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第3部 欺いた青春篇

エピローグ【3】

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 学生御用達のファミレス。

 まあメニューも安いし、ドリンクバーなんかで飲み物を永遠と楽しみながら過ごせる、まさに学生のオアシス。

 そういえば時々、教材を広げて勉強しているやつもいるよな。俺はやったこと無いけど。

「よし、じゃあファミレス行こっか?」

「うん、行こう行こうっ!」

 まるでアミューズメントパークに連れて行ってもらう子供のように、神坂さんははしゃいでいる。

 なるほど、彼女は確かに純粋だ。ファミレスに行くだけで、こんなに喜んでもらえるのだから。

 捻くれ者の俺とは、まさに対極の位置にいる人。おそらく、天地とも。

 この純粋さが、今回の一件を引き起こした一つの原因であるにせよ、しかし、決して失ってもらいたくない、彼女が彼女であるためのアイデンティティだと思っている。

 まあでも、今回の一件で少しは人を疑うってことを覚えてくれたらいいんだけど……どうだろうな?

 さて、そんな一抹の不安はさておき、今俺は腹が減っている。

 ということで、俺と神坂さんはファミレスに向かおうと、図書館の入口を背にした時、ふと神坂さんは何かを思い出したかのように、もう一度図書館の方へと振り返った。

「どうしたの?」

 俺が尋ねると、神坂さんはその天井がドーム状になっている白い建物を、切なそうに見つめていた。

「うん……しばらくここには来なくなるかもしれないから、ここには本当に、お世話になったなって思っちゃってさ」

「ああ……そっか」

 この図書館は、彼女にとって本を読む場でもあり、そして縛られた家庭から、一時の安らぎを得るための大切な場所でもあった。

 しかしその問題が一応の解決を見出した今、彼女にとっての、唯一自分が自分でいられる、揺り籠のようになっていたこの場所の、その役目が終わるのだ。

 彼女はもう、他の場所でも彼女のままでいられるのだから。

 その権利を、自分で手にしたのだから。

「……お世話になりました、また本を借りに来ます」

 そう言って、神坂さんは図書館へ深々と頭を下げた。

 まるでそう、親元を離れる娘のように、深く、深く、しばらくの間、黙って頭を下げていた。

「…………よしっ!それじゃあ行こっか岡崎君!」

「ああ、もうお腹が減って仕方がないよ。俺はそうだな……ミックスグリルのセットとかがいいかなぁ」

「ふふっ、じゃああたしは何を食べようかな~」

 そんな感じで、俺と神坂さんはこの公立図書館を後にしたのだった。

 俺も神坂さんも、この図書館で落ち合うことは、この先しばらくは無くなるだろう。

 しかしまだ、一時的に崩壊を免れた家庭が、またいつバランスがとれなくなり、崩壊の危機に立ち合うかなど、分かりはしない。

 そしてあの鷺崎という男が、またいつか俺達の前に現れ、この平穏を掻き乱す可能性が無いとも言い切れない。

 全てが一旦であり、完結はしていない。

 これは一時の、俺達に与えられた猶予であるのかもしれない。

 しかしそれでもいい。その時だけの幸せであろうと、その瞬間の安らぎであっても構わない。

 それが欺瞞に満ちた、かりそめの幸せではなく、本物の幸せであれば、それだけで十分、人は満足することができるのだ。

 だから今この時は、目の前の幸せを楽しむことにしよう。

 そうだな……とりあえずまず、目の前ではしゃいでいる天使と、ファミレスで二人っきりでどんな団欒を繰り広げようか、まずその幸せについて、俺は全力で取り組もうと思っている。
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