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疑似恋愛の章
ビキニを外したんで見てもいいですよ
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「三分経ったら見ちゃダメですからね。三分だけ特別に見てもいいですからね。ただし、私に触れるのはダメですから。触ったりしたら、お巡りさんに言っちゃいますからね」
俺の背後に立っている美桜ちゃんはそれまで身に付けていたビキニを璃々に手渡していた。本当に外すとは思っていなかったし、外したとしても璃々が止めると思ったので素直に受け取っていたのを見た時は驚いてしまった。それと同時に本当に外したんだという衝撃が俺の体を襲ったのだ。
「いいですね。今から三分間だけですからね。璃々の合図で始めてもらうんで、スタートしたら好きなだけ私の事を見てもいいですからね。もう一度言いますけど、見るだけで触ったりしたらダメですからね。見えてしまったのは仕方ないとしても、触っちゃうのは犯罪ですからね。お兄さん」
俺は璃々の合図を今か今かと待っているのだが、一向に璃々は俺に合図を送ってくれない。早くしないと他に誰か来ちゃうかもしれないだろうという焦りもあるのだが、この勝負をさっさと終わらせたいという思いもあったのだ。
「お兄ちゃん。なんか変なこと考えてない風を装ってるみたいだけどさ、これからやろうとしていることは完全に変態がする事だからね。璃々はお兄ちゃんの事も美桜ちゃんの事も信用しているから三分間はかることにするけどさ、変な事したらお兄ちゃんでもお巡りさんに言っちゃうからね。璃々と美桜ちゃんで言っちゃうからね」
「大丈夫。璃々が思っているような事はしないから。俺は見た目通りの紳士だからな」
「なんかお兄ちゃん変だよ。いつもはそんな感じじゃないと思うんだけど。なんだか、気持ち悪いかも。でも、仕方ないから始めるね。よーい、スタート」
璃々の合図を待っていた俺は何のためらいもなくノーステップで回れ右をした。三分間も胸を露出させるなんてあってはならない事だと思い、俺はあっという間に勝負を付けに行ったのだ。今までにないくらいの早さで体を反転させて後ろを向いた俺の目の前には今まで見たことも無いくらいに平坦な壁が待っていた。凹凸の一つもない綺麗で整った壁がそこに待っていたのだ。
「お兄さんって意外と動き速いんですね。もう少しで見られるところでしたよ。危ない危ない」
さっきまで俺の背後で聞こえていた美桜ちゃんの声がまた俺の背後から聞こえてきた。さっき聞こえていた背後は今の俺の目の前で今声が聞こえている俺の背後はさっきだと俺の目の前のはずだ。どう考えても俺はこれ以上ないくらいの早さで後ろを向いたはずなのだが、そこにいるはずの美桜ちゃんは俺の目の前ではなく俺の背後に回り込んでいたのである。
「お兄さんって素直だからわかりやすいですよね。そんなんだったら誰でもお兄さんにバレないように後ろに張り付くこと出来そうですね。ちょっと面白いかも」
まあ、短期決戦で勝負をつけるというのも思いやりかもしれないが、まずは相手に花を持たせてあげるというのも男としての務めだろう。ここで俺があっさりとビキニに隠れていた部分を見てしまっていてはあまりにもワガママだろう。
いったん花を持たせてあげたのだし、ここは少しばかり本気を出してみましょうか。
俺はまた右から見ると見せかけて重心を左に残しつつ一度顔を左に振って油断したところをもう一度右に体勢をとる風にしながらも残していた重心を利用して左から思いっきり振り返ったのだ。
少し体に負担が大きい動きをしてしまったため首と腰が痛くなってしまったが、俺の計画通りに後ろを向くことが出来た。右も左も完璧にサポートしつつ最短で振り向くことが出来たのだが、そこに美桜ちゃんの姿はなかった。
「今のお兄ちゃんの動きなんかきもかった。そこまで必死になる必要あるのかな」
「でも、今の動きは良かったですよ。途中までは本当に人間の動きなのかなって思ってましたけど、やっぱりお兄さんも人間なんですね。あと少しのところで私の姿を見られちゃうところでした。本当に危なかったです」
その喋り方の抑揚とトーンからとても危なかったとは感じられないのだが、明らかに俺の動きを理解しているようなのだ。自分でもこんな動きをするなんて思っていないのだが、視界の隅にすら入らないくらい完璧に隠れることなんて出来るのだろうか。いや、そんな事は出来るはずがない。もしかしたら、最初から俺の後ろになんていなかったのではないだろうか。声は聞こえているしビキニも手渡されていたけれど、スタートの合図があるまでの間に違う場所に移動して後ろから聞こえるようにスピーカーでも利用しているのではないだろうか。その可能性は、大いにあるように思えていた。
「璃々、時間はあとどれくらいだ?」
「まだ三十秒も経ってないよ。ちょっとせっかち過ぎない」
「そう言うなよ。ちょっとこっちに来てもらってもいいか?」
「良いけど、どうしたの?」
俺は璃々を目の前に立たせてじっと璃々の目を見つめていた。こうして妹の璃々と真正面に向かい合うのはかなり久しぶりなような気がするのだが、今は恥ずかしがっている場合ではない。じっと璃々の目を見つめてみるのだが、璃々の表情からは美桜ちゃんのズルに加担しているような罪悪感は一切感じられなかった。それどころか、璃々の瞳には俺の後ろで手を振っている美桜ちゃんの姿も写っていたのだ。
「お兄ちゃんはさ、やっぱり美桜ちゃんよりも璃々の事を見ていたいって思ってるんだね。変な勝負とか受けて璃々を焦らせようとしたのかもしれないけどさ、そのお兄ちゃんの気持ちはちゃんと理解しているからね。だから、もう勝負なんてしなくても大丈夫だよ。って、なんでいきなり振り返ってるのだ」
璃々の瞳の中で手を振っている美桜ちゃんがいるという事は確実に俺の後ろに美桜ちゃんがいるという事なのだ。さっきはどうやって隠れたのかわからないが、今なら確実に俺の後ろにいるという事が証明されている。さっきりょりも最短距離で回転も小さく重心のぶれも無くし勢いをつけて一気に後ろに振り返る。だけではなくそのままの勢いで一周してやる。一瞬でも姿が見られれば俺の勝ちなのだ。どんなに短い時間でも俺は鮮明に記憶することが出来るのだ。こんな使い方もあるのかと自分の能力が恐ろしくなったのだが、俺が体を一回転させて見えたものは目の前にいる璃々の姿だけなのだ。
「いきなりくるっと回ったらビックリするよ。お兄ちゃんって璃々の事を困らせるような事よくするよね。でも、そんなお兄ちゃんの事も好きだよ。ね、お兄ちゃんも璃々の事好きなのかな?」
おかしい。回転中は何も見逃さないように瞬きもしなかったし上下にもちゃんと意識を向けていた。それなのに、俺には美桜ちゃんの姿をとらえることが出来なかったのだ。それなのに、璃々の瞳の中では俺の後ろで嬉しそうに頭を左右に振っている美桜ちゃんが写っているのだ。
「もうすぐ時間が無くなっちゃいますよ。このままだと私の勝ちって事でいいですよね」
「それはどうかな。勝負は最後までわからないものだよ」
俺はなるべく言っていることくらいはイイ男でありたいと思っていた。自分自身でもやっていることは最低だという事は理解しているのだ。だが、この状況で俺の立場に置かれた若い男でこの挑戦を避けるものがいるのだろうか。失うものなんて妹からの信頼だけだと思うのだが、そんなものは後でいくらでも取り返すことが出来ると思うのだ。おそらく、人生で一度あるかないかのチャンスを捨てる選択肢を選ぶのは男と呼んでいいものなのだろうか。
「またなんかお兄ちゃんはカッコつけようとしているけどさ、全然だよ。さっきより気持ち悪いなって思っちゃうもん。だから、もっと璃々の事だけ見つめてくれていいんだからね」
俺はその後も三回連続で回ってみたり、いきなりこの場でバク宙を決めていたり、璃々の瞳に写っている美桜ちゃんを確認しながら後ろ向きのまま壁際まで追い込んで振り返ってみたりしたのだが、その作戦はどれも日の目を見ることは無かったのだ。俺の中で完全に万策尽きてタイムアップを待つだけになったのだが、試していないことが一つだけあるという事を思い出して最後にそれを実践することにしたのだ。
俺は横回転の勢いを利用してその場でスライディングをするかのように体を倒すと俺の背後を床にピッタリと突けて死角を無くすことにしたのだが、美桜ちゃんは俺から少し離れた位置で同じように床に寝そべっていたようだ。残念なことにその事実を知ったと同時に璃々からタイムアップを告げられてしまい、璃々の持っていたピンクのビキニは美桜ちゃんのもとへと返還されたのであった。
「璃々ちゃん。さっきみたいに後ろ結んでもらっていいかな?」
「大丈夫だよ。でも、更衣室の時みたいにはみ出したりしないでね」
「うん、わかってるよ。でも、早くしないと誰か来ちゃうかもしれないからさ、お願いね」
「わかってるよ。お兄ちゃんは良いよって言うまでこっち見ちゃダメだからね。それまでそのまま寝てなさい」
俺と美桜ちゃんの勝負は俺の完全敗北に終わったのだ。常に俺の死角にいるなんて不可能だと思っていたのだが、俺がこれだけ予測不可能な動きをしても一度も姿をとらえることが出来なかったのは素直に凄いと思った。天樹透が攻めてきていた時のように二年生軍団に集中している時であれば今回以上に簡単に死角に居続けることも出来るのだろうと思ったりもしたのだ。
「でも、お兄さんの変な動きは面白かったです。今までいろんな人と勝負してきたんですけど、一番危なかったかもしれないです」
「そんなにいろんな人と勝負してたんだ。凄いな」
「凄いのはお兄さんですよ。何の訓練も受けてないのにあれだけの動きを出来るのって普通じゃないですもん。特に、最後の床に寝そべるのは初めて見ました。私も思わず床に寝てみたんですけど、背中が冷たくて変な声が出ちゃうかと思いました。アレが最初だったら私が負けてたかもしれないですね」
「じゃあ、次の機会があればそうする事にするよ」
「次の機会なんて無いよ。お兄ちゃんは美桜ちゃんに完璧に負けたんだからね。勝てるように練習したいって言うんだったらさ、璃々がいつでも練習に付き合ってあげるからね」
「璃々も上半身裸でやるって事?」
「そんなわけないでしょ。バカじゃないの。美桜ちゃんだって普段はビキニじゃないし脱いだりしないって。プールでたまたまそうなっただけなんだよ。ね、美桜ちゃん」
「うん、本当は脱ぐつもりもなかったんだけど、本気のお兄さんがどれくらい凄いのかなって試したくなっちゃったんです。お兄さんって私が思ってたよりもずっとすごい人だってわかったんで良かったです。そこで、お兄さんに一つお願いしたいんですけど、聞いてもらってもいいですか?」
敗者の俺が勝者である美桜ちゃんの願いを聞かないわけにはいかないのだ。もちろん、俺の答えは決まっている。
俺の背後に立っている美桜ちゃんはそれまで身に付けていたビキニを璃々に手渡していた。本当に外すとは思っていなかったし、外したとしても璃々が止めると思ったので素直に受け取っていたのを見た時は驚いてしまった。それと同時に本当に外したんだという衝撃が俺の体を襲ったのだ。
「いいですね。今から三分間だけですからね。璃々の合図で始めてもらうんで、スタートしたら好きなだけ私の事を見てもいいですからね。もう一度言いますけど、見るだけで触ったりしたらダメですからね。見えてしまったのは仕方ないとしても、触っちゃうのは犯罪ですからね。お兄さん」
俺は璃々の合図を今か今かと待っているのだが、一向に璃々は俺に合図を送ってくれない。早くしないと他に誰か来ちゃうかもしれないだろうという焦りもあるのだが、この勝負をさっさと終わらせたいという思いもあったのだ。
「お兄ちゃん。なんか変なこと考えてない風を装ってるみたいだけどさ、これからやろうとしていることは完全に変態がする事だからね。璃々はお兄ちゃんの事も美桜ちゃんの事も信用しているから三分間はかることにするけどさ、変な事したらお兄ちゃんでもお巡りさんに言っちゃうからね。璃々と美桜ちゃんで言っちゃうからね」
「大丈夫。璃々が思っているような事はしないから。俺は見た目通りの紳士だからな」
「なんかお兄ちゃん変だよ。いつもはそんな感じじゃないと思うんだけど。なんだか、気持ち悪いかも。でも、仕方ないから始めるね。よーい、スタート」
璃々の合図を待っていた俺は何のためらいもなくノーステップで回れ右をした。三分間も胸を露出させるなんてあってはならない事だと思い、俺はあっという間に勝負を付けに行ったのだ。今までにないくらいの早さで体を反転させて後ろを向いた俺の目の前には今まで見たことも無いくらいに平坦な壁が待っていた。凹凸の一つもない綺麗で整った壁がそこに待っていたのだ。
「お兄さんって意外と動き速いんですね。もう少しで見られるところでしたよ。危ない危ない」
さっきまで俺の背後で聞こえていた美桜ちゃんの声がまた俺の背後から聞こえてきた。さっき聞こえていた背後は今の俺の目の前で今声が聞こえている俺の背後はさっきだと俺の目の前のはずだ。どう考えても俺はこれ以上ないくらいの早さで後ろを向いたはずなのだが、そこにいるはずの美桜ちゃんは俺の目の前ではなく俺の背後に回り込んでいたのである。
「お兄さんって素直だからわかりやすいですよね。そんなんだったら誰でもお兄さんにバレないように後ろに張り付くこと出来そうですね。ちょっと面白いかも」
まあ、短期決戦で勝負をつけるというのも思いやりかもしれないが、まずは相手に花を持たせてあげるというのも男としての務めだろう。ここで俺があっさりとビキニに隠れていた部分を見てしまっていてはあまりにもワガママだろう。
いったん花を持たせてあげたのだし、ここは少しばかり本気を出してみましょうか。
俺はまた右から見ると見せかけて重心を左に残しつつ一度顔を左に振って油断したところをもう一度右に体勢をとる風にしながらも残していた重心を利用して左から思いっきり振り返ったのだ。
少し体に負担が大きい動きをしてしまったため首と腰が痛くなってしまったが、俺の計画通りに後ろを向くことが出来た。右も左も完璧にサポートしつつ最短で振り向くことが出来たのだが、そこに美桜ちゃんの姿はなかった。
「今のお兄ちゃんの動きなんかきもかった。そこまで必死になる必要あるのかな」
「でも、今の動きは良かったですよ。途中までは本当に人間の動きなのかなって思ってましたけど、やっぱりお兄さんも人間なんですね。あと少しのところで私の姿を見られちゃうところでした。本当に危なかったです」
その喋り方の抑揚とトーンからとても危なかったとは感じられないのだが、明らかに俺の動きを理解しているようなのだ。自分でもこんな動きをするなんて思っていないのだが、視界の隅にすら入らないくらい完璧に隠れることなんて出来るのだろうか。いや、そんな事は出来るはずがない。もしかしたら、最初から俺の後ろになんていなかったのではないだろうか。声は聞こえているしビキニも手渡されていたけれど、スタートの合図があるまでの間に違う場所に移動して後ろから聞こえるようにスピーカーでも利用しているのではないだろうか。その可能性は、大いにあるように思えていた。
「璃々、時間はあとどれくらいだ?」
「まだ三十秒も経ってないよ。ちょっとせっかち過ぎない」
「そう言うなよ。ちょっとこっちに来てもらってもいいか?」
「良いけど、どうしたの?」
俺は璃々を目の前に立たせてじっと璃々の目を見つめていた。こうして妹の璃々と真正面に向かい合うのはかなり久しぶりなような気がするのだが、今は恥ずかしがっている場合ではない。じっと璃々の目を見つめてみるのだが、璃々の表情からは美桜ちゃんのズルに加担しているような罪悪感は一切感じられなかった。それどころか、璃々の瞳には俺の後ろで手を振っている美桜ちゃんの姿も写っていたのだ。
「お兄ちゃんはさ、やっぱり美桜ちゃんよりも璃々の事を見ていたいって思ってるんだね。変な勝負とか受けて璃々を焦らせようとしたのかもしれないけどさ、そのお兄ちゃんの気持ちはちゃんと理解しているからね。だから、もう勝負なんてしなくても大丈夫だよ。って、なんでいきなり振り返ってるのだ」
璃々の瞳の中で手を振っている美桜ちゃんがいるという事は確実に俺の後ろに美桜ちゃんがいるという事なのだ。さっきはどうやって隠れたのかわからないが、今なら確実に俺の後ろにいるという事が証明されている。さっきりょりも最短距離で回転も小さく重心のぶれも無くし勢いをつけて一気に後ろに振り返る。だけではなくそのままの勢いで一周してやる。一瞬でも姿が見られれば俺の勝ちなのだ。どんなに短い時間でも俺は鮮明に記憶することが出来るのだ。こんな使い方もあるのかと自分の能力が恐ろしくなったのだが、俺が体を一回転させて見えたものは目の前にいる璃々の姿だけなのだ。
「いきなりくるっと回ったらビックリするよ。お兄ちゃんって璃々の事を困らせるような事よくするよね。でも、そんなお兄ちゃんの事も好きだよ。ね、お兄ちゃんも璃々の事好きなのかな?」
おかしい。回転中は何も見逃さないように瞬きもしなかったし上下にもちゃんと意識を向けていた。それなのに、俺には美桜ちゃんの姿をとらえることが出来なかったのだ。それなのに、璃々の瞳の中では俺の後ろで嬉しそうに頭を左右に振っている美桜ちゃんが写っているのだ。
「もうすぐ時間が無くなっちゃいますよ。このままだと私の勝ちって事でいいですよね」
「それはどうかな。勝負は最後までわからないものだよ」
俺はなるべく言っていることくらいはイイ男でありたいと思っていた。自分自身でもやっていることは最低だという事は理解しているのだ。だが、この状況で俺の立場に置かれた若い男でこの挑戦を避けるものがいるのだろうか。失うものなんて妹からの信頼だけだと思うのだが、そんなものは後でいくらでも取り返すことが出来ると思うのだ。おそらく、人生で一度あるかないかのチャンスを捨てる選択肢を選ぶのは男と呼んでいいものなのだろうか。
「またなんかお兄ちゃんはカッコつけようとしているけどさ、全然だよ。さっきより気持ち悪いなって思っちゃうもん。だから、もっと璃々の事だけ見つめてくれていいんだからね」
俺はその後も三回連続で回ってみたり、いきなりこの場でバク宙を決めていたり、璃々の瞳に写っている美桜ちゃんを確認しながら後ろ向きのまま壁際まで追い込んで振り返ってみたりしたのだが、その作戦はどれも日の目を見ることは無かったのだ。俺の中で完全に万策尽きてタイムアップを待つだけになったのだが、試していないことが一つだけあるという事を思い出して最後にそれを実践することにしたのだ。
俺は横回転の勢いを利用してその場でスライディングをするかのように体を倒すと俺の背後を床にピッタリと突けて死角を無くすことにしたのだが、美桜ちゃんは俺から少し離れた位置で同じように床に寝そべっていたようだ。残念なことにその事実を知ったと同時に璃々からタイムアップを告げられてしまい、璃々の持っていたピンクのビキニは美桜ちゃんのもとへと返還されたのであった。
「璃々ちゃん。さっきみたいに後ろ結んでもらっていいかな?」
「大丈夫だよ。でも、更衣室の時みたいにはみ出したりしないでね」
「うん、わかってるよ。でも、早くしないと誰か来ちゃうかもしれないからさ、お願いね」
「わかってるよ。お兄ちゃんは良いよって言うまでこっち見ちゃダメだからね。それまでそのまま寝てなさい」
俺と美桜ちゃんの勝負は俺の完全敗北に終わったのだ。常に俺の死角にいるなんて不可能だと思っていたのだが、俺がこれだけ予測不可能な動きをしても一度も姿をとらえることが出来なかったのは素直に凄いと思った。天樹透が攻めてきていた時のように二年生軍団に集中している時であれば今回以上に簡単に死角に居続けることも出来るのだろうと思ったりもしたのだ。
「でも、お兄さんの変な動きは面白かったです。今までいろんな人と勝負してきたんですけど、一番危なかったかもしれないです」
「そんなにいろんな人と勝負してたんだ。凄いな」
「凄いのはお兄さんですよ。何の訓練も受けてないのにあれだけの動きを出来るのって普通じゃないですもん。特に、最後の床に寝そべるのは初めて見ました。私も思わず床に寝てみたんですけど、背中が冷たくて変な声が出ちゃうかと思いました。アレが最初だったら私が負けてたかもしれないですね」
「じゃあ、次の機会があればそうする事にするよ」
「次の機会なんて無いよ。お兄ちゃんは美桜ちゃんに完璧に負けたんだからね。勝てるように練習したいって言うんだったらさ、璃々がいつでも練習に付き合ってあげるからね」
「璃々も上半身裸でやるって事?」
「そんなわけないでしょ。バカじゃないの。美桜ちゃんだって普段はビキニじゃないし脱いだりしないって。プールでたまたまそうなっただけなんだよ。ね、美桜ちゃん」
「うん、本当は脱ぐつもりもなかったんだけど、本気のお兄さんがどれくらい凄いのかなって試したくなっちゃったんです。お兄さんって私が思ってたよりもずっとすごい人だってわかったんで良かったです。そこで、お兄さんに一つお願いしたいんですけど、聞いてもらってもいいですか?」
敗者の俺が勝者である美桜ちゃんの願いを聞かないわけにはいかないのだ。もちろん、俺の答えは決まっている。
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