4 / 44
湖のそばにある温泉
しおりを挟む
入隊試験会場に選ばれたのは湖のほとりにある温泉施設であった。交通費が出るわけではないので希望者は実費で参加することになるのだが、参加希望者は当初の予定から減ることもなく温泉地で開催されるという話が広まって三倍ほどの人数に増えてしまったのだった。
「なんで温泉地で試験を行うんだろ」
マーちゃんの疑問は当然なのだが、温泉地を会場に選んだのはイザーが強く希望したからなのである。お風呂嫌いな栗宮院うまなを毎日入浴させるために温泉地を選んだというのもあるのだろうが、本音は栗宮院うまなと一緒に温泉に入りたいという私欲のためなのであった。
「マーちゃん中尉は温泉とか嫌いですか?」
「嫌いではないけど、なんでここが選ばれたのかなって思ったんだよね」
「それは、私の地元だからですね。地元と言ってもここから車で一時間半くらい離れてますけどね。地元と言えば地元なんですよ」
イザーは誇らしげにそういうと様子を見に来ていた温泉宿のおかみに向かって軽く手を振っていた。
「地元って、うまなちゃんの地元はこの辺じゃないよね?」
「私の地元は東京の近くだけど。この辺は避暑地なんで夏になるとよく来ていたのよ。私がまだ小さかった時にイザーと知り合ったんだけど、その時からイザーって大人っぽかったわよね」
「うまなちゃん。マーちゃんの前であんまり余計なことは言わない方が良いと思うよ。ほら、うまなちゃんが変な冗談を言ったからマーちゃんが混乱しちゃってるじゃない。私とうまなちゃんってそんなに年が離れてないのに私の事を大人っぽかったって言っちゃうとうまなちゃんがいつまで経っても子供っぽいって言ってるようなもんじゃないかな」
二人の仲が悪くなってしまうのではないかと心配したマーちゃんが間に割って入ろうとしたのだが、そんな心配をよそに二人はとても楽しそうに笑いあっていた。なぜそんなに楽しそうにしているのだろうとマーちゃんは心配になっていたのだが、仲がいいのは悪いことではないので特段気にすることもなかったようだ。
「それで、入隊試験ってどんなことをする予定なのかな?」
「そうですね。うまなちゃんの予定では、最初に私と模擬戦をやってからペーパーテストをやって面接って感じですかね。面接を突破した後はマーちゃんと最終戦闘試験を行って決めようかと思ってます。さすがに二等兵である私とだけ戦うというのは試験を受ける側も納得しないと思うのでそういう形にしてるんですけど、マーちゃんと戦うような人が出てくることはないので安心してください。私もうまなちゃんもマーちゃんが戦闘を苦手としていることくらいわかってますからね」
「理解してくれているのは嬉しいけどさ、それって俺が弱虫で情けない男みたいに聞こえちゃうんだよな。それはそれで間違いじゃないんだけど、そう思われているってのはちょっと寂しいかもな」
「そんなに拗ねないでくださいよ。私もうまなちゃんも誰かを入れるつもりなんてないんですから。形だけの試験を行って上にちゃんとやってますよアピールをするだけですから。ほら、うまなちゃんもそう言ってますからね」
近くにある観光看板を見ていたうまなちゃんは突然名前を呼ばれてビクッとしていたのだが、それを悟られないように笑顔で近付いてくるとマーちゃんの手を引いて看板のそばまで連れて行ってしまった。
湖の中央に浮かぶ島までフェリーに乗ってやってきた三人は島の中央に位置する観光施設へと入っていった。
「マリモって美味しそうに見えないけど食べることできるのかな?」
「そんなことできるわけないでしょ。うまなちゃんってあんまり緑のモノ好きじゃないのにどうしてそう思ったのかな?」
「なんかね、抹茶アイスみたいで美味しそうだなって思ったんだ。マーちゃんもそう思うでしょ?」
「いや、全然思わない。そもそも、マリモを食べようって思ったこと自体ないし。普通は食べないでしょ」
「それはそうなんだけどさ、でも抹茶アイスみたいで美味しそうだなって思ったんだもん。ねえ、向こうに戻ったらアイス食べてもいいよね?」
完全に観光モードになっている三人ではあったが、同じフェリーに乗っていた乗客は全員入隊試験を受けに来たものだという事を気付いていないようであった。もちろん、乗客たちも自分からアピールするわけもないのだが、これからの三人の行動を観察してどのようなことをすれば喜ばれるか考えるだけの時間はあったようだ。
「そろそろ時間なんで阿寒湖の成り立ちとマリモの神秘の映像を見に行きますよ。ほら、うまなちゃんもマーちゃんも行きますよ。早くいかないといい席取れないんですからね」
「ちょっと、そんなに急がなくても大丈夫だよ。イザーはもう何回も見てるんだし内容だって暗記してるでしょ」
「私は何回も見てますけど、うまなちゃんはまだ十回くらいしか見てないですよね。マーちゃんに至っては今日が初回って事になるんじゃないですか?」
「十回も見れば十分だよ。毎回同じ映像なんだから年一で見る必要ないって」
「俺は初めて見るからちょっとだけ楽しみかも。でも、そんなに何回も見なくてもいいんじゃないかって気はしてるかも」
「何言ってるんですか。そんなわがまま言うと、怒りますからね。明日からの入隊試験の判定を甘くしちゃいますよ」
イザーちゃんの発言を聞いて近くにいた入隊希望者たちは内心とても喜んでいた。表情に出すものはいなかったけれど、この場にいる者たちはみな心の中で小躍りをしていたに違いない。そんな優しい空気に包まれているマリモセンターであった。
「なんで温泉地で試験を行うんだろ」
マーちゃんの疑問は当然なのだが、温泉地を会場に選んだのはイザーが強く希望したからなのである。お風呂嫌いな栗宮院うまなを毎日入浴させるために温泉地を選んだというのもあるのだろうが、本音は栗宮院うまなと一緒に温泉に入りたいという私欲のためなのであった。
「マーちゃん中尉は温泉とか嫌いですか?」
「嫌いではないけど、なんでここが選ばれたのかなって思ったんだよね」
「それは、私の地元だからですね。地元と言ってもここから車で一時間半くらい離れてますけどね。地元と言えば地元なんですよ」
イザーは誇らしげにそういうと様子を見に来ていた温泉宿のおかみに向かって軽く手を振っていた。
「地元って、うまなちゃんの地元はこの辺じゃないよね?」
「私の地元は東京の近くだけど。この辺は避暑地なんで夏になるとよく来ていたのよ。私がまだ小さかった時にイザーと知り合ったんだけど、その時からイザーって大人っぽかったわよね」
「うまなちゃん。マーちゃんの前であんまり余計なことは言わない方が良いと思うよ。ほら、うまなちゃんが変な冗談を言ったからマーちゃんが混乱しちゃってるじゃない。私とうまなちゃんってそんなに年が離れてないのに私の事を大人っぽかったって言っちゃうとうまなちゃんがいつまで経っても子供っぽいって言ってるようなもんじゃないかな」
二人の仲が悪くなってしまうのではないかと心配したマーちゃんが間に割って入ろうとしたのだが、そんな心配をよそに二人はとても楽しそうに笑いあっていた。なぜそんなに楽しそうにしているのだろうとマーちゃんは心配になっていたのだが、仲がいいのは悪いことではないので特段気にすることもなかったようだ。
「それで、入隊試験ってどんなことをする予定なのかな?」
「そうですね。うまなちゃんの予定では、最初に私と模擬戦をやってからペーパーテストをやって面接って感じですかね。面接を突破した後はマーちゃんと最終戦闘試験を行って決めようかと思ってます。さすがに二等兵である私とだけ戦うというのは試験を受ける側も納得しないと思うのでそういう形にしてるんですけど、マーちゃんと戦うような人が出てくることはないので安心してください。私もうまなちゃんもマーちゃんが戦闘を苦手としていることくらいわかってますからね」
「理解してくれているのは嬉しいけどさ、それって俺が弱虫で情けない男みたいに聞こえちゃうんだよな。それはそれで間違いじゃないんだけど、そう思われているってのはちょっと寂しいかもな」
「そんなに拗ねないでくださいよ。私もうまなちゃんも誰かを入れるつもりなんてないんですから。形だけの試験を行って上にちゃんとやってますよアピールをするだけですから。ほら、うまなちゃんもそう言ってますからね」
近くにある観光看板を見ていたうまなちゃんは突然名前を呼ばれてビクッとしていたのだが、それを悟られないように笑顔で近付いてくるとマーちゃんの手を引いて看板のそばまで連れて行ってしまった。
湖の中央に浮かぶ島までフェリーに乗ってやってきた三人は島の中央に位置する観光施設へと入っていった。
「マリモって美味しそうに見えないけど食べることできるのかな?」
「そんなことできるわけないでしょ。うまなちゃんってあんまり緑のモノ好きじゃないのにどうしてそう思ったのかな?」
「なんかね、抹茶アイスみたいで美味しそうだなって思ったんだ。マーちゃんもそう思うでしょ?」
「いや、全然思わない。そもそも、マリモを食べようって思ったこと自体ないし。普通は食べないでしょ」
「それはそうなんだけどさ、でも抹茶アイスみたいで美味しそうだなって思ったんだもん。ねえ、向こうに戻ったらアイス食べてもいいよね?」
完全に観光モードになっている三人ではあったが、同じフェリーに乗っていた乗客は全員入隊試験を受けに来たものだという事を気付いていないようであった。もちろん、乗客たちも自分からアピールするわけもないのだが、これからの三人の行動を観察してどのようなことをすれば喜ばれるか考えるだけの時間はあったようだ。
「そろそろ時間なんで阿寒湖の成り立ちとマリモの神秘の映像を見に行きますよ。ほら、うまなちゃんもマーちゃんも行きますよ。早くいかないといい席取れないんですからね」
「ちょっと、そんなに急がなくても大丈夫だよ。イザーはもう何回も見てるんだし内容だって暗記してるでしょ」
「私は何回も見てますけど、うまなちゃんはまだ十回くらいしか見てないですよね。マーちゃんに至っては今日が初回って事になるんじゃないですか?」
「十回も見れば十分だよ。毎回同じ映像なんだから年一で見る必要ないって」
「俺は初めて見るからちょっとだけ楽しみかも。でも、そんなに何回も見なくてもいいんじゃないかって気はしてるかも」
「何言ってるんですか。そんなわがまま言うと、怒りますからね。明日からの入隊試験の判定を甘くしちゃいますよ」
イザーちゃんの発言を聞いて近くにいた入隊希望者たちは内心とても喜んでいた。表情に出すものはいなかったけれど、この場にいる者たちはみな心の中で小躍りをしていたに違いない。そんな優しい空気に包まれているマリモセンターであった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる