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第23話 工藤珠希の見た夢
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久しぶりに夢を見た。
ハッキリとは覚えていないが、工藤珠希は知らない女の人と工藤太郎が一緒に歩いているところを見ていたのだ。工藤太郎と誰が一緒に歩いていても気にする必要なんてないのだが、なぜか今回に限ってはその女性の事を生理的に受け付けない。見ているだけでも気分が悪くなってしまうのであった。
「なんか今日は気分悪そうだけど、ちゃんと眠ってないのかな?」
「ちゃんと寝たと思うんだけど、変な夢を見ちゃって嫌な気分で起きちゃったんだよ」
「変な夢って、珠希ちゃんが夢で襲われたとか?」
「そういうのじゃなくて、なんで嫌な気持ちになったのかわからない感じなんだよね」
「それってどんな夢なの?」
「えっと、太郎が知らない女の人と一緒に歩いてる夢だった。……と思う」
工藤太郎と一緒に知らない女が歩いている夢。その言葉を聞いたと同時にイザーは血相を変えて走ってきた。今にもおでこ同士がくっつきそうなくらいの距離まで近付いてきたイザーに驚いて工藤珠希は少し椅子を引いて距離をとっていた。
一緒に話をしていた鈴木愛華も心配そうに見ていた。
「ごめん、盗み聞きするつもりはなかったんだけど、夢の中に太郎ちゃんが出てくるのって良くあるの?」
「いや、覚えてる範囲ではほとんどないかも。夢を見ること自体そんなにないし、見たとしても誰かが出てくることってあまりないかも」
「頻繁に夢を見ていないし太郎ちゃんもほとんど出てこないって事で間違いないんだよね?」
「うん、間違いないと思うよ。でも、覚えてないだけかもしれないかな」
「覚えてないんだったらそれでいいんだけど、今日は太郎ちゃんの夢を見たって事だもんね」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
イザーは少し言いにくそうにしていたが、それを助けるように栗宮院うまなが答えてくれた。
「ごめんなさいね。この子はサキュバスとしては半人前なんだよね。半人前とは言っても他に素晴らしい力があるから他の誰よりも凄いのよ。それで、この子もサキュバスなんで珠希ちゃんの夢の話が気になっちゃったのかもしれないわね。ほら、私たちサキュバスって夢の中で一番力を発揮出来るタイプでしょ、だから珠希ちゃんの夢に太郎ちゃんが出てきたのが気になっただけだと思うのよ。私たちはこの学校の生徒の夢に干渉しないって決まりがあるんだけど、それを破ってまで珠希ちゃんの夢に出る事は無いと思うのよ」
「ですよね。私達レジスタンスもその決まりが絶対だってのは理解してますよ。うまなさんがサキュバス代表になってから誰一人としてその決まりを破ったサキュバスはいないですもんね。もしかしたら、その決まりを破った誰かがいるんじゃないかってイザーちゃんは気になっただけなのかもしれないですよね」
「そうだね。イザーちゃんはそういうところに敏感だから過剰に反応してしまったのかもしれないね」
「いや、そうじゃなくて、珠希ちゃんの夢に干渉出来るのなんて校外にいるサキュ」
何かを言いかけたイザーを栗宮院うまなと鈴木愛華が拳によって押さえつけていた。
サキュバスとレジスタンスと言う別れた勢力に身を置いている二人が見せた連携技は何年もコンビを組んでいるのではないかと錯覚していしまう程に息があっていた。
いったんは言葉を飲み込んだイザーだったが、再び何かを言おうとした。が、それもすぐに邪魔されて何も言えなくなってしまっていた。
そんな事が何度が続いている間に自習の時間は残りわずかとなっていた。
「そう言えば、抗争は引き分けに終わってしまったけれど、無敗記録はさらに更新することとなったみたいだね。レジスタンスの諸君を説得するのに時間はかかるかもしれないと思っていたんだけど、新一年生という事もあって案外簡単に説得することが出来たよ」
「あのまま続けていれば最終的には勝てたかもしれなかったんですよね。去年もおととしもその前もずっとずっと前も、初戦はレジスタンスだけではなくサキュバス側も引き際を間違えていることが多いんですよね。あのまま持久戦に持ち込めば勝てたと思ったんですけど、あの子たちにはそうなる理由がわからないから自分たちの被害の方が大きいと思い込んでしまってるんですよね。経験のある司令官がいれば結果は変わってると思うんですけど、初戦だった一年生にそこまで求めるのは酷な話ですよね」
「それはサキュバス側にも言えるのよね。無策で突っ込んでいくだけでも数の力で押し切れるんだけど、実際に目の前で仲間が死んでいく事を見てしまうとそれも難しくなってしまうのよね。後で生き返ることが出来るとわかっていても、実際にそれを経験していない状況では死んだままなんじゃないかって思ってしまうものね」
サキュバスの栗宮院うまなとレジスタンスの鈴木愛華。
違う立場で敵対しているはずの二人ではあったが、こうして見てみると歴戦の友のような信頼感が二人の間にあるように見える。そんなモノがあるのかはわからないが、工藤珠希の目にはそのように映っていた。
「ところで、イザーさんが言おうとしていた校外のサキュバスっていったい何の話ですか?」
工藤珠希の言葉を聞いた栗宮院うまなと鈴木愛華はイザーの事を睨んでいた。
イザーの気が弱ければ泣いているか気を失っているのではないかと思ってしまうくらい迫力がある二人であった。
「いや、イザーちゃんはそんなこと言ってないし。珠希ちゃんが勝手に想像してそう言っただけだし。イザーちゃんは何も悪くないもん。何にも悪くないもんね」
そう言い残したイザーは霧のように姿を消していた。
栗宮院うまなも鈴木愛華も工藤珠希の質問に答えることはなく、お互いの席に戻って教科書を開いていた。
これ以上何かを聞くのはやめた方がいいのかもしれない。そう思った工藤珠希であった。
ハッキリとは覚えていないが、工藤珠希は知らない女の人と工藤太郎が一緒に歩いているところを見ていたのだ。工藤太郎と誰が一緒に歩いていても気にする必要なんてないのだが、なぜか今回に限ってはその女性の事を生理的に受け付けない。見ているだけでも気分が悪くなってしまうのであった。
「なんか今日は気分悪そうだけど、ちゃんと眠ってないのかな?」
「ちゃんと寝たと思うんだけど、変な夢を見ちゃって嫌な気分で起きちゃったんだよ」
「変な夢って、珠希ちゃんが夢で襲われたとか?」
「そういうのじゃなくて、なんで嫌な気持ちになったのかわからない感じなんだよね」
「それってどんな夢なの?」
「えっと、太郎が知らない女の人と一緒に歩いてる夢だった。……と思う」
工藤太郎と一緒に知らない女が歩いている夢。その言葉を聞いたと同時にイザーは血相を変えて走ってきた。今にもおでこ同士がくっつきそうなくらいの距離まで近付いてきたイザーに驚いて工藤珠希は少し椅子を引いて距離をとっていた。
一緒に話をしていた鈴木愛華も心配そうに見ていた。
「ごめん、盗み聞きするつもりはなかったんだけど、夢の中に太郎ちゃんが出てくるのって良くあるの?」
「いや、覚えてる範囲ではほとんどないかも。夢を見ること自体そんなにないし、見たとしても誰かが出てくることってあまりないかも」
「頻繁に夢を見ていないし太郎ちゃんもほとんど出てこないって事で間違いないんだよね?」
「うん、間違いないと思うよ。でも、覚えてないだけかもしれないかな」
「覚えてないんだったらそれでいいんだけど、今日は太郎ちゃんの夢を見たって事だもんね」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
イザーは少し言いにくそうにしていたが、それを助けるように栗宮院うまなが答えてくれた。
「ごめんなさいね。この子はサキュバスとしては半人前なんだよね。半人前とは言っても他に素晴らしい力があるから他の誰よりも凄いのよ。それで、この子もサキュバスなんで珠希ちゃんの夢の話が気になっちゃったのかもしれないわね。ほら、私たちサキュバスって夢の中で一番力を発揮出来るタイプでしょ、だから珠希ちゃんの夢に太郎ちゃんが出てきたのが気になっただけだと思うのよ。私たちはこの学校の生徒の夢に干渉しないって決まりがあるんだけど、それを破ってまで珠希ちゃんの夢に出る事は無いと思うのよ」
「ですよね。私達レジスタンスもその決まりが絶対だってのは理解してますよ。うまなさんがサキュバス代表になってから誰一人としてその決まりを破ったサキュバスはいないですもんね。もしかしたら、その決まりを破った誰かがいるんじゃないかってイザーちゃんは気になっただけなのかもしれないですよね」
「そうだね。イザーちゃんはそういうところに敏感だから過剰に反応してしまったのかもしれないね」
「いや、そうじゃなくて、珠希ちゃんの夢に干渉出来るのなんて校外にいるサキュ」
何かを言いかけたイザーを栗宮院うまなと鈴木愛華が拳によって押さえつけていた。
サキュバスとレジスタンスと言う別れた勢力に身を置いている二人が見せた連携技は何年もコンビを組んでいるのではないかと錯覚していしまう程に息があっていた。
いったんは言葉を飲み込んだイザーだったが、再び何かを言おうとした。が、それもすぐに邪魔されて何も言えなくなってしまっていた。
そんな事が何度が続いている間に自習の時間は残りわずかとなっていた。
「そう言えば、抗争は引き分けに終わってしまったけれど、無敗記録はさらに更新することとなったみたいだね。レジスタンスの諸君を説得するのに時間はかかるかもしれないと思っていたんだけど、新一年生という事もあって案外簡単に説得することが出来たよ」
「あのまま続けていれば最終的には勝てたかもしれなかったんですよね。去年もおととしもその前もずっとずっと前も、初戦はレジスタンスだけではなくサキュバス側も引き際を間違えていることが多いんですよね。あのまま持久戦に持ち込めば勝てたと思ったんですけど、あの子たちにはそうなる理由がわからないから自分たちの被害の方が大きいと思い込んでしまってるんですよね。経験のある司令官がいれば結果は変わってると思うんですけど、初戦だった一年生にそこまで求めるのは酷な話ですよね」
「それはサキュバス側にも言えるのよね。無策で突っ込んでいくだけでも数の力で押し切れるんだけど、実際に目の前で仲間が死んでいく事を見てしまうとそれも難しくなってしまうのよね。後で生き返ることが出来るとわかっていても、実際にそれを経験していない状況では死んだままなんじゃないかって思ってしまうものね」
サキュバスの栗宮院うまなとレジスタンスの鈴木愛華。
違う立場で敵対しているはずの二人ではあったが、こうして見てみると歴戦の友のような信頼感が二人の間にあるように見える。そんなモノがあるのかはわからないが、工藤珠希の目にはそのように映っていた。
「ところで、イザーさんが言おうとしていた校外のサキュバスっていったい何の話ですか?」
工藤珠希の言葉を聞いた栗宮院うまなと鈴木愛華はイザーの事を睨んでいた。
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「いや、イザーちゃんはそんなこと言ってないし。珠希ちゃんが勝手に想像してそう言っただけだし。イザーちゃんは何も悪くないもん。何にも悪くないもんね」
そう言い残したイザーは霧のように姿を消していた。
栗宮院うまなも鈴木愛華も工藤珠希の質問に答えることはなく、お互いの席に戻って教科書を開いていた。
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