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文化祭実行委員の後輩と実行委員長の俺
第二話
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俺の家族も北村桃子の定食屋が気に入ったようで、今では週に一回か二回は食べに来るようになってしまった。何を食べても美味しいので文句はないのだけど、うちの家族が変なことを言いださないか心配になってしまう。
だが、北村桃子が店を手伝うのは週に数回も無いようなので出会うことはそこまで多くなかった。たまに店に出ていたとしても忙しそうにしているので話すことも無いのだけれど、学校では文化祭実行委員の仕事があった時よりも会うようになっていた。
「先輩。昨日もきてくれたみたいでありがとうございます。お父さんもお母さんも喜んでましたよ。でも、食べにくるんだったら前の日に言ってくれないと私も準備できないんですよ。次に来てくれる時はちゃんと前の日に教えてくださいね」
「準備って、別に北村が特別何かしてるってわけでもないんだし、教える必要もないだろ。それに、店に行くのって俺が決めてるわけじゃなくて母親と妹が決めてるんだよ。だから、俺にはいつ店に食べに行くかなんてわからないんだって」
「まあ、そう言うもんですよね。ところで、話は変わりますが、先輩って生姜焼きとハンバーグ以外は食べないんですか?」
「食べないってことは無いけどさ、店に行くとそのどっちかにすることが多いかな。どっちも変な感じになることも無いし、普通に美味しいからな」
「そう言ってもらえるとお父さんも喜ぶと思いますよ。そこで先輩に質問があるんですけど、聞いてもらってもいいですか?」
「そういうのは質問の内容を聞いてからじゃないと答えられないんだけど」
「それはそうですよね。じゃあ、これを見てください」
北村桃子がカバンから取り出したのは可愛い巾着袋に入った小さなバスケットだった。サンドイッチでも入っていそうなバスケットを俺に手渡すと、少しだけニヤニヤした表情の北村桃子が蓋を開けるようにジェスチャーをしてきた。そんな感じで指示しなくても口で言えばいいのにと思いつつも、俺は素直にそのバスケットの蓋を開けてみると中に入っていたのは丸いカリントウのような物体だった。
「これって、デザートか何か?」
「やだなぁ、先輩って時々そういう冗談を真顔で言いますよね。でも、唐揚げをデザート感覚で食べてる人もいるみたいだし、ある意味ではデザートになるのかもしれないですね」
「え、これが唐揚げなの?」
俺の知っている唐揚げと違って衣に竹炭でも混ぜたのかと思うくらいに真っ黒でいて、箸でつかむとプラスチックで出来ているのかなと思えるくらいにカチカチになっていた。
「どうですか。先輩って唐揚げ好きですか?」
「唐揚げは好きだよ。好きだけどさ、これって唐揚げなの?」
「もう、何言ってるんですか。そういう冗談って何回も繰り返すと面白さが半減しちゃいますって。とりあえず、その冗談はそれくらいにして一つ食べてみてください。出来立てじゃないんでジューシー感は減ってるかもしれないですけど、味は美味しいはずですからね。期待して食べてくださいよ」
箸でつかんでいるだけの唐揚げと呼ばれるものは本当に食べても大丈夫なのだろうかと思えるくらいに固かった。見た目も真っ黒であるので本当に炭なのではないかと疑っていたのだが、一口食べてみようと口に近付けただけで間違いなく炭に近い存在だという事は確信できた。
勇気を出して一口食べようと思ったのだけれど、唐揚げの衣が噛み千切られるのを拒否するかのように頑なに抵抗してきていた。どうやったらここまで固くなるのかと思っていたのだけれど、このままでは俺の前歯が死んでしまうと思って諦め半分恐怖半分で俺は唐揚げと呼ばれている塊を口の中に放り込んだのだ。
奥歯を使って何とか衣をかみ砕くことが出来たのだが、その時に聞こえてきた音は去年の冬に食べた固焼きの煎餅と同じ音だったような印象を受けたのである。味についてはあえて触れることも無いと思うのだが、見た目を裏切ることも無く衣が苦くて鶏肉の水分も抜けているようで苦痛に近いものを感じていた。
いくら噛んでも飲み込むことを拒むように俺ののどは固く閉ざされているし、北村桃子は早く二つ目を食べろと言うかの如く俺に向かって唐揚げを食べさせようとしてきたのだ。こんなものを二つも食べたら体調がどうなるかわからない。そもそも、なんで北村桃子の持っている物はつまようじが普通に刺さっているのだろう。その謎も俺には難しすぎて解くことが出来なかったのだ。
「見た目はちょっと失敗っぽい感じかもしれないですけど、味はどうですか?」
味。味についての感想を聞かれるのは当然の事だと思うのだけれど、俺が口に入れている物から感じるのは苦みだけなのだ。塩っ気も無いし脂っぽさも無いただの苦くて硬い何かなのだ。
揚げ過ぎているからなのか衣には苦みしかないし、鳥には本来あるはずのジューシーさも残っていない。そもそも、この鶏肉にはちゃんとした味を付けているのだろうか。いくら揚げ過ぎて水分が飛んでしまったとしても、塩味は残るものではないのだろうか。それが全く感じられないのはどういうことなのか疑問である。
「味わってくれてるのは嬉しいんですけど、そろそろ味の感想を教えてもらいたいな。先輩はこういう唐揚げって好きですか?」
味の感想だけでも答えづらいというのに、好きか嫌いかなんて聞くのは反則ではないだろうか。俺はさらに黙っていつまでも飲み込めない唐揚げらしきものを口の中で処理しようとしていたのだった。
だが、北村桃子が店を手伝うのは週に数回も無いようなので出会うことはそこまで多くなかった。たまに店に出ていたとしても忙しそうにしているので話すことも無いのだけれど、学校では文化祭実行委員の仕事があった時よりも会うようになっていた。
「先輩。昨日もきてくれたみたいでありがとうございます。お父さんもお母さんも喜んでましたよ。でも、食べにくるんだったら前の日に言ってくれないと私も準備できないんですよ。次に来てくれる時はちゃんと前の日に教えてくださいね」
「準備って、別に北村が特別何かしてるってわけでもないんだし、教える必要もないだろ。それに、店に行くのって俺が決めてるわけじゃなくて母親と妹が決めてるんだよ。だから、俺にはいつ店に食べに行くかなんてわからないんだって」
「まあ、そう言うもんですよね。ところで、話は変わりますが、先輩って生姜焼きとハンバーグ以外は食べないんですか?」
「食べないってことは無いけどさ、店に行くとそのどっちかにすることが多いかな。どっちも変な感じになることも無いし、普通に美味しいからな」
「そう言ってもらえるとお父さんも喜ぶと思いますよ。そこで先輩に質問があるんですけど、聞いてもらってもいいですか?」
「そういうのは質問の内容を聞いてからじゃないと答えられないんだけど」
「それはそうですよね。じゃあ、これを見てください」
北村桃子がカバンから取り出したのは可愛い巾着袋に入った小さなバスケットだった。サンドイッチでも入っていそうなバスケットを俺に手渡すと、少しだけニヤニヤした表情の北村桃子が蓋を開けるようにジェスチャーをしてきた。そんな感じで指示しなくても口で言えばいいのにと思いつつも、俺は素直にそのバスケットの蓋を開けてみると中に入っていたのは丸いカリントウのような物体だった。
「これって、デザートか何か?」
「やだなぁ、先輩って時々そういう冗談を真顔で言いますよね。でも、唐揚げをデザート感覚で食べてる人もいるみたいだし、ある意味ではデザートになるのかもしれないですね」
「え、これが唐揚げなの?」
俺の知っている唐揚げと違って衣に竹炭でも混ぜたのかと思うくらいに真っ黒でいて、箸でつかむとプラスチックで出来ているのかなと思えるくらいにカチカチになっていた。
「どうですか。先輩って唐揚げ好きですか?」
「唐揚げは好きだよ。好きだけどさ、これって唐揚げなの?」
「もう、何言ってるんですか。そういう冗談って何回も繰り返すと面白さが半減しちゃいますって。とりあえず、その冗談はそれくらいにして一つ食べてみてください。出来立てじゃないんでジューシー感は減ってるかもしれないですけど、味は美味しいはずですからね。期待して食べてくださいよ」
箸でつかんでいるだけの唐揚げと呼ばれるものは本当に食べても大丈夫なのだろうかと思えるくらいに固かった。見た目も真っ黒であるので本当に炭なのではないかと疑っていたのだが、一口食べてみようと口に近付けただけで間違いなく炭に近い存在だという事は確信できた。
勇気を出して一口食べようと思ったのだけれど、唐揚げの衣が噛み千切られるのを拒否するかのように頑なに抵抗してきていた。どうやったらここまで固くなるのかと思っていたのだけれど、このままでは俺の前歯が死んでしまうと思って諦め半分恐怖半分で俺は唐揚げと呼ばれている塊を口の中に放り込んだのだ。
奥歯を使って何とか衣をかみ砕くことが出来たのだが、その時に聞こえてきた音は去年の冬に食べた固焼きの煎餅と同じ音だったような印象を受けたのである。味についてはあえて触れることも無いと思うのだが、見た目を裏切ることも無く衣が苦くて鶏肉の水分も抜けているようで苦痛に近いものを感じていた。
いくら噛んでも飲み込むことを拒むように俺ののどは固く閉ざされているし、北村桃子は早く二つ目を食べろと言うかの如く俺に向かって唐揚げを食べさせようとしてきたのだ。こんなものを二つも食べたら体調がどうなるかわからない。そもそも、なんで北村桃子の持っている物はつまようじが普通に刺さっているのだろう。その謎も俺には難しすぎて解くことが出来なかったのだ。
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