天才たちとお嬢様

釧路太郎

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集団暴行事件編

元魔王とメイドさん

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「お願いです。吾輩に付き合ってください」
 誰よりも早く学校に来ていた飛鳥君は俺達が教室に入るなりフランソワーズさんに向かって告白をし出した。あまりにも突然すぎた出来事であったためかフランソワーズさんはろくなリアクションも返せずに秒速で断りを入れていたのだ。
 飛鳥君は断られてもしつこく何度も食い下がっていたのだが、見かねた綾乃が飛鳥君に助け舟を出すと渋々と言った感じではあったものの、フランソワーズさんは飛鳥君の話を聞くことになった。その時の綾乃の目は今までにないくらいに真っすぐで輝いてみたのだ。

「つまりあなたは私と付き合いたいって事ですか?」
「色々端折ってしまった部分はあるのですが、一週間だけでもいいので吾輩に時間をください。うまく行きそうにないと思ったら早めに言ってくれてもいいですけど、出来るだけ長い時間吾輩に付き合ってもらえると嬉しいです」
 飛鳥君の突然の告白に教室内は騒めきがおさまらないのだが、その事を茶化すような人は誰一人としていなかった。飛鳥君の告白がうまく行った場合はこのクラスで彼女がいないのは俺だけになってしまう。ただ、昌晃君と愛華さんは正式に付き合っているというわけではないのが判断に困るのだが、そんな事は気にするまでもないという話なのだ。
「どうして私なのですか。他にもいい方はたくさんいるとおもうのですが」
「吾輩は他の人の事をちゃんと見たことが無いでわかりませんが、あの時からずっとフランソワーズさんの事を尊敬しています。あんなに早くて強い姿に惹かれました。お願いです」
「そう言ってもらえるのは嬉しいのですが、私は綾乃お嬢様のために雇われている身でして、他の事にうつつを抜かしている時間はないのです。気持ちはありがたく受け取らせていただきますが、あなたの気持ちに応えることは出来ません。申し訳ないです」
「そんなことを言わずにお願いします。フランソワーズさんが神谷の事で大変なのはわかっていますが、毎日一時間だけでもいいので俺の特訓に付き合ってください」
「はい?」
 フランソワーズさんだけではなく全員が飛鳥君に対して何を言っているんだろうという気持ちになっていたのだが、誰よりも先にその事を察したのは綾乃であった。
「飛鳥さんはフランソワーズに特訓してもらいたいという事ですか?」
「そうです。吾輩はフランソワーズさんみたいに強くなりたいんです。なので、その極意を教えてもらいたいんです」
「どうしてフランソワーズなんですか?」
「その理由なんですが、ちょっと前に神山とフランソワーズさんが変な奴に襲われているのを見たんですけど、その時のフランソワーズさんの動きがこの前俺を殴った刺青野郎と同じような感じだったんです。その動きの極意を教えてもらえればあの刺青野郎に勝てるんじゃないかと思って、その為にはどうすればいいかと考えたところ、フランソワーズさんに特訓してもらえばいいんじゃないかという結論にたどり着いたんです。神谷からもフランソワーズさんに協力してもらえるように頼んでもらえないだろうか。お願いします」
 綾乃は少し考えた後にフランソワーズさんが混乱した表情を浮かべているのを見て小さく頷くと、俺にどうすればいいか聞いてきたのだ。
「飛鳥さんが強くなったとして、将浩さんはそれが何かの役に立つと思いますか?」
「どうだろう。役に立つか立たないかはその時になってみないとわからないけど、飛鳥君が強くなったとしてもみんなが迷惑するような事ではないと思うよ。飛鳥君は元魔王だけど悪いやつって感じでもないし、仲間のために自分の身を犠牲に出来るような男だと思うな。だから、フランソワーズさんが特訓するのは良いことだと思うよ」
「そうですか。将浩さんがそうおっしゃるなら良い事なのかもしれませんね。でも、一つだけ覚えておいて欲しいことがあるのですが、強くなったからと言って何も変わることは無いという事は覚えておいてくださいね」
 飛鳥君は嬉しそうにして俺と綾乃に何度も礼を言っていたのだが、それとは対照的にフランソワーズさんはかなり不服そうな顔をしていた。
「あら、告白ではなくて特訓をしてもらいたいって意味の付き合ってくださいだったから拗ねてるのかしら?」
「違いますよ。私がいないとお嬢様の身の回りの世話を誰がすればいいのだろうって思って心配になっただけです」
「それは大丈夫ですよ。私ももう高校生ですし、たいていの事は一人でも出来ますから。それに、出来ないことがあったとしてもジェニファーとエイリアスがいるから大丈夫ですよ。フランソワーズは飛鳥さんが満足するまで付き合ってあげたらいいと思いますから。それと、将浩さんも二人の特訓に付き合ってもらってもいいですか?」
「え、俺も?」
「はい、さすがに若い男女が二人っきりで何かをするというのは良くないと思いますし、二人の仲を取り持ったのは将浩さんですからね。飛鳥さんがフランソワーズの事を深く知るきっかけになった事も特訓を付けてあげる事になったのも将浩さんがきっかけみたいなものですからね。最後まで責任を持って見守ってもらえますよね」
 綾乃の目はいつもの優しい感じとは違って全てを見抜くような力強さを感じさせるものであった。それは何もかも見透かされているような気がして、嘘なんて無い真っすぐな気持ちで素直に答えていた。

「何度言ったらわかるですか。目で見るのではなく感じ取って動いてください。その程度も出来ないようでしたらとても私のように強くなることなんて出来ないですからね」
 飛鳥君の特訓が始まってから毎日二時間の稽古が続いているのだが、飛鳥君の体力はすでに限界に達しているようだった。一晩寝ただけではもう回復は追いつかないらしく特訓が始まって三十分もしないうちに動きは完全に止まるようになっていた。
「どうしたんですか。あなたが言い出したことなのにもう投げ出すんですか。それとも、一週間経ったからもういいやって思ってるんですか」
 ほんの少しだけ首を左右に振って違うという事を伝えたそうにしている飛鳥君ではあったが、フランソワーズさんはそんな事はお構いなしに飛鳥君の動きに合わせて体の位置を入れ替えていた。飛鳥君の体がほんの少しでも動くとそれに反応して飛鳥君の死角へと体を動かしているのだが、飛鳥君自体はフランソワーズさんの動きに完全について行くことが出来なくなっていたのだ。
「さすがに一週間毎日というのは無理がありすぎましたね。今日はこれくらいにして明日は一日お休みにしましょう。私も少しやりたいことがありますし、これ以上続けるのも意味のない事ですからね。休息も特訓には必要ですからね」
 一週間休みも無く毎日二時間みっちりと攻撃を受けてた飛鳥君の体はとっくの昔に限界を迎えていたのだろう。三日前からフランソワーズさんは時々当たってはいるものの攻撃はほとんど寸止めにしていたのだ。バランスを崩した飛鳥君が当たりにくることはあったけれど、フランソワーズさんはなるべく飛鳥君に攻撃が当たらないように努力をしているようではあった。
 気力だけで立っている状態の飛鳥君をこのままの状態にしておくわけにもいかない。そのままでは危険なので、執事の宇佐美さんと一緒に担架に乗せて訓練場の隣にある仮眠室まで運んでそっとベッドに横たわらせたのだ。
「それにしましても、飛鳥さんは気合と根性だけはありますね。あと、とても打たれ強い。フランソワーズさんは非力な女性とは言えあれだけ多くの攻撃を急所の近くに受けても泣き言一つ言わないというのは凄いことだと思います。ですが、痛みをちゃんと感じて逃げることも大事だと思うのですがね。私も将浩さんも避けることが出来る攻撃が来たら我慢はせずに避けると思うのですが、飛鳥さんは避けられる攻撃をあえて受けることでどのタイミングでどの角度から攻撃をすると効果的なのか考えているのかもしれませんよ」
「そこまで深く考えているんですかね。俺にはよくわからないですけど」
「私もそこまで詳しいわけではないのですが、つい先日フランソワーズさんからそのように伺いました。攻撃を何度も体験することで刺青の男性の攻撃に耐えられるようにという考えを持っているのかもしれませんが、そんな事をしても無駄だったりするんですよね」
「無駄って何ですか。飛鳥君のやってることは意味が無いって事ですか?」
「私はそう思いませんが、フランソワーズさんがそう仰るんですよ。もしも、私の攻撃を受けることで刺青男の攻撃に耐えられるようになると思っているんだとしたら、それは全くの見当違いだと。スポーツチャンバラ用のスポンジで出来た剣と木刀くらい威力は違うのではないかと言ってましたからね。将浩さんはスポンジの攻撃に耐えられるようになったからと言って、木刀の攻撃にも耐えられるようになると思いますか?」
 俺はその例えが本当に正しいのかわからなかったというのもあるが、飛鳥君の努力を無意味なものだと認めたくなくて答えることが出来なかった。
 それを察してくれたのか、宇佐美さんは優しい眼差しを飛鳥君に向けながらゆっくりと優しく話しかけていたのだ。
「ですが、そのように頑張る姿にこそ意味はあると思うのです。私のように格闘に詳しくないものはそのような努力の先にこそ明るい未来があると思うのですが、フランソワーズさん達はそう思っていないようなのですよね。どちらが正しいのかわかりませんが、飛鳥さんには明るい未来が待っていて欲しいと思いますね」
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