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第3章 アンダーグラウンド

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「囚人をみすみす取り逃がすとはなんたる恥晒しじゃキサマらああああああ!!!!」

アスタロトの怒号は駐屯施設どころか、アンダーグラウンド中に響き渡るような大きなものだった。
兵士達は肩をすくめてその様子を見守る。
兵士達が目覚めた頃には、すでに地下牢はもぬけの殻になっており、捕えていたはずのケルベロスと人間はすでに逃げ去った後であった。
兵士達は急いで施設の周囲を捜索したのだが、脱走した両名は見つからず、その間にデモンズスクエアに行っていたアスタロトが戻って来たのだ。

「くうう……急に呼ばれたかと思ったら大決戦の時にはベリトの背後に軍を置けと魔王に指示されるわ、無能な兵士共は囚人を取り逃がすわ……なんて悪夢のような一日なんだ今日はっ!!!」

悔しさのあまり、その場でアスタロトは地団太を踏む。
軍の後援に回れという指示は、すなわち魔王にイマイチ信用されていないということを意味する。
魔王の一番配下に位置するはずの親衛隊としては、これはプライドを崩されたも同然のことだった。

「異界の門を潜ってないとなると、囚人はまだこのアンダーグラウンドの中に潜伏しているはずだ!全勢力をもって建物の隅々からネズミの巣穴まで調べ尽くせ!見つからなければキサマらに明日は無いと思ええええ!!!」

「はっ……ははぁ!!!!!」

兵士達はアスタロトに敬礼をした後、散り散りとなりアンダーグラウンドの各方へと捜索に出向く。
それでも気が治まらないアスタロトは、自らが持っている蛇矛を振り回し、施設の壁を破壊した。
すると一人の兵士が捜索に向かわず、アスタロトの元へと戻ってきた。

「なんだキサマは……ってお前は最初にケルベロスの捜索へ行った……」

「デュラハンです」

そこに現れたのは全身鉄鎧の兵士、デュラハンだった。

「キサマも今すぐに囚人の捜索へ向かえ!さもなくばその首叩き斬るぞっ!!」

怒りで興奮しているアスタロトだが、対するデュラハンは冷静沈着……のふりをしているだけで内心はビクビクしていた。

「アスタロト様……実はケルベロス達が寄ったと思われる酒屋から情報を手に入れましたので報告を」

ドワーフの酒屋はデュラハンがよく通う酒屋で、ドワーフとは顔見知りの仲であった。
アスタロトや親衛隊を毛嫌いしていたドワーフだったが、デュラハンとは親交が深かったのだ。

「ほう……申してみろ」

「ははっ……実は酒屋のオヤジに伺ったところケルベロス達はデモンズスクエアの世界の鍵を探しているようです」

ほほう、とデュラハンは自らの顎を撫でる。

「デモンズスクエアの……しかしアンダーグラウンドにある全ての世界の鍵は我らが所持して……そ、そうか!」

その瞬間、アスタロトは閃く。
ケルベロス達が狙うもの、そして向かう場所、その全てが自分の手元にあったことを。

「そうです、きっと追わずともケルベロス達はここへ戻って来るでしょう。世界の鍵を求めて」

デュラハンは下げていた頭を少しだけ上げる。
アスタロトの表情には先程の怒りの形相は無く、むしろ不敵な笑みを浮かべていた。

「クックックッ……だとしても兵士達には奴らを追わせておけ。追われることで奴らに精神的な圧迫を与えられる……そしてこちらに来たところを我が直々にひっ捕らえようぞ!」

アスタロトは蛇矛を持ち、二回、三回と空を割く。
その舞には魔王に信頼されなかったという私怨、そして囚人に逃げられた怒りの両方の意味が込められていた。

「いつでも来いケルベロス……その時がヤツの最期よ!!!」

そんなやる気満々のアスタロトを見て、デュラハンは心の中で安堵の溜息をつく。
気まぐれな上司のご機嫌伺いも、楽な仕事ではなかった。
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