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第二部
第三話 栗鳥院家の占い師 後編
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最近では一方的にやられることが本当に多かったこともあって今回の障り鬼に対しても負けてしまうのではないかという思いもあったのは事実だ。存在を認識されただけで呪われてしまうような相手にどんな手を使えばいいのかサッパリわからない。何とかなるだろうという軽い気持ちで向かっているのが正しいのか間違っているのか、その答えはこの角を曲がればすぐに出るはずなのだ。
「自分は世界中の誰よりも強いと自負していました。自分の子の能力は誰にも負けない自信しかなかったんです。でも、今日をもってその考えは捨てるべきだという結論に至りました」
目が合っただけで相手を呪うことが出来るという話だったはずなのだが、俺は今の時点で呪われているという自覚はない。体調に変化もないし体も自由に動かすことが出来ている。
「なあ、俺は今の状態でお前に呪われているのか?」
「いえ、自分程度の力であなたを呪うなど出来るはずもありません。そんなことをしても意味はないですし、逆に自分の方が呪いの力に負けてしまうだけです。自分があなたに出来ることなんて何もないのは十分に理解しております」
これはいったいどういうことなんだろう。俺はこいつと戦いに来たはずなのにもかかわらず、こいつは俺と戦う気なんてさらさらないようだ。それはいったいなぜなのだろうか。
「俺とお前が戦って決めることじゃないのか?」
「御冗談を。自分とあなたにどれほどの差があると思っているんですか。自分のような何の力もないような生物は太陽に勝負を挑んでも勝てないことくらい理解してるんですよ」
「俺は太陽なんかじゃないんだが。つまり、俺と戦うことはないって事なんだよな?」
「あなたが自分と戦うというのであれば拒むことはできないと思いますが、そんなことをしたところで何も変わらないと思いますがね」
「でもさ、俺がお前を倒さないとお前のかけた呪いが解けないんだろ。呪いが解けないと栗鳥院蘭島ってやつに会いに行けないから困っちゃうんだよな。だからさ、俺がお前を殺すようなことになっても恨まないでくれな」
「その事についてなんですが、自分のかけた呪いはすでに解かれているはずですよ。自分はあなたの力を感じ取った瞬間にすべてを悟りました。あなたが自分に会いに来た理由も知っていましたし、どうすれば自分が死なずに済むかということも考えていました。それでも、あなたが自分と戦うということであれば抵抗いたしますが、それがいったいどれだけの意味を持つのか疑問でしかないですね」
「なあ、お前って障り鬼なんだろ。この世界でそれなりに強い方なんだろ。そんな強そうな奴が戦う前から諦めちゃっていいのかよ。それに、恥ずかしい話にはなっちゃうんだけどさ、俺ってここ最近ずっと負け続けているんだよ。それも一方的に手も足も出ないような状況で負け続けているわけなのよね。だからさ、お前みたいな強そうな奴と戦って自信を取り戻したいってのもあったんだよ」
「そんな冗談はやめてください。あなたより強いモノがいるなんて信じられませんよ。この世界の神ですらあなたにダメージを与えることが出来るかわからないんですよ。そんなあなたを一方的に叩きのめすようなモノがいるなんて信じられません」
信じる信じないは勝手にすればいいと思うのだけど、ここにきて戦いを拒否されるとは思ってもみなかった。うまなちゃんやイザーちゃんほどではないとは思っていたのだけど、こぶしを重ねることすらなく負けを認めてくるような相手だとは思わなかった。いや、こいつは障り鬼というくらいなんだから俺を油断させて一気に呪い殺す作戦なのかもしれないな。こいつの呪いと俺のどちらが強いのか確かめるためにもその作戦に乗っておいた方がいいかもしれない。さりげなく隙を見せてそのまま相手に主導権を握らせてみよう。
これ以上ないくらい隙を見せている俺に対して障り鬼は一切何もやってこなかった。ただ俺を見ているだけでそれ以上の事は何もしてこなかった。俺が一歩障り鬼に近付こうとすると同じ距離だけ後ろに下がって間をあけてくる。常に一定の距離を保つようにしているのだが、それがいったい何のために行われていることなのか俺には理解できなかった。もしかしたら、単純に俺に近付きたくないだけなのかもしれないな。
いくら待っても攻撃なんてしてこない障り鬼を壁際まで追い込むことはできた。うまく誘導して部屋の角に押し込むことが出来たのだが、そんな状況においても障り鬼は反撃などしてくることはなかった。俺が攻撃したとしてもそのまま全て受け入れてくれるのではないかという想像がついた。
「なあ、本当に戦うつもりはないって事なんだよな?」
「はい、自分はどんなに努力してもあなたに近付くことすらできないのは自覚しております。そんな自分があなたと戦ったところでお互いに何も得るものなんてないでしょう。自分とあなたの力の差が大きすぎてあなたにフラストレーションがたまる恐れすらあると思いますよ」
なんてこった。久しぶりに楽しく戦える相手を見つけられたと思ったのに、こいつは俺と戦うつもりが一切ないみたいだ。こうして隙だらけの背中を見せているというのにもかかわらず、一向に攻撃を仕掛けてこないということからも本気で戦うつもりなんてないんだということが理解出来た。
せめて、栗鳥院蘭島が強敵であることを願うばかりだ。
「自分は世界中の誰よりも強いと自負していました。自分の子の能力は誰にも負けない自信しかなかったんです。でも、今日をもってその考えは捨てるべきだという結論に至りました」
目が合っただけで相手を呪うことが出来るという話だったはずなのだが、俺は今の時点で呪われているという自覚はない。体調に変化もないし体も自由に動かすことが出来ている。
「なあ、俺は今の状態でお前に呪われているのか?」
「いえ、自分程度の力であなたを呪うなど出来るはずもありません。そんなことをしても意味はないですし、逆に自分の方が呪いの力に負けてしまうだけです。自分があなたに出来ることなんて何もないのは十分に理解しております」
これはいったいどういうことなんだろう。俺はこいつと戦いに来たはずなのにもかかわらず、こいつは俺と戦う気なんてさらさらないようだ。それはいったいなぜなのだろうか。
「俺とお前が戦って決めることじゃないのか?」
「御冗談を。自分とあなたにどれほどの差があると思っているんですか。自分のような何の力もないような生物は太陽に勝負を挑んでも勝てないことくらい理解してるんですよ」
「俺は太陽なんかじゃないんだが。つまり、俺と戦うことはないって事なんだよな?」
「あなたが自分と戦うというのであれば拒むことはできないと思いますが、そんなことをしたところで何も変わらないと思いますがね」
「でもさ、俺がお前を倒さないとお前のかけた呪いが解けないんだろ。呪いが解けないと栗鳥院蘭島ってやつに会いに行けないから困っちゃうんだよな。だからさ、俺がお前を殺すようなことになっても恨まないでくれな」
「その事についてなんですが、自分のかけた呪いはすでに解かれているはずですよ。自分はあなたの力を感じ取った瞬間にすべてを悟りました。あなたが自分に会いに来た理由も知っていましたし、どうすれば自分が死なずに済むかということも考えていました。それでも、あなたが自分と戦うということであれば抵抗いたしますが、それがいったいどれだけの意味を持つのか疑問でしかないですね」
「なあ、お前って障り鬼なんだろ。この世界でそれなりに強い方なんだろ。そんな強そうな奴が戦う前から諦めちゃっていいのかよ。それに、恥ずかしい話にはなっちゃうんだけどさ、俺ってここ最近ずっと負け続けているんだよ。それも一方的に手も足も出ないような状況で負け続けているわけなのよね。だからさ、お前みたいな強そうな奴と戦って自信を取り戻したいってのもあったんだよ」
「そんな冗談はやめてください。あなたより強いモノがいるなんて信じられませんよ。この世界の神ですらあなたにダメージを与えることが出来るかわからないんですよ。そんなあなたを一方的に叩きのめすようなモノがいるなんて信じられません」
信じる信じないは勝手にすればいいと思うのだけど、ここにきて戦いを拒否されるとは思ってもみなかった。うまなちゃんやイザーちゃんほどではないとは思っていたのだけど、こぶしを重ねることすらなく負けを認めてくるような相手だとは思わなかった。いや、こいつは障り鬼というくらいなんだから俺を油断させて一気に呪い殺す作戦なのかもしれないな。こいつの呪いと俺のどちらが強いのか確かめるためにもその作戦に乗っておいた方がいいかもしれない。さりげなく隙を見せてそのまま相手に主導権を握らせてみよう。
これ以上ないくらい隙を見せている俺に対して障り鬼は一切何もやってこなかった。ただ俺を見ているだけでそれ以上の事は何もしてこなかった。俺が一歩障り鬼に近付こうとすると同じ距離だけ後ろに下がって間をあけてくる。常に一定の距離を保つようにしているのだが、それがいったい何のために行われていることなのか俺には理解できなかった。もしかしたら、単純に俺に近付きたくないだけなのかもしれないな。
いくら待っても攻撃なんてしてこない障り鬼を壁際まで追い込むことはできた。うまく誘導して部屋の角に押し込むことが出来たのだが、そんな状況においても障り鬼は反撃などしてくることはなかった。俺が攻撃したとしてもそのまま全て受け入れてくれるのではないかという想像がついた。
「なあ、本当に戦うつもりはないって事なんだよな?」
「はい、自分はどんなに努力してもあなたに近付くことすらできないのは自覚しております。そんな自分があなたと戦ったところでお互いに何も得るものなんてないでしょう。自分とあなたの力の差が大きすぎてあなたにフラストレーションがたまる恐れすらあると思いますよ」
なんてこった。久しぶりに楽しく戦える相手を見つけられたと思ったのに、こいつは俺と戦うつもりが一切ないみたいだ。こうして隙だらけの背中を見せているというのにもかかわらず、一向に攻撃を仕掛けてこないということからも本気で戦うつもりなんてないんだということが理解出来た。
せめて、栗鳥院蘭島が強敵であることを願うばかりだ。
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