ギ家族

釧路太郎

文字の大きさ
上 下
38 / 49
花咲百合編2

百合 その七

しおりを挟む
 雪さんの連れてきたライターの人はいかにもと言った風貌をしていた。
 ファッション誌や女性誌を作っているといった感じは受けなかったし、見た目だけで判断しても最前線で事件を取り扱っているといった感じも受けなった。
 実際に話を聞いてみても過去に書いていた記事がそのような感じだったので、私の見る目は間違っていないのだと確認できただけでもいいだろう。

「今まで俺は記事を書いてもあまり反応されることも無くて、今回の事で俺も注目されるようになりました。花咲さんのお陰で俺は日の目を見ることも出来ましたし、テレビに出て解説する仕事も決まったんですよ。そのお礼ではないですけど、花咲さんが無事に出られるように俺も協力しますからね。俺だけじゃなくて花咲さんの職場の人達も協力してくれていますから安心してください」
「職場の人って誰ですか?」
「一番協力してくれているのは桐木カンナさんですね。舞島皐月さんも花咲さんのために色々と協力してくれているんですが、一部では花咲さんと舞島さんが揉めていたという情報もありまして、二人に話を伺っているとそのような印象は受けなかったんですよね。花咲さんと舞島さんは何か揉めるようなことがあったんですか?」
「えっと、谷村さんでしたっけ。谷村さんはどこまでご存じなんでしょうか?」
「ご存じとおっしゃいますと?」
「会社での人間関係の事ですね。私が勤めていた会社の事です」
「話を伺ったお二人から聞いた話ですが、以前休暇を巡って花咲さんと舞島さんが揉めたこともあったみたいですと伺っていますね」
「そんな事もありましたね。今となってはどうしてあんなに意地になってしまったのだろうと思っています。何か原因でもあったんですかね?」
「それこそ、あの土地にあった呪いが原因なんじゃないでしょうかね。そう思っていれば世間が花咲さんを見る目もより同情的になるんじゃないでしょうかね。その方が俺にとってもアクセス数を稼げて嬉しいんですよ」
「谷村さんは真実と違う事でも問題なく記事を書いてしまうんですか?」
「そうですよ。俺みたいなのが書いている記事は真実よりも大衆が求めている物をいかに提供できるかが大事になってくるんですよ。テレビや新聞なんかもそうですけど、真実をそのまま見せるよりも真実を伏せて真実っぽく見せる方が喜ばれることもありますからね。占いとか好きな人なんかは真実を知るよりも、自分にとって都合のいいことを目にした方が安心すると思うんですよ。俺の記事なんてそんな程度のものだと思っていたんですけど、花咲さんのお陰で俺も表に出ることが出来たんです。そういった意味でも、俺は花咲さんが無事に出られるためだったら協力は惜しまないですよ」
「雪さんもそう思っているんですか?」
「私は最後まで百合さんの味方なので、百合さんにとって一番いい結果になるように努力するだけですよ。今のところ、その努力も報われそうなんで良かったのですけど、最後まで気を抜かないで頑張りますからね」
「そう言えば、花咲さんと花車弁護士のお名前って響きだけだったら似てますよね。花咲百合さんの弁護を花車雪弁護士が担当するってのは運命だったんですかね。呪いに立ち向かう二人ってのは大衆が求める良い記事になると思うんですけど、花咲さんの名前を出すのはまだNGなんですよね」
「私の名前は出ていないんですか?」
「調べれば出てきますし、今でもネットやSNSでは百合さんの実名は出ていますね。ただ、報道機関では精神鑑定の話が出た時点で匿名報道に切り替わりました。事件の事を最近知った人でテレビや新聞以外に情報を得ることが無い人はいまだに百合さんの名前は知らないと思いますよ」
「その件なんですけど、俺にはどうも不思議でならないんですよね。今までも精神鑑定を行われたケースはあったと思うんですけど、匿名報道に切り替わったことなんてありましたっけ?」
「谷村さんが存じ上げないだけであったんじゃないですかね」
「そうだったとしても、ウチみたいなネットメディアも一斉に匿名報道に切り替わるなんて前例がないと思うんですけど、花咲さんってもしかしてメディアに物凄い影響力を持ってたりするんですか?」
「私はそんな力が無いと思いますけど。それに、そんな力があるなら一般企業で働いていたりしないと思いますよ」
「それもそうですよね。それにしても、こうしてお話しさせていただいて感じたのですけど、花咲さんってとてもじゃないけどあんな事件を起こした人とは思えないくらい落ち着いていますよね。いや、あんな事件を起こしたからこそ普段は落ち着いていると言えるんですかね?」
「さあ、それはどうでしょうね」
「そろそろお時間になりますね。私はまた明日も百合さんに会いに来ますけど、今日も警察に負けないように頑張ってくださいね」

 雪さんと谷村さんが立ち上がって私に礼をしていた。
 私は二人が部屋を出るまでの様子を窺っていたけれど、明日からはまた雪さんと二人だけの時間になるのだと思うと少しだけ嬉しくなっていた。
 ライターの谷村さんと会うことはもうないと思うけれど、私のために頑張るという言葉が少し引っかかっていたので確かめたい気持ちがわいてきてしまった。
 私のためではなく自分が食べていくために書いているので、状況が変われば私の事を悪く書いてしまいそうだな。
 それならそれでいいんだけれどね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

密室島の輪舞曲

葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。 洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。

月影館の呪い

葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽(しんどう はね)は、名門の一軒家に住み、学業成績は常にトップ。推理小説を愛し、暇さえあれば本を読みふける彼の日常は、ある日、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)からの一通の招待状によって一変する。彩由美の親戚が管理する「月影館」で、家族にまつわる不気味な事件が起きたというのだ。 彼女の無邪気な笑顔に背中を押され、葉羽は月影館へと足を運ぶ。しかし、館に到着すると、彼を待ち受けていたのは、過去の悲劇と不気味な現象、そして不可解な暗号の数々だった。兄弟が失踪した事件、村に伝わる「月影の呪い」、さらには日記に隠された暗号が、葉羽と彩由美を恐怖の渦へと引きずり込む。 果たして、葉羽はこの謎を解き明かし、彩由美を守ることができるのか? 二人の絆と、月影館の真実が交錯する中、彼らは恐ろしい結末に直面する。

双極の鏡

葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。 事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。

量子の檻 - 遺言の迷宮

葉羽
ミステリー
天才高校生探偵の神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美とともに、不可解な遺言の謎に挑む。量子暗号技術を駆使した遺言は、解読されるたびに新たな謎を生み出し、葉羽たちを現実と幻想が交錯する世界へと誘う。彼らは遺言の真意を追う中で、自身の過去と向き合い、互いの感情を探り合う。しかし、遺言の背後に潜む恐ろしい真実が、二人の運命を思わぬ方向へ導いていく。

おさかなの髪飾り

北川 悠
ミステリー
ある夫婦が殺された。妻は刺殺、夫の死因は不明 物語は10年前、ある殺人事件の目撃から始まる なぜその夫婦は殺されなければならなかったのか? 夫婦には合計4億の生命保険が掛けられていた 保険金殺人なのか? それとも怨恨か? 果たしてその真実とは…… 県警本部の巡査部長と新人キャリアが事件を解明していく物語です

グレイマンションの謎

葉羽
ミステリー
東京の郊外にひっそりと佇む古びた洋館「グレイマンション」。その家には、何代にもわたる名家の歴史と共に、数々の怪奇現象が語り継がれてきた。主人公の神藤葉羽(しんどう はね)は、推理小説を愛する高校生。彼は、ある夏の日、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)と共に、その洋館を訪れることになる。 二人は、グレイマンションにまつわる伝説や噂を確かめるために、館内を探索する。しかし、次第に彼らは奇妙な現象や不気味な出来事に巻き込まれていく。失踪した家族の影がちらつく中、葉羽は自らの推理力を駆使して真相に迫る。果たして、彼らはこの洋館の秘密を解き明かすことができるのか?

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

処理中です...