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指名されたマーちゃん中尉
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栗宮院うまな中将は予定の期間を過ぎても戻ってくることはなかった。幸いなことに次の入隊希望試験の受験者はビデオメッセージで送られてきているので入隊希望試験自体は何の問題もなく進んでいったのだった。
栗宮院うまな中将がいないという事もあって試験後に行われていたマーちゃん中尉とイザー二等兵のエキシビションマッチは開催されないと誰もが思っていたのだが、意外な人物から申し出があって急遽開催されることが決まったのだ。
「君たちが私の申し出を受け入れてくれてよかったよ。うまながいないのは残念だが、彼女が戻ってきた時に泣き顔を見せてもらえばいいだけの話だからね。では、恥ずかしい姿を皆さんに見せることが無いように努力だけでもしておきたまえ」
長身痩躯の男はマーちゃん中尉の肩を軽く叩いてから部屋を出ていった。その姿はどこかの貴族のようにも見えていたのだが、彼に付き従っている小柄な男性からは憎悪なのか殺気なのか区別もつかないような不気味な視線を向けられていたのだった。
「うまなちゃんがいないタイミングを見計らって面倒な人が来ちゃったね。私はあの人たちがちょっと苦手だからヘッドホンして気付かないふりをしてたよ」
「イザーちゃんにも苦手な人とかいるんだね。イザーちゃんは自分とうまなちゃん以外の人間はみんな対等に格下認定して蔑んでるのかと思ってたよ。それなのに、苦手な人がいるってちょっと新鮮かも」
「何よその言い方は。語弊がありまくりじゃない。それよりも、マーちゃんはあの人がだれか本当にわかってなかったの?」
「うん、何となくどこかで見たことがあるような気もするんだけど、はっきりとは思い出せないんだよな。イザーちゃんの知り合いだってことはわかったけど、どの程度の知り合いなのかがわからないな」
マーちゃん中尉は過去の記憶をたどって先ほどの男が誰なのか思い出そうとしていた。何となく似ている人が思い浮かんではいたのだが、あそこまで背が高い人を忘れることが無いと思うのだがどうしても思い出せなかった。とても良く似ている人がいたのは覚えているのだが、その彼は身長はあそこまで大きくなかったと思う。どちらかと言えば小柄だったと思うのだが、その身長にそぐわない威圧感を放っていたような記憶はあるのだ。
「考えてみたけど全然思い出せない。さっきの人って誰だったの?」
「誰って、あの人は栗鳥院松之助ですよ。三番隊副隊長補佐の栗鳥院松之助なんですけど、マーちゃんは知らなかったんですか?」
「うん、全然思い出せなかった。なんか、さっきの人に似てるけど身長は小さいのに強そうな人がいたってのは覚えてるんだよね。顔は似てたと思うんだけど、威圧感は全然小さい人の方が強かったと思う」
「多分、その人は栗鳥院梅太郎ですね。八番隊隊長だった人ですよ。彼は栗鳥院家の中でも特に格闘技の才能が豊かな人でしたからね。素手で機械生命体を相手にしてたのは彼くらいじゃないですかね。私とは違って魔力に頼らない完全に己の身一つで立ち向かっていった勇敢な戦士でした」
「でしたとか隊長だったって、今はもう現役じゃないって事?」
「ええ、不幸な事故があって引退してますね。うまなちゃんが『うまな式魔法術』の開発を終える直前に引退してしまったんですけど、彼の引退があと半年遅ければ『うまな式魔法術』によって最強無敵の戦士になれたんじゃないかって言われてますからね」
「それって、イザーちゃんより凄いって事なの?」
イザー二等兵はマーちゃん中尉の何気ない質問に対して色々と考えを巡らせているようだ。今まで何度も頭の中で繰り返しシミュレートしてきたことではあるのだが、『うまな式魔法術』によって自信を強化した状態の栗鳥院梅太郎に勝てる道筋が見いだせないのだ。今まで何度も何度も繰り返し行ってきたことではあるが、ただの一度も勝てると思えたことがなかったのだ。
「そうですね。ぶっちゃけ、私程度じゃ梅太郎には勝てないと思いますよ。だって、『うまな式魔法術』に頼ってる私よりも圧倒的に強かったと思いますからね。強化されてる私よりも何もしてない梅太郎の方が強いと思うなんてどうかしてると思いますよ。でも、それが真実ですからね」
「イザーちゃんより強い男っていたんだ。そんなに強いのに存在を知らないってのは、俺が他人に興味を持たな過ぎたってことだよね」
「マーちゃんは他人に全く興味を持ってないから仕方ないと言えば仕方ないのかもね。でも、そんなマーちゃんだからこそ私もうまなちゃんも安心して一緒にいられるって事なのかもね。それじゃ、松之助とのエキシビションマッチ頑張ってね。多分、あいつは自分じゃなくて代役を立てると思うけど気にしたらダメよ。マーちゃんだったらそんなに恥ずかしい負け方はしないと思うからね」
「え、俺が戦うの?」
「そうよ。私が相手をしてもよかったんだけど、向こうは女を相手に戦いなんて出来ないって言ってきたからね。うちの部隊って男はマーちゃんしかいないから必然的にマーちゃんが相手をすることになるんだよ。あと、手紙を預かってきたから読んでね。私は中を見てないから何が書いてあるのかわからないけど、たぶん良いことなんて何も書いてないんじゃないかな」
イザー二等兵から手渡された手紙を受け取ったマーちゃん中尉は恐る恐るその中身を見て見たのだが、日本語ではないどこかの言語で書かれていて全く読めなかった。マーちゃん中尉も一応は副隊長なので英語やスペイン語などであれば文章は読めなくても単語くらいは理解出来るのだが、その手紙に書かれている言葉はどこを見てもどの単語も意味が分からないものであった。
「ごめん、全く読めない。なんて書いてあるのかわからないし、知らない言葉だよ」
「ああ、これは意味が分からないですね。基本は英語なんですけど、本来の文字から五つずらしたアルファベットを使ってるみたいですよ。こういう気持ち悪いことをするところも嫌いなんですよ。本当に嫌な人ですよね」
マーちゃん中尉はそれに同意したのだが、確かにこんな面倒なことをしてくるような人は嫌われても仕方ないなと思ってしまったようだ。
栗宮院うまな中将がいないという事もあって試験後に行われていたマーちゃん中尉とイザー二等兵のエキシビションマッチは開催されないと誰もが思っていたのだが、意外な人物から申し出があって急遽開催されることが決まったのだ。
「君たちが私の申し出を受け入れてくれてよかったよ。うまながいないのは残念だが、彼女が戻ってきた時に泣き顔を見せてもらえばいいだけの話だからね。では、恥ずかしい姿を皆さんに見せることが無いように努力だけでもしておきたまえ」
長身痩躯の男はマーちゃん中尉の肩を軽く叩いてから部屋を出ていった。その姿はどこかの貴族のようにも見えていたのだが、彼に付き従っている小柄な男性からは憎悪なのか殺気なのか区別もつかないような不気味な視線を向けられていたのだった。
「うまなちゃんがいないタイミングを見計らって面倒な人が来ちゃったね。私はあの人たちがちょっと苦手だからヘッドホンして気付かないふりをしてたよ」
「イザーちゃんにも苦手な人とかいるんだね。イザーちゃんは自分とうまなちゃん以外の人間はみんな対等に格下認定して蔑んでるのかと思ってたよ。それなのに、苦手な人がいるってちょっと新鮮かも」
「何よその言い方は。語弊がありまくりじゃない。それよりも、マーちゃんはあの人がだれか本当にわかってなかったの?」
「うん、何となくどこかで見たことがあるような気もするんだけど、はっきりとは思い出せないんだよな。イザーちゃんの知り合いだってことはわかったけど、どの程度の知り合いなのかがわからないな」
マーちゃん中尉は過去の記憶をたどって先ほどの男が誰なのか思い出そうとしていた。何となく似ている人が思い浮かんではいたのだが、あそこまで背が高い人を忘れることが無いと思うのだがどうしても思い出せなかった。とても良く似ている人がいたのは覚えているのだが、その彼は身長はあそこまで大きくなかったと思う。どちらかと言えば小柄だったと思うのだが、その身長にそぐわない威圧感を放っていたような記憶はあるのだ。
「考えてみたけど全然思い出せない。さっきの人って誰だったの?」
「誰って、あの人は栗鳥院松之助ですよ。三番隊副隊長補佐の栗鳥院松之助なんですけど、マーちゃんは知らなかったんですか?」
「うん、全然思い出せなかった。なんか、さっきの人に似てるけど身長は小さいのに強そうな人がいたってのは覚えてるんだよね。顔は似てたと思うんだけど、威圧感は全然小さい人の方が強かったと思う」
「多分、その人は栗鳥院梅太郎ですね。八番隊隊長だった人ですよ。彼は栗鳥院家の中でも特に格闘技の才能が豊かな人でしたからね。素手で機械生命体を相手にしてたのは彼くらいじゃないですかね。私とは違って魔力に頼らない完全に己の身一つで立ち向かっていった勇敢な戦士でした」
「でしたとか隊長だったって、今はもう現役じゃないって事?」
「ええ、不幸な事故があって引退してますね。うまなちゃんが『うまな式魔法術』の開発を終える直前に引退してしまったんですけど、彼の引退があと半年遅ければ『うまな式魔法術』によって最強無敵の戦士になれたんじゃないかって言われてますからね」
「それって、イザーちゃんより凄いって事なの?」
イザー二等兵はマーちゃん中尉の何気ない質問に対して色々と考えを巡らせているようだ。今まで何度も頭の中で繰り返しシミュレートしてきたことではあるのだが、『うまな式魔法術』によって自信を強化した状態の栗鳥院梅太郎に勝てる道筋が見いだせないのだ。今まで何度も何度も繰り返し行ってきたことではあるが、ただの一度も勝てると思えたことがなかったのだ。
「そうですね。ぶっちゃけ、私程度じゃ梅太郎には勝てないと思いますよ。だって、『うまな式魔法術』に頼ってる私よりも圧倒的に強かったと思いますからね。強化されてる私よりも何もしてない梅太郎の方が強いと思うなんてどうかしてると思いますよ。でも、それが真実ですからね」
「イザーちゃんより強い男っていたんだ。そんなに強いのに存在を知らないってのは、俺が他人に興味を持たな過ぎたってことだよね」
「マーちゃんは他人に全く興味を持ってないから仕方ないと言えば仕方ないのかもね。でも、そんなマーちゃんだからこそ私もうまなちゃんも安心して一緒にいられるって事なのかもね。それじゃ、松之助とのエキシビションマッチ頑張ってね。多分、あいつは自分じゃなくて代役を立てると思うけど気にしたらダメよ。マーちゃんだったらそんなに恥ずかしい負け方はしないと思うからね」
「え、俺が戦うの?」
「そうよ。私が相手をしてもよかったんだけど、向こうは女を相手に戦いなんて出来ないって言ってきたからね。うちの部隊って男はマーちゃんしかいないから必然的にマーちゃんが相手をすることになるんだよ。あと、手紙を預かってきたから読んでね。私は中を見てないから何が書いてあるのかわからないけど、たぶん良いことなんて何も書いてないんじゃないかな」
イザー二等兵から手渡された手紙を受け取ったマーちゃん中尉は恐る恐るその中身を見て見たのだが、日本語ではないどこかの言語で書かれていて全く読めなかった。マーちゃん中尉も一応は副隊長なので英語やスペイン語などであれば文章は読めなくても単語くらいは理解出来るのだが、その手紙に書かれている言葉はどこを見てもどの単語も意味が分からないものであった。
「ごめん、全く読めない。なんて書いてあるのかわからないし、知らない言葉だよ」
「ああ、これは意味が分からないですね。基本は英語なんですけど、本来の文字から五つずらしたアルファベットを使ってるみたいですよ。こういう気持ち悪いことをするところも嫌いなんですよ。本当に嫌な人ですよね」
マーちゃん中尉はそれに同意したのだが、確かにこんな面倒なことをしてくるような人は嫌われても仕方ないなと思ってしまったようだ。
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