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高校生編2
林田さんはいつもと違う
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今日は水曜日ではないのだが、僕は林田さんと一緒にお昼休みを過ごしていた。いつもは僕に自分から話しかけてくることなんてほとんどないのだけれど、今日の林田さんは僕が登校してから休み時間の度に話しかけに来ていた。その内容はほとんど天気の事だったり最近の調子についてだったのだが、どれも今じゃないといけないのかと思うような内容だった。
それに、いつものお料理研究会の部室ではなく校舎一階にある休憩用のベンチで食べるというのも何か理由があるのかと勘繰ってしまった。
「昌晃君ってさ、いつも誰かと一緒にお昼を過ごしているみたいだけど、今日は誰とも約束をしていなかったの?」
「まあ、いつも誰かと食べるって約束をしているわけじゃないからね。休み時間になったら誰かが僕に話しかけに来るって感じなのかも」
「そうなんだ。この前は三年生の人達に囲まれてるのを見て、昌晃君って何か悪いことをしたのかなって思ったんだけど、あの人達って前田さんの事を好きな人達でしょ?」
「そうだよ。なんかわからないけど、陽香にお土産を渡してくれって頼まれたんだよ。陽香はそれを見て嬉しそうにはしてたけど、沙緒莉姉さんと真弓にもあげてたよ」
「へえ、それはちょっと意外かも。前田さんってそういうの貰っても誰かにあげるとかしなさそうに見えるんだけどな」
「全部似たような小さい人形だったからね。同じ店で買ったのかなって思うくらい似てたんだけど、そういうのって今世界中で流行ってたりするのかな」
「私はそういうのに敏感じゃないからわからないけど、もしかしたらみんなで似たようなのを買おうって話し合ってたのかもしれないよ。仲が良さそうに見えるからそれくらいしてそうだしね。今日の昌晃君のお弁当も見た目は美味しそうだね。今日は誰が作ったの?」
「今日は誰だったんだろう。三人とも起きていたから誰が作ったかわからないけど、順番的に考えると真弓かな?」
「それでね、今日は私が作ったお弁当と交換してみないかな?」
「交換って、僕のお弁当はほとんど味がしないんだけど、そんなの食べても美味しくないと思うよ」
「えっと、私が昌晃君のお弁当を食べたいんじゃなくて、昌晃君に私のお弁当を食べてもらいたいの。食べてくれるんだったら交換じゃなくてもいいんだけど、お弁当を二つもなんて食べられないよね?」
「食べようと思えば食べられるかもしれないけど、そうしたら桃ちゃんの食べる分が無くなっちゃうんじゃない?」
「それなら大丈夫だよ。私は普段そんなに食べてないし、水分だけとっておけば大丈夫だからね」
僕は林田さんのお弁当を全部食べるのではなく少しだけ貰うことにしたのだけど、僕が箸を伸ばそうとするとその手を止められて、林田さんが僕に直接食べさせてくれたのだ。今まで味がほとんどしないおかずを食べていたという事もあったのだけれど、林田さんのお弁当のおかずはどれも美味しくて、ご飯を何杯でも食べられるような気がしていた。
実際のところ、僕は林田さんの食べさせてくれた唐揚げでご飯をほとんど食べてしまったのだが、それを見て林田さんは少し驚きつつも嬉しそうに笑っていた。
「いや、桃ちゃんのから揚げが美味しかったからご飯が進んじゃったよ。僕のお弁当のから揚げとは全然違うんだもん。同じ料理なのかって疑問に思っちゃうくらい違ったよ」
「そうなんだ。でも、まだたくさんあるからそんなにご飯をたくさん食べなくても大丈夫だよ。それに、こうしていると恋人同士みたいで嬉しいな」
確かに、こんな風にご飯を食べさせてもらっているのは傍目から見れば付き合っているカップルにしか見えないだろう。でも、僕と林田さんはそんな関係ではないのだ。付き合うとか付き合わないとかそういう会話はしたことも無いし、興味自体もないのかなとは思っているのだけれど、林田さんと二人っきりでお料理研究会の部室でやってきた事を思い出すと、それは恋人同士でしかやらない事なんじゃないかと思ってしまった。
「あ、もしかして、今日も膝の上に乗った方が良かったかな?」
「いや、そうじゃないんだけど、こういうのも楽しいなって思ってね。今日はどうしてここにしたの?」
「ここだったら良く見えるかなって思ったからだよ」
「確かに、ここのベンチに座ったことは無かったけど、中庭の様子が見えていいかもね」
「それもあるんだけどさ、ここって、教室を出ると良く見える場所なんだよね。昌晃君も自然とここを目にしてたと思うよ」
「そう言われてみればそうだったかも。今まで気にしたことも無かったけど、自然とこの場所は目に入ってた気がするよ」
「だからこそここにしたんだよ。ここだったら一組の教室を出ればすぐに見えるし、三年生の教室からもちゃんと見えるんだからね。だから、ここにしたんだよ」
僕は相変わらず林田さんの食べさせてくれるおかずを口に入れていたのだけれど、上を見上げてみるとたくさんの人が僕たちを見ているように思えた。その中に知っている顔もいくつか見えた気がするのだが、誰とも目が合うことは無かった。
僕がお弁当を食べ終えると、林田さんはすぐにお弁当を片付けて立ち上がっていた。
「さあ、そろそろ教室に戻って次の授業の準備をしようか」
僕が見た林田さんの表情は今まで見たことが無いくらい嬉しそうにしていた。何かを成し遂げたような清々しさすら感じてしまっていた。
それに、いつものお料理研究会の部室ではなく校舎一階にある休憩用のベンチで食べるというのも何か理由があるのかと勘繰ってしまった。
「昌晃君ってさ、いつも誰かと一緒にお昼を過ごしているみたいだけど、今日は誰とも約束をしていなかったの?」
「まあ、いつも誰かと食べるって約束をしているわけじゃないからね。休み時間になったら誰かが僕に話しかけに来るって感じなのかも」
「そうなんだ。この前は三年生の人達に囲まれてるのを見て、昌晃君って何か悪いことをしたのかなって思ったんだけど、あの人達って前田さんの事を好きな人達でしょ?」
「そうだよ。なんかわからないけど、陽香にお土産を渡してくれって頼まれたんだよ。陽香はそれを見て嬉しそうにはしてたけど、沙緒莉姉さんと真弓にもあげてたよ」
「へえ、それはちょっと意外かも。前田さんってそういうの貰っても誰かにあげるとかしなさそうに見えるんだけどな」
「全部似たような小さい人形だったからね。同じ店で買ったのかなって思うくらい似てたんだけど、そういうのって今世界中で流行ってたりするのかな」
「私はそういうのに敏感じゃないからわからないけど、もしかしたらみんなで似たようなのを買おうって話し合ってたのかもしれないよ。仲が良さそうに見えるからそれくらいしてそうだしね。今日の昌晃君のお弁当も見た目は美味しそうだね。今日は誰が作ったの?」
「今日は誰だったんだろう。三人とも起きていたから誰が作ったかわからないけど、順番的に考えると真弓かな?」
「それでね、今日は私が作ったお弁当と交換してみないかな?」
「交換って、僕のお弁当はほとんど味がしないんだけど、そんなの食べても美味しくないと思うよ」
「えっと、私が昌晃君のお弁当を食べたいんじゃなくて、昌晃君に私のお弁当を食べてもらいたいの。食べてくれるんだったら交換じゃなくてもいいんだけど、お弁当を二つもなんて食べられないよね?」
「食べようと思えば食べられるかもしれないけど、そうしたら桃ちゃんの食べる分が無くなっちゃうんじゃない?」
「それなら大丈夫だよ。私は普段そんなに食べてないし、水分だけとっておけば大丈夫だからね」
僕は林田さんのお弁当を全部食べるのではなく少しだけ貰うことにしたのだけど、僕が箸を伸ばそうとするとその手を止められて、林田さんが僕に直接食べさせてくれたのだ。今まで味がほとんどしないおかずを食べていたという事もあったのだけれど、林田さんのお弁当のおかずはどれも美味しくて、ご飯を何杯でも食べられるような気がしていた。
実際のところ、僕は林田さんの食べさせてくれた唐揚げでご飯をほとんど食べてしまったのだが、それを見て林田さんは少し驚きつつも嬉しそうに笑っていた。
「いや、桃ちゃんのから揚げが美味しかったからご飯が進んじゃったよ。僕のお弁当のから揚げとは全然違うんだもん。同じ料理なのかって疑問に思っちゃうくらい違ったよ」
「そうなんだ。でも、まだたくさんあるからそんなにご飯をたくさん食べなくても大丈夫だよ。それに、こうしていると恋人同士みたいで嬉しいな」
確かに、こんな風にご飯を食べさせてもらっているのは傍目から見れば付き合っているカップルにしか見えないだろう。でも、僕と林田さんはそんな関係ではないのだ。付き合うとか付き合わないとかそういう会話はしたことも無いし、興味自体もないのかなとは思っているのだけれど、林田さんと二人っきりでお料理研究会の部室でやってきた事を思い出すと、それは恋人同士でしかやらない事なんじゃないかと思ってしまった。
「あ、もしかして、今日も膝の上に乗った方が良かったかな?」
「いや、そうじゃないんだけど、こういうのも楽しいなって思ってね。今日はどうしてここにしたの?」
「ここだったら良く見えるかなって思ったからだよ」
「確かに、ここのベンチに座ったことは無かったけど、中庭の様子が見えていいかもね」
「それもあるんだけどさ、ここって、教室を出ると良く見える場所なんだよね。昌晃君も自然とここを目にしてたと思うよ」
「そう言われてみればそうだったかも。今まで気にしたことも無かったけど、自然とこの場所は目に入ってた気がするよ」
「だからこそここにしたんだよ。ここだったら一組の教室を出ればすぐに見えるし、三年生の教室からもちゃんと見えるんだからね。だから、ここにしたんだよ」
僕は相変わらず林田さんの食べさせてくれるおかずを口に入れていたのだけれど、上を見上げてみるとたくさんの人が僕たちを見ているように思えた。その中に知っている顔もいくつか見えた気がするのだが、誰とも目が合うことは無かった。
僕がお弁当を食べ終えると、林田さんはすぐにお弁当を片付けて立ち上がっていた。
「さあ、そろそろ教室に戻って次の授業の準備をしようか」
僕が見た林田さんの表情は今まで見たことが無いくらい嬉しそうにしていた。何かを成し遂げたような清々しさすら感じてしまっていた。
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