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第十五話
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今日も部活に愛莉ちゃんが遊びに来ているのだけれど、いつもと違って信寛君と何か真剣な話をしているようだった。私は何の話をしているのか気になってはいたのだけれど、今は本番に向けて衣装のイメージを具体化させないといけないのだ。とても気になるけれど、今は衣装に集中しないといけない。本当に気になるのだけれど、今は余計な事に気をとられてしまうと本番までに間に合わなくなってしまう。それでも、私は信寛君と愛莉ちゃんが何を話しているのか気になって仕方がなかった。
「さっきから泉先輩の手が止まってますけど、奥谷先輩と山口先輩が気になるんですか?」
「いや、そんな事はないけど、そういう朋花ちゃんの方こそ気にしてるんじゃないの?」
「え、私ですか?」
「そう、さっきからチラチラと向こうを見ている気がするから気にしているのかなって思ってね」
「ああ、それでしたら、泉先輩がびっくりするくらい向こうをチラチラ見ているからそれが気になってみてただけです。でも、奥谷先輩も山口先輩も泉先輩と幼馴染なんだから気にしてるくらいなら何を話しているか聞いてくればいいんじゃないですか?」
「いや、そうは言ってもさ、今はこの衣装を最終的にどうするか決めないといけないからさ。あんまりのんびりしてたら本番までに間に合わないと思うし、そうなったら私が一番後悔してしまいそうだしね」
「そうは言ってますけど、今の泉先輩って奥谷先輩たちが何を話しているのか気になって手が止まってますし、後で何の話をしていたのか聞いた方が後悔しちゃうんじゃないですか?」
「そんなことは無いよ。私は信寛君の事も愛莉ちゃんの事も信用しているからね。二人で私に言えないようなやましい事をしているんじゃないかなって思ったりはしてないから。私はあの二人を本当に信用しているんだからね」
「その言い方って、完全に信用していない人のいい方ですよね。信用しているんだったらわざわざそんなこと言わないと思いますし、そんなに気になるんなら私が聞いてきましょうか?」
「そ、そう。朋花ちゃんが気になるって言うんなら聞いてきたらいいんじゃないかな。私はそこまで気になっているわけじゃないけど、朋花ちゃんがそういうなら聞いてきた方がいいと思うかな」
「ん、じゃあ、聞いてこなくてもいいです。私は別に先輩たちが何をしてようが気にしてないので。さあ、さっさと衣装の続きをやりましょうね。ほら、泉先輩はもっと手を動かしてくださいよ。止まってちゃ良いアイデアも浮かんできませんよ」
「ごめんなさい」
「はい?」
「ごめんなさい。やっぱりあの二人が何の話をしているのか気になっちゃいます。でも、直接聞きに行くのは少し怖いです。私の事で何か言ってたら二人にも悪いし」
「ああ、もう。わかりました。聞いてきますよ。私に人見知りしなくなったと思ったらそうやって面倒くさい感じになるっていったいどういう変化なんですかね。奥谷先輩に対してもそんな感じでやってたらいつか愛想つかされちゃうと思うのでやめた方がいいと思いますよ」
「大丈夫。信寛君に対してはめんどくさい感じにならないように気を付けているからね」
「はあ、出来るなら私に対してもそういうのじゃなく素直な感じでいてくれるとありがたいんですけどね。でも、私だけに見せてくれる泉先輩のそういう面って、嫌いではないですよ」
優しい朋花ちゃんはイヤだイヤだと言いながらも私のために信寛君たちのもとへと聞きに行ってくれた。どんな話をしているのか気になってはいたけれど、私にとっていい話じゃなかったらどうしよという考えも少しは浮かんでいた。愛莉ちゃんも信寛君も私にとって大切な人であることには変わりないんだけど、その二人がもしも私の知らないところでよくない事をしていたとしたら、私はきっとそれに耐えることは出来ないと思う。
私は信寛君とちゃんと正式に付き合うようになってから、人当たりが良くなったと友達に褒められることが多くなってはいたけれど、年齢を問わずに初対面の人は苦手だったりするし、年上の男性は恭也さんであってもいまだに緊張してしまうのだ。
そんな事を考えていると、ちょっと面倒くさそうな顔をしている朋花ちゃんが戻ってきた。
「別に悪い話ではないと思うんですけど、いい話でもないんですよね。私が聞いた限りでは、奥谷先輩が悩んでるのって泉先輩の事です。と言っても、直接泉先輩がどうとかではなくて、奥谷先輩の妹さんが泉先輩と話をさせろって言ってきかないみたいですよ。私のお兄ちゃんをとるな。みたいな感じなんですかね?」
「いや、美春ちゃんはそんな子じゃないと思うけど、もしかしたら、信寛君の友達ならよかったけど恋人は許さないみたいな感じなのかな。どうしよう。前に会った時には普通にしてたのに」
「あの、泉先輩の普通って普通ではないような気がするんですけど、仲良く楽しく話とかしてました?」
「そこまで深い話はしていないと思うけど、それでも仲良くなれたと思うよ。何の問題もなかったと思うし、嫌われるようなことはしてなかったと思うんだけどな」
「こればっかりは相手の受け取り方次第ってところもありますからね。泉先輩がいい人だっていることはみんな知ってることですけど、泉先輩を知らない人が必ずそう思うってわけでもないですからね。ほら、私が軽く聞いてきたことでもっと知りたくなってますよね?」
「うん、もっと知りたくなってる」
「じゃあ、どうするんですか?」
「もう一回聞いてきてもらっても良いかな?」
「そうじゃないでしょ。今度は泉先輩が自分で聞きに行くんですよ。それくらいしなきゃ奥谷先輩の妹さんと仲良くなれないですよ」
「そうは言ってもさ、直接聞くのってやっぱり怖いよ。その事で私の事を嫌いになるかもしれないし、あんまりコソコソ嗅ぎまわるような事をするのって良くないと思うんだよね。」
「ちょっと待ってください。それを私にさせているのはどこのどなたですか?」
「えっと、ここにいる私ですか?」
「私ですかじゃないですよ。泉先輩ですよ。もう、私だって先輩たちが二人で話しているところに行くのって平気なわけじゃなんですからね。泉先輩が聞いてこいって命令するから仕方なくイヤイヤ行ってるだけですからね。そうれじゃなきゃわざわざ先輩たちの話を聞きにいったりはしませんよ。って、そんな泣きそうな顔はやめてください。他の人が見たら私が泉先輩をいじめているみたいに見えちゃうじゃないですか。そんな事は絶対にしないんでその顔はやめてくださいよ」
私は無意識のうちに泣きそうな顔になっていたのかもしれない。奥谷君と愛莉ちゃんんが話している内容が気になるというのもあるし、美春ちゃんが私と話をしたいっていうのも気になっているし、二人の話を私の代わりに聞きに行ってくれた朋花ちゃんの事を思うといくら感謝してもし足りないと思って自分の情けなさに泣きそうになっていたという複雑な感情が私の中で渦巻いていたらしい。自分では全く気が付かなかったけど、私は意外と泣き虫なのかもしれないな。
そんな事を考えていると、信寛君が私達の方へと歩いてきた。もしかしたら、信寛君の周りをウロチョロさせたことで気を悪くさせてしまったのかもしれない。そう思って謝ろうとしたのだけれど、私が言葉を発する前に信寛君が私達に話しかけてきた。
「あのさ、ちょっとだけ泉に話があるんだけど聞いてもらってもいいかな?」
「え、私は大丈夫だけど」
「じゃあ、私は先輩たちの邪魔にならないようにちょっと離れてますね」
「いや、福山も聞いてくれてかまわない。むしろ、いろんな奴の意見を聞きたいんで聞いてもらってもいいかな?」
「私で役に立てるかはわからないですけど、泉先輩よりは役に立つかもしれませんね」
「ある意味そうかもしれないな」
全く、二人して私に意地悪したいのかしら?
「それでね、話ってのは俺の妹の事なんだけどさ。先週末くらいに俺と泉が付き合ってる事を知ったんだよね。それで、泉にどうしても言いたいことがあるから呼べってうるさいんだよ。俺はさ、泉を呼ぶのは構わないんだけど、泉のご両親が男の家に呼ぶのはどう思うのかなって考えると気軽に呼んだりできないんだよね。俺だって、泉には家に遊びに来て欲しいって思うんだけどさ、やっぱりケジメって必要だと思うんだよね」
「何言ってんですか。そんなの後から言ったって大丈夫でしょうが。先輩たちって高校生になってから知り合ったカップルとは違って幼稚園からの付き合いもあるんでしょ。そんな古くからの友人が恋人になったからって家に呼びづらいって、普通は逆ですよ。恋人よりも異性の友達の方が家に呼びづらいでしょ。友達だって言って家に連れてきたのが異性の友人だったとして、家族の人は本当にそれが友達なのかなって思うと思いますよ。むしろ、恋人じゃない人を家に連れ込むのって何かあるんじゃないかって考えるんじゃないですかね。それに、そんなに気にするんだったらちゃんと理由を説明して来てもらえばいいじゃないですか。奥谷先輩って泉先輩のご両親が怖かったりするんですか?」
「いや、泉のお父さんもお母さんもいい人だよ。怖いところなんて何もないし、今だってジョギングしている時に挨拶したりもしているからさ。もちろん、その時に泉と付き合うことになったって報告もしたけどさ」
「ちょっと待って、いつの間にそんな事を言ったの?」
「いつの間にって、付き合った後に一番最初に会った時かな」
「それっていつ?」
「付き合った二日後だったと思う」
「あ、それでか。何でもない普通の日の晩御飯にステーキとケーキが出たから何かおかしいなって思ってたんだけど、それは信寛君がパパとママに報告したからだったんだね。私はまだ行ってなかったんだけど、これじゃ私が信寛君の事を隠しているみたいに思われちゃうじゃない」
「そうかもしれないですけど、今は泉先輩の話はどうでもいいんで、奥谷先輩の妹さんの話を聞きましょうよ」
「ちょっとは私を慰めてよ」
「ああ、はいはい。わかりました分かりました。泉先輩は悪くないですからね。悪いのは奥谷先輩ですからね」
「いや、信寛君は悪くないと思う。私の事を思ってるからこそ報告したわけだし、それを責めるのはおかしいと思う」
「ああ、もう。なんで私に対してだけそんなに厳しいんですか。そんなに厳しくするんならもう泉先輩を助けないですからね」
「ごめんなさい。調子に乗り過ぎました」
「二人の話は終わったかな?」
「あ、はい。すいませんでした。奥谷先輩の話を泉先輩に聞かせてあげてください」
「そうそう、俺の妹なんだけど、妹を連れて泉の家に行くことも考えたんだけどさ、日中は出歩けないから日没後になるわけなんだけど、そんな時間に遊びに行くのって非常識だろ。それもさ、暗いうちに帰るってのも何かと物騒だしな。それでどうしたらいいかって悩んでて、山口に相談してみたら、『普通に家に誘えよ』って言われちゃった」
「まあ、それが一番の解決策であると同時に唯一の解決策でもあるんじゃないですかね」
「そうは言ってもさ、泉が家に遊びに来るとしても平日だったら夜に帰らせることになるわけだし、それはそれで失礼なんじゃないかって思うんだよね」
「あ、それなら大丈夫だよ。パパもママも信寛君だったら信用しているし、美春ちゃんの事も気にしているみたいだからいつでも言っていいよって返事が返ってきたよ」
「返事?」
「うん、信寛君の家に遊びに行ってもいいかどうかメールしてみたんだけど、遊びに行くのは私の自由にしていいってさ。その代わり、ちゃんと報告することは報告しようねって返ってきちゃった。どうしよう」
「良かったじゃないですか。これで奥谷先輩の妹さんの件は解決出来ますね」
「ああ、そうだな。山口の言う通りさっさと泉に話せばよかったな」
二人ともそう言って笑ってはいるけれど、私は家に帰ってからパパとママになんて説明したらいいんだろう。普通に付き合っているって話せばいいだけの話ではあるけれど、今更なんて報告すればいいのか見当もつかないかった。
とりあえず、今日は美春ちゃんの話を聞きに行ってみることにしよう。
思いのほか衣装作りは進まなかったけれど、きっと明日から私は本気を出す。
美春ちゃんの話次第では、明後日から本気を出すぞ。
「さっきから泉先輩の手が止まってますけど、奥谷先輩と山口先輩が気になるんですか?」
「いや、そんな事はないけど、そういう朋花ちゃんの方こそ気にしてるんじゃないの?」
「え、私ですか?」
「そう、さっきからチラチラと向こうを見ている気がするから気にしているのかなって思ってね」
「ああ、それでしたら、泉先輩がびっくりするくらい向こうをチラチラ見ているからそれが気になってみてただけです。でも、奥谷先輩も山口先輩も泉先輩と幼馴染なんだから気にしてるくらいなら何を話しているか聞いてくればいいんじゃないですか?」
「いや、そうは言ってもさ、今はこの衣装を最終的にどうするか決めないといけないからさ。あんまりのんびりしてたら本番までに間に合わないと思うし、そうなったら私が一番後悔してしまいそうだしね」
「そうは言ってますけど、今の泉先輩って奥谷先輩たちが何を話しているのか気になって手が止まってますし、後で何の話をしていたのか聞いた方が後悔しちゃうんじゃないですか?」
「そんなことは無いよ。私は信寛君の事も愛莉ちゃんの事も信用しているからね。二人で私に言えないようなやましい事をしているんじゃないかなって思ったりはしてないから。私はあの二人を本当に信用しているんだからね」
「その言い方って、完全に信用していない人のいい方ですよね。信用しているんだったらわざわざそんなこと言わないと思いますし、そんなに気になるんなら私が聞いてきましょうか?」
「そ、そう。朋花ちゃんが気になるって言うんなら聞いてきたらいいんじゃないかな。私はそこまで気になっているわけじゃないけど、朋花ちゃんがそういうなら聞いてきた方がいいと思うかな」
「ん、じゃあ、聞いてこなくてもいいです。私は別に先輩たちが何をしてようが気にしてないので。さあ、さっさと衣装の続きをやりましょうね。ほら、泉先輩はもっと手を動かしてくださいよ。止まってちゃ良いアイデアも浮かんできませんよ」
「ごめんなさい」
「はい?」
「ごめんなさい。やっぱりあの二人が何の話をしているのか気になっちゃいます。でも、直接聞きに行くのは少し怖いです。私の事で何か言ってたら二人にも悪いし」
「ああ、もう。わかりました。聞いてきますよ。私に人見知りしなくなったと思ったらそうやって面倒くさい感じになるっていったいどういう変化なんですかね。奥谷先輩に対してもそんな感じでやってたらいつか愛想つかされちゃうと思うのでやめた方がいいと思いますよ」
「大丈夫。信寛君に対してはめんどくさい感じにならないように気を付けているからね」
「はあ、出来るなら私に対してもそういうのじゃなく素直な感じでいてくれるとありがたいんですけどね。でも、私だけに見せてくれる泉先輩のそういう面って、嫌いではないですよ」
優しい朋花ちゃんはイヤだイヤだと言いながらも私のために信寛君たちのもとへと聞きに行ってくれた。どんな話をしているのか気になってはいたけれど、私にとっていい話じゃなかったらどうしよという考えも少しは浮かんでいた。愛莉ちゃんも信寛君も私にとって大切な人であることには変わりないんだけど、その二人がもしも私の知らないところでよくない事をしていたとしたら、私はきっとそれに耐えることは出来ないと思う。
私は信寛君とちゃんと正式に付き合うようになってから、人当たりが良くなったと友達に褒められることが多くなってはいたけれど、年齢を問わずに初対面の人は苦手だったりするし、年上の男性は恭也さんであってもいまだに緊張してしまうのだ。
そんな事を考えていると、ちょっと面倒くさそうな顔をしている朋花ちゃんが戻ってきた。
「別に悪い話ではないと思うんですけど、いい話でもないんですよね。私が聞いた限りでは、奥谷先輩が悩んでるのって泉先輩の事です。と言っても、直接泉先輩がどうとかではなくて、奥谷先輩の妹さんが泉先輩と話をさせろって言ってきかないみたいですよ。私のお兄ちゃんをとるな。みたいな感じなんですかね?」
「いや、美春ちゃんはそんな子じゃないと思うけど、もしかしたら、信寛君の友達ならよかったけど恋人は許さないみたいな感じなのかな。どうしよう。前に会った時には普通にしてたのに」
「あの、泉先輩の普通って普通ではないような気がするんですけど、仲良く楽しく話とかしてました?」
「そこまで深い話はしていないと思うけど、それでも仲良くなれたと思うよ。何の問題もなかったと思うし、嫌われるようなことはしてなかったと思うんだけどな」
「こればっかりは相手の受け取り方次第ってところもありますからね。泉先輩がいい人だっていることはみんな知ってることですけど、泉先輩を知らない人が必ずそう思うってわけでもないですからね。ほら、私が軽く聞いてきたことでもっと知りたくなってますよね?」
「うん、もっと知りたくなってる」
「じゃあ、どうするんですか?」
「もう一回聞いてきてもらっても良いかな?」
「そうじゃないでしょ。今度は泉先輩が自分で聞きに行くんですよ。それくらいしなきゃ奥谷先輩の妹さんと仲良くなれないですよ」
「そうは言ってもさ、直接聞くのってやっぱり怖いよ。その事で私の事を嫌いになるかもしれないし、あんまりコソコソ嗅ぎまわるような事をするのって良くないと思うんだよね。」
「ちょっと待ってください。それを私にさせているのはどこのどなたですか?」
「えっと、ここにいる私ですか?」
「私ですかじゃないですよ。泉先輩ですよ。もう、私だって先輩たちが二人で話しているところに行くのって平気なわけじゃなんですからね。泉先輩が聞いてこいって命令するから仕方なくイヤイヤ行ってるだけですからね。そうれじゃなきゃわざわざ先輩たちの話を聞きにいったりはしませんよ。って、そんな泣きそうな顔はやめてください。他の人が見たら私が泉先輩をいじめているみたいに見えちゃうじゃないですか。そんな事は絶対にしないんでその顔はやめてくださいよ」
私は無意識のうちに泣きそうな顔になっていたのかもしれない。奥谷君と愛莉ちゃんんが話している内容が気になるというのもあるし、美春ちゃんが私と話をしたいっていうのも気になっているし、二人の話を私の代わりに聞きに行ってくれた朋花ちゃんの事を思うといくら感謝してもし足りないと思って自分の情けなさに泣きそうになっていたという複雑な感情が私の中で渦巻いていたらしい。自分では全く気が付かなかったけど、私は意外と泣き虫なのかもしれないな。
そんな事を考えていると、信寛君が私達の方へと歩いてきた。もしかしたら、信寛君の周りをウロチョロさせたことで気を悪くさせてしまったのかもしれない。そう思って謝ろうとしたのだけれど、私が言葉を発する前に信寛君が私達に話しかけてきた。
「あのさ、ちょっとだけ泉に話があるんだけど聞いてもらってもいいかな?」
「え、私は大丈夫だけど」
「じゃあ、私は先輩たちの邪魔にならないようにちょっと離れてますね」
「いや、福山も聞いてくれてかまわない。むしろ、いろんな奴の意見を聞きたいんで聞いてもらってもいいかな?」
「私で役に立てるかはわからないですけど、泉先輩よりは役に立つかもしれませんね」
「ある意味そうかもしれないな」
全く、二人して私に意地悪したいのかしら?
「それでね、話ってのは俺の妹の事なんだけどさ。先週末くらいに俺と泉が付き合ってる事を知ったんだよね。それで、泉にどうしても言いたいことがあるから呼べってうるさいんだよ。俺はさ、泉を呼ぶのは構わないんだけど、泉のご両親が男の家に呼ぶのはどう思うのかなって考えると気軽に呼んだりできないんだよね。俺だって、泉には家に遊びに来て欲しいって思うんだけどさ、やっぱりケジメって必要だと思うんだよね」
「何言ってんですか。そんなの後から言ったって大丈夫でしょうが。先輩たちって高校生になってから知り合ったカップルとは違って幼稚園からの付き合いもあるんでしょ。そんな古くからの友人が恋人になったからって家に呼びづらいって、普通は逆ですよ。恋人よりも異性の友達の方が家に呼びづらいでしょ。友達だって言って家に連れてきたのが異性の友人だったとして、家族の人は本当にそれが友達なのかなって思うと思いますよ。むしろ、恋人じゃない人を家に連れ込むのって何かあるんじゃないかって考えるんじゃないですかね。それに、そんなに気にするんだったらちゃんと理由を説明して来てもらえばいいじゃないですか。奥谷先輩って泉先輩のご両親が怖かったりするんですか?」
「いや、泉のお父さんもお母さんもいい人だよ。怖いところなんて何もないし、今だってジョギングしている時に挨拶したりもしているからさ。もちろん、その時に泉と付き合うことになったって報告もしたけどさ」
「ちょっと待って、いつの間にそんな事を言ったの?」
「いつの間にって、付き合った後に一番最初に会った時かな」
「それっていつ?」
「付き合った二日後だったと思う」
「あ、それでか。何でもない普通の日の晩御飯にステーキとケーキが出たから何かおかしいなって思ってたんだけど、それは信寛君がパパとママに報告したからだったんだね。私はまだ行ってなかったんだけど、これじゃ私が信寛君の事を隠しているみたいに思われちゃうじゃない」
「そうかもしれないですけど、今は泉先輩の話はどうでもいいんで、奥谷先輩の妹さんの話を聞きましょうよ」
「ちょっとは私を慰めてよ」
「ああ、はいはい。わかりました分かりました。泉先輩は悪くないですからね。悪いのは奥谷先輩ですからね」
「いや、信寛君は悪くないと思う。私の事を思ってるからこそ報告したわけだし、それを責めるのはおかしいと思う」
「ああ、もう。なんで私に対してだけそんなに厳しいんですか。そんなに厳しくするんならもう泉先輩を助けないですからね」
「ごめんなさい。調子に乗り過ぎました」
「二人の話は終わったかな?」
「あ、はい。すいませんでした。奥谷先輩の話を泉先輩に聞かせてあげてください」
「そうそう、俺の妹なんだけど、妹を連れて泉の家に行くことも考えたんだけどさ、日中は出歩けないから日没後になるわけなんだけど、そんな時間に遊びに行くのって非常識だろ。それもさ、暗いうちに帰るってのも何かと物騒だしな。それでどうしたらいいかって悩んでて、山口に相談してみたら、『普通に家に誘えよ』って言われちゃった」
「まあ、それが一番の解決策であると同時に唯一の解決策でもあるんじゃないですかね」
「そうは言ってもさ、泉が家に遊びに来るとしても平日だったら夜に帰らせることになるわけだし、それはそれで失礼なんじゃないかって思うんだよね」
「あ、それなら大丈夫だよ。パパもママも信寛君だったら信用しているし、美春ちゃんの事も気にしているみたいだからいつでも言っていいよって返事が返ってきたよ」
「返事?」
「うん、信寛君の家に遊びに行ってもいいかどうかメールしてみたんだけど、遊びに行くのは私の自由にしていいってさ。その代わり、ちゃんと報告することは報告しようねって返ってきちゃった。どうしよう」
「良かったじゃないですか。これで奥谷先輩の妹さんの件は解決出来ますね」
「ああ、そうだな。山口の言う通りさっさと泉に話せばよかったな」
二人ともそう言って笑ってはいるけれど、私は家に帰ってからパパとママになんて説明したらいいんだろう。普通に付き合っているって話せばいいだけの話ではあるけれど、今更なんて報告すればいいのか見当もつかないかった。
とりあえず、今日は美春ちゃんの話を聞きに行ってみることにしよう。
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