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第5章 バベルの塔
003【1】
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無事縄を道具屋にて入手したキョウスケ達一行は、バベルの塔へ向かうためシンアルの街の北を目指していた。
その道中、グレイは遠くから馬の蹄の音が聞こえるのを耳で聞き取った。
「マズイみんな!馬の走る音が聞こえる!」
「馬!?ってことは……まさか騎士団!」
「そうかもしれん……みんな散って隠れるんだ!」
グレイの指示通り、四人はバラバラになり思い思いの場所に隠れる。
キョウスケは建物の陰に隠れ、騎士が過ぎ去るのを耳で追う。
石畳みと馬の蹄がぶつかり合う、パカラパカラという軽快な音が近づいてき、それは止まることなくキョウスケの元を過ぎ去って行った。
「ふぅ……誰も見つからなかったみたいでよかったぁ……」
キョウスケが建物の陰から出てくると、カコは最初に居たその場所から一歩も動いていなかった。
「あれ?母さん隠れなかったの?」
「えぇ、だってグレイさんがわたしは面が割れてないから隠れる必要は無いって」
「あっそういえばそっか。追いかけられてるのは僕とグレイとジャックさんだからね」
「でもその内わたしも追われる身になるんでしょうねぇ~……女賞金首……カッコイイと思わない?」
「どうだろう……」
カコは楽しそうにうふふ、と笑ってみせる。
冗談なのか、本気でこの状況を楽しんでいるのか……四人の中で最も大物なのは自分の母親なのかもしれない。
そうキョウスケは心の中で思った。
「そういえば他の二人は……?」
キョロキョロと辺りを探すキョウスケだったが、その足元から急に声は聞こえた。
「キョウスケ、俺はここだ」
「わっ!?ぐ……グレイ!」
カコとキョウスケの丁度真下にグレイは伏せていた。
どうやらグレイの背丈が小さかったため、カコの長い尻尾に被さることで騎士からは死角となり、隠れることが出来たようだった。
「……そうやって見るとやっぱり犬と飼い主に見えるね」
「犬って言うな!ほらカコさんも何か言ってくださいよ」
「ふふっいいじゃない。こんな偉いワンちゃんならうちは大歓迎よ?」
「ワンちゃんじゃなーいっっ!!!」
グレイの怒る姿を見て、その母と子は面白可笑しく笑う。
そんな二人を見て、グレイは「嫌な奴等……」とぼそりと誰にも聞こえないくらいの声量で呟いた。
「グレイがここにいるってことは……ジャックさんもこの近くなのかな?」
キョウスケが再び捜索を始めると、今度は近くにあった四角の大きなゴミ箱が爆裂音の様な音を立てて、勢いよく蓋が開いた。
「おえっ!くっせぇ~っ!!」
「ジャ……ジャックさん!?」
そこから出てきたのは、買った縄を担いでいたジャックだった。
ジャックは目に涙を浮かべながら、咳と嗚咽を繰り返しに行い、ゴミのニオイにむせ返っていた。
「な……何でジャックさんそんな所に隠れたの!?」
「何でって隠れるために決まってるだろ?俺はキョウスケやグレイみたいにちびっ子じゃねぇんだいっ!」
ジャックの身長は165センチちょっとあり、キョウスケ達四人の中で最も背が高い。
これくらいの背丈になってくると、建物の陰に隠れてもはみ出てしまうし、ましてやカコの尻尾の裏側になど隠れる訳にもいかず、ちょうど目に入ったゴミ箱の中につかさず潜り込んだのだった。
「それにオイラだってこんなくっさい物の中になんか隠れたくなかったぜ!おかげで身体中ゴミのニオイで溢れてやがらぁ!!」
「うわホントだ……少しだけゴミのニオイがする……」
ジャックの体からは微かなゴミのニオイがし、キョウスケとカコにとってはそこまで気にするほどのものではなかったのだが、それを顕著に嫌がったのはグレイだった。
「……俺の半径5メートル以内に入らないでくれ。臭くて仕方ない」
「半径5メートルってどんだけ離れないといけないんだよっ!これくらいのニオイだったら我慢できるだろ!!」
「お前には僅かなニオイに感じるかもしれんが、俺からすると目の前にゴミ袋が常に置かれているような気になって非常に不愉快なんだ」
「ご……ゴミ袋って……」
グレイは耳も良いが、鼻も良く、ジャックに付いたゴミのニオイは微かな物であっても、グレイにはその二倍、三倍と臭いものに感じたのだ。
これにはさすがのジャックも、ショックを受け落胆した。
「わ……分かった!じゃあさオイラ今からシャワー浴びてくるからさ……」
「そんな悠長な時間は無い。さっきの騎士、シンアルの南の門に向かっていただろ。恐らく検問の状況が変わったに違いない。このまま騎士団の騎士が全部バベルの塔に戻ったら、それこそ全ての作戦が破綻してしまう。それだけは何としてでも阻止しないといけないんだ」
「そ……そんなぁ……」
「ま……まぁ緊急だしジャックさん。それに、それくらいのニオイならその内取れると思うし、気にしないでよ」
「うぅ……すまねぇなキョウスケ」
さすがに可哀想に思ったキョウスケはジャックをフォローしつつ、先を急ぐよう促し、そしてグレイにも忘れずに注意喚起をしておく。
「グレイもさ、こういう時なんだし、ジャックさんもわざとこうなった訳じゃないんだからさ。少しは我慢してね?」
「……あぁ、出来る限り我慢する。すまなかったなジャック」
「……へっ!分かってくれればそれでいいんだよ!まっオイラもなるべく気をつけるからさ!!」
グレイも反省し、ジャックもグレイのことを許す。
そんな二人をまとめる我が子を見て、母親のカコは彼女の夫で、キョウスケの父であるシュンジの面影を感じた。
「あれ?母さんどうしたの?そんなじっと見て……僕の顔に何か付いてる?」
そんな母の視線に気づいたキョウスケは、そう言って首を傾げ、カコはそれに対して微笑みを返した。
「いえ……何でもないわ。さて、みんな仲良くなったことだし、バベルの塔に乗り込むわよぉ~!!」
「か……母さんそんな堂々と言っちゃダメだよ!誰に聞かれてるか分からないんだからさ!!」
幸い、その時キョウスケ達の周りには人通りは無く、聞き耳を立てていそうな者もいなかったのは救いだった。
もし聞かれていたならば、騎士団に通報されて作戦が破綻するどころか、捕まってしまう可能性だってあった。
だからこそ、キョウスケは相手が例え母親であっても、強く注意したのだった。
その道中、グレイは遠くから馬の蹄の音が聞こえるのを耳で聞き取った。
「マズイみんな!馬の走る音が聞こえる!」
「馬!?ってことは……まさか騎士団!」
「そうかもしれん……みんな散って隠れるんだ!」
グレイの指示通り、四人はバラバラになり思い思いの場所に隠れる。
キョウスケは建物の陰に隠れ、騎士が過ぎ去るのを耳で追う。
石畳みと馬の蹄がぶつかり合う、パカラパカラという軽快な音が近づいてき、それは止まることなくキョウスケの元を過ぎ去って行った。
「ふぅ……誰も見つからなかったみたいでよかったぁ……」
キョウスケが建物の陰から出てくると、カコは最初に居たその場所から一歩も動いていなかった。
「あれ?母さん隠れなかったの?」
「えぇ、だってグレイさんがわたしは面が割れてないから隠れる必要は無いって」
「あっそういえばそっか。追いかけられてるのは僕とグレイとジャックさんだからね」
「でもその内わたしも追われる身になるんでしょうねぇ~……女賞金首……カッコイイと思わない?」
「どうだろう……」
カコは楽しそうにうふふ、と笑ってみせる。
冗談なのか、本気でこの状況を楽しんでいるのか……四人の中で最も大物なのは自分の母親なのかもしれない。
そうキョウスケは心の中で思った。
「そういえば他の二人は……?」
キョロキョロと辺りを探すキョウスケだったが、その足元から急に声は聞こえた。
「キョウスケ、俺はここだ」
「わっ!?ぐ……グレイ!」
カコとキョウスケの丁度真下にグレイは伏せていた。
どうやらグレイの背丈が小さかったため、カコの長い尻尾に被さることで騎士からは死角となり、隠れることが出来たようだった。
「……そうやって見るとやっぱり犬と飼い主に見えるね」
「犬って言うな!ほらカコさんも何か言ってくださいよ」
「ふふっいいじゃない。こんな偉いワンちゃんならうちは大歓迎よ?」
「ワンちゃんじゃなーいっっ!!!」
グレイの怒る姿を見て、その母と子は面白可笑しく笑う。
そんな二人を見て、グレイは「嫌な奴等……」とぼそりと誰にも聞こえないくらいの声量で呟いた。
「グレイがここにいるってことは……ジャックさんもこの近くなのかな?」
キョウスケが再び捜索を始めると、今度は近くにあった四角の大きなゴミ箱が爆裂音の様な音を立てて、勢いよく蓋が開いた。
「おえっ!くっせぇ~っ!!」
「ジャ……ジャックさん!?」
そこから出てきたのは、買った縄を担いでいたジャックだった。
ジャックは目に涙を浮かべながら、咳と嗚咽を繰り返しに行い、ゴミのニオイにむせ返っていた。
「な……何でジャックさんそんな所に隠れたの!?」
「何でって隠れるために決まってるだろ?俺はキョウスケやグレイみたいにちびっ子じゃねぇんだいっ!」
ジャックの身長は165センチちょっとあり、キョウスケ達四人の中で最も背が高い。
これくらいの背丈になってくると、建物の陰に隠れてもはみ出てしまうし、ましてやカコの尻尾の裏側になど隠れる訳にもいかず、ちょうど目に入ったゴミ箱の中につかさず潜り込んだのだった。
「それにオイラだってこんなくっさい物の中になんか隠れたくなかったぜ!おかげで身体中ゴミのニオイで溢れてやがらぁ!!」
「うわホントだ……少しだけゴミのニオイがする……」
ジャックの体からは微かなゴミのニオイがし、キョウスケとカコにとってはそこまで気にするほどのものではなかったのだが、それを顕著に嫌がったのはグレイだった。
「……俺の半径5メートル以内に入らないでくれ。臭くて仕方ない」
「半径5メートルってどんだけ離れないといけないんだよっ!これくらいのニオイだったら我慢できるだろ!!」
「お前には僅かなニオイに感じるかもしれんが、俺からすると目の前にゴミ袋が常に置かれているような気になって非常に不愉快なんだ」
「ご……ゴミ袋って……」
グレイは耳も良いが、鼻も良く、ジャックに付いたゴミのニオイは微かな物であっても、グレイにはその二倍、三倍と臭いものに感じたのだ。
これにはさすがのジャックも、ショックを受け落胆した。
「わ……分かった!じゃあさオイラ今からシャワー浴びてくるからさ……」
「そんな悠長な時間は無い。さっきの騎士、シンアルの南の門に向かっていただろ。恐らく検問の状況が変わったに違いない。このまま騎士団の騎士が全部バベルの塔に戻ったら、それこそ全ての作戦が破綻してしまう。それだけは何としてでも阻止しないといけないんだ」
「そ……そんなぁ……」
「ま……まぁ緊急だしジャックさん。それに、それくらいのニオイならその内取れると思うし、気にしないでよ」
「うぅ……すまねぇなキョウスケ」
さすがに可哀想に思ったキョウスケはジャックをフォローしつつ、先を急ぐよう促し、そしてグレイにも忘れずに注意喚起をしておく。
「グレイもさ、こういう時なんだし、ジャックさんもわざとこうなった訳じゃないんだからさ。少しは我慢してね?」
「……あぁ、出来る限り我慢する。すまなかったなジャック」
「……へっ!分かってくれればそれでいいんだよ!まっオイラもなるべく気をつけるからさ!!」
グレイも反省し、ジャックもグレイのことを許す。
そんな二人をまとめる我が子を見て、母親のカコは彼女の夫で、キョウスケの父であるシュンジの面影を感じた。
「あれ?母さんどうしたの?そんなじっと見て……僕の顔に何か付いてる?」
そんな母の視線に気づいたキョウスケは、そう言って首を傾げ、カコはそれに対して微笑みを返した。
「いえ……何でもないわ。さて、みんな仲良くなったことだし、バベルの塔に乗り込むわよぉ~!!」
「か……母さんそんな堂々と言っちゃダメだよ!誰に聞かれてるか分からないんだからさ!!」
幸い、その時キョウスケ達の周りには人通りは無く、聞き耳を立てていそうな者もいなかったのは救いだった。
もし聞かれていたならば、騎士団に通報されて作戦が破綻するどころか、捕まってしまう可能性だってあった。
だからこそ、キョウスケは相手が例え母親であっても、強く注意したのだった。
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