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バイセクシャルな後輩は俺の事を何とも思っていない
第八話
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「河崎さんって何時くらいに起きてるんですか?」
「休みの日でも九時には起きてるよ。君は何時くらいに起きるの?」
「僕は休みの日は寝られるだけなちゃいますね。トイレとお風呂以外はずっと布団の中でご飯も食べない時があったりしますよ。そんなのは良くないって思ってはいるんですけど、どうしても布団から出られない時ってのがあるんですよね。約束でもしてれば話は別なんですけど、僕ってあんまり事前に何か決めるのって好きじゃないんですよ」
「でも、さっき明日ラーメン食べに行こうって決めてなかったっけ?」
「もう、そういうのは良いんですよ。ご飯は約束のうちに入らないですから。ほら、いつまでもそんなところにいないでこっちに来てください。僕一人で布団を占領してると悪い人みたいに見えちゃうじゃないですか」
「いや、さすがに同じ布団で寝るのは良くないと思うんだよな。俺も君もそういうつもりじゃないってのはあってもさ、一緒に寝るってのはどうかと思うんだよね。ほら、俺はちょっと厚着してバスタオルでも掛けて寝るから気にしなくていいよ」
「そういうのされた方が気になっちゃいますよ。僕だって誰とでも一緒の布団に入れるってわけじゃないんですからね。河崎さんだからこそ安心してるってのもあるのを理解してもらえると嬉しいですね。だから、そんなところに立ってないでこっちに来てくださいって」
お互いにいやらしい気持ちなんて無いって事なんだろうけれど、さすがに一緒の布団に入ってしまうとそいう言うわけにもいかないだろうな。シャワーを浴び終えて映画を見ている時に松本舞も女性なんだっていう事を意識してしまってからはそれまでのフラットな付き合いを続けていけるか不安になってしまっていた。本当にその時までは何も意識していなかったのだけれど、胸の膨らみや女性っぽい仕草が垣間見えた事で俺の持っていた松本舞に対する印象ががらりと変わってしまったのだ。本人にはとても言えないのだが。
「もう、河崎さんがそっちで寝るって言うんだったら僕がそっちに行きますから。それなら文句も無いですよね?」
「そっちの方がダメだろ。俺はこっちでも大丈夫だからお前はそこで寝てていいって」
「そういうの良くないですよ。ずっと思ってたんですけど、僕の事を君とかお前って呼ぶのやめてください。名前で呼んでくれたら嬉しいですけど、それが恥ずかしいって言うんだったら舞ちゃんって呼んでもいいですから。だから、これからは僕の事は名前で呼んでくださいね」
「あ、うん。それは構わないけどさ、名前で呼べば俺がここで寝るのは大丈夫って事?」
「そんなわけないじゃないですか。それとこれとは話が別ですよ。河崎さんって他の女子の事も君って呼んでるじゃないですか。僕だけ何故か時々お前って言われてるんですけど、それって特別扱いしてくれてたって事ですかね」
「そう言うわけじゃないんだけどな。何となく昔から女性の事を名前とかで呼ぶのに抵抗があるんだよな。自分の彼女とかだったら話は別だけどさ、あんまり名前とかで呼ぶ機会もないから」
「いやいや、別に呼ぶ機会なんていくらでもあるでしょ。僕もみんなもなんで河崎さんが名前で呼ばないのか気になってるんですよ。店長に聞いても理由は知らないっていうし、他の人もずっと昔からそうだから知らないって言ってるんですからね。女子の間では先月辞めた大原さんだけ名字で呼ばれてたからそういう関係なのかなって噂になってたんですからね。大原さんは結婚して辞めちゃいましたけど、みんながずっと相手は河崎さんだって思ってたんですよ。でも、大原さんの結婚式の当日は河崎さんが普通に働いてたんでみんな意味が分からないって言ってましたもん。それで、河崎さんと大原さんってどんな関係でどうして名前で呼び合ってたんですか。ずっとその事を聞こうと思ってたんですよ」
「どうして名前で呼び合うかってのは深い意味なんてないけどな。大原は中学が一緒だったってだけだよ。高校以降は別の進路になったんで話すことも無かったけど、俺が入社したちょっと後にバイトとしてたまたま入ってきただけだしな。君達が思ってるような関係ではないってことは確かだよ」
「なんだ。あんまりおもしろくない話ですね。僕は河崎さんの恋バナが聞けるのかなって思ってたんですけど、ちょっと期待外れですよ。あと、君って呼ぶのはダメですって。僕の事はちゃんと名前で呼んでくださいって」
別に名前で呼ぶのはこの際どうでもいいと思うのだけれど、この状況で呼び方を変えるのは良くないような気がしていた。何にもないとはいえ、この状況で呼び方を変えて一緒の布団で寝るというのはそれだけでも勘違いしてしまうような行為のようにも思えるのだ。
何もしないと誓えることは間違いないのだけれど、万が一何かあったとしたら呼び方を変えてしまったことが要因とはいかなくても一つのきっかけになってしまってるのではないかと思えてしまう。ただ、そんな事を深く考える必要なんてないと思うし、呼び方一つで何も変わることは無いと思うのだけれど、自分を抑えることが出来ない理由になってしまいそうだ。それに、酔っているかは別にして、俺はお酒を飲んでしまっているのだ。お酒が入っている状態で呼び名を変えてしまうという事は、何か間違いを起こす理由として自分の中で正当化してしまうのではないかという恐れもあったりするのだ。
「明日ラーメン食べに行く約束してるんですから、早く寝ましょうよ。ほら、何もしないからこっちに来て平気ですって」
何だろう。ここまで何もしないというのを強調されると本当なのだろうかと考えてしまう。それとも、自分は何もしないけどお前は何かしろよというアピールなのだろうか。
据え膳食わぬは男の恥という言葉もあるのだろうが、俺としてはこれからの円滑な人間関係のためにも何もしないというのが正解だと思っている。何もせずに男らしくないと言われたとしても、俺はちゃんとしていると思われる方が好きなのだ。
「休みの日でも九時には起きてるよ。君は何時くらいに起きるの?」
「僕は休みの日は寝られるだけなちゃいますね。トイレとお風呂以外はずっと布団の中でご飯も食べない時があったりしますよ。そんなのは良くないって思ってはいるんですけど、どうしても布団から出られない時ってのがあるんですよね。約束でもしてれば話は別なんですけど、僕ってあんまり事前に何か決めるのって好きじゃないんですよ」
「でも、さっき明日ラーメン食べに行こうって決めてなかったっけ?」
「もう、そういうのは良いんですよ。ご飯は約束のうちに入らないですから。ほら、いつまでもそんなところにいないでこっちに来てください。僕一人で布団を占領してると悪い人みたいに見えちゃうじゃないですか」
「いや、さすがに同じ布団で寝るのは良くないと思うんだよな。俺も君もそういうつもりじゃないってのはあってもさ、一緒に寝るってのはどうかと思うんだよね。ほら、俺はちょっと厚着してバスタオルでも掛けて寝るから気にしなくていいよ」
「そういうのされた方が気になっちゃいますよ。僕だって誰とでも一緒の布団に入れるってわけじゃないんですからね。河崎さんだからこそ安心してるってのもあるのを理解してもらえると嬉しいですね。だから、そんなところに立ってないでこっちに来てくださいって」
お互いにいやらしい気持ちなんて無いって事なんだろうけれど、さすがに一緒の布団に入ってしまうとそいう言うわけにもいかないだろうな。シャワーを浴び終えて映画を見ている時に松本舞も女性なんだっていう事を意識してしまってからはそれまでのフラットな付き合いを続けていけるか不安になってしまっていた。本当にその時までは何も意識していなかったのだけれど、胸の膨らみや女性っぽい仕草が垣間見えた事で俺の持っていた松本舞に対する印象ががらりと変わってしまったのだ。本人にはとても言えないのだが。
「もう、河崎さんがそっちで寝るって言うんだったら僕がそっちに行きますから。それなら文句も無いですよね?」
「そっちの方がダメだろ。俺はこっちでも大丈夫だからお前はそこで寝てていいって」
「そういうの良くないですよ。ずっと思ってたんですけど、僕の事を君とかお前って呼ぶのやめてください。名前で呼んでくれたら嬉しいですけど、それが恥ずかしいって言うんだったら舞ちゃんって呼んでもいいですから。だから、これからは僕の事は名前で呼んでくださいね」
「あ、うん。それは構わないけどさ、名前で呼べば俺がここで寝るのは大丈夫って事?」
「そんなわけないじゃないですか。それとこれとは話が別ですよ。河崎さんって他の女子の事も君って呼んでるじゃないですか。僕だけ何故か時々お前って言われてるんですけど、それって特別扱いしてくれてたって事ですかね」
「そう言うわけじゃないんだけどな。何となく昔から女性の事を名前とかで呼ぶのに抵抗があるんだよな。自分の彼女とかだったら話は別だけどさ、あんまり名前とかで呼ぶ機会もないから」
「いやいや、別に呼ぶ機会なんていくらでもあるでしょ。僕もみんなもなんで河崎さんが名前で呼ばないのか気になってるんですよ。店長に聞いても理由は知らないっていうし、他の人もずっと昔からそうだから知らないって言ってるんですからね。女子の間では先月辞めた大原さんだけ名字で呼ばれてたからそういう関係なのかなって噂になってたんですからね。大原さんは結婚して辞めちゃいましたけど、みんながずっと相手は河崎さんだって思ってたんですよ。でも、大原さんの結婚式の当日は河崎さんが普通に働いてたんでみんな意味が分からないって言ってましたもん。それで、河崎さんと大原さんってどんな関係でどうして名前で呼び合ってたんですか。ずっとその事を聞こうと思ってたんですよ」
「どうして名前で呼び合うかってのは深い意味なんてないけどな。大原は中学が一緒だったってだけだよ。高校以降は別の進路になったんで話すことも無かったけど、俺が入社したちょっと後にバイトとしてたまたま入ってきただけだしな。君達が思ってるような関係ではないってことは確かだよ」
「なんだ。あんまりおもしろくない話ですね。僕は河崎さんの恋バナが聞けるのかなって思ってたんですけど、ちょっと期待外れですよ。あと、君って呼ぶのはダメですって。僕の事はちゃんと名前で呼んでくださいって」
別に名前で呼ぶのはこの際どうでもいいと思うのだけれど、この状況で呼び方を変えるのは良くないような気がしていた。何にもないとはいえ、この状況で呼び方を変えて一緒の布団で寝るというのはそれだけでも勘違いしてしまうような行為のようにも思えるのだ。
何もしないと誓えることは間違いないのだけれど、万が一何かあったとしたら呼び方を変えてしまったことが要因とはいかなくても一つのきっかけになってしまってるのではないかと思えてしまう。ただ、そんな事を深く考える必要なんてないと思うし、呼び方一つで何も変わることは無いと思うのだけれど、自分を抑えることが出来ない理由になってしまいそうだ。それに、酔っているかは別にして、俺はお酒を飲んでしまっているのだ。お酒が入っている状態で呼び名を変えてしまうという事は、何か間違いを起こす理由として自分の中で正当化してしまうのではないかという恐れもあったりするのだ。
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