94 / 103
第3部 欺いた青春篇
第5章 因縁の終止符【6】
しおりを挟む
「それに鷺崎は、最後にあなたに負け惜しみを言って去って行ったわ。あの男は一言われれば、百で返すような、そんな男なのに、岡崎君はそれを打ち破ったのよ。あんな鷺崎を見たのは、わたしも初めてだったわ」
「そ……そうなのか!」
「あなたの捻くれ度合いが、鷺崎のそれを上回ったってことね」
「……それ、素直に喜べないのだが」
他人よりも捻くれてると言われて、万歳三唱できる者がどこにいるだろうか、いや、世界を探しても一人や二人いるくらいだろう。
全くいないということはないだろうけれど……とか言ってる時点で、かなり捻くれてるよな俺って。
「まあとにかく、今回は岡崎君の身勝手さとあまのじゃくなところに助けられたってことね。感謝するわ」
「それ本当に感謝されてるのか俺?けなされてるような気もするんだが……」
「なに言ってるの?これ以上にない称賛の言葉をわたしはあなたに捧げているのよ。今生で、これ以上の言葉は無いと思いなさい」
「今生!?一生の最高地点が、最低地点の言葉にしか聞こえなかったぞ俺には!」
むしろ蔑まされてるような気も、しなくもないほどに。
そういう趣向を持ってる人からはありがたい言葉なのかもしれないが、生憎俺はそういう傾向は持ち合わせていないので、嬉しくもなんともない。むしろ、少し傷つくくらいだ。
しかし、それでもこいつと一緒に居るのは何故なのだろうと、ふと考えてしまうことも、無くもないが。
「なるほど、どうやら岡崎君は、感謝の言葉だけでは足りないと、そうわたしに言っているのね?」
「いや……決してそういう意味で言ってるわけじゃないんだけどさ……」
「いいわ、特別になんでも願いを一つ叶えてあげるわ」
「なんだそのランプの魔人みたいな恩返しは」
「ランプの魔人よりけち臭くて悪かったわね」
「別に俺は願いの数に不満を持ってるわけじゃないからなっ!」
ちなみにランプの魔人は三つだが、別に俺はそこにケチをつけたいわけでもない。
そんなことを言っていたら、ボールを世界中から七つも集めて、やっと一つの願い事を叶えてくれる龍にまでケチをつけなければならなくなるからな。
「俺は別にそんな、等価交換みたいに何かをしたら何かを返すみたいな、そういうことを求めてるわけじゃないんだ」
「あらそう、無欲なのね。だけど岡崎君、わたしとしては、このまま何も感謝の意をあなたに伝えられない方が、生殺しにされているような、そんな気分になってしまって嫌なのよ」
「別に、ありがとうの一言でもいいんだぜ?」
「それだったらまだ、あなたに永遠の命を与えた方がわたしにとっては容易いわ」
「お前にとってのありがとうってどんだけハードル高いんだよっ!」
確かに大人になればなるほど、言い難くなる言葉ではあるのだろうけれど、でも幾百の人間が夢見て挑戦し、失敗してきた不老不死を実現させるほどの難易度は無いだろう。
「でも、わたしは岡崎君にそれくらい感謝してるということよ。だから、その借りをわたしは今ここで返して、今回の件はスッキリサッパリ終わらせておきたいということなのよ」
「借りなんて、そんな大そうなことはしてないのだが……まあ、お前がそういうなら、何かしてもらった方がいいのかもしれないな」
ようはそういうことだ。天地はこの一件、尾を引きたくないのだろう。
借りという形ではないにしても、後腐れを残しておきたくないということだ。
やはり鷺崎のことは、あまり記憶に留めておきたくないのだろう。
「でも一つか……何でもいいって言われると悩むよなこういうのって」
「別に何でもいいのよ。一週間Tバックを履き続けて欲しいとか、一週間ヌーブラを着けて欲しいとか」
「何で下着関係ばかりなんだっ!」
「いや……体に何かするっていうのはちょっと、わたしとしてはまだまだ心の準備が……」
「へ?……いや待てっ!別に俺は下着じゃ満足しないとか、そういう意味で言ったわけじゃないからなっ!!」
「あらそう、無欲なのね」
「…………」
そういう意味で言ったわけじゃないのだが、興味が無いわけでもない。
まあ……年頃の男子高校生なんだから、それくらい当たり前だろ?小学生ですら、女の子のパンツを見て喜ぶくらいなんだから、高校生ってなるともっとハイレベルなものを求めたくなるものなのさ。
でも原点は同じようなものなのだから、男は一生、そういう部分だけは少年なのかもしれないな。
「じゃあいいわ、まだ決まらないなら、下山して、わたしの家に帰るまでに考えておいてちょうだい」
「えっ……あぁそうか、俺、今日お前の家で合宿していたんだったな」
そういえば、そうだった。俺は今天地と夏休みの課題を消化するための、合宿をしている真っ最中だったのだ。
正直この数時間が、まるで数日間経ったのと同じ程度に濃く、深い時間だったため、合宿のその存在が、すっかり頭から離れてしまっていた。
「なに?そんなことも忘れていたの岡崎君は?若くしてもうその記憶力って……若年性って怖いわね」
「俺は別に若年性の認知症とか、そんなことないから!これはあくまで健忘の範囲のことだから!」
「認知症でなくとも、健忘が著しいのは、もう脳が年をとってる証なのよ。肉体が若くても、脳が若いとは限らないわ」
「…………それを聞いて少し怖くなってきたよ」
「そう、じゃあ帰ってお勉強をして、わたしと一緒に脳を鍛えましょ」
結局、そんな話の落とし方をして、天地は高台の先端から離れ、俺を横切って道を下り始めた。
その時、俺はふと思いついた。
「そうだ天地、願いが一つだけある」
「なにかしら?」
それはある種、悪知恵。
人の好意を逆手に取るような、人を欺いたような行為。
そしてそれはなにより、俺の学力をつけるためにこの合宿を開いた天地を、裏切ってしまいかねないような、そんな願い事ではあった。
「数学の課題を写させてくれ」
「…………」
その後天地にどんな反応をとられたかは、各者の想像にお任せしよう。
ただ一つだけ言えるのは、まだ俺の数学の課題は、半分しか終わっていない。
「そ……そうなのか!」
「あなたの捻くれ度合いが、鷺崎のそれを上回ったってことね」
「……それ、素直に喜べないのだが」
他人よりも捻くれてると言われて、万歳三唱できる者がどこにいるだろうか、いや、世界を探しても一人や二人いるくらいだろう。
全くいないということはないだろうけれど……とか言ってる時点で、かなり捻くれてるよな俺って。
「まあとにかく、今回は岡崎君の身勝手さとあまのじゃくなところに助けられたってことね。感謝するわ」
「それ本当に感謝されてるのか俺?けなされてるような気もするんだが……」
「なに言ってるの?これ以上にない称賛の言葉をわたしはあなたに捧げているのよ。今生で、これ以上の言葉は無いと思いなさい」
「今生!?一生の最高地点が、最低地点の言葉にしか聞こえなかったぞ俺には!」
むしろ蔑まされてるような気も、しなくもないほどに。
そういう趣向を持ってる人からはありがたい言葉なのかもしれないが、生憎俺はそういう傾向は持ち合わせていないので、嬉しくもなんともない。むしろ、少し傷つくくらいだ。
しかし、それでもこいつと一緒に居るのは何故なのだろうと、ふと考えてしまうことも、無くもないが。
「なるほど、どうやら岡崎君は、感謝の言葉だけでは足りないと、そうわたしに言っているのね?」
「いや……決してそういう意味で言ってるわけじゃないんだけどさ……」
「いいわ、特別になんでも願いを一つ叶えてあげるわ」
「なんだそのランプの魔人みたいな恩返しは」
「ランプの魔人よりけち臭くて悪かったわね」
「別に俺は願いの数に不満を持ってるわけじゃないからなっ!」
ちなみにランプの魔人は三つだが、別に俺はそこにケチをつけたいわけでもない。
そんなことを言っていたら、ボールを世界中から七つも集めて、やっと一つの願い事を叶えてくれる龍にまでケチをつけなければならなくなるからな。
「俺は別にそんな、等価交換みたいに何かをしたら何かを返すみたいな、そういうことを求めてるわけじゃないんだ」
「あらそう、無欲なのね。だけど岡崎君、わたしとしては、このまま何も感謝の意をあなたに伝えられない方が、生殺しにされているような、そんな気分になってしまって嫌なのよ」
「別に、ありがとうの一言でもいいんだぜ?」
「それだったらまだ、あなたに永遠の命を与えた方がわたしにとっては容易いわ」
「お前にとってのありがとうってどんだけハードル高いんだよっ!」
確かに大人になればなるほど、言い難くなる言葉ではあるのだろうけれど、でも幾百の人間が夢見て挑戦し、失敗してきた不老不死を実現させるほどの難易度は無いだろう。
「でも、わたしは岡崎君にそれくらい感謝してるということよ。だから、その借りをわたしは今ここで返して、今回の件はスッキリサッパリ終わらせておきたいということなのよ」
「借りなんて、そんな大そうなことはしてないのだが……まあ、お前がそういうなら、何かしてもらった方がいいのかもしれないな」
ようはそういうことだ。天地はこの一件、尾を引きたくないのだろう。
借りという形ではないにしても、後腐れを残しておきたくないということだ。
やはり鷺崎のことは、あまり記憶に留めておきたくないのだろう。
「でも一つか……何でもいいって言われると悩むよなこういうのって」
「別に何でもいいのよ。一週間Tバックを履き続けて欲しいとか、一週間ヌーブラを着けて欲しいとか」
「何で下着関係ばかりなんだっ!」
「いや……体に何かするっていうのはちょっと、わたしとしてはまだまだ心の準備が……」
「へ?……いや待てっ!別に俺は下着じゃ満足しないとか、そういう意味で言ったわけじゃないからなっ!!」
「あらそう、無欲なのね」
「…………」
そういう意味で言ったわけじゃないのだが、興味が無いわけでもない。
まあ……年頃の男子高校生なんだから、それくらい当たり前だろ?小学生ですら、女の子のパンツを見て喜ぶくらいなんだから、高校生ってなるともっとハイレベルなものを求めたくなるものなのさ。
でも原点は同じようなものなのだから、男は一生、そういう部分だけは少年なのかもしれないな。
「じゃあいいわ、まだ決まらないなら、下山して、わたしの家に帰るまでに考えておいてちょうだい」
「えっ……あぁそうか、俺、今日お前の家で合宿していたんだったな」
そういえば、そうだった。俺は今天地と夏休みの課題を消化するための、合宿をしている真っ最中だったのだ。
正直この数時間が、まるで数日間経ったのと同じ程度に濃く、深い時間だったため、合宿のその存在が、すっかり頭から離れてしまっていた。
「なに?そんなことも忘れていたの岡崎君は?若くしてもうその記憶力って……若年性って怖いわね」
「俺は別に若年性の認知症とか、そんなことないから!これはあくまで健忘の範囲のことだから!」
「認知症でなくとも、健忘が著しいのは、もう脳が年をとってる証なのよ。肉体が若くても、脳が若いとは限らないわ」
「…………それを聞いて少し怖くなってきたよ」
「そう、じゃあ帰ってお勉強をして、わたしと一緒に脳を鍛えましょ」
結局、そんな話の落とし方をして、天地は高台の先端から離れ、俺を横切って道を下り始めた。
その時、俺はふと思いついた。
「そうだ天地、願いが一つだけある」
「なにかしら?」
それはある種、悪知恵。
人の好意を逆手に取るような、人を欺いたような行為。
そしてそれはなにより、俺の学力をつけるためにこの合宿を開いた天地を、裏切ってしまいかねないような、そんな願い事ではあった。
「数学の課題を写させてくれ」
「…………」
その後天地にどんな反応をとられたかは、各者の想像にお任せしよう。
ただ一つだけ言えるのは、まだ俺の数学の課題は、半分しか終わっていない。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】悪女のなみだ
じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」
双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。
カレン、私の妹。
私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。
一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。
「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」
私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。
「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」
罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。
本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる