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アイドル編
第三話 ヒナミと劇場
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実際に目にした劇場は建物自体は大きいのにステージはそこまで大きくないように思えた。少なくとも、ステージ上二十人が同時に立ってダンスをするのは無理なように思えたのだ。
『ここであの踊りを踊ってたんですね。私もちょっと立ってみてもいいですか?』
「他の人の邪魔にならないんだったらいいんじゃないかな。他の人は無意識にでもヒナミに触れちゃうと悪寒が走っちゃうからね」
『あんまり驚かせないようにしないとですね。それにしても、ここに立って見ると真白先生の事が小さく見えますよ。私より大きい真白先生をこうやって見下ろすことが出来るのは面白いですね』
「そう言うもんなのかね。そう言えば、ヒナミって宙に浮いたりできないの?」
『そんなこと出来ないですよ。中には空を飛んでる幽霊もいますけど、私は真白先生の側からあまり離れることが出来ないですからね。空を飛べるようになっても近くを漂うくらいだと思います。この劇場にもそう言った人はたくさんいるみたいですけど』
「たくさんいるのか。喋ってもらえないと俺にはわからないからな。その中には何か悪意をもった存在っていそうかな?」
悪意を持った幽霊は近付いただけでわかるものなのだ。近付いただけで敵意をむき出しにして襲い掛かって来るんだよね。でも、真白先生が近くにいると怯えた子犬みたいに吠えて威嚇するだけで危害は加えてこないんだけど、真白先生が言うには鵜崎の力が抑止力になっているんだって。私も幽霊なんだけど、真白先生の事を怖いって思ったことないんだけどな。
『真白先生に対してもここにいる人達に対しても悪意を持ってる幽霊はいないみたいですよ。ただ賑やかな場所に惹かれてやって来てるって感じみたいですね』
「賑やかな場所だと他にも色々とありそうなのにな。なんでここにだけ六人も集まってるんだろう」
『真白先生って本当に幽霊は見えないんですね。ここに居るのって舞台にあがってた六人だけじゃないですよ。今見える範囲だけでも二十人くらいいますし、他の部屋にも何人かいますから。少なく見積もっても三十人以上入ると思いますよ』
「そんなにいるのか。一人ひとり説得するのは難しそうだな。みんな何か目的があったりするのかな?」
ここにいる人達の目的を聞こうにも私と目を合わせてくれないんで会話が出来ない。向こうもこっちの存在には気付いていると思うのだけれど、幽霊のくせに恥ずかしがり屋な感じで私の質問を聞こうともしないのだ。
会話さえ出来れば何か解決の糸口が見つかるかもしれないのだけれど、それすらできないのではどうすることも出来ない。こんなに近くにいて話しかけてるのにみんな私の事なんて見ないでずっと舞台を見ているのだ。
『ダメです。私の事を無視してみんなずっと舞台を見てるんですよ。会話をしようにも私の事なんて全く気にしてない様子です』
「ここに居る二十人くらいの幽霊がヒナミの事を無視してステージを見てるって事か。ちなみになんだけど、ヒナミがステージに立った時はその幽霊たちはどんな感じだった?」
『なんかじっと見られてるって感じでした。今はみんな一点を見つめてる感じですけど、私が舞台に立つとみんな私の事を目で追ってるって感じでしたよ』
「そう言うことか。じゃあ、後でヒナミにはアイドルたちと混じってステージで踊ってもらう事にしようかな。あれだけ見てたんだからダンスは大丈夫でしょ?」
『大丈夫じゃないですよ。見てるだけで踊れるようになることなんて無いですから』
舞台に立って真白先生を見下ろすのは少し気持ちいいなって思えたけれど、その舞台でみんなに見られながら踊る事なんて私には出来そうもない。踊りを覚えたところで間違えてしまいそうだし、失敗してしまった時になんて言われるかと思うと怖くて足が震えてしまう。
真白先生は私の事を見れる人なんて他にいないから気にするなと言っているのだけれど、ここに居る幽霊たちは私の事をもちろん見ることが出来ているし、私が舞台に立っているだけでも他の場所から幽霊がどんどん入ってきているのだ。最初は二十人くらいだった幽霊たちも今では五十人近くまで増えていると思う。増えたみんなも私の事をじっと見ているんだけど、見ているだけで何もしてこないというのはちょっとだけ嫌な感じであった。
『ここに立ってるだけで人が増えてるんですけど。五十人くらいいますよ』
「ステージにヒナミが立っているだけでそうなるって事は、ここに集まっている幽霊はアイドルを見に来ているって事かもな。そのままちょっと踊ってみてもらっていいか?」
『無理ですよ。この状況で踊るなんて嫌です。もう下りていいですか?』
私が少しでも動くと下にいる幽霊たちも目でそれを追ってくるのだが、真白先生が話している時だけはみんなの視線が私にではなく真白先生に向いていた。その時の表情は前に何度か見た悪霊に近いような感じにはなっているのだけれど、その悪意を向けられている真白先生は全く気にしていない様子であった。
幽霊の攻撃なんて気付かなければなんてことは無いって真白先生は言っているのだが、それはある程度の耐性がある真白先生だから言えることであって、普通の人だったらこれだけの悪意を向けられると立っている事すら出来ないのではないかなって思う。実際にそう言った場面も何度か見ていたけれど、真白先生はそんな人が隣にいても幽霊の悪意になんて気付くことが無かったのだった。見えないものは存在しないものだと真白先生は言う。でも、私にはそれらの事は全て見えている。幽霊である私と人間である真白先生は住んでいる世界が違うという事を思い知らされる出来事に感じてしまうな。
「何となく解決策見えてきたし、いったん依頼人のところに戻ろうか。ここの人達にも協力してもらいたいこともあるしな」
真白先生はここに居る幽霊たちをどうにかする案が浮かんだみたいで嬉しそうな顔をしていた。アイドル事務所の劇場という事もあって働いている人も綺麗な人が多かったのだけれど、それも真白先生のやる気を増すきっかけになってるんだろうな。
いつもよりも軽い足取りでここから出ようとする真白先生と、真白先生に当たらないように避けて迷惑そうにしている幽霊たちの対比は面白く見えてしまっていた。
『ここであの踊りを踊ってたんですね。私もちょっと立ってみてもいいですか?』
「他の人の邪魔にならないんだったらいいんじゃないかな。他の人は無意識にでもヒナミに触れちゃうと悪寒が走っちゃうからね」
『あんまり驚かせないようにしないとですね。それにしても、ここに立って見ると真白先生の事が小さく見えますよ。私より大きい真白先生をこうやって見下ろすことが出来るのは面白いですね』
「そう言うもんなのかね。そう言えば、ヒナミって宙に浮いたりできないの?」
『そんなこと出来ないですよ。中には空を飛んでる幽霊もいますけど、私は真白先生の側からあまり離れることが出来ないですからね。空を飛べるようになっても近くを漂うくらいだと思います。この劇場にもそう言った人はたくさんいるみたいですけど』
「たくさんいるのか。喋ってもらえないと俺にはわからないからな。その中には何か悪意をもった存在っていそうかな?」
悪意を持った幽霊は近付いただけでわかるものなのだ。近付いただけで敵意をむき出しにして襲い掛かって来るんだよね。でも、真白先生が近くにいると怯えた子犬みたいに吠えて威嚇するだけで危害は加えてこないんだけど、真白先生が言うには鵜崎の力が抑止力になっているんだって。私も幽霊なんだけど、真白先生の事を怖いって思ったことないんだけどな。
『真白先生に対してもここにいる人達に対しても悪意を持ってる幽霊はいないみたいですよ。ただ賑やかな場所に惹かれてやって来てるって感じみたいですね』
「賑やかな場所だと他にも色々とありそうなのにな。なんでここにだけ六人も集まってるんだろう」
『真白先生って本当に幽霊は見えないんですね。ここに居るのって舞台にあがってた六人だけじゃないですよ。今見える範囲だけでも二十人くらいいますし、他の部屋にも何人かいますから。少なく見積もっても三十人以上入ると思いますよ』
「そんなにいるのか。一人ひとり説得するのは難しそうだな。みんな何か目的があったりするのかな?」
ここにいる人達の目的を聞こうにも私と目を合わせてくれないんで会話が出来ない。向こうもこっちの存在には気付いていると思うのだけれど、幽霊のくせに恥ずかしがり屋な感じで私の質問を聞こうともしないのだ。
会話さえ出来れば何か解決の糸口が見つかるかもしれないのだけれど、それすらできないのではどうすることも出来ない。こんなに近くにいて話しかけてるのにみんな私の事なんて見ないでずっと舞台を見ているのだ。
『ダメです。私の事を無視してみんなずっと舞台を見てるんですよ。会話をしようにも私の事なんて全く気にしてない様子です』
「ここに居る二十人くらいの幽霊がヒナミの事を無視してステージを見てるって事か。ちなみになんだけど、ヒナミがステージに立った時はその幽霊たちはどんな感じだった?」
『なんかじっと見られてるって感じでした。今はみんな一点を見つめてる感じですけど、私が舞台に立つとみんな私の事を目で追ってるって感じでしたよ』
「そう言うことか。じゃあ、後でヒナミにはアイドルたちと混じってステージで踊ってもらう事にしようかな。あれだけ見てたんだからダンスは大丈夫でしょ?」
『大丈夫じゃないですよ。見てるだけで踊れるようになることなんて無いですから』
舞台に立って真白先生を見下ろすのは少し気持ちいいなって思えたけれど、その舞台でみんなに見られながら踊る事なんて私には出来そうもない。踊りを覚えたところで間違えてしまいそうだし、失敗してしまった時になんて言われるかと思うと怖くて足が震えてしまう。
真白先生は私の事を見れる人なんて他にいないから気にするなと言っているのだけれど、ここに居る幽霊たちは私の事をもちろん見ることが出来ているし、私が舞台に立っているだけでも他の場所から幽霊がどんどん入ってきているのだ。最初は二十人くらいだった幽霊たちも今では五十人近くまで増えていると思う。増えたみんなも私の事をじっと見ているんだけど、見ているだけで何もしてこないというのはちょっとだけ嫌な感じであった。
『ここに立ってるだけで人が増えてるんですけど。五十人くらいいますよ』
「ステージにヒナミが立っているだけでそうなるって事は、ここに集まっている幽霊はアイドルを見に来ているって事かもな。そのままちょっと踊ってみてもらっていいか?」
『無理ですよ。この状況で踊るなんて嫌です。もう下りていいですか?』
私が少しでも動くと下にいる幽霊たちも目でそれを追ってくるのだが、真白先生が話している時だけはみんなの視線が私にではなく真白先生に向いていた。その時の表情は前に何度か見た悪霊に近いような感じにはなっているのだけれど、その悪意を向けられている真白先生は全く気にしていない様子であった。
幽霊の攻撃なんて気付かなければなんてことは無いって真白先生は言っているのだが、それはある程度の耐性がある真白先生だから言えることであって、普通の人だったらこれだけの悪意を向けられると立っている事すら出来ないのではないかなって思う。実際にそう言った場面も何度か見ていたけれど、真白先生はそんな人が隣にいても幽霊の悪意になんて気付くことが無かったのだった。見えないものは存在しないものだと真白先生は言う。でも、私にはそれらの事は全て見えている。幽霊である私と人間である真白先生は住んでいる世界が違うという事を思い知らされる出来事に感じてしまうな。
「何となく解決策見えてきたし、いったん依頼人のところに戻ろうか。ここの人達にも協力してもらいたいこともあるしな」
真白先生はここに居る幽霊たちをどうにかする案が浮かんだみたいで嬉しそうな顔をしていた。アイドル事務所の劇場という事もあって働いている人も綺麗な人が多かったのだけれど、それも真白先生のやる気を増すきっかけになってるんだろうな。
いつもよりも軽い足取りでここから出ようとする真白先生と、真白先生に当たらないように避けて迷惑そうにしている幽霊たちの対比は面白く見えてしまっていた。
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