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第二部
第一話 栗鳥院家の呪われた姫
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新しい世界にやってきて一か月くらい経つのだが、一度も青空を拝んだことがなかった。夜は晴れていることもあるのだが、日中は一度も雨が止むこともなく世界中が何かに悲しんでいるようにも思えた。
「アスモちゃんってさ、ハッキリ言ってうまなちゃんを助けるつもりないでしょ?」
「そんなことはないよ。普通にうまなちゃんを助けに行こうとは思ってるけど、なんか上手くいってないってだけだからね。本当だったら今すぐにでもうまなちゃんの居場所を聞き出して助けに行きたいって思ってるくらいだよ。でも、占い師に聞いても預言者に聞いても導き手に聞いてもうまなちゃんの居場所なんて知らないって言われちゃってるんだよね」
「それってさ、アスモちゃんの聞き方が悪いって事なんじゃあないかな。ほら、アスモちゃんって世界を震撼させる大魔王なのに妙に優しいところが目立つじゃない。さっきの女の子も何もせずに解放しちゃってるし、色欲大魔王だったら最後までやっちゃうべきだったんじゃあないかな」
「さすがにそんなことは出来ないでしょ。どう考えたって栗鳥院藻琴はそういう対象として見てはいけない年齢だったと思うし」
「それは見た目の話だよね。あの子はああ見えて永遠とも思える長い時間をあの世界で過ごしているんだよ。その証拠に、体は子供のままなのに恐ろしいくらいの戦闘技術を持ってたのに気付いてたかな?」
「全然気づかなかった。そんなのあったなんて知らないよ」
「だろうね。でもさ、あんな小さな体であの数の熊を退治することが出来るなんて普通じゃないって思わなかったかな。あの小さな女の子が無数の熊を退治してるってのは普通に考えて無理がある話だとは思うんだけど、アスモちゃんは無意識のうちにあの女の子が熊を倒しているという現実を受け入れてしまってたんだよ。それは何故か、わかるかな?」
栗鳥院藻琴はどこからどう見ても小さな女の子にしか見えない。そんな小さな女の子が大人よりも大きく軽自動車よりも重い熊を一人で退治していた。今にして思えば、それはちょっとおかしいと思うのだけど、どうして一緒にいる時はそう思わなかったんだろう。俺もみんなも栗鳥院藻琴が熊を倒すことなんて当たり前だと感じていたということなんだろうな。
「さっきとは違って今度のアスモちゃんは私の質問に対してちゃんと考えてるんだね。あの女の子の事はちゃんと考えてるのに、うまなちゃんに関する質問はあらかじめ用意された答えを即答しているだけみたいに聞こえちゃうよね。それって、うまなちゃんを助けに行くのが面倒で私の質問にも適当に答えるために答えを用意してるって事じゃあないよね?」
「そんなわけないでしょ。俺はちゃんとうまなちゃんを助けたいって思ってるからね」
イザーちゃんは俺のウソに気付いているんだろうな。わかってて俺を泳がせているようにも感じているんだけど、そうなるとイザーちゃんも俺がうまなちゃんをすぐに助けに行かないことに納得しているということになるのではないだろうか。もしかしたら、うまなちゃん自身も俺がすぐに助けに行くことを望んでいないのかもしれない。
「話は変わるけどさ、この世界に来てずっと雨が降っているのはなんでだろうって考えたことあるかな?」
「この世界に来てからずっと青空を見ていないとは思ってたけど、何か理由があるっていうことなのかな?」
俺とイザーちゃんは同時に空を見上げていた。窓にあたる雨粒はいつもよりも小さく数も少なく感じているのだけど、相変わらず雲が途切れる気配はなかった。いつまでもこの雨が続いてしまうのではないかと感じさせるほどではないにしろ、世の中にはやまない雨もあるのではないかと思わせるには十分な期間雨が続いていた。
「この雨を降らせているのは栗鳥院稲穂。どういう理由なのかわからないけど、彼女の健康状態とこの世界の天気がリンクしているということらしい。栗鳥院稲穂が幼いころは晴れる日もあったみたいだけど、今は寝ていて体調がいい時しか晴れることがないみたいだよ。日中はずっと気分も体調も悪いようでさ、このまま雨が続いてしまうとどうなっちゃうんだろうね。この国の人たちもみんな栗鳥院稲穂みたいに暗く陰鬱な感じになっちゃうのかもしれないよ」
「そんなことがあるわけない。とも言い切れないんだよな。イザーちゃんたちの先生がそういう世界にしたって事なんでしょ?」
「そういうことだね。さすがにもう理解してくれてるようで助かるよ」
「そこで一つ聞きたいんだけど、その栗鳥院稲穂が死んでしまったらどうなるのかな?」
「さあ、どうなるんだろうね。でも、一つ確かなことは、栗鳥院稲穂は死ぬことがないって話だよ。アスモちゃんは気付いてなかったかもしれないけど、栗鳥院家の人たちは自分の意志で死にたいと思わない限り死ぬことはないからね。アスモちゃんが栗鳥院家の人間と対立して殺したいなって思うことがあったら、相手に自ら死ぬ道を選ばせないと駄目だからね。それ以外はアスモちゃんが諦めるって選択肢しかないからね」
俺は別に誰かと戦っても相手を殺したいなんて思ったことはないんだよな。勝ちたいとも勝たないと駄目だとも思ったことがないし、負けたって問題ないとさえ思っている。そんな俺が相手を殺したいなんて思う日がやってくるのだろうか。イザーちゃんがこんなことをわざわざ俺に教えてくれるということは、そんな日がやって来るかもしれないということなのだろうか。
「じゃあ、今回は栗鳥院稲穂にかけられている呪いを解いてこの世界を幸せにしてしまおう。それが出来たらきっとうまなちゃんの居場所を知るヒントが手に入るはずさ」
「かけられている呪いって、呪いをかけた相手を殺せって事なの?」
「そういうことじゃないよ。栗鳥院稲穂の話をよーく聞いて相手が何を求めているか考えてみたらいいんじゃないかな。アスモちゃんは優しいからそういうことが出来ると思うよ」
「アスモちゃんってさ、ハッキリ言ってうまなちゃんを助けるつもりないでしょ?」
「そんなことはないよ。普通にうまなちゃんを助けに行こうとは思ってるけど、なんか上手くいってないってだけだからね。本当だったら今すぐにでもうまなちゃんの居場所を聞き出して助けに行きたいって思ってるくらいだよ。でも、占い師に聞いても預言者に聞いても導き手に聞いてもうまなちゃんの居場所なんて知らないって言われちゃってるんだよね」
「それってさ、アスモちゃんの聞き方が悪いって事なんじゃあないかな。ほら、アスモちゃんって世界を震撼させる大魔王なのに妙に優しいところが目立つじゃない。さっきの女の子も何もせずに解放しちゃってるし、色欲大魔王だったら最後までやっちゃうべきだったんじゃあないかな」
「さすがにそんなことは出来ないでしょ。どう考えたって栗鳥院藻琴はそういう対象として見てはいけない年齢だったと思うし」
「それは見た目の話だよね。あの子はああ見えて永遠とも思える長い時間をあの世界で過ごしているんだよ。その証拠に、体は子供のままなのに恐ろしいくらいの戦闘技術を持ってたのに気付いてたかな?」
「全然気づかなかった。そんなのあったなんて知らないよ」
「だろうね。でもさ、あんな小さな体であの数の熊を退治することが出来るなんて普通じゃないって思わなかったかな。あの小さな女の子が無数の熊を退治してるってのは普通に考えて無理がある話だとは思うんだけど、アスモちゃんは無意識のうちにあの女の子が熊を倒しているという現実を受け入れてしまってたんだよ。それは何故か、わかるかな?」
栗鳥院藻琴はどこからどう見ても小さな女の子にしか見えない。そんな小さな女の子が大人よりも大きく軽自動車よりも重い熊を一人で退治していた。今にして思えば、それはちょっとおかしいと思うのだけど、どうして一緒にいる時はそう思わなかったんだろう。俺もみんなも栗鳥院藻琴が熊を倒すことなんて当たり前だと感じていたということなんだろうな。
「さっきとは違って今度のアスモちゃんは私の質問に対してちゃんと考えてるんだね。あの女の子の事はちゃんと考えてるのに、うまなちゃんに関する質問はあらかじめ用意された答えを即答しているだけみたいに聞こえちゃうよね。それって、うまなちゃんを助けに行くのが面倒で私の質問にも適当に答えるために答えを用意してるって事じゃあないよね?」
「そんなわけないでしょ。俺はちゃんとうまなちゃんを助けたいって思ってるからね」
イザーちゃんは俺のウソに気付いているんだろうな。わかってて俺を泳がせているようにも感じているんだけど、そうなるとイザーちゃんも俺がうまなちゃんをすぐに助けに行かないことに納得しているということになるのではないだろうか。もしかしたら、うまなちゃん自身も俺がすぐに助けに行くことを望んでいないのかもしれない。
「話は変わるけどさ、この世界に来てずっと雨が降っているのはなんでだろうって考えたことあるかな?」
「この世界に来てからずっと青空を見ていないとは思ってたけど、何か理由があるっていうことなのかな?」
俺とイザーちゃんは同時に空を見上げていた。窓にあたる雨粒はいつもよりも小さく数も少なく感じているのだけど、相変わらず雲が途切れる気配はなかった。いつまでもこの雨が続いてしまうのではないかと感じさせるほどではないにしろ、世の中にはやまない雨もあるのではないかと思わせるには十分な期間雨が続いていた。
「この雨を降らせているのは栗鳥院稲穂。どういう理由なのかわからないけど、彼女の健康状態とこの世界の天気がリンクしているということらしい。栗鳥院稲穂が幼いころは晴れる日もあったみたいだけど、今は寝ていて体調がいい時しか晴れることがないみたいだよ。日中はずっと気分も体調も悪いようでさ、このまま雨が続いてしまうとどうなっちゃうんだろうね。この国の人たちもみんな栗鳥院稲穂みたいに暗く陰鬱な感じになっちゃうのかもしれないよ」
「そんなことがあるわけない。とも言い切れないんだよな。イザーちゃんたちの先生がそういう世界にしたって事なんでしょ?」
「そういうことだね。さすがにもう理解してくれてるようで助かるよ」
「そこで一つ聞きたいんだけど、その栗鳥院稲穂が死んでしまったらどうなるのかな?」
「さあ、どうなるんだろうね。でも、一つ確かなことは、栗鳥院稲穂は死ぬことがないって話だよ。アスモちゃんは気付いてなかったかもしれないけど、栗鳥院家の人たちは自分の意志で死にたいと思わない限り死ぬことはないからね。アスモちゃんが栗鳥院家の人間と対立して殺したいなって思うことがあったら、相手に自ら死ぬ道を選ばせないと駄目だからね。それ以外はアスモちゃんが諦めるって選択肢しかないからね」
俺は別に誰かと戦っても相手を殺したいなんて思ったことはないんだよな。勝ちたいとも勝たないと駄目だとも思ったことがないし、負けたって問題ないとさえ思っている。そんな俺が相手を殺したいなんて思う日がやってくるのだろうか。イザーちゃんがこんなことをわざわざ俺に教えてくれるということは、そんな日がやって来るかもしれないということなのだろうか。
「じゃあ、今回は栗鳥院稲穂にかけられている呪いを解いてこの世界を幸せにしてしまおう。それが出来たらきっとうまなちゃんの居場所を知るヒントが手に入るはずさ」
「かけられている呪いって、呪いをかけた相手を殺せって事なの?」
「そういうことじゃないよ。栗鳥院稲穂の話をよーく聞いて相手が何を求めているか考えてみたらいいんじゃないかな。アスモちゃんは優しいからそういうことが出来ると思うよ」
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