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第17話 ドクターポンピーノ
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司令官がいない状況で味方が次々に死んでいく姿を目の当たりにしたサキュバス達は早々に戦意を喪失していたのは理解出来るのだが、サキュバスを殺していたレジスタンス側にも命を奪ってしまったという後悔の念が押し寄せていたのであった。
午前中は活発に行われていた衝突も午後にはすっかりと落ち着いており、様子を見に来た上級生たちも本当に抗争が行われていたのかと感じてしまう程であった。
新一年生にとってもそうなのだが、工藤珠希にとっても初めて目にする抗争はあっけない形で一日目を終了していたのだった。
片岡先生の指示で放課後に第一処置室へ行くようにと言われた工藤珠希と工藤太郎は戦闘の爪痕が少しだけ残っている廊下を地図を片手に歩いていた。
「君たち、こっちこっち、こっちに早く来ておくれ」
ドアから体を半分外に出した白衣姿の女性が二人に呼びかけていた。それを見た工藤太郎は駆け足でその部屋へと向かっていったのだが、工藤珠希は戦闘があったこの場所で走るのは若干気が引けていて少しだけ早歩きで向かうことにした。
「君たちにとって今日は色々と新しい発見があった一日だったと思うけど、今から君たちに本日最後のサプライズを見せてあげよう。と言っても、そんなに驚くことではないかもしれないんだけどね」
白衣の女性は二人に背を向けると机の引き出しを開けて何かを探しているみたいであった。
病院のような臭いのする処置室で黙って座っている二人は机の向こうにあるカーテンの奥が気になっているようだった。カーテンの奥に箱が何段も積み重ねられているのがうっすらと見えるのだが、それはいったい何なんだろうか。気になりはするものの、探し物をしているこのタイミングで聞くことではないと工藤珠希は考えていた。
「どこにいってしまったのかと思ったけど、鞄の中に入れていたみたいだ。話をする前に私がいったい何者なのか教えておく必要があると思って名刺を探していたんだよ。君たちは高校生だから名刺なんて貰ったことも無いと思うけど、よかったら受け取ってくれたまえ。私はドクターポンピーノ。呼び方はドクターでもポンちゃんでも何でもいいからね」
受け取った名刺には医師と名前が書かれているのだが、それ以外にはこの学校の校章が書かれているだけで他は全て空白であった。彼女が医者であることは間違いないのだろうが、なぜ二人がここに来るように言われたのか理由がわからない。
「じゃ、さっそくだけど君たちに見せたいものがあるんでもう少しこっちに来てもらっても良いかな。そこで見ててもいいんだけど、近くに来た方が見やすいとは思うんだよね。君たちはまだまだこの学校の事で知らないことがあると思うんだけど、一番気になっているであろうことを理解してみようね」
ドクターポンピーノは手元にあるファイルを見ながら二人の顔を交互に見つめていた。
「今回の抗争で死者も出ていたのだけど、ここに残っているのは司令官だった二人だけだね。他のみんなは君たちが来る前に生き返って教室に戻っていったよ。命の勝ちに差があるという意味ではないので誤解しないで聞いてもらいたいのだけど、司令官と一般生徒では処置の仕方に若干の違いがあるのだよ。一般生徒はそのまま生き返らせても問題が無いのだけど、司令官だった生徒は司令官になれないように特別な処置をしておかなくてはいけないからね。優秀な生徒を一人だけ育てるよりも多くの生徒に経験を積ませることが得策だと思ってるみたいだからね。ま、栗宮院うまな君と栗鳥院柘榴君みたいに一人で何でも出来てしまう特別な生徒もいることにはいるんだけど、それは千年に一度あればいいくらいの感覚でいた方がいいと思うんだ。君たち二人も私に言わせれば特別な生徒であることには間違いないけどね」
「太郎が特別なのはわかるんだけど、ボクも特別ってのはよくわからないんですけど」
「珠希ちゃんはどう考えても特別だと思うよ。俺と違って“特別指名推薦”なんだからね」
「その“特別指名推薦”ってのがいまだによくわかってないんだけど。それっていったい何なの?」
「簡単に説明するとだね、学校にではなく君個人が対象で推薦を出したという事だよ。本来であれば受験する側の学校から生徒を選んでもらう形になると思うんだけど、それとは逆にこちら側が生徒を指名して事件してもらうって形になったんだよ。君はどうして自分が選ばれたんだろうって思ってるのかもしれないけど、それはサキュバス君たちが選んだのだから私にはわかりかねるよ。ただ、君の事を見ているサキュバス君たちはいつもと違うという事は普通の人間である私にもわかってしまうんだけどね」
「ポンピーノ先生って、本当に人間なんですか?」
普通の人間だと言い切ったドクターポンピーノに対して工藤太郎は本当に人間なのかと聞いていた。サキュバスと人間はパッと見では区別もつかないのでドクターポンピーノが人間ではなくサキュバスと言う可能性もあるのだろうが、工藤珠希の目にはドクターポンピーノは人間にしか見えなかった。
「君は私が人間ではなくサキュバスなのかもしれないと思っているという事かな?」
「いえ、そうではなくて、普通の人間でも俺が今まで見てきたサキュバスでもないような気がするんです。サキュバスよりは人間に近いとは思うんですけど、俺が知らない二元とは違うナニかを感じてしまうんです」
「なるほどなるほど、君が特別だという事を改めて思い知らされたよ。君のその感覚は大切にした方がいいね。ただ、私は本当にただの人間なんだよ。何の変哲もないごく普通の人間なんだよ。ただし、この世界ではなく別の世界からやってきたんだけどね」
午前中は活発に行われていた衝突も午後にはすっかりと落ち着いており、様子を見に来た上級生たちも本当に抗争が行われていたのかと感じてしまう程であった。
新一年生にとってもそうなのだが、工藤珠希にとっても初めて目にする抗争はあっけない形で一日目を終了していたのだった。
片岡先生の指示で放課後に第一処置室へ行くようにと言われた工藤珠希と工藤太郎は戦闘の爪痕が少しだけ残っている廊下を地図を片手に歩いていた。
「君たち、こっちこっち、こっちに早く来ておくれ」
ドアから体を半分外に出した白衣姿の女性が二人に呼びかけていた。それを見た工藤太郎は駆け足でその部屋へと向かっていったのだが、工藤珠希は戦闘があったこの場所で走るのは若干気が引けていて少しだけ早歩きで向かうことにした。
「君たちにとって今日は色々と新しい発見があった一日だったと思うけど、今から君たちに本日最後のサプライズを見せてあげよう。と言っても、そんなに驚くことではないかもしれないんだけどね」
白衣の女性は二人に背を向けると机の引き出しを開けて何かを探しているみたいであった。
病院のような臭いのする処置室で黙って座っている二人は机の向こうにあるカーテンの奥が気になっているようだった。カーテンの奥に箱が何段も積み重ねられているのがうっすらと見えるのだが、それはいったい何なんだろうか。気になりはするものの、探し物をしているこのタイミングで聞くことではないと工藤珠希は考えていた。
「どこにいってしまったのかと思ったけど、鞄の中に入れていたみたいだ。話をする前に私がいったい何者なのか教えておく必要があると思って名刺を探していたんだよ。君たちは高校生だから名刺なんて貰ったことも無いと思うけど、よかったら受け取ってくれたまえ。私はドクターポンピーノ。呼び方はドクターでもポンちゃんでも何でもいいからね」
受け取った名刺には医師と名前が書かれているのだが、それ以外にはこの学校の校章が書かれているだけで他は全て空白であった。彼女が医者であることは間違いないのだろうが、なぜ二人がここに来るように言われたのか理由がわからない。
「じゃ、さっそくだけど君たちに見せたいものがあるんでもう少しこっちに来てもらっても良いかな。そこで見ててもいいんだけど、近くに来た方が見やすいとは思うんだよね。君たちはまだまだこの学校の事で知らないことがあると思うんだけど、一番気になっているであろうことを理解してみようね」
ドクターポンピーノは手元にあるファイルを見ながら二人の顔を交互に見つめていた。
「今回の抗争で死者も出ていたのだけど、ここに残っているのは司令官だった二人だけだね。他のみんなは君たちが来る前に生き返って教室に戻っていったよ。命の勝ちに差があるという意味ではないので誤解しないで聞いてもらいたいのだけど、司令官と一般生徒では処置の仕方に若干の違いがあるのだよ。一般生徒はそのまま生き返らせても問題が無いのだけど、司令官だった生徒は司令官になれないように特別な処置をしておかなくてはいけないからね。優秀な生徒を一人だけ育てるよりも多くの生徒に経験を積ませることが得策だと思ってるみたいだからね。ま、栗宮院うまな君と栗鳥院柘榴君みたいに一人で何でも出来てしまう特別な生徒もいることにはいるんだけど、それは千年に一度あればいいくらいの感覚でいた方がいいと思うんだ。君たち二人も私に言わせれば特別な生徒であることには間違いないけどね」
「太郎が特別なのはわかるんだけど、ボクも特別ってのはよくわからないんですけど」
「珠希ちゃんはどう考えても特別だと思うよ。俺と違って“特別指名推薦”なんだからね」
「その“特別指名推薦”ってのがいまだによくわかってないんだけど。それっていったい何なの?」
「簡単に説明するとだね、学校にではなく君個人が対象で推薦を出したという事だよ。本来であれば受験する側の学校から生徒を選んでもらう形になると思うんだけど、それとは逆にこちら側が生徒を指名して事件してもらうって形になったんだよ。君はどうして自分が選ばれたんだろうって思ってるのかもしれないけど、それはサキュバス君たちが選んだのだから私にはわかりかねるよ。ただ、君の事を見ているサキュバス君たちはいつもと違うという事は普通の人間である私にもわかってしまうんだけどね」
「ポンピーノ先生って、本当に人間なんですか?」
普通の人間だと言い切ったドクターポンピーノに対して工藤太郎は本当に人間なのかと聞いていた。サキュバスと人間はパッと見では区別もつかないのでドクターポンピーノが人間ではなくサキュバスと言う可能性もあるのだろうが、工藤珠希の目にはドクターポンピーノは人間にしか見えなかった。
「君は私が人間ではなくサキュバスなのかもしれないと思っているという事かな?」
「いえ、そうではなくて、普通の人間でも俺が今まで見てきたサキュバスでもないような気がするんです。サキュバスよりは人間に近いとは思うんですけど、俺が知らない二元とは違うナニかを感じてしまうんです」
「なるほどなるほど、君が特別だという事を改めて思い知らされたよ。君のその感覚は大切にした方がいいね。ただ、私は本当にただの人間なんだよ。何の変哲もないごく普通の人間なんだよ。ただし、この世界ではなく別の世界からやってきたんだけどね」
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