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麻雀をする後輩と俺

第一話

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 職場の飲み会に参加しても今までは一次会だけ参加することが多かったのだが、入社以来お世話になっている部長の送別会ともなると一次会だけで帰るということも出来なかった。
「お、今日は珍しいやつがこんな時間まで残ってるぞ。お前は入社してからずっと竹本部長にはお世話になりっぱなしだもんな。送別会は最後まで残ろうと思うのなんて偉いな。でもな、最後だけってのは良くないと思うぞ。こういうのは最後だけじゃなくて何回も参加して積み重ねが大事なんだぞ」
「まあまあ、課長。齋藤になんて絡んでないでこの前の四暗刻をあがったときの話をみんなに教えてくださいよ。市川さんも聞きたいって言ってますから、齋藤にかまってる暇があったら市川さんに麻雀を教えてあげてくださいよ」
「そうだな、こんな奴にかまってる暇なんて無いな。市川君も麻雀が出来るようにならないと我が社ではやっていけないからな。先月役満をあがったばかりの私が直々に教えてやることにするか」
 今の社長は麻雀よりも将棋の方が好きなようなのだが、今の会長である先代の社長は麻雀が大好きで事あるごとに麻雀大会を開いていたそうなのだ。社内で行われる麻雀大会であるにもかかわらず、優勝賞金も出ていたという話も聞いていた。優勝者にはボーナスが上積みされるそうなのだが、今の社長に変わってからその制度自体が無くなってしまったのである。ただ、年に一回だけ会長主催の麻雀大会が開かれてはいるのだけれど、そこは完全に趣味の大会という事で賞金などは出るはずもなく、ボーナスの上積みも無い事にはなっている。
 今でも麻雀が強いと上の人に名前を覚えてもらいやすいというのもあるようなのだが、今年入社したばかりの市川さんは仕事は出来るものの麻雀に関しては全くの素人であり、そんな市川さんに麻雀を教えたいというオジサンたちが連日休み時間の度に話しかけていっている場面をよく見かけるのだ。今も平本課長が市川さんに自分の麻雀がいかに凄いかという事を説明しているのだが、麻雀の事を何も知らない市川さんは笑顔でそれを聞いているのであった。
「君も忙しいと思うのに僕のためにこんな時間まで残ってくれてありがとうね。予定があるんだったら帰ってもいいんだよ」
「今日は予定も開けてきたんで大丈夫ですよ。もし、予定があったとしてもお世話になった竹本部長の送別会ですから途中で帰るわけにもいかないです」
「僕はそんなに君のお世話をしたとは言えないと思うけどね。でも、君がそう言ってくれるのは嬉しいよ。どうだね、最近の調子は?」
「そんなに悪くはないと思いますよ。うまく行かない事の方が多いと思いますが、ちゃんと考えれば結果はついてくると思います」
「そうか。それは良かった。齋藤君がそう言うんだったら私がいなくなっても大丈夫だね」
「そう思ってもらえるように努力します」
 俺は下戸なのでみんなのように酒を飲むことは出来ないのだが、たまにはこういうワイワイした感じも良いものだと思っていた。市川さんは笑顔で平本課長たちの相手をしているようにも見えるのだが、時々少し困っているようにも見えていた。
 お酒の勢いもあってなのか平本課長はいつもよりも市川さんに対する距離が近いように見える。市川さんを抱きしめたりといった感じにはなりつつも、皆の視線もあるのでその辺は自重しているようではある。だが、今にも市川さんの事を抱きしめてしまうのではないかと思うような行動をとっているのだ。
「そうだ、竹本部長。最後に私と麻雀しましょうよ。市川君も部長と麻雀をしてみたいって言ってますし、どうです?」
「ほう、市川君は麻雀を覚えたのかな?」
「基本的なルールは本を読んで覚えました。あと、おススメしていただいた動画も見ました」
「なるほど、それなら最後に一回くらい麻雀をやってみようか。と言っても、僕と平本君と市川君の三人だと麻雀は出来ないし、齋藤君も一緒にやろうじゃないか。最後くらい僕のワガママに付き合ってくれてもいいだろ?」
「齋藤ですか。部長もご存知だとは思いますが、そいつはむやみやたらと鳴くので部長の麻雀の邪魔をするかもしれませんよ。そいつよりもこっちの石川の方がいいと思いますけど」
「石川君も良いと思うんだが、今日はせっかくだし齋藤君にお願いしたいな。僕ももう一度齋藤君と一緒に麻雀が打ちたいんだが、どうかね?」
 竹本部長の頼みであれば断ることは出来ないのだが、出来ることなら麻雀は打ちたくはない。竹本部長に勝っても負けても良いことが無いように思えるのだ。それに、平本課長と一緒に麻雀をしても良いことは何もないような気もするのだ。
「あの、齋藤さんが一緒に麻雀をやってくれるんだったら私も安心出来ると思うんです。失礼な言い方かもしれないですけど、齋藤さんがいると私が最下位にならないって平本課長が言ってるんで」
「おいおい市川君、そんな事を齋藤君に言っちゃダメだろ。確かに言ったかもしれないけれど、それを本人に伝えるのは良くないと思うよ。そんなことを言われたら齋藤君だっていい気はしないと思うんだが」
 俺はそんなことを言われたくらいで気を曲げたりなんてしない。別に他人がどう思おうが気にしないのだ。それに、初心者の市川さんが麻雀をやってみたいと思うんだったら俺に出来ることをやってあげるだけの話なのだ。
「と言っても、今から行ける雀荘なんて無いし、手積みでも良ければ部屋を用意出来るんですが、部長は手積みでも大丈夫ですか?」
「ああ、その方が麻雀をやってる感があっていいと思うよ。全自動は全自動で良いと思うけど、僕みたいな古い人間はやっぱり手で積まなくてはやっている気になれないんだよね」
「そうと決まれば話は早いです。私が会社の近くに借りている麻雀用のアパートがあるのでそこに行きましょう。石川君、タクシー二台呼んどいてくれ」
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