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第15話 うまなちゃんと柘榴ちゃん
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サキュバスとレジスタンスの抗争にはいくつか決め事があり、その一つには開戦時にお互いが確認した戦力以外は参加することが出来ないというものがある。
SRクラスはその性質上どの戦闘にもクラスとして参加することは出来ないのだが、生徒が自主的に参加することは認められているのだ。ただし、今回は開戦時に参加表明をしているものがいないため全員が観戦するという立場になっている。
「最初の一時間で結構動きがあったからどうなる事かと思ったんだけど、このままだとどちらも徐々に戦力が削られるだけで決定打にかけるかもね。これ以上続けても意味が無いように思えるんだけど、今回は一年生同士の戦いって事もあるし会長とうまなちゃんが行って休戦か停戦の申し出をしてきたらいいんじゃないかな」
「中学までの模擬戦と違って最初の実践は色々と考えることがあるものね。今までは相手の命を奪う事なんて無かったわけだけど、今回からは普通に相手を殺しちゃうこともあるんだしね。あとで生き返ることが出来るとはいえ、人を殺したって感触は慣れるまで大変なんだよね。前線で戦ってた子たちもみんな後ろに下がっちゃってるし、それを見たレジスタンスの子たちも戦意喪失しかけてるよね」
「サキュバスの子たちもあれだけ仕掛けてるのに目に見える結果が無いからなのか、特攻している人自体も減っているね。例年通りの負傷者数になっちゃう前に止めてあげるのも必要なんじゃないかな」
イザーと鈴木愛華は冷静な目で戦況を分析していた。このまま続けていけば勝敗はつくのかもしれないが、最後まで戦い抜いたという経験よりも被害を少なくして次回に繋げることの方が大事だと二人は考えていた。
栗宮院うまなと栗鳥院柘榴も基本的には二人と同じ考えなのだが、今のように均衡した状態で休戦に入るよりもどちらかが一気に攻めて有利な状況にしてから休戦の協定を結ぶべきだと思っているのだ。一年生最初の戦いが均衡状態のまま終わってしまうよりもどちらかが有利な状況で終わらせた方が夏以降に起こると思われる複数学年での大規模抗争で優位に立つことが出来ると考えてもいるのだ。
だが、両陣営とも完全に戦意を失いつつあるこの状況では栗宮院うまなと栗鳥院柘榴の考える最善の状況に至ることはないだろう。実際の戦闘での心理的ストレスは想像以上に重く、彼女たちのようにどんな状況でも自分の力で好転させることが出来るような天才とは違うという事を理解出来ていないのだ。
「死んだとしても放課後には生き返ることが出来るんだから無理してでも突っ込めばいいのに。自分の命を犠牲になったとしても、仲間のためになるんだったら行けると思うんだけどな。人間死ぬ気になれば何でもできるっていうけど、それはサキュバスにとっても同じだと思うんだよね。私が司令官だったら、一年生の初戦なんて死ぬことを恐れずにがむしゃらに突っ込めって言うかもしれないわ」
「その考えはとてもいいと思うわ。サキュバスは無駄に数も多いしちょこちょこ来られると守る方も疲労が溜まってしまうもの。防衛ラインを突破されてしまう危険性はあるかもしれないけれど、人数が少ないレジスタンス側としてはその方がありがたいのよね」
「死を経験することで強くなることもあるんだし、レジスタンスの薄い壁なんて数の力で押し切ればいいんだって思うんだけどな」
「分厚い壁をぶち破ることが出来る豆鉄砲があるのなら見てみたいけどね。一年生のサキュバスにそれが出来るとは思えないんですけど」
休戦の使者として期待されている栗宮院うまなと栗鳥院柘榴はお互いの戦術論と育成論をぶつけあっていた。どちらが正しいのか判断できない工藤珠希ではあったが、一つだけ考えを改めてほしいと思うところがあった。
何も知らない自分が言うのはおかしいのではないかと思ってしまうのだが、今この場で言わなければ一生理解してもらえる機会はないのではないかとも思ってしまっていた。
「大体、サキュバスは数の多さにかまけて戦術も戦略も何もないじゃないか。うまなちゃんが自分一人で何でも出来るから他の人も自分と同じように出来ると思っているのかもしれないけれど、君は誰がどう見ても特別だし君のように何でも出来るサキュバスなんてどこにもいやしないんだ。その事を君はもっと自覚した方がいいよ」
「私も言わせてもらうけど、柘榴ちゃんだって人間とは思えないほど凄い力を持ってるじゃない。あなたが一人、一年生に加わったとしたら今頃一年生のサキュバスは全滅してるんじゃないかって思うわ。ただ強いだけではなく先を読み通す力もあるあなたが後輩たちに何も教えないってのは良くないことじゃないかと思うんだけど。あなたの考えをもっとわかりやすく後輩たちに教えていたとしたら、この学校は今までのようにサキュバス優勢とはいかなかったんじゃないかしらね」
「それは無いと思うね。私がどれだけ後輩に知恵を授けたとしても、あなたがサキュバスのトップにいる限りは焼け石に水よ。うまなちゃん以外のサキュバスを全員殺したとしても、あなたが生き残っていたらこちらが全滅する危険性があるって事なのよ。私があなたを倒さない限りレジスタンス側に完全勝利と言うモノは存在しないのよ」
「でも、今のあなただったら、私を倒すことも出来ると思うんだけど。月に一度サキュバスの力が弱まる時に開戦すればいいのに、私がどうすることも出来ない弱点をあなたはつこうとしないわよね。そこで非情になることが出来ればサキュバス側の全戦無敗という記録が破れてしまうと思うだけどね」
「そんな卑怯な真似は出来ないよ。私は正々堂々と戦ってうまなちゃんに勝ちたいんだよ。弱体化している相手に勝ったなんて恥ずかしくて誰にも言えないでしょ」
貶しあっていたはずの二人は何故かお互いの事を誉めていた。
それは良いことなんだろうと思った工藤珠希ではあったが、何か腑に落ちないものを感じてしまっていたのだった。
SRクラスはその性質上どの戦闘にもクラスとして参加することは出来ないのだが、生徒が自主的に参加することは認められているのだ。ただし、今回は開戦時に参加表明をしているものがいないため全員が観戦するという立場になっている。
「最初の一時間で結構動きがあったからどうなる事かと思ったんだけど、このままだとどちらも徐々に戦力が削られるだけで決定打にかけるかもね。これ以上続けても意味が無いように思えるんだけど、今回は一年生同士の戦いって事もあるし会長とうまなちゃんが行って休戦か停戦の申し出をしてきたらいいんじゃないかな」
「中学までの模擬戦と違って最初の実践は色々と考えることがあるものね。今までは相手の命を奪う事なんて無かったわけだけど、今回からは普通に相手を殺しちゃうこともあるんだしね。あとで生き返ることが出来るとはいえ、人を殺したって感触は慣れるまで大変なんだよね。前線で戦ってた子たちもみんな後ろに下がっちゃってるし、それを見たレジスタンスの子たちも戦意喪失しかけてるよね」
「サキュバスの子たちもあれだけ仕掛けてるのに目に見える結果が無いからなのか、特攻している人自体も減っているね。例年通りの負傷者数になっちゃう前に止めてあげるのも必要なんじゃないかな」
イザーと鈴木愛華は冷静な目で戦況を分析していた。このまま続けていけば勝敗はつくのかもしれないが、最後まで戦い抜いたという経験よりも被害を少なくして次回に繋げることの方が大事だと二人は考えていた。
栗宮院うまなと栗鳥院柘榴も基本的には二人と同じ考えなのだが、今のように均衡した状態で休戦に入るよりもどちらかが一気に攻めて有利な状況にしてから休戦の協定を結ぶべきだと思っているのだ。一年生最初の戦いが均衡状態のまま終わってしまうよりもどちらかが有利な状況で終わらせた方が夏以降に起こると思われる複数学年での大規模抗争で優位に立つことが出来ると考えてもいるのだ。
だが、両陣営とも完全に戦意を失いつつあるこの状況では栗宮院うまなと栗鳥院柘榴の考える最善の状況に至ることはないだろう。実際の戦闘での心理的ストレスは想像以上に重く、彼女たちのようにどんな状況でも自分の力で好転させることが出来るような天才とは違うという事を理解出来ていないのだ。
「死んだとしても放課後には生き返ることが出来るんだから無理してでも突っ込めばいいのに。自分の命を犠牲になったとしても、仲間のためになるんだったら行けると思うんだけどな。人間死ぬ気になれば何でもできるっていうけど、それはサキュバスにとっても同じだと思うんだよね。私が司令官だったら、一年生の初戦なんて死ぬことを恐れずにがむしゃらに突っ込めって言うかもしれないわ」
「その考えはとてもいいと思うわ。サキュバスは無駄に数も多いしちょこちょこ来られると守る方も疲労が溜まってしまうもの。防衛ラインを突破されてしまう危険性はあるかもしれないけれど、人数が少ないレジスタンス側としてはその方がありがたいのよね」
「死を経験することで強くなることもあるんだし、レジスタンスの薄い壁なんて数の力で押し切ればいいんだって思うんだけどな」
「分厚い壁をぶち破ることが出来る豆鉄砲があるのなら見てみたいけどね。一年生のサキュバスにそれが出来るとは思えないんですけど」
休戦の使者として期待されている栗宮院うまなと栗鳥院柘榴はお互いの戦術論と育成論をぶつけあっていた。どちらが正しいのか判断できない工藤珠希ではあったが、一つだけ考えを改めてほしいと思うところがあった。
何も知らない自分が言うのはおかしいのではないかと思ってしまうのだが、今この場で言わなければ一生理解してもらえる機会はないのではないかとも思ってしまっていた。
「大体、サキュバスは数の多さにかまけて戦術も戦略も何もないじゃないか。うまなちゃんが自分一人で何でも出来るから他の人も自分と同じように出来ると思っているのかもしれないけれど、君は誰がどう見ても特別だし君のように何でも出来るサキュバスなんてどこにもいやしないんだ。その事を君はもっと自覚した方がいいよ」
「私も言わせてもらうけど、柘榴ちゃんだって人間とは思えないほど凄い力を持ってるじゃない。あなたが一人、一年生に加わったとしたら今頃一年生のサキュバスは全滅してるんじゃないかって思うわ。ただ強いだけではなく先を読み通す力もあるあなたが後輩たちに何も教えないってのは良くないことじゃないかと思うんだけど。あなたの考えをもっとわかりやすく後輩たちに教えていたとしたら、この学校は今までのようにサキュバス優勢とはいかなかったんじゃないかしらね」
「それは無いと思うね。私がどれだけ後輩に知恵を授けたとしても、あなたがサキュバスのトップにいる限りは焼け石に水よ。うまなちゃん以外のサキュバスを全員殺したとしても、あなたが生き残っていたらこちらが全滅する危険性があるって事なのよ。私があなたを倒さない限りレジスタンス側に完全勝利と言うモノは存在しないのよ」
「でも、今のあなただったら、私を倒すことも出来ると思うんだけど。月に一度サキュバスの力が弱まる時に開戦すればいいのに、私がどうすることも出来ない弱点をあなたはつこうとしないわよね。そこで非情になることが出来ればサキュバス側の全戦無敗という記録が破れてしまうと思うだけどね」
「そんな卑怯な真似は出来ないよ。私は正々堂々と戦ってうまなちゃんに勝ちたいんだよ。弱体化している相手に勝ったなんて恥ずかしくて誰にも言えないでしょ」
貶しあっていたはずの二人は何故かお互いの事を誉めていた。
それは良いことなんだろうと思った工藤珠希ではあったが、何か腑に落ちないものを感じてしまっていたのだった。
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