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クルミ少尉とマーちゃん中尉
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七番勝負の負け越しが決まった時点で観客の興味はどちらが勝つかという事ではなく、どれくらいの時間マーちゃん中尉が耐えることが出来るのかという事になっていた。
「ココア准尉ってキックボクシングをやっていただけあって動きは格闘家っぽかったよね。でも、それだけでしかなかったというか、一対一の戦闘しか想定してない動きだったかも」
「それは私も思ったよ。戦場であんな動きしてたら一瞬で殺されちゃうんじゃないかって思ってた。マリモ子ってゲスト解説やるだけあってそういった方面の知識も豊富なんだね。ちょっと見直したよ」
「でも、最後まで倒れなかったマーちゃん中尉はちょっと男らしかったよね。途中何度も終わったなって思って言葉が出なかったんだけど、ココア准尉が攻撃を止めるまでマーちゃん中尉は反撃しようとしてたよね」
「私としては勝ち目がないってわかった時点で諦めてくれてよかったんだけどな。でも、私もマリモ子と一緒でそういうところは凄いなって素直に感心したよ。うまなちゃんはそんな無駄な努力をしないで肉体を強化する魔法でも使って凌ぐ努力でもしてろよって言ってたな。ちょっと厳しすぎると思うんだよね」
その後もしばらく言葉の飴と鞭が送られていたのだった。マーちゃん中尉は褒められているときは笑顔で注意されているときはうつむき加減で二人の話をしっかりと聞いていた。ただ、二人もテレビを見て文句を言っている素人とは違い戦闘に関しては経験豊富なイザー二等兵と知識豊富な妖精マリモ子なので的確なアドバイスも送られていたのだ。
「次の相手はクルミ少尉だね。彼は鉄壁と呼ばれているんだけど、その名前じゃ例えとして役不足なんじゃないかと思うくらい防御能力が凄いんだよ。基礎的な防御力だけではなく攻撃をいなしていく技術や攻撃範囲を予測する能力に長けているって話だよ。自分から滅多に攻撃をすることはないのだけど、勝負が長引いて疲労が溜まっている相手に対して強烈な一撃を繰り出すことが出来るんだよね。一対一の勝負で時間切れで負けることはあっても膝をついたことは一度もないんだってさ。ちなみに、対魔物戦でも機械生命体戦でもかすり傷一つ負ったことが無いってのが自慢らしいよ」
「見るからに硬そうだもんね。でも、そんな相手に対してマーちゃんが初めてダウンを奪うとか期待していいのかな?」
「そんなの無理でしょ。俺の攻撃がそんな鉄壁の人に通用するはずないでしょ。プロペラ機がイージス艦に単機で勝負を挑むよりも勝ち目がないと思うんだけど」
マーちゃん中尉の例えが良くわからなかった二人はお互いに目を合わせて首をかしげていた。それだけでもしまったと思ってしまうマーちゃん中尉ではあったが、それ以上に二人が申し訳なさそうな顔をしていることに申し訳ない気持ちになってしまっていた。
「とにかく、ここから先は全敗を回避する戦いをしよう。マーちゃんが一人でも戦えるんだぞって言うところを世界中に見てもらわないとね」
「そうですよ。ここまでのマーちゃん中尉の戦いってどこからどう見てもわざとだろって負け方ばっかりですからね。イザーちゃんと模擬戦をやっていた時はあんなに生き生きとしていたのに、今じゃすっかりひ弱なおじさんですからね。どんなに頑張っても負けてるって姿はちょっとだけ女心に刺さっちゃいますけど、見てる限りではマーちゃん中尉が勝てるプランってのが全然想像つかないんですよね。もしかしたら、私よりもマーちゃん中尉の方が弱いって可能性もあったりしますか?」
マーちゃん中尉は助けを求めるつもりでイザー二等兵に視線を向けたのだが、イザー二等兵はマーちゃん中尉の視線を避けるように窓辺に移動して外の景色を眺めていたのだ。
自分が勝てるという嘘をつきたくないマーちゃん中尉と負けることを自分で認めたくないマーちゃん中尉が心の中で低い争いをしていたのである。
結論としては、マーちゃん中尉が七番勝負で勝てる未来が見つからないという事になってしまったのだった。
「前回は魔法を使わないとう条件だったため観客も多く動員されたようですが、今回から魔法が解禁されているので安全上のため現地での観戦は行えないことになりましたね。我々の実況解説席も試合会場のすぐそばからいつものモニタールームに変更になってますね」
「さすがに魔法が飛び交う場所では落ち着いて解説も実況も出来ないですからね。今回もゲスト解説は栗鳥院松之助さんと妖精マリモ子さんにお願いしています。今回もよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「よろしくっす」
観客席が無くなったのは元に戻っただけなので特に何もないはずなのだが、あの日は会場にいる全員がココア准尉を応援しているのを肌で感じてテンションが若干上がっていたマーちゃん中尉である。
会場には自分たちの他に誰もいなく静かになっているのだ。そんな中、審判団がマーちゃん中尉のそばへと近付いて何かを入念に確認しているのであった。
「今回の見どころはどういったところになるでしょうか」
「今の興味はあれだけの攻撃をくらっていたマーちゃん中尉が戦意を失っていないかという事を確認することで始まるようですね。何やら時間をかけてチェックしているようですが、どうやら問題はなさそうです」
「試合が始まる前からマーちゃん中尉の負けが決まってるからここで止めても問題ないんだけどな。ダメージなんて魔法で回復しているはずなのに、心配されるってことは肉体じゃなくて心にダメージを負ってるって事なのかもな。クルミ少尉が勝って俺たちの全勝が継続することになるわけだな」
「そんなのわかんないじゃん。今日のマーちゃん中尉が調子よくてクルミ少尉に買っちゃ可能性だってあるんだからね」
「やけに自信があるみたいだけどよ、その自信がどっから出てくるのか不思議だわ。どう考えても副隊長にするために階級が上がっているだけで実力のないマーちゃん中尉が実力も経歴もしっかりしているクルミ少尉に勝てるわけないんだよな。よし、このまま俺たちが全勝したら一年間俺の付き人をやってもらおうかな」
「え、そんなの普通に嫌だけど。なんであんたの付き人なんてやらないといけないのさ」
「という事は、お前も本当はマーちゃん中尉が全敗するって思ってるんだろ。勝てるって口では言ってるけど、本当は今日だって負けるって思ってたんだよな」
「そんなことないし。マーちゃん中尉はお前なんかに全敗するわけないし」
解説をしないゲスト解説二人が言い合いをしながら約束を交わそうとしていた時、すでにマーちゃん中尉は鉄のような拳で顔面を殴られて失神していたのであった。
「ココア准尉ってキックボクシングをやっていただけあって動きは格闘家っぽかったよね。でも、それだけでしかなかったというか、一対一の戦闘しか想定してない動きだったかも」
「それは私も思ったよ。戦場であんな動きしてたら一瞬で殺されちゃうんじゃないかって思ってた。マリモ子ってゲスト解説やるだけあってそういった方面の知識も豊富なんだね。ちょっと見直したよ」
「でも、最後まで倒れなかったマーちゃん中尉はちょっと男らしかったよね。途中何度も終わったなって思って言葉が出なかったんだけど、ココア准尉が攻撃を止めるまでマーちゃん中尉は反撃しようとしてたよね」
「私としては勝ち目がないってわかった時点で諦めてくれてよかったんだけどな。でも、私もマリモ子と一緒でそういうところは凄いなって素直に感心したよ。うまなちゃんはそんな無駄な努力をしないで肉体を強化する魔法でも使って凌ぐ努力でもしてろよって言ってたな。ちょっと厳しすぎると思うんだよね」
その後もしばらく言葉の飴と鞭が送られていたのだった。マーちゃん中尉は褒められているときは笑顔で注意されているときはうつむき加減で二人の話をしっかりと聞いていた。ただ、二人もテレビを見て文句を言っている素人とは違い戦闘に関しては経験豊富なイザー二等兵と知識豊富な妖精マリモ子なので的確なアドバイスも送られていたのだ。
「次の相手はクルミ少尉だね。彼は鉄壁と呼ばれているんだけど、その名前じゃ例えとして役不足なんじゃないかと思うくらい防御能力が凄いんだよ。基礎的な防御力だけではなく攻撃をいなしていく技術や攻撃範囲を予測する能力に長けているって話だよ。自分から滅多に攻撃をすることはないのだけど、勝負が長引いて疲労が溜まっている相手に対して強烈な一撃を繰り出すことが出来るんだよね。一対一の勝負で時間切れで負けることはあっても膝をついたことは一度もないんだってさ。ちなみに、対魔物戦でも機械生命体戦でもかすり傷一つ負ったことが無いってのが自慢らしいよ」
「見るからに硬そうだもんね。でも、そんな相手に対してマーちゃんが初めてダウンを奪うとか期待していいのかな?」
「そんなの無理でしょ。俺の攻撃がそんな鉄壁の人に通用するはずないでしょ。プロペラ機がイージス艦に単機で勝負を挑むよりも勝ち目がないと思うんだけど」
マーちゃん中尉の例えが良くわからなかった二人はお互いに目を合わせて首をかしげていた。それだけでもしまったと思ってしまうマーちゃん中尉ではあったが、それ以上に二人が申し訳なさそうな顔をしていることに申し訳ない気持ちになってしまっていた。
「とにかく、ここから先は全敗を回避する戦いをしよう。マーちゃんが一人でも戦えるんだぞって言うところを世界中に見てもらわないとね」
「そうですよ。ここまでのマーちゃん中尉の戦いってどこからどう見てもわざとだろって負け方ばっかりですからね。イザーちゃんと模擬戦をやっていた時はあんなに生き生きとしていたのに、今じゃすっかりひ弱なおじさんですからね。どんなに頑張っても負けてるって姿はちょっとだけ女心に刺さっちゃいますけど、見てる限りではマーちゃん中尉が勝てるプランってのが全然想像つかないんですよね。もしかしたら、私よりもマーちゃん中尉の方が弱いって可能性もあったりしますか?」
マーちゃん中尉は助けを求めるつもりでイザー二等兵に視線を向けたのだが、イザー二等兵はマーちゃん中尉の視線を避けるように窓辺に移動して外の景色を眺めていたのだ。
自分が勝てるという嘘をつきたくないマーちゃん中尉と負けることを自分で認めたくないマーちゃん中尉が心の中で低い争いをしていたのである。
結論としては、マーちゃん中尉が七番勝負で勝てる未来が見つからないという事になってしまったのだった。
「前回は魔法を使わないとう条件だったため観客も多く動員されたようですが、今回から魔法が解禁されているので安全上のため現地での観戦は行えないことになりましたね。我々の実況解説席も試合会場のすぐそばからいつものモニタールームに変更になってますね」
「さすがに魔法が飛び交う場所では落ち着いて解説も実況も出来ないですからね。今回もゲスト解説は栗鳥院松之助さんと妖精マリモ子さんにお願いしています。今回もよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「よろしくっす」
観客席が無くなったのは元に戻っただけなので特に何もないはずなのだが、あの日は会場にいる全員がココア准尉を応援しているのを肌で感じてテンションが若干上がっていたマーちゃん中尉である。
会場には自分たちの他に誰もいなく静かになっているのだ。そんな中、審判団がマーちゃん中尉のそばへと近付いて何かを入念に確認しているのであった。
「今回の見どころはどういったところになるでしょうか」
「今の興味はあれだけの攻撃をくらっていたマーちゃん中尉が戦意を失っていないかという事を確認することで始まるようですね。何やら時間をかけてチェックしているようですが、どうやら問題はなさそうです」
「試合が始まる前からマーちゃん中尉の負けが決まってるからここで止めても問題ないんだけどな。ダメージなんて魔法で回復しているはずなのに、心配されるってことは肉体じゃなくて心にダメージを負ってるって事なのかもな。クルミ少尉が勝って俺たちの全勝が継続することになるわけだな」
「そんなのわかんないじゃん。今日のマーちゃん中尉が調子よくてクルミ少尉に買っちゃ可能性だってあるんだからね」
「やけに自信があるみたいだけどよ、その自信がどっから出てくるのか不思議だわ。どう考えても副隊長にするために階級が上がっているだけで実力のないマーちゃん中尉が実力も経歴もしっかりしているクルミ少尉に勝てるわけないんだよな。よし、このまま俺たちが全勝したら一年間俺の付き人をやってもらおうかな」
「え、そんなの普通に嫌だけど。なんであんたの付き人なんてやらないといけないのさ」
「という事は、お前も本当はマーちゃん中尉が全敗するって思ってるんだろ。勝てるって口では言ってるけど、本当は今日だって負けるって思ってたんだよな」
「そんなことないし。マーちゃん中尉はお前なんかに全敗するわけないし」
解説をしないゲスト解説二人が言い合いをしながら約束を交わそうとしていた時、すでにマーちゃん中尉は鉄のような拳で顔面を殴られて失神していたのであった。
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