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第二部
第六話 栗鳥院家の占い師 ボーナスステージ後編
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動かなくなった小屋を見ていて思ったのだが、小屋が動くと思う方が間違っているのではないだろうか。動いているところは確かに見たけれど、小屋が動くと思う方がどうかしているんじゃないか。あの小屋がここに戻ってくるとは思わずに、俺からあの小屋に近付いてしまえばいいだけの話だろう。
残念なことに玄関には鍵がかけられていて中に入ることは出来なくなっていた。こんな鍵くらいなら簡単に壊すこともできるのだけど、そんなことをしてはいけないと魔王らしくない考えが頭に浮かんでしまうのは俺がまだ人間だったころの事を忘れ切れていないということだろう。
なるべく物音を立てないように様子をうかがっているのだが、窓一つない小屋の中の様子を確認するために偵察用の召喚魔法を使うことにした。あまりマルチタスクが得意ではないので使いたくはなかったけれど、いったい中で何をやっているのかが気になるので確認しないわけにはいかないと思ったからだ。
視界を同期させるために俺は目をつぶっているので何も見えないのだが、目を閉じているにもかかわらず俺の脳内にはさっきまで見ていたものと同じ景色が浮かんできた。視界の同期も問題なく済んだので早速通気口から部屋の中へと侵入してみることにした。
さっきまであの女が寝ていた布団は掛布団がきれいに折りたたまれているが近くにあの女がいる様子はなかった。ワンルームのこの小屋に隠れる場所なんてないだろうと思っていたのだが、部屋の隅に先ほどまではなかったはずのガラス戸が設置されていた。すりガラスになっているので中の様子をはっきりと確認することは出来ないけれど、白っぽい人影のようなものが動いているのが見えるのであの女が中で何かやっているのは間違いないようだ。時々聞こえる鼻歌が止まったと思ったら水が噴き出すような音も聞こえてきたりしていた。
シャワーの音が止まると鼻歌を歌いながらタオルで体を拭いている栗鳥院蘭島がほぼ全裸の状態で出てきたのだが、運のいいことに俺の召喚獣にはまだ気付いていないようだ。のんきに鼻歌を歌いながら髪を拭いているのだけど、この女はダラダラするのが好きなのだと思っていたのにシャワーを浴びるのも好きなんだと思った。考えてみると、ただ寝て過ごしているだけにしては部屋の中も綺麗に片付いていたし匂いもいい匂いで清潔感に満ち溢れていたように思える。
ご機嫌な様子で髪を乾かしている栗鳥院蘭島を見ていて俺も油断してしまったのだが、鏡越しに俺の召喚獣と何度か目が合っていて不思議そうな表情を浮かべて何やら考え込んでいるようだった。それでも、彼女は髪を乾かすことを止めることはなかった。
「あの、もしかしてずっと覗いてました?」
その体と生活態度からは想像も出来ないくらい素早く最短距離で動いた栗鳥院蘭島は俺の召喚獣を両手で掴みながら話しかけてきた。視界は同期していても声帯は同期していなかったので答えることは出来なかったのだが、召喚獣が俺の意思を無視して逃げようとし始めたので完全にバレてしまったかもしれない。
「覗きとかよくないと思いますよ。でも、魔王さんだったらこの家を壊して中に入ってきててもおかしくないんですよね。それが出来るのにしなかったってことは、魔王さんって普通に見るよりも覗きが好きだって事ですか?」
それは誤解だと答えたいのに声帯を同期していないせいで答えることが出来ない。俺は別に覗き趣味なんてないし出来るんだったら直接見たいと思っている。その誤解を解こうと思って玄関の鍵をどうにかしようと思いながら引き戸を引くと、いつの間にか鍵が開けられていたようで何の抵抗もなく扉が開いてしまった。
「誤解だ。それは誤解だって。俺は別に覗き趣味とかないから。直接見る方が好きなんだって」
同期が完全に切れていない状態で自分を見ながら動くのは大変なのだが、ワンルームのこの家は曲がり角もないのでそこまで苦労はしなかった。ただ、靴を脱ぐのだけは少し苦労してしまった。
「別にみられたからって減るものじゃないんでいいですけど、見るんだったら私みたいな女の子じゃなくてもっと綺麗で若くて細い子にした方がいいんじゃないですか。私みたいにぷにぷにした女の子なんて見ても楽しくないと思いますし」
俺は召喚獣を戻して二度三度瞬きをして自分だけの視界を取り戻した。その時にはすでに顔だけを出した状態で布団に潜り込んでいる状態になっている栗鳥院蘭島ではあったが、今の一瞬で服を着ているとは思えないのでパンツ一枚で布団の中に入っているということだろうか。
「ほら、私って他の子たちと違って引きこもってるじゃないですか。毎日不幸から逃げる生活をしてたらこの家から出られなくなっちゃったんですよ。だから、普通の人より代謝も下がっちゃってるんで普通の量でも太っちゃうんですよ」
栗鳥院蘭島の顔はそこまで太っているようには見えないのだけど、さっき見た姿はおなかの肉が少しだけパンツにのっかっていたように見えた。パンツが隠れてしまうくらいではないので問題もないと思うのだけど、年頃の女の子はそういうことも気にするのかもしれないな。
「君くらいの体型の人は割といると思うけどね。細い人の方が少ないと思うよ」
「少ないってことはいるってことですよね。私の事なんて構わないでそっちに行った方がいいと思いますよ」
「そんなに気にしなくてもいいと思うんだけどな。俺としては君くらいの方がいいと思うけど、君は見られたくないって思ってるの?」
「見られたくないに決まってるじゃないですか。こんなだらしない体なんて見せたくないですよ」
「それくらいは普通だと思うけどね。あと、シャワーを浴びながらおしっこをするのもわりと普通だと思うよ」
俺は上手い事フォローしたつもりだったのだが、これは完全に失敗してしまったようだ。
「馬鹿、最低。魔王さんって本当に魔王なんですね。あっち行ってください」
「あっちってどっちだろう。あ、布団の中に入れってことだね」
何となく俺も服を脱いで布団に潜り込もうとしたのだが、栗鳥院蘭島は俺の予想とは違って全く抵抗せずに受け入れてくれたのだった。
残念なことに玄関には鍵がかけられていて中に入ることは出来なくなっていた。こんな鍵くらいなら簡単に壊すこともできるのだけど、そんなことをしてはいけないと魔王らしくない考えが頭に浮かんでしまうのは俺がまだ人間だったころの事を忘れ切れていないということだろう。
なるべく物音を立てないように様子をうかがっているのだが、窓一つない小屋の中の様子を確認するために偵察用の召喚魔法を使うことにした。あまりマルチタスクが得意ではないので使いたくはなかったけれど、いったい中で何をやっているのかが気になるので確認しないわけにはいかないと思ったからだ。
視界を同期させるために俺は目をつぶっているので何も見えないのだが、目を閉じているにもかかわらず俺の脳内にはさっきまで見ていたものと同じ景色が浮かんできた。視界の同期も問題なく済んだので早速通気口から部屋の中へと侵入してみることにした。
さっきまであの女が寝ていた布団は掛布団がきれいに折りたたまれているが近くにあの女がいる様子はなかった。ワンルームのこの小屋に隠れる場所なんてないだろうと思っていたのだが、部屋の隅に先ほどまではなかったはずのガラス戸が設置されていた。すりガラスになっているので中の様子をはっきりと確認することは出来ないけれど、白っぽい人影のようなものが動いているのが見えるのであの女が中で何かやっているのは間違いないようだ。時々聞こえる鼻歌が止まったと思ったら水が噴き出すような音も聞こえてきたりしていた。
シャワーの音が止まると鼻歌を歌いながらタオルで体を拭いている栗鳥院蘭島がほぼ全裸の状態で出てきたのだが、運のいいことに俺の召喚獣にはまだ気付いていないようだ。のんきに鼻歌を歌いながら髪を拭いているのだけど、この女はダラダラするのが好きなのだと思っていたのにシャワーを浴びるのも好きなんだと思った。考えてみると、ただ寝て過ごしているだけにしては部屋の中も綺麗に片付いていたし匂いもいい匂いで清潔感に満ち溢れていたように思える。
ご機嫌な様子で髪を乾かしている栗鳥院蘭島を見ていて俺も油断してしまったのだが、鏡越しに俺の召喚獣と何度か目が合っていて不思議そうな表情を浮かべて何やら考え込んでいるようだった。それでも、彼女は髪を乾かすことを止めることはなかった。
「あの、もしかしてずっと覗いてました?」
その体と生活態度からは想像も出来ないくらい素早く最短距離で動いた栗鳥院蘭島は俺の召喚獣を両手で掴みながら話しかけてきた。視界は同期していても声帯は同期していなかったので答えることは出来なかったのだが、召喚獣が俺の意思を無視して逃げようとし始めたので完全にバレてしまったかもしれない。
「覗きとかよくないと思いますよ。でも、魔王さんだったらこの家を壊して中に入ってきててもおかしくないんですよね。それが出来るのにしなかったってことは、魔王さんって普通に見るよりも覗きが好きだって事ですか?」
それは誤解だと答えたいのに声帯を同期していないせいで答えることが出来ない。俺は別に覗き趣味なんてないし出来るんだったら直接見たいと思っている。その誤解を解こうと思って玄関の鍵をどうにかしようと思いながら引き戸を引くと、いつの間にか鍵が開けられていたようで何の抵抗もなく扉が開いてしまった。
「誤解だ。それは誤解だって。俺は別に覗き趣味とかないから。直接見る方が好きなんだって」
同期が完全に切れていない状態で自分を見ながら動くのは大変なのだが、ワンルームのこの家は曲がり角もないのでそこまで苦労はしなかった。ただ、靴を脱ぐのだけは少し苦労してしまった。
「別にみられたからって減るものじゃないんでいいですけど、見るんだったら私みたいな女の子じゃなくてもっと綺麗で若くて細い子にした方がいいんじゃないですか。私みたいにぷにぷにした女の子なんて見ても楽しくないと思いますし」
俺は召喚獣を戻して二度三度瞬きをして自分だけの視界を取り戻した。その時にはすでに顔だけを出した状態で布団に潜り込んでいる状態になっている栗鳥院蘭島ではあったが、今の一瞬で服を着ているとは思えないのでパンツ一枚で布団の中に入っているということだろうか。
「ほら、私って他の子たちと違って引きこもってるじゃないですか。毎日不幸から逃げる生活をしてたらこの家から出られなくなっちゃったんですよ。だから、普通の人より代謝も下がっちゃってるんで普通の量でも太っちゃうんですよ」
栗鳥院蘭島の顔はそこまで太っているようには見えないのだけど、さっき見た姿はおなかの肉が少しだけパンツにのっかっていたように見えた。パンツが隠れてしまうくらいではないので問題もないと思うのだけど、年頃の女の子はそういうことも気にするのかもしれないな。
「君くらいの体型の人は割といると思うけどね。細い人の方が少ないと思うよ」
「少ないってことはいるってことですよね。私の事なんて構わないでそっちに行った方がいいと思いますよ」
「そんなに気にしなくてもいいと思うんだけどな。俺としては君くらいの方がいいと思うけど、君は見られたくないって思ってるの?」
「見られたくないに決まってるじゃないですか。こんなだらしない体なんて見せたくないですよ」
「それくらいは普通だと思うけどね。あと、シャワーを浴びながらおしっこをするのもわりと普通だと思うよ」
俺は上手い事フォローしたつもりだったのだが、これは完全に失敗してしまったようだ。
「馬鹿、最低。魔王さんって本当に魔王なんですね。あっち行ってください」
「あっちってどっちだろう。あ、布団の中に入れってことだね」
何となく俺も服を脱いで布団に潜り込もうとしたのだが、栗鳥院蘭島は俺の予想とは違って全く抵抗せずに受け入れてくれたのだった。
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