35 / 36
第35話 決意
しおりを挟む
助けを呼ぶことも出来ない工藤珠希はドクターポンピーノの言葉を信じてイザーのもとへ戻ることにした。何も出来ない自分ではあるけれど、近くで何か出来ることを探した方だ
助けを探しに零楼館高校に向かった時はあれほど軽かった足取りも誰も見つけることが出来なかった今はずっしりと重く感じていた。
すぐにでも助けに行かなければいけない。そんな思いがあるはずなのに、工藤珠希の足取りは鈍く前へ進もうという意志とは別にゆっくりと歩みを進めることしか出来なかったのだ。
多少の時間はかかったけれど、野城君が待つあの場所にたどり着くことは出来たのだ。
もしかしたら、全て終わって野城君とイザーが談笑でもしているのではないかと期待していたのだが、たどり着いたこの場所にいるのは野城君一人だけだった。
「一人で戻ってきたってことは、そういう事なんだね」
「うん、ドクターポンピーノしか見つけられなかった。みんなどこに行ってるのかわからないんだけど」
「もしかしたら、明日の戦闘に備えてみんなでバーベキューでもしてるのかもしれないよ。サキュバスとレジスタンスの戦いとは違って外敵と戦うことになるんだし、一致団結するためにもそう言った会が催されていることは多いしね。珠希ちゃんは知らなかったっけ?」
「そんなの知らないよ。全然知らないって」
外の敵と戦うためにはサキュバスだけとレジスタンスの連携は重要なのかもしれない。
普段は敵同士の勢力が手を組むことで普段以上の力を発揮することが出来るかもしれないが、それを可能にするためには出来るだけ連携を強化してお互いの良さを引き出せるようにする必要があるという事だ。
戦闘に参加することのない工藤珠希を誘ってもいいのではないかと思うのだが、野城君の話によると工藤珠希が参加することでサキュバス達がレジスタンスに対して見向きもしなくなってしまう恐れもあるので内緒にしていたという噂もあるそうだ。
「どちらにしろ、君が助けを呼びに行ったのは無駄足だったという事になるかもしれないね。完全に無駄とは思わないけれど、イザーちゃんのために何かしようとして失敗したというだけの話だね」
「誰も連れてくることは出来なかったかもしれないけれど、私一人でも今からイザーちゃんを助けに行くよ。それくらいは私にだって出来ると思うし」
「それはやめておいた方がいいんじゃないかな。ハッキリ言わせてもらうけど、君は戦っている相手の命を奪うことに対して戸惑いはないのかな。それがあるのだとしたら、悪いことを言わないのでここで待っている方が利口だと思う。他者の命を奪う事に責任を感じないのは人としておかしいとは思うんだけど、それが出来ない人にはイザーちゃんを助けることは出来ないと思う。なぜなら、向こうも向こうで生きている限り何度でも何度でも襲い掛かてくると思うからね。手足が無くても目が潰れていたとしても、何度だってどこでだってイザーちゃんに襲い掛かってしまうと思うよ。それを止めるには、五体満足な君が相手のサキュバス達をより多く殺す必要があるって事なんだよ」
サキュバスを殺す必要がある。
工藤珠希の思考が一瞬で停止してしまったのはサキュバスが怖いというのではなく、相手の命をためらう事なう奪う必要があると言われたからだ。
虫を殺すのも釣った魚を殺すのも苦手な工藤珠希にそんなことが出来るのか、見た目だけなら自分たちと大差も無い生きているサキュバスの命を奪う事など到底出来るはずもない。そんなことが出来るのであれば、この前の戦闘に自ら進んで参加していたと思っているのだ。
だが、工藤珠希がいくら考えてもサキュバスを殺すことは出来ないと思う。
相手の命を奪う事で自分の命を守ることが出来る状況に置かれたとしても、工藤珠希は自分の命を何のためらいもなく差し出してしまうだろう。
「普通の人間なら今の君みたいに真剣に悩んで悩んで悩んで悩みぬいた結果、何も出来ないという事になると思うんだよ」
「イザーちゃんを助けるためには何だってするって思ってたんだけど、相手の命を奪わなくてはいけないというのであれば、私は何も出来ないかもしれない」
「他人の命を奪うことに抵抗が無い人もいるけれど、今の君みたいに悩んでしまうのは普通なんだと思うよ。だって、相手の命を一方的に奪う事なんて普通の人間には無理な話なんだからね」
何度考えても自分が相手の命を奪う場面の想像がつかない。工藤珠希の中で相手の命を奪うという事は何よりも重いのだ。
でも、大切な仲間を守るために必要なのであれば、心を鬼にしてやり遂げなくてはいけない。そう思ってもいるのだ。
自分のためではなく、イザーを守るために必要なコト。
そう割り切ることで決心がついた工藤珠希がイザーのもとへと向かおうと思った。
今まさにその一歩を踏み出そうと決意したところで向こうからやって来る見慣れた笑顔が工藤珠希の心をかき乱してしまった。
向こうからやってきたのは間違いなくイザーなのだが、左足を引きずるようにゆっくりと近付いてきていた。
慌てて駆け寄ろうとした工藤珠希ではあったが、全身が真っ赤に染まっていて左手が無いその姿に驚いてしまい体が動かなくなってしまっていた。
工藤珠希の目に映ったイザーの左腕が無く左足を引きずっているその姿はあまりにも衝撃的過ぎたのだ。
助けを探しに零楼館高校に向かった時はあれほど軽かった足取りも誰も見つけることが出来なかった今はずっしりと重く感じていた。
すぐにでも助けに行かなければいけない。そんな思いがあるはずなのに、工藤珠希の足取りは鈍く前へ進もうという意志とは別にゆっくりと歩みを進めることしか出来なかったのだ。
多少の時間はかかったけれど、野城君が待つあの場所にたどり着くことは出来たのだ。
もしかしたら、全て終わって野城君とイザーが談笑でもしているのではないかと期待していたのだが、たどり着いたこの場所にいるのは野城君一人だけだった。
「一人で戻ってきたってことは、そういう事なんだね」
「うん、ドクターポンピーノしか見つけられなかった。みんなどこに行ってるのかわからないんだけど」
「もしかしたら、明日の戦闘に備えてみんなでバーベキューでもしてるのかもしれないよ。サキュバスとレジスタンスの戦いとは違って外敵と戦うことになるんだし、一致団結するためにもそう言った会が催されていることは多いしね。珠希ちゃんは知らなかったっけ?」
「そんなの知らないよ。全然知らないって」
外の敵と戦うためにはサキュバスだけとレジスタンスの連携は重要なのかもしれない。
普段は敵同士の勢力が手を組むことで普段以上の力を発揮することが出来るかもしれないが、それを可能にするためには出来るだけ連携を強化してお互いの良さを引き出せるようにする必要があるという事だ。
戦闘に参加することのない工藤珠希を誘ってもいいのではないかと思うのだが、野城君の話によると工藤珠希が参加することでサキュバス達がレジスタンスに対して見向きもしなくなってしまう恐れもあるので内緒にしていたという噂もあるそうだ。
「どちらにしろ、君が助けを呼びに行ったのは無駄足だったという事になるかもしれないね。完全に無駄とは思わないけれど、イザーちゃんのために何かしようとして失敗したというだけの話だね」
「誰も連れてくることは出来なかったかもしれないけれど、私一人でも今からイザーちゃんを助けに行くよ。それくらいは私にだって出来ると思うし」
「それはやめておいた方がいいんじゃないかな。ハッキリ言わせてもらうけど、君は戦っている相手の命を奪うことに対して戸惑いはないのかな。それがあるのだとしたら、悪いことを言わないのでここで待っている方が利口だと思う。他者の命を奪う事に責任を感じないのは人としておかしいとは思うんだけど、それが出来ない人にはイザーちゃんを助けることは出来ないと思う。なぜなら、向こうも向こうで生きている限り何度でも何度でも襲い掛かてくると思うからね。手足が無くても目が潰れていたとしても、何度だってどこでだってイザーちゃんに襲い掛かってしまうと思うよ。それを止めるには、五体満足な君が相手のサキュバス達をより多く殺す必要があるって事なんだよ」
サキュバスを殺す必要がある。
工藤珠希の思考が一瞬で停止してしまったのはサキュバスが怖いというのではなく、相手の命をためらう事なう奪う必要があると言われたからだ。
虫を殺すのも釣った魚を殺すのも苦手な工藤珠希にそんなことが出来るのか、見た目だけなら自分たちと大差も無い生きているサキュバスの命を奪う事など到底出来るはずもない。そんなことが出来るのであれば、この前の戦闘に自ら進んで参加していたと思っているのだ。
だが、工藤珠希がいくら考えてもサキュバスを殺すことは出来ないと思う。
相手の命を奪う事で自分の命を守ることが出来る状況に置かれたとしても、工藤珠希は自分の命を何のためらいもなく差し出してしまうだろう。
「普通の人間なら今の君みたいに真剣に悩んで悩んで悩んで悩みぬいた結果、何も出来ないという事になると思うんだよ」
「イザーちゃんを助けるためには何だってするって思ってたんだけど、相手の命を奪わなくてはいけないというのであれば、私は何も出来ないかもしれない」
「他人の命を奪うことに抵抗が無い人もいるけれど、今の君みたいに悩んでしまうのは普通なんだと思うよ。だって、相手の命を一方的に奪う事なんて普通の人間には無理な話なんだからね」
何度考えても自分が相手の命を奪う場面の想像がつかない。工藤珠希の中で相手の命を奪うという事は何よりも重いのだ。
でも、大切な仲間を守るために必要なのであれば、心を鬼にしてやり遂げなくてはいけない。そう思ってもいるのだ。
自分のためではなく、イザーを守るために必要なコト。
そう割り切ることで決心がついた工藤珠希がイザーのもとへと向かおうと思った。
今まさにその一歩を踏み出そうと決意したところで向こうからやって来る見慣れた笑顔が工藤珠希の心をかき乱してしまった。
向こうからやってきたのは間違いなくイザーなのだが、左足を引きずるようにゆっくりと近付いてきていた。
慌てて駆け寄ろうとした工藤珠希ではあったが、全身が真っ赤に染まっていて左手が無いその姿に驚いてしまい体が動かなくなってしまっていた。
工藤珠希の目に映ったイザーの左腕が無く左足を引きずっているその姿はあまりにも衝撃的過ぎたのだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)
三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。
各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。
第?章は前知識不要。
基本的にエロエロ。
本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。
一旦中断!詳細は近況を!
【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!
Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥
財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。
”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。
財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。
財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!!
青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!!
関連物語
『お嬢様は“いけないコト”がしたい』
『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中
『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位
『好き好き大好きの嘘』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位
『約束したでしょ?忘れちゃった?』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位
※表紙イラスト Bu-cha作
【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453
の続きです。
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
『近所でちょっぴりウワサの姉妹』
うどん
恋愛
【うどん劇場◥█̆̈◤࿉∥】第一作
近所でちょっぴりウワサになっている姉妹がいる。
異様な距離感。
それは一般的に見ても姉妹としての距離感ではなかった。
それはまるで『恋人同士』のよう…
しかしお互いに想いを寄せているものの、
姉妹である以上、許されるものではない。
そんな禁断の恋をしてしまった姉妹の
ちょっぴりえっちな物語。
うどん劇場◥█̆̈◤࿉∥作品
『幼なじみといっしょに』
『思春期のかがりちゃん』
とリンクしています。
そちらもお楽しみいただけますと幸いです。
※表紙・挿絵はAI生成です。
※他所で投稿していた小説を再度手を加えて投稿しています。
今更愛を告げられましても契約結婚は終わりでしょう?
SKYTRICK
BL
冷酷無慈悲な戦争狂α×虐げられてきたΩ令息
ユリアン・マルトリッツ(18)は男爵の父に命じられ、国で最も恐れられる冷酷無慈悲な軍人、ロドリック・エデル公爵(27)と結婚することになる。若く偉大な軍人のロドリック公爵にこれまで貴族たちが結婚を申し入れなかったのは、彼に関する噂にあった。ロドリックの顔は醜悪で性癖も異常、逆らえばすぐに殺されてしまう…。
そんなロドリックが結婚を申し入れたのがユリアン・マルトリッツだった。
しかしユリアンもまた、魔性の遊び人として名高い。
それは弟のアルノーの影響で、よなよな男達を誑かす弟の汚名を着せられた兄のユリアンは、父の命令により着の身着のままで公爵邸にやってくる。
そこでロドリックに突きつけられたのは、《契約結婚》の条件だった。
一、契約期間は二年。
二、互いの生活には干渉しない——……
『俺たちの間に愛は必要ない』
ロドリックの冷たい言葉にも、ユリアンは歓喜せざるを得なかった。
なぜなら結婚の条件は、ユリアンの夢を叶えるものだったからだ。
☆感想、ブクマなどとても励みになります!
いつでも僕の帰る場所
高穂もか
BL
「晶をセンター送りにするわけにいかない。それに成己は、家族が出来れば誰でもいいんだろ!?」
『男・女』の性の他に『アルファ・ベータ・オメガ』という第二の性がある世界。
オメガは、少子化対策の希望として、すべての生活を国から保障される。代わりに「二十歳までに伴侶がいなければ、オメガセンターで子供を産み続けること」を義務付けられていた。
主人公・春日成己は、赤ちゃんの頃に家族と離され、センターで育てられていた。
孤独な成己の支えは幼馴染の宏章の面会と『家族をもつ』という夢。
「自分の家族を持って、ずっと仲良く暮らしたい」
その夢は、叶うはずだった。
高校からの親友で、婚約者の陽平が、彼の初恋の人・晶と再会し、浮気をするまでは……
成己は、二十歳の誕生日を目前に、婚約を解消されてしまう。
婚約者探しは絶望的で、最早センターに行くしかない。
失意に沈む成己に手を差し伸べたのは、幼馴染の宏章だった。
「俺の家族になってくれ」
兄のように思っていた宏章に、身も心も包まれ愛されて――?
※宏章(包容ヤンデレ)×成己(健気不憫)の幼馴染オメガバースBLです♡
※ストレス展開が長く続きますが、最終的にはスカッとハッピーエンドになります🦾(⌒▽⌒)
※独自設定ありオメガバースです。
☆感想コメント、誠にありがとうございます!いつも大切に読ませて頂いております♡心の励みです(#^^#)
☆とても素敵な表紙は小槻みしろさんに頂きました✨
※24年9月2日
二百八十~三百二話までを修正の為非公開にしました。読んで下さった皆様、ありがとうございましたm(__)m
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる