ちょっとエッチ(無自覚)で可愛い後輩アンソロジー

釧路太郎

文字の大きさ
上 下
54 / 59
文化祭実行委員の後輩と実行委員長の俺

第二話

しおりを挟む
 俺の家族も北村桃子の定食屋が気に入ったようで、今では週に一回か二回は食べに来るようになってしまった。何を食べても美味しいので文句はないのだけど、うちの家族が変なことを言いださないか心配になってしまう。
 だが、北村桃子が店を手伝うのは週に数回も無いようなので出会うことはそこまで多くなかった。たまに店に出ていたとしても忙しそうにしているので話すことも無いのだけれど、学校では文化祭実行委員の仕事があった時よりも会うようになっていた。
「先輩。昨日もきてくれたみたいでありがとうございます。お父さんもお母さんも喜んでましたよ。でも、食べにくるんだったら前の日に言ってくれないと私も準備できないんですよ。次に来てくれる時はちゃんと前の日に教えてくださいね」
「準備って、別に北村が特別何かしてるってわけでもないんだし、教える必要もないだろ。それに、店に行くのって俺が決めてるわけじゃなくて母親と妹が決めてるんだよ。だから、俺にはいつ店に食べに行くかなんてわからないんだって」
「まあ、そう言うもんですよね。ところで、話は変わりますが、先輩って生姜焼きとハンバーグ以外は食べないんですか?」
「食べないってことは無いけどさ、店に行くとそのどっちかにすることが多いかな。どっちも変な感じになることも無いし、普通に美味しいからな」
「そう言ってもらえるとお父さんも喜ぶと思いますよ。そこで先輩に質問があるんですけど、聞いてもらってもいいですか?」
「そういうのは質問の内容を聞いてからじゃないと答えられないんだけど」
「それはそうですよね。じゃあ、これを見てください」
 北村桃子がカバンから取り出したのは可愛い巾着袋に入った小さなバスケットだった。サンドイッチでも入っていそうなバスケットを俺に手渡すと、少しだけニヤニヤした表情の北村桃子が蓋を開けるようにジェスチャーをしてきた。そんな感じで指示しなくても口で言えばいいのにと思いつつも、俺は素直にそのバスケットの蓋を開けてみると中に入っていたのは丸いカリントウのような物体だった。
「これって、デザートか何か?」
「やだなぁ、先輩って時々そういう冗談を真顔で言いますよね。でも、唐揚げをデザート感覚で食べてる人もいるみたいだし、ある意味ではデザートになるのかもしれないですね」
「え、これが唐揚げなの?」
 俺の知っている唐揚げと違って衣に竹炭でも混ぜたのかと思うくらいに真っ黒でいて、箸でつかむとプラスチックで出来ているのかなと思えるくらいにカチカチになっていた。
「どうですか。先輩って唐揚げ好きですか?」
「唐揚げは好きだよ。好きだけどさ、これって唐揚げなの?」
「もう、何言ってるんですか。そういう冗談って何回も繰り返すと面白さが半減しちゃいますって。とりあえず、その冗談はそれくらいにして一つ食べてみてください。出来立てじゃないんでジューシー感は減ってるかもしれないですけど、味は美味しいはずですからね。期待して食べてくださいよ」
 箸でつかんでいるだけの唐揚げと呼ばれるものは本当に食べても大丈夫なのだろうかと思えるくらいに固かった。見た目も真っ黒であるので本当に炭なのではないかと疑っていたのだが、一口食べてみようと口に近付けただけで間違いなく炭に近い存在だという事は確信できた。
 勇気を出して一口食べようと思ったのだけれど、唐揚げの衣が噛み千切られるのを拒否するかのように頑なに抵抗してきていた。どうやったらここまで固くなるのかと思っていたのだけれど、このままでは俺の前歯が死んでしまうと思って諦め半分恐怖半分で俺は唐揚げと呼ばれている塊を口の中に放り込んだのだ。
 奥歯を使って何とか衣をかみ砕くことが出来たのだが、その時に聞こえてきた音は去年の冬に食べた固焼きの煎餅と同じ音だったような印象を受けたのである。味についてはあえて触れることも無いと思うのだが、見た目を裏切ることも無く衣が苦くて鶏肉の水分も抜けているようで苦痛に近いものを感じていた。
 いくら噛んでも飲み込むことを拒むように俺ののどは固く閉ざされているし、北村桃子は早く二つ目を食べろと言うかの如く俺に向かって唐揚げを食べさせようとしてきたのだ。こんなものを二つも食べたら体調がどうなるかわからない。そもそも、なんで北村桃子の持っている物はつまようじが普通に刺さっているのだろう。その謎も俺には難しすぎて解くことが出来なかったのだ。
「見た目はちょっと失敗っぽい感じかもしれないですけど、味はどうですか?」
 味。味についての感想を聞かれるのは当然の事だと思うのだけれど、俺が口に入れている物から感じるのは苦みだけなのだ。塩っ気も無いし脂っぽさも無いただの苦くて硬い何かなのだ。
 揚げ過ぎているからなのか衣には苦みしかないし、鳥には本来あるはずのジューシーさも残っていない。そもそも、この鶏肉にはちゃんとした味を付けているのだろうか。いくら揚げ過ぎて水分が飛んでしまったとしても、塩味は残るものではないのだろうか。それが全く感じられないのはどういうことなのか疑問である。
「味わってくれてるのは嬉しいんですけど、そろそろ味の感想を教えてもらいたいな。先輩はこういう唐揚げって好きですか?」
 味の感想だけでも答えづらいというのに、好きか嫌いかなんて聞くのは反則ではないだろうか。俺はさらに黙っていつまでも飲み込めない唐揚げらしきものを口の中で処理しようとしていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

天才たちとお嬢様

釧路太郎
キャラ文芸
綾乃お嬢様には不思議な力があるのです。 なぜだかわかりませんが、綾乃お嬢様のもとには特別な才能を持った天才が集まってしまうのです。 最初は神山邦弘さんの料理の才能惚れ込んだ綾乃お嬢様でしたが、邦宏さんの息子の将浩さんに秘められた才能に気付いてからは邦宏さんよりも将浩さんに注目しているようです。 様々なタイプの天才の中でもとりわけ気づきにくい才能を持っていた将浩さんと綾乃お嬢様の身の回りで起こる楽しくも不思議な現象はゆっくりと二人の気持ちを変化させていくのでした。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」に投稿しております

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

処理中です...