マーちゃんの深憂

釧路太郎

文字の大きさ
上 下
12 / 44

本気を出したいイザーちゃんと逃げ出したいマーちゃん

しおりを挟む
 どう考えてもマーちゃん中尉がイザー二等兵と戦って無事に済むとは思えなかった。自分の力は自分が一番よく知っているわけだし、マーちゃん中尉にとってあれほどの力を持っているイザー二等兵との戦いは死刑宣告に近いものに感じてしまっていた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。ボクはちゃんと本気で向かっていくから安心してくれていいんだからね。ほら、手を抜いちゃったらお兄ちゃんの強さを世間に知らしめることが出来ないからね」
「本気なんて出さなくていいよ。それにさ、俺の強さって言ったって俺はどう考えても強い側の人間じゃないからな。魔法だって基礎の基礎しか使えないわけだし、イザーちゃんみたいに体術も優れてないからね。そんな奴に対してあんなに強いイザーちゃんが本気を出さなくてもいいんじゃないかなって俺は思うんだよね」
「そんな謙遜しなくてもいいよ。ボクとお兄ちゃんの仲じゃない。うまなちゃんからもお兄ちゃん相手だったら本気でやっていいよって言ってくれてるし、ボクも久々に本気で戦えるのが嬉しいから張り切っちゃおうかなって思うんだ」
 栗宮院うまな中将がどのような意図をもってそのようなことを言ったのかわからないが、マーちゃん中尉は余計なことを言わないでほしいと思っていたのだった。

 先ほどと同じ会場の同じ場所にイザー二等兵は立っているのだが、その正面にいるのは入隊希望者ではなく十九番隊副隊長の一人でありこの部隊を指揮しているマーちゃん中尉その人なのだ。
 イザー二等兵の登場と同時に近隣のホテルから大歓声が聞こえてきていた。先ほどの戦いを見てイザー二等兵の強さを知った観客たちは様々な期待をもって歓声を上げていたのだ。
 完全に気合が入った表情で瞳孔も完全に開いた状態のイザー二等兵と相反するようにマーちゃん中尉は完全に戦意を失っているかのように魂の抜けた後のような顔をしていた。観客はイザー二等兵が圧倒的な強さをもってマーちゃん中尉を倒してしまうと予想しているのだが、ただ一人解説席に座っている栗宮院うまな中将だけはマーちゃん中尉の勝利を信じて疑わなかった。
「やっさんとの戦いであれだけの強さを見せたイザー二等兵が負ける姿というのは正直想像できないのですが、それでも栗宮院うまな中将はイザー二等兵がマーちゃん中尉に負けてしまうと予想しているのですか?」
「ええ、イザー二等兵は一対一の戦いでしたら国防軍の中にも勝てる人なんて片手で収まるくらいしかいないと思うのですが、マーちゃん中尉はその中の一人に入っていると思いますよ。ちなみに、私はイザー二等兵と戦っても勝てるプランが見つからないので勝負は挑みません」
「にわかには信じが痛いのですが。こう言っては失礼かもしれませんが、マーちゃん中尉は実戦経験もほとんどなく試合形式の訓練も行ったことがないと伺っております。それでもマーちゃん中尉の勝利を疑わないという事は、マーちゃん中尉には何か特別な力があるという事なのでしょうか」
「特別な力と言えば特別な力かもしれないですね。マーちゃん中尉は我々が人類が使うことの出来る全ての系統の魔法を使うことが出来るんですよ。本来であれば覚えることが出来ない反対属性の魔法も使うことが出来る唯一の人間なのです。いや、人間に限らなくても他に全種類を使うことが出来る魔法使いなんて存在しないかもしれないですけどね」
 普通であれば得意な魔法を使っていくことで熟練度を上げていき、その系統に特化した状態になるものなのだ。一つを極めるとその対極に位置する魔法を使うことは出来なくなってしまうのだが、基礎魔法であればその制約を受けることはないのだ。と言っても、基礎魔法には実戦で使用することが出来るようなものではないため普通であれば基礎魔法は三つくらいの系統を覚えた段階で実戦で使用することが出来るレベルの魔法へと移行してしまうのだ。その時点で全系統の魔法を使うことは不可能になってしまうのだが、基礎魔法で全系統をマスターするよりも応用魔法を二つ覚えた方が実戦で役に立つのでマーちゃん中尉のように無駄なことをする生き物はそもそも存在しないのだ。

「うまなちゃんはお兄ちゃんがボクに勝つって思ってるんだよ。ボクもお兄ちゃんに勝てるなんて思ってはいないけどさ、久々に本気を出しても怒られないって思うとワクワクしちゃうよね。うまなちゃんが練習してくれる時もボクは制限かけられちゃってるからずっとフラストレーションが溜まってたんだ。こうして定期的にボクと戦ってもらえると嬉しいんだけど、何も問題ないよね?」
「問題しかないんだけど。やっさんと戦った時の姿を見ても俺がイザーちゃんに勝てるなんて思えなかったんだけど、それでも俺の方が強いとかどんだけ過大評価してくれてるんだよ。本気を出さなくてもいいからね」
「うーん、それは無理かな。さっきうまなちゃんに言われたんだけど、この試合は入隊希望試験じゃないから広く一般にも公開するって言ってたよ。もちろんライブ配信は阿寒湖温泉地区だけになってるけど、今日の夜には見やすく編集して動画を上げるって言ってたからね。だから、ボクは他の人に馬鹿にされないように本気で戦わなくちゃいけないんだよ」
「そんな話は聞いてないぞ」
 入隊希望試験は契約上阿寒湖温泉地区でしか見ることが出来ないのだが、マーちゃん中尉とイザー二等兵の試合は入隊試験と関係ないので後程配信されてしまうことになるのだ。
 その映像がきっかけでマーちゃん部隊の入隊試験を現地で見てみたいと思う人が一気に増えてしまい、宿泊するために壮絶な抽選を勝ち抜かなくてはいけなくなってしまうことになるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...