

オプス様を!

愛する女神を!


愛する人を救えなかった‼︎)

 トールは心の底から叫んでいた。
 その声は天界でトールに想いを寄せていたウィンディアまで届く。
 ウィンディアは静かに一筋の涙を流しトールを見守っていた。


 ブラッドナイト達は一掃されデスナイトも、一体も残さずトールに倒される。
 その戦いぶりは正に鬼神と言える物があり、その怒りと憎しみが想像出来ない程であることが容易に解る。


 そして戦いに加わったシャイナに向かってトールが言う。
「きさま……次にオプス様を狙えば……
その首無いと思え」
凄まじい殺意を込めトールは言っていた、出来れば今すぐにでも殺してしまいたい……だがオプスに仕えている者を殺す訳にはいかなかった。


 その後トールは絶望と怒りを通り越してしまい、己の無力感に囚われながらもクリタスに戻る。
 死竜タナトスが冥界に去ったこと、神々がトールに手を貸したこと、全ての知らせが既に首都クリタスに届いていた。

 国王はトールを厚く迎え、民衆も英雄トールが死竜を退けた事に歓声を上げるが。



 トールは虚しかった、限りなく虚しく
己が非力であると感じていた。
 どの様な賛辞も、どの様な褒美も、英雄と謳われようが彼の心には届かなかった。
 彼は涙を流せない程に自らの非力を嘆いていた。
 彼は二つの力を失った闇の神剣暗黒を初めて重く感じている。

 トールは従者に馬を引かれ、クリタスの闇の大神殿に招かれ、大神殿に着いた時それは起きた。


「トール、レジェンドを名乗りなさい……」


 いきなり空から神聖な声が響いてきた。
 そして旋風が巻き起こり、トールの乗る馬の前に神々しく神聖な存在が現れた。
「きさまは?」
トールは驚かず一歩も引かずに聞く。


「私は風の女神ウィンディア……」
ウィンディアがそう名乗りながらローブのフードを外し素顔を表す。

 その容姿はオプスに引けを取らぬ美しさでただ髪の毛先は風の様に透明であり、不思議な髪をしている。
 また白いローブには目に見えて風の精霊が出入りしていた。
 その姿を見た民衆も神官も全てウィンディアに跪く。


「あなたの想いは全て天に届いてました。
その想いを天は記しております……」


トールは跪くことなく馬上から聞いている。
「トール無礼であるぞ!跪け‼︎」
国王がトールに叫ぶ。

「俺が跪く神はオプス様だけだ……」
トールが静かに言う。
 ウィンディアがクスクスと笑う。


「何がおかしい?」
トールが聞くと。

「あなたは昔からそうですね。
あなたらしく、風の女神である私にも屈しない……
優しい風の様な心と、竜巻の様な力強さも持っていますね」
そうウィンディアは言い話を続ける。

「何千何万年と……
あなたは誓いましたね?
私の姉、闇の女神オプスを救うと……

どれ程時がかかっても救うと」


「あぁ、それがどうした⁈」
トールは力強く聞き返すと不思議な感覚を覚えた……
 心から虚しさが少しづつ消えて行くのを感じたのだ。

「あなたが!
それだけ長く生きられない事を知ってて言ったのですか⁉︎」
更にウィンディアは問う。

「あぁ!何度死んでも!
生まれ変わる度に!
オプス様を追いかける‼︎」
その言葉その意思に偽りはない、爛々と闘志の炎がトールの瞳に戻って来た。


その瞳をウィンディアは見て微笑んだ。
そして風に舞い浮き上がり、トールの頰を優しく触り口付けをした。

「貴様!何をするんだ‼︎」

 トールは怒りウィンディアを突き飛ばすが、風を押した様に意味がない。
 ウィンディアはクスクス笑いながら言う。

「今……
あなたにレジェンドを授けました。
あなたの願いは……
あなたの命では叶いません……」
 そしてトールへの想いを振り払う様にウィンディアは強く強く言う。


「あなたが本当に……

愛する人を救い守りたいなら!

闇のレジェンドに見合う行いをしなさい!

伝説を産み出しなさい!

奇跡を産み出すのが英雄ならば!

神話を産み出すのが伝説!
つまりレジェンド……

あなたが愛する……
私の姉である闇の女神オプスを!
救いたいのなら‼︎

神話に書き足される行いをしなさい!」


 力強くウィンディアは言うが涙を流し始めていた。
 ウィンディアはトールを幼い頃から見続けていた、そして想いを寄せていたがオプスとトールが両思いになったこと。
 そして今のオプスをトールの想いが支えていること。
 それら全てを見て諦めるしか無かった、そして二人を応援すると決めたのだ。


「あなたがその想いを、永遠に忘れないのであれば……

我が名!
風の女神ウィンディアの名の元に!
あなたの来世でその時に導くことを……
お約束しましょう」
ウィンディアはトールを導くと約束した。

「遠い旅になるかも知れませんよ?
追い続けられますか?」
ウィンディアが最後にトールに聞く。


「あぁ……二度はない!
今度こそ必ず救い出して見せる!
例え何千何万年先であろうとも!
救い出して見せる‼︎」
トールが力強く言うと歓声が上がり、トールの瞳は愛と闘志の炎で完全なる輝きを取り戻した。

 その様子見てウィンディアは、美しく微笑み静かに天に帰って行く。
 大切な人が立ち直ってくれ、嬉しくもあり悲しくもあり切なさを抱きしめて天界に帰って行く……


 天界ではウィンディアの行動はウィンディアが勝手にしたことで、多少アインに言われたが、二人の女神に愛されたトールにクロノスが褒め称え、アインもトールのオプスへの愛の強さを認めざるおえなかった。


 破壊神クロノスはこの出来事が、数万年先まで深く影響する事を考えていた。
 それが未来だけ出なく過去にも原因があるのではないかと、気にし始めていた。




✡︎ユニオンレグヌス✡︎~序章 闇のレジェンド~完
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