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麻雀をする後輩と俺
第八話
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市川さんの特訓という名目で始めた麻雀だったのだが、結果的には吉川さんが一番麻雀が上手くなったと思う。良く知っている人と打っているという事もあるのだろうが、吉川さんは自分の手配よりも相手の事を観察しながら麻雀を打っているのだ。俺が聴牌した時の事を考えても、安めで聴牌した時は構わずに自分の手を作っていったようなのだが、高めで聴牌した時にはきっちり降りていたのだ。その危機察知能力は明松さんよりも優れていると言っていいかもしれない。
「あんまり麻雀の事はわからなかったけどさ、明松さんと斎藤さんのお陰で市川さんより上手くなったかもしれないな」
「そうかもしれないけどさ、そういうのは私がいないところで言って欲しいな」
「ごめんごめん、でも、私は市川さんと一緒に麻雀が出来て嬉しいよ」
楽しそうに麻雀の感想を言い合っている二人とは対照的に明松さんは今夜世界が崩壊するのではないかと思うくらいに落ち込んでいた。
明松さんはなりふり構わずに強気な麻雀を打ち続けていたのだけれど、高い手が出来た時は吉川さんが目覚めた危機察知能力をいかんなく発揮して安めの俺や市川さんにサクっと振り込むので点数が伸び悩んでいた。結果的にラストになることは無かったのだけれど、その全てで俺が先着して誰も飛ぶことが無いという結果に終わってしまったのだ。
「そんなに私の事が嫌いなんですか?」
「別に好きでも嫌いでもないけど。どうしてそんなに俺に拘るのかな?」
「どうしてって、私は齋藤さんにプロとしてもう一度輝いて欲しいんです。あの時みたいに強くて負けない斎藤さんを見たいんです。今日だって二人を守るだけじゃなくて武器として使ってたじゃないですか。そんな事は誰も出来ないですよ。卓上の創造主と呼ばれていたころの齋藤さんだからこそできる芸当だと思うんです。ねえ、もう一度プロになって活躍してくださいよ。別の団体でもいいですから、一緒に麻雀をやりましょうよ」
「さすがにそれは出来ないでしょ。俺が他の団体でプロになるってのもおかしな話だし、明松プロが他の団体に移籍するとか絶対にやっちゃダメな事だって」
「私は別にいいんです。自分がどうなったっていいんです。齋藤さんが、みんなが知らない斎藤さんの強さがわかってもらえるならそれでいいんです。だから、もう一度プロになってくださいよ」
「それは無理だって。俺が決める事じゃないしね」
市川さんと吉川さんは楽しそうに今日の麻雀の感想を言っていたのだが、明松さんから出たプロという言葉を聞いて二人の動きは止まってしまった。
「齋藤さんがプロだったってのは聞いたことあるんですけど、そんなに強い人だったんですか?」
「強い弱いで言えばそこまで強いって感じではないんだけどね。斎藤さんの場合は強いとそういう次元の話じゃないんだよ。なんて言うか、全てを支配しているって感じだったかもね。毎回それが出来ればタイトルも撮ってたかと思うんだけどさ、そんなことが出来るのは年に数回って感じだったんだ。それが齋藤さんの強さの一つなんだけど、それが原因で引退することになっちゃったんだよね」
明松さんはわりと大げさに物事を伝える癖があるのだが、俺自身にもこの場を支配しているのではないかと思う瞬間が何度かあった事はある。それこそ、俺が引退をするきっかけになった麻雀の時は面白いくらいに相手の手がわかってしまっていたのだ。
「でも、さすがにアレでいかさまをしてるって主張するのはどうかと思うけどね。三局続けて齋藤さん以外の三人が役満を聴牌するなんて偶然にしては出来過ぎだし、何かやってるんだろうって思う事は間違いじゃないかもしれないのよ。でも、あの時の雀卓は齋藤さんが用意したものでもないし、親番だって齋藤さんは一回も回ってきてないんだからね。どんないかさまだって言うのか詳しく知りたかったんだけどさ、それをはっきりさせる前に齋藤さんが引退しちゃったから聞けずじまいなのよね。本当に何もやってないんですよね?」
「何かやってたとしたらもっと上手くやってると思うよ。ここぞというところで絶対に負けないと思うんだけどさ、意外と勝負弱いところもあったりするんだよね。誰もそんな事は聞いてもくれなかったけどさ」
「あの、それって、斎藤さんが調子いい時は相手に妨害を仕掛けるみたいな感じって事ですか?」
「そうだね。ある意味では一番の妨害をしているのかもしれないね。役満があがれるかもしれないって思わせるところが悪魔かって思うんだけどさ」
「もしかしてなんですけど、部長の送別会の時に課長と麻雀をやった時もそんな能力が発揮されていたって事なんですか?」
「いや、あの時はそういう感覚は無かったよ」
「感覚が無かったって、課長が私に役満を振り込んだのって齋藤さんの力が関係しているって事じゃないんですか?」
「全然違うと思うな。あの時は普通に誰でもいいから役満をあがってくれって思って積み込みしただけだからね。課長からあがるのは誰でも良かったってところはあるんだけどさ」
「たまたま私がその役割になったって事ですね。全然理解出来ないんですけど」
「別にその辺は理解しなくても大丈夫だよ。今日だってそんな風になりそうも無かったからね。どういう原理であんな惨いことを完遂できるんだろうって評判だったんだよ」
「悪名は無名に勝るってやつですね」
その例えがあっているのかはわからないけれど、俺は悪いやつではないと自負しているのだ。
「あんまり麻雀の事はわからなかったけどさ、明松さんと斎藤さんのお陰で市川さんより上手くなったかもしれないな」
「そうかもしれないけどさ、そういうのは私がいないところで言って欲しいな」
「ごめんごめん、でも、私は市川さんと一緒に麻雀が出来て嬉しいよ」
楽しそうに麻雀の感想を言い合っている二人とは対照的に明松さんは今夜世界が崩壊するのではないかと思うくらいに落ち込んでいた。
明松さんはなりふり構わずに強気な麻雀を打ち続けていたのだけれど、高い手が出来た時は吉川さんが目覚めた危機察知能力をいかんなく発揮して安めの俺や市川さんにサクっと振り込むので点数が伸び悩んでいた。結果的にラストになることは無かったのだけれど、その全てで俺が先着して誰も飛ぶことが無いという結果に終わってしまったのだ。
「そんなに私の事が嫌いなんですか?」
「別に好きでも嫌いでもないけど。どうしてそんなに俺に拘るのかな?」
「どうしてって、私は齋藤さんにプロとしてもう一度輝いて欲しいんです。あの時みたいに強くて負けない斎藤さんを見たいんです。今日だって二人を守るだけじゃなくて武器として使ってたじゃないですか。そんな事は誰も出来ないですよ。卓上の創造主と呼ばれていたころの齋藤さんだからこそできる芸当だと思うんです。ねえ、もう一度プロになって活躍してくださいよ。別の団体でもいいですから、一緒に麻雀をやりましょうよ」
「さすがにそれは出来ないでしょ。俺が他の団体でプロになるってのもおかしな話だし、明松プロが他の団体に移籍するとか絶対にやっちゃダメな事だって」
「私は別にいいんです。自分がどうなったっていいんです。齋藤さんが、みんなが知らない斎藤さんの強さがわかってもらえるならそれでいいんです。だから、もう一度プロになってくださいよ」
「それは無理だって。俺が決める事じゃないしね」
市川さんと吉川さんは楽しそうに今日の麻雀の感想を言っていたのだが、明松さんから出たプロという言葉を聞いて二人の動きは止まってしまった。
「齋藤さんがプロだったってのは聞いたことあるんですけど、そんなに強い人だったんですか?」
「強い弱いで言えばそこまで強いって感じではないんだけどね。斎藤さんの場合は強いとそういう次元の話じゃないんだよ。なんて言うか、全てを支配しているって感じだったかもね。毎回それが出来ればタイトルも撮ってたかと思うんだけどさ、そんなことが出来るのは年に数回って感じだったんだ。それが齋藤さんの強さの一つなんだけど、それが原因で引退することになっちゃったんだよね」
明松さんはわりと大げさに物事を伝える癖があるのだが、俺自身にもこの場を支配しているのではないかと思う瞬間が何度かあった事はある。それこそ、俺が引退をするきっかけになった麻雀の時は面白いくらいに相手の手がわかってしまっていたのだ。
「でも、さすがにアレでいかさまをしてるって主張するのはどうかと思うけどね。三局続けて齋藤さん以外の三人が役満を聴牌するなんて偶然にしては出来過ぎだし、何かやってるんだろうって思う事は間違いじゃないかもしれないのよ。でも、あの時の雀卓は齋藤さんが用意したものでもないし、親番だって齋藤さんは一回も回ってきてないんだからね。どんないかさまだって言うのか詳しく知りたかったんだけどさ、それをはっきりさせる前に齋藤さんが引退しちゃったから聞けずじまいなのよね。本当に何もやってないんですよね?」
「何かやってたとしたらもっと上手くやってると思うよ。ここぞというところで絶対に負けないと思うんだけどさ、意外と勝負弱いところもあったりするんだよね。誰もそんな事は聞いてもくれなかったけどさ」
「あの、それって、斎藤さんが調子いい時は相手に妨害を仕掛けるみたいな感じって事ですか?」
「そうだね。ある意味では一番の妨害をしているのかもしれないね。役満があがれるかもしれないって思わせるところが悪魔かって思うんだけどさ」
「もしかしてなんですけど、部長の送別会の時に課長と麻雀をやった時もそんな能力が発揮されていたって事なんですか?」
「いや、あの時はそういう感覚は無かったよ」
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