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集団暴行事件編
メイドさんのしごきに耐える元魔王
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「意味がないと言われているのは知っているが、吾輩にはフランソワーズさんに頼るしか強くなる方法がないんだ。吾輩が魔王だったころは特訓なんかせずとも強い力を持っていたのだが、今はそうではない。他の人間と比べても多少打たれ強いというだけであって、何かに秀でた物なんてないんだ。それは吾輩自身が一番よくわかっている。自分の一番の長所を伸ばすためにやっていることが正しいのか間違っているのかわからないが、吾輩はこれが一番いい方法だと持っているんだ。お前はどう思っているか素直に答えて欲しい」
いつもの特訓が終わってフランソワーズさんが通常の仕事に戻っていったので俺は片づけをしていたのだが、そんな時に急に飛鳥君に話しかけられて少しだけビックリしてしまった。
「意味が無いとは思わないけど、今みたいに意識が飛んでないのは成長している証拠なんじゃないかな。打たれ強くなったかは見てる分にはわからないけどさ、フランソワーズさんの攻撃をもろに食らう回数は減ってると思うよ。二人の動きをずっと見てて感じた事だけど、飛鳥君は少しずつフランソワーズさんの癖を見抜いて次の攻撃を予測しているんじゃないかな。そのお陰でクリーンヒットも減ってきているんだと思うよ」
「言われてみればそうだな。こうして時間いっぱいまで意識がハッキリしているのは吾輩が成長しているという事なのかもな。とても小さな前進かもしれないが、吾輩にとっては価値のあるとても大きな一歩だと思うぞ」
俺と一緒にモップをかけている飛鳥君はとても嬉しそうな顔をしていたのだ。その表情は今まで抱えていた悩みが少しだけ解消したことを表しているように見えていた。
「お疲れ様です。始まるので準備してください」
俺はいきなり後ろにあらわれて話しかけてきたジェニファーさんに凄く驚いてしまって情けない叫び声を漏らしてしまったのだが、隣にいる飛鳥君もいきなり話しかけられて驚いてしまったようだった。
「準備って、何かあるんですか?」
「今日は沙緒莉さんの誕生会です。行かないですか?」
すっかり忘れていた事だったが、今日は沙緒莉さんの誕生会が神谷家で開かれるのだ。誕生日当日ではないのですっかり忘れていたのだが、沙緒莉さんの家の都合で今日になったことを今思い出してしまった。
「そう言えば今日は沙緒莉の誕生日会だったな。吾輩はここに来るまでは覚えていたのだが、夢中になりすぎてすっかり忘れていたぞ」
「俺も二人の動きに夢中になってて忘れてたよ。ちょっと部屋までプレゼントを取りに行ってくるよ」
俺は掃除を終わらせて部屋に戻ろうとしたのだが、モップを置いた手をジェニファーさんにギュッと掴まれて動くことが出来なかった。
「どうしたのかな。まだ何かあるのかな?」
「プレゼントは、持ってきてますよ。フランソワーズに頼まれました」
そう言ったジェニファーさんは左手で見覚えのある小さな袋を持っていたのだ。以前買い物に行った際に見つけた沙緒莉さんの好きそうな柄のハンカチを買っておいたのだが、それは机の引き出しの中にしまっておいたはずだ。それをジェニファーさんが持っているという事は、俺の部屋に入って机の引き出しを開けたという事ではないだろうか。見られてやましいことがあるわけでもないのでかまわないのだが、ほんの少しだけ気まずい。
「ありがとうございます。でも、取りに行く時間はまだあると思うけど」
「気にしないで。私が掃除してる時に璃々様に頼まれただけだから。私は机をあけてないですから」
俺の部屋の小物の位置が微妙にズレている時があるのだが、やはり璃々の仕業だったのか。この家に来るまでは璃々が勝手に触っているのだろうと思っていたのだが、ここに来ても同じように俺のモノが気になるんだな。俺は別に気にしないのだけれど、璃々は昔から探求心を抑えられないところもあるのでそう言うことも我慢出来ないのであろう。
沙緒莉さんの誕生会はいつものように和気藹々とした感じで進んでいき、食事を終えたタイミングでプレゼントを渡すことが出来た。中身を見て沙緒莉さんは喜んでくれたので俺も一安心したのだが、いつもは誰よりも早く食べ終わっている飛鳥君がまだ半分も食べていないのが気になった。
「今日の料理は口に合わなかったんですか?」
「いや、とても美味しいです。吾輩にはもったいないくらい美味しいです」
「そう思うんでしたら温かいうちに召し上がった方が良いと思いますよ」
「そうしたいのはやまやまなのだが、一つ聞かせてくれ。今日の特訓はいつもより手を抜いていたんじゃないか?」
「どうでしょうね。多少はそうだったかもしれませんね。今日は沙緒莉さんの誕生会ですからいつまでも飛鳥さんを寝かせておくわけにもいかないと思いましたからね」
俺にはフランソワーズさんが手を抜いていたとは思えなかった。いつもと同じような動きをしていたし、攻撃頻度だって少なかったわけではないと思う。飛鳥君が最後までたっていたのは純粋に成長していたからだと思っていたのだが、実際は違うという事だったのだろうか。
「明日はちゃんと本気でやってもらえるんだろうか?」
「本気ですか。それは出来ないですね。本気は無理ですが、昨日までと同じくらいだったら可能だと思いますよ」
「昨日までと同じくらいが本気じゃないって、昨日はどれくらいの力だったんだ?」
「そうですね。飛鳥さんの攻撃を避けるのが四割くらいの力で、攻撃をするのは一割くらいですかね。でも、喜んでいいですよ。私が避けるのに四割も力を使うのって一般の方では飛鳥さんが初めてですから」
他のみんなは沙緒莉さんの誕生日を祝っていて聞こえていないのだろうが、俺はフランソワーズさんのその言葉を近くでハッキリと聞いてしまった。がっくりと肩を落としている飛鳥君の手が止まっていたのだが、それに追い打ちをかけるようにフランソワーズさんは飛鳥君に語り掛けていた。
「邦宏さんの料理を食べると昨日よりも強くなれると思いますよ。あなたはもっと強くなる可能性を秘めていますからね。私は多少ならあなたの攻撃を耐えられると思っていたんですけど、あなたの全力の攻撃は一度でも食らったら動きが鈍くなってしまって次の攻撃を避けることが難しそうですもの。だから、あなたは自信を持っていいと思いますよ」
「正直に言ってもらっていいですか。俺がやっている事って本当に意味がない事だと思いますか?」
フランソワーズさんはそれに答えることは無かった。飛鳥君の顔を見つめたまま何も言わず微動だにしなかった。
俺は飛鳥君とフランソワーズさんを交互に見ていたのだが、お互いに全く動くことが無かったので写真でも見ているのかと思ってしまった。
「二人のやってることに意味はあると思う」
「そうですね。飛鳥さんも確実に成長してますし、フランソワーズも楽しそうにしてますからね」
「エイリアスも一緒に特訓したいって思う?」
「私は一緒には無理だと思うわ。だって、フランソワーズみたいに優しく出来ないからね」
「それは同意。私もあんなにやさしくなることが出来そうにないもん」
「二人には二人の良さがあるからね。もちろん、フランソワーズにも彼女だけの良さってものがあるからね。さ、二人も今日はこの家のメイドという立場を忘れてクラスメイトの誕生会を祝って楽しんでくると良いよ。沙緒莉さんは二人とも仲良くしてくれてるんだからお礼も兼ねて祝ってあげるんだよ」
ジェニファーさんとエイリアスさんは伸一さんに頭を下げると沙緒莉さんのもとへと駆け寄っていった。二人も何かプレゼントを渡していたのだが、それを受け取った沙緒莉さんは二人の事を両手でしっかりと抱きしめていた。
「僕はね、将浩君が家に来てくれて良かったと思うよ。こうやって綾乃のクラスメイトの誕生会を開くことが出来るようになったんだからね。中学までの綾乃は常にメイド三人と一緒に行動していたのでクラスに馴染むことが出来なかったようなんだが、君がその中に加わったことでみんなとの距離も縮まったように見えるからね。綾乃達四人は何も変わってないと思うけど、君の存在が彼女たちの見え方を少し変えたのかもしれないね。お父様はそこまで見越して邦宏さんを雇ったのかもしれないって今は思うよ」
「そうなんですかね。俺は綾乃たちがクラスに溶け込めていなかったってのは信じられないですよ。転校してきた時から皆仲良さそうでしたし」
「そうでもないんだと思うよ。僕はこの目で見たわけじゃないのでわからないけれど、綾乃の席はクラスメイトよりも先生に近かったって聞いてるんだよね。自由にどこでも選べるのにそんな席をとるなんて普通じゃないように思えるんだけどな。でも、そんな事はどうでもいいんだよ。君たち兄妹は綾乃にとっても僕にとってもこの家で働く者にとっても素晴らしい影響を与えてくれていると思うよ」
「父さん母さんと璃々は天才なんでそう言うのあるかもしれないですけど、俺は何もしてないと思いますよ。俺が出来ることなんて絵を描くことくらいしかないですし」
「それで十分なんだよ。僕も綾乃も母さんも君の絵が好きだし、父さんだって君の絵は素晴らしいって褒めてたよ。写真のようであって写真にはない暖かさがある。君さえよければ家族の肖像画を描いて欲しいくらいだって言ってたからね」
「それくらいだったらいつでも描きますよ。でも、四人が揃ってる時じゃないと難しいかもです。俺は見たとおりにしか描けないんで」
「うん、その時が来るのを楽しみに待ってるよ。では、僕も沙緒莉さんに祝福の言葉を送ってくることにするよ」
飛鳥君は相変わらず箸が止まり気味ではあった。でも、少しずつではあったが確実に料理は食べ進めていたのである。誰よりも早く食べ終わる男は誰よりも遅く食べ終わり、みんなが帰り支度をし始めたころにはようやく食べ終えていた。
「久しぶりにゆっくりと味わって食べることが出来たよ。どれもこれも美味しかった。今までも美味しいとは思っていたけれど、ゆっくりと味わって食べるといつもとは違う美味しさを見付けることが出来たよ。明日からまたフランソワーズさんとの特訓を頑張ろうって思えた。お前の父さんにお礼を言っておいてくれ」
最終的には清々しい表情になった飛鳥君を見ていると俺も頑張ろうという気持ちになっていた。伸一さんは俺が綾乃の見え方を変えたと言っていたが、飛鳥君が頑張っている姿を見ていると俺も頑張ろうという気持ちになっていたのであった。
いつもの特訓が終わってフランソワーズさんが通常の仕事に戻っていったので俺は片づけをしていたのだが、そんな時に急に飛鳥君に話しかけられて少しだけビックリしてしまった。
「意味が無いとは思わないけど、今みたいに意識が飛んでないのは成長している証拠なんじゃないかな。打たれ強くなったかは見てる分にはわからないけどさ、フランソワーズさんの攻撃をもろに食らう回数は減ってると思うよ。二人の動きをずっと見てて感じた事だけど、飛鳥君は少しずつフランソワーズさんの癖を見抜いて次の攻撃を予測しているんじゃないかな。そのお陰でクリーンヒットも減ってきているんだと思うよ」
「言われてみればそうだな。こうして時間いっぱいまで意識がハッキリしているのは吾輩が成長しているという事なのかもな。とても小さな前進かもしれないが、吾輩にとっては価値のあるとても大きな一歩だと思うぞ」
俺と一緒にモップをかけている飛鳥君はとても嬉しそうな顔をしていたのだ。その表情は今まで抱えていた悩みが少しだけ解消したことを表しているように見えていた。
「お疲れ様です。始まるので準備してください」
俺はいきなり後ろにあらわれて話しかけてきたジェニファーさんに凄く驚いてしまって情けない叫び声を漏らしてしまったのだが、隣にいる飛鳥君もいきなり話しかけられて驚いてしまったようだった。
「準備って、何かあるんですか?」
「今日は沙緒莉さんの誕生会です。行かないですか?」
すっかり忘れていた事だったが、今日は沙緒莉さんの誕生会が神谷家で開かれるのだ。誕生日当日ではないのですっかり忘れていたのだが、沙緒莉さんの家の都合で今日になったことを今思い出してしまった。
「そう言えば今日は沙緒莉の誕生日会だったな。吾輩はここに来るまでは覚えていたのだが、夢中になりすぎてすっかり忘れていたぞ」
「俺も二人の動きに夢中になってて忘れてたよ。ちょっと部屋までプレゼントを取りに行ってくるよ」
俺は掃除を終わらせて部屋に戻ろうとしたのだが、モップを置いた手をジェニファーさんにギュッと掴まれて動くことが出来なかった。
「どうしたのかな。まだ何かあるのかな?」
「プレゼントは、持ってきてますよ。フランソワーズに頼まれました」
そう言ったジェニファーさんは左手で見覚えのある小さな袋を持っていたのだ。以前買い物に行った際に見つけた沙緒莉さんの好きそうな柄のハンカチを買っておいたのだが、それは机の引き出しの中にしまっておいたはずだ。それをジェニファーさんが持っているという事は、俺の部屋に入って机の引き出しを開けたという事ではないだろうか。見られてやましいことがあるわけでもないのでかまわないのだが、ほんの少しだけ気まずい。
「ありがとうございます。でも、取りに行く時間はまだあると思うけど」
「気にしないで。私が掃除してる時に璃々様に頼まれただけだから。私は机をあけてないですから」
俺の部屋の小物の位置が微妙にズレている時があるのだが、やはり璃々の仕業だったのか。この家に来るまでは璃々が勝手に触っているのだろうと思っていたのだが、ここに来ても同じように俺のモノが気になるんだな。俺は別に気にしないのだけれど、璃々は昔から探求心を抑えられないところもあるのでそう言うことも我慢出来ないのであろう。
沙緒莉さんの誕生会はいつものように和気藹々とした感じで進んでいき、食事を終えたタイミングでプレゼントを渡すことが出来た。中身を見て沙緒莉さんは喜んでくれたので俺も一安心したのだが、いつもは誰よりも早く食べ終わっている飛鳥君がまだ半分も食べていないのが気になった。
「今日の料理は口に合わなかったんですか?」
「いや、とても美味しいです。吾輩にはもったいないくらい美味しいです」
「そう思うんでしたら温かいうちに召し上がった方が良いと思いますよ」
「そうしたいのはやまやまなのだが、一つ聞かせてくれ。今日の特訓はいつもより手を抜いていたんじゃないか?」
「どうでしょうね。多少はそうだったかもしれませんね。今日は沙緒莉さんの誕生会ですからいつまでも飛鳥さんを寝かせておくわけにもいかないと思いましたからね」
俺にはフランソワーズさんが手を抜いていたとは思えなかった。いつもと同じような動きをしていたし、攻撃頻度だって少なかったわけではないと思う。飛鳥君が最後までたっていたのは純粋に成長していたからだと思っていたのだが、実際は違うという事だったのだろうか。
「明日はちゃんと本気でやってもらえるんだろうか?」
「本気ですか。それは出来ないですね。本気は無理ですが、昨日までと同じくらいだったら可能だと思いますよ」
「昨日までと同じくらいが本気じゃないって、昨日はどれくらいの力だったんだ?」
「そうですね。飛鳥さんの攻撃を避けるのが四割くらいの力で、攻撃をするのは一割くらいですかね。でも、喜んでいいですよ。私が避けるのに四割も力を使うのって一般の方では飛鳥さんが初めてですから」
他のみんなは沙緒莉さんの誕生日を祝っていて聞こえていないのだろうが、俺はフランソワーズさんのその言葉を近くでハッキリと聞いてしまった。がっくりと肩を落としている飛鳥君の手が止まっていたのだが、それに追い打ちをかけるようにフランソワーズさんは飛鳥君に語り掛けていた。
「邦宏さんの料理を食べると昨日よりも強くなれると思いますよ。あなたはもっと強くなる可能性を秘めていますからね。私は多少ならあなたの攻撃を耐えられると思っていたんですけど、あなたの全力の攻撃は一度でも食らったら動きが鈍くなってしまって次の攻撃を避けることが難しそうですもの。だから、あなたは自信を持っていいと思いますよ」
「正直に言ってもらっていいですか。俺がやっている事って本当に意味がない事だと思いますか?」
フランソワーズさんはそれに答えることは無かった。飛鳥君の顔を見つめたまま何も言わず微動だにしなかった。
俺は飛鳥君とフランソワーズさんを交互に見ていたのだが、お互いに全く動くことが無かったので写真でも見ているのかと思ってしまった。
「二人のやってることに意味はあると思う」
「そうですね。飛鳥さんも確実に成長してますし、フランソワーズも楽しそうにしてますからね」
「エイリアスも一緒に特訓したいって思う?」
「私は一緒には無理だと思うわ。だって、フランソワーズみたいに優しく出来ないからね」
「それは同意。私もあんなにやさしくなることが出来そうにないもん」
「二人には二人の良さがあるからね。もちろん、フランソワーズにも彼女だけの良さってものがあるからね。さ、二人も今日はこの家のメイドという立場を忘れてクラスメイトの誕生会を祝って楽しんでくると良いよ。沙緒莉さんは二人とも仲良くしてくれてるんだからお礼も兼ねて祝ってあげるんだよ」
ジェニファーさんとエイリアスさんは伸一さんに頭を下げると沙緒莉さんのもとへと駆け寄っていった。二人も何かプレゼントを渡していたのだが、それを受け取った沙緒莉さんは二人の事を両手でしっかりと抱きしめていた。
「僕はね、将浩君が家に来てくれて良かったと思うよ。こうやって綾乃のクラスメイトの誕生会を開くことが出来るようになったんだからね。中学までの綾乃は常にメイド三人と一緒に行動していたのでクラスに馴染むことが出来なかったようなんだが、君がその中に加わったことでみんなとの距離も縮まったように見えるからね。綾乃達四人は何も変わってないと思うけど、君の存在が彼女たちの見え方を少し変えたのかもしれないね。お父様はそこまで見越して邦宏さんを雇ったのかもしれないって今は思うよ」
「そうなんですかね。俺は綾乃たちがクラスに溶け込めていなかったってのは信じられないですよ。転校してきた時から皆仲良さそうでしたし」
「そうでもないんだと思うよ。僕はこの目で見たわけじゃないのでわからないけれど、綾乃の席はクラスメイトよりも先生に近かったって聞いてるんだよね。自由にどこでも選べるのにそんな席をとるなんて普通じゃないように思えるんだけどな。でも、そんな事はどうでもいいんだよ。君たち兄妹は綾乃にとっても僕にとってもこの家で働く者にとっても素晴らしい影響を与えてくれていると思うよ」
「父さん母さんと璃々は天才なんでそう言うのあるかもしれないですけど、俺は何もしてないと思いますよ。俺が出来ることなんて絵を描くことくらいしかないですし」
「それで十分なんだよ。僕も綾乃も母さんも君の絵が好きだし、父さんだって君の絵は素晴らしいって褒めてたよ。写真のようであって写真にはない暖かさがある。君さえよければ家族の肖像画を描いて欲しいくらいだって言ってたからね」
「それくらいだったらいつでも描きますよ。でも、四人が揃ってる時じゃないと難しいかもです。俺は見たとおりにしか描けないんで」
「うん、その時が来るのを楽しみに待ってるよ。では、僕も沙緒莉さんに祝福の言葉を送ってくることにするよ」
飛鳥君は相変わらず箸が止まり気味ではあった。でも、少しずつではあったが確実に料理は食べ進めていたのである。誰よりも早く食べ終わる男は誰よりも遅く食べ終わり、みんなが帰り支度をし始めたころにはようやく食べ終えていた。
「久しぶりにゆっくりと味わって食べることが出来たよ。どれもこれも美味しかった。今までも美味しいとは思っていたけれど、ゆっくりと味わって食べるといつもとは違う美味しさを見付けることが出来たよ。明日からまたフランソワーズさんとの特訓を頑張ろうって思えた。お前の父さんにお礼を言っておいてくれ」
最終的には清々しい表情になった飛鳥君を見ていると俺も頑張ろうという気持ちになっていた。伸一さんは俺が綾乃の見え方を変えたと言っていたが、飛鳥君が頑張っている姿を見ていると俺も頑張ろうという気持ちになっていたのであった。
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