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序章〜闇のレジェンド〜

序章4話✡︎トータリアの想い✡︎

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 あの誓いから四百年経ち、トールは千五百歳になっていた。
 その肉体は美しく鍛え上げられ、ひたすらに己と戦い続け自らを磨き続け、若い獅子を思わせる様な戦士に成長していた。

 トールは若い頃にグーダと木剣で剣を磨いていた場所で一人、暗黒をひたすらに振って居た。
 トールは待っていた。
 死竜タナトスが現れるのを何処に現れるのかは解らない、あれから四百年タナトスはアインを恐れたのか現れて居ない。

 だが彼は予想して居た、もし闇の女神オプスの全てを奪うなら、闇の女神オプスが生み出し、闇の眷属が集まり栄えるこのクリタス王国に現れるのではと……

 地上世界を冥界が滅ぼすなら、冥界と戦う為に生み出された、闇の眷属を滅ぼすのが先では無いかとそう考えていた。


「やはりここに居たか」
 グーダが来て言う、四百年前の一件でアグドはあの族長一人が命を落としただけで平定された。
 それ以降グーダはオーバーロードとして、アグド国王を支えている。


「お前…トータリアをどうするんだ、トータリアはお前の事を愛している、それでもお前の気持ちを知っていて黙っている。
お前は解っているのか?」
グーダがトールに妹の事を話して来た。
 トールもそれは知っていたのだがトールは大切な妹を妹としてしか見れなかった。


 トールにとってオプス様への愛は絶対であった……


「まぁ…お前も良く考えろよ。
あとミノタウロスあいつらはユニオンには加わらないが、ユニオンと同盟を結ぶ事を受け入れてくれた……
だが獣人族としての文化は守りたいらしい、それが条件で巨人族もそれを快く受け入れてくれた。」
それを聞いてトールは僅かに口元だけで笑った……地上世界から大きな争いの火種が消えた。

 トールは既に種族と言う概念を小さく持ち、地上世界の命ある者は全て仲間だと信じていた。
 それが闇の女神オプスが願うことだと既にトールは気付いていた。


「大したもんだよ、お前の知恵はあれから四百年で地上世界の辺境以外を全て平定した……英雄と皆が言っているのを知っているか?」
グーダがそう言うと、トールはやっと口を開く…

「解らぬ!
愛する人を救えない守れないで……
何が英雄だ……」
そう言い最後に、上から下に暗黒を振り下ろした。
 その剣気は凄まじく、振り下ろした時に風が巻き起こった。


 その夜、首都クリタスで都市を上げて祝宴が催された。
ミノタウロスの国との同盟が成立した事、その平和を祝う為に盛大に開かれた。
 この祝宴は各国でもそれぞれの首都で開かれていた。
 獣人族との争いは長年に渡っていた。
 獣人族は大規模な戦闘を展開しない為に、影響は表面上には中々出ないが、軍事的内政的には大きく影響していたのだ。
 それが無くなりユニオン全体の喜びは大きい。


 その頃、闇の女神オプスが居なくなった暗黒の世界にはおかしなことが起きていた。

「愚かな冥界の亡者ども……
サイクロプス!踏み潰してやれ!」

 冥界から亡者が暗黒の世界に雪崩れ込んできたのである。
 だが所詮は亡者、闇の眷属の中で力のある魔族が守る暗黒の世界は、亡者如きではどうにもならない筈が押し寄せて来た。


「シャイナ!影の女王シャイナ!おかしくないか?
地上ならいざ知らず、この程度でこの暗黒の世界はどうにもならない……なのになぜ……」
メドゥーサの一人がシャイナに話して来た。
 影の女王シャイナは本当に力のあるドッペルの一人、過去に人間の男性を心から愛し罪を犯してしまった。
 その罪を償う為に闇の女神オプスが居ない今、全力で暗黒の世界を支えている。


 地上ならとシャイナは少し考える。
(まさか…四百年前と同じ?
だとしたら……)
「ペルス!今地上で一番人が集まってる所は何処ですか⁈」
メドゥーサはペルスと言うらしい、ペルスは少し考え答える。
「クリタスだ!確かいま祝いの宴をしている筈だが……まさか!」
ペルスは驚き髪の蛇まで驚く。


「ペルスここはお願いします!
ドッペル達!二人づつで各地の記憶の棚を守りなさい!」
そうシャイナは指示を出してから急いで地上に向かって行った。


 クリタスの祝いの宴は最高潮に達していた。
その喜びに酔い新しい愛が生まれ、美しい未来を想い人々は舞い踊り、至る所で歓声が上がっていた。
 国王も今だけはと闇の女神オプス様が囚われていることには触れず、皆と喜びを分かち合う。
 グーダは忙しく、用を済ませて故郷アグドへの帰路についていた。


「トータリア姫!トータリア姫!」
衛兵隊がトータリアを探している。
 そのトータリアは兄トールの部屋の扉を開け中の様子を伺っていた。

 トールは戦士の皮の腰当てを身につけ上半身には何も身につけずに、ひたすら体を鍛えていた。
 その姿を月明かりが照らし美しい肉体を際立たせる。


「お兄様、祝いの宴には行かないのですか?」
トータリアはうっとりして、時を忘れそうになったのを抑え声をかける。

「お前こそ出なくて良いのか?」
トールが鍛えながらトータリアに聞く。
「お兄様と居る方が楽しいです。
トータリアはお兄様を見てるだけで幸せになれます」
トータリアの無垢な愛はひしひしとトールに伝わるが、トータリアはトールが闇の女神オプスを愛している事を知っていた。


一族としても血縁を重んじる為に、それが叶えば王も喜ぶだろう。
 だがトールは心の中で詫びることしか出来ない。

トールは二人きりになる事を避け、仕方なく祝いの席に行くことにして何時もの様にマントを手に取る。
「お兄様、こちらにしては?」
そう言いトータリアが正装用の王子のマントを持ってくる。


 闇の眷属を表す漆黒の中に、オプスの印が縫い込まれている。
 以前はよく使ったが闇の女神オプスが囚われてからは、祝いの行事ではあまり使われなくなってしまった印……


トールはそのマントを見て静かに聞く。
「いいのか?」


「お兄様は昔から、
一度決めたらこうって絶対に諦めませんから、でも……

フラれたら必ず私と結婚して下さいね!」
トータリアは精一杯の笑顔で言った。

「すまない…」
「あ~あ…私もお兄様に追いかけられたいな~」

トータリアは本心をふざけながら言い、トールもそれに笑顔を見せてトータリアの頭を撫でた。

 二人は親しげに祝いの席に向かう。
 トールは正装に着替えず、何時もの戦士の姿でマントはあのオプスの印が縫い込まれているマントを身につけた。

 英雄と謳われているトールには、正装用のマント一つで十分であった。
 暗黒も背負っている、トールは誰にも触られることがない様に常に身につけている。


「トール様だ!クリタスの英雄トール様がお見えになったぞ!」
 民衆の歓声が熱狂に変わる!誰もが信じていた。
 トールがこの世を去るその時までこのクリタスは繁栄し続けると。

トールは民衆に応えて笑顔で手を振り、感じて居た…
(私が守らねばならない民と地上……
それを忘れない為に、この様な場で一人一人の笑顔を見ておくのも大切なのだな……)
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